8羽
いっそのこと「大きくなったわね……」と顔をそ向けられる方がましだった!
「ていうかなんで縛ってるのさ!? 動物虐待はノットだよ!」
認めたくない現状からの逃避もかねて、力いっぱい指をさしながら僕は叫ぶ。ウサギたんさっきから全然動く気配がないけど本当に生きてる!?
すると母さんは真面目な顔を僕に向け、先程までのテンションとは逆に落ち着いた様子で口を開く。
「……るっくん、英語の勉強し直してきたら?」
「今言う事それじゃないでしゅっ!?」
ぐあ! 昨日から叫び続けた所為で咽喉が!!
普段あまり使わないのに昨日から咽喉を酷使している所為で、ツッコミの言葉の途中で咽喉が爆ぜる感覚に襲われる。
「あら、るっくんどうしたの? 毛玉吸っちゃった?」
「げほっぞればっ!ねごじゃおーへぇっふ、げほっ、ゲブォ」
本来なら「それは猫じゃないか!」と言う筈の言葉が咳と痛みで掻き消される。
ちょっと、これ……本気で、しんどい!
「あ~らぁ、るっくん大丈夫? ちょっと待ってなさい、呼吸器持ってきてあげるから」
あるのか!?
「それまでに死んじゃやーよ」
そういって母さんはリビングから多分物置へ向かった。
「つぁ~~~、頭くらくらすっぞ……」
この声は!
「ウザぎっ! えっぶ、げぶっ」
ウサギたんを呼ぶ事すら今の僕には出来ないのか!
でも僕が苦しんでいる間にウサギたんは回復したのか、それは咽喉を痛めた甲斐があった。……あるのか?
「くそー、ドジっちまったぜ……。て、おっちー! お前どうしたよその声!」
「のボがっふ、げほっ」
駄目だ、説明しようにも咽喉が痛くて喋れない。というかイガイガして呼吸も痛い!
「あーあー、もういい喋んな! ちょっとまってろい」
そう言うや否やウサギたんはビニール紐をするりと抜けてポーズを決める。ツッコミどころが二か所あったけど、今は我慢だ!
「俺が良い薬もってっからそいつで楽にしてやるぞ」
何その怖い言い方!?
「どいうが、ぐすりっげぼ! だにももっで……」
そう言うとウサギたんはリビングを飛び出し、物置の方から雪崩れが起きたような音がした。母さんがまた何か崩したな、片付けるの僕なのに……。
「おっちーお待たせー」
近いうちにやってくるであろう苦労を嘆いていると、ウサギたんは小さなポシェットを担いで降りてきた。あれ、あんなの最初から持ってたっけ?
「えーと……あ、これだ。ほい、おっちー」
ウサギたんは数秒ポシェットをあさると、橙色の五百円玉くらいの大きさの球体を二つとりだした。
いやいやいや! どうやって入ってたんだ!?
僕は咽喉が使えない……と言うか使いたくないので身振り手振りで必死に突っ込む。
「ああコレ?」
僕の想いが通じたのかウサギたんがポシェットを持ち上げたので、僕は全力で首を縦に振る。
「んんっ、んう。よ~じ~げ~ん~ぽしぇっとぉ~」
ギリギリセウト! というか、わざわざ声整えんなよ!
「良いからこれを飲みやがれおっちー! じゃねーとあの小説音読すっぞ!」 (時)