30羽
「もうそろそろ時間も無駄にしてるし行こうか」
「ん? 時間も無駄?」
「あ、いや、何でもないよ。どっかの主人公なら視聴率低下してるだろうなって思って」
悟ったようなオーラをを全身から放ってみる。というかもうこのへんで視聴者いないんだろうなあ。
「何それおっちー、つまんない」
「あ、はい」
とがった爪の感触が毛根に直接攻撃を展開しようとしているので、素直に食卓に向かうことにした。
「母さん、ごめ――」
「ウサギちゃん、きちんと取れた?」
謝罪の言葉をかき消され、母さんはウサギちゃんに聞く。
「ばっちりだぜ! もうこれまでにないくらいに中二病? だったぜ」
「さすがウサギちゃんね! 見込んだだけのことはあるわ」
ウサギちゃんを母さんが撫でる。嬉しそうな声が頭上から聞こえてくるのでとってもハッピーな気持ちなんだけど、爪、爪。
「あ、あとで僕の声は聴けばいいから、早くご飯食べよう」
「おっちー、ナルシストは嫌われるぞ」
「ちぎゃーう」
まあ、確かにナルシストっぽい発言はしたけどそうじゃないんだ!
「まあ、いいや。よっと」
ぐさっ…。まあ、頭からぴょんっといけば刺さるよね……。
「いっただっきまーす」
「痛だきます」
「おっちー! 頭から血が!」
「あ、うん気にしないで。(ウサギたん気づいてないのか―)」
傷つけておいて気づいてないなんて、なんて小悪魔っ。 (バ)
うーん、でもあんまり爪が鋭いと床や壁とか色々傷付けちゃうよな。て言うかそもそも普通のウサギってそんなに爪尖っているのか? これもまた今度調べないとな。
そんな感じで僕が本屋さんで購入するリストを作るべく、食後にお勧めの本を調べようと計画している最中に物凄く視線を感じる。具体的に言うと母さんが座ってる所から。
「るっくん、それは流石にお母さんでも気になるわ。早く何とかしなさい」
たまに聞くか聞かないかくらいの真剣な声に顔を上げると、何故か母さんまでお箸を置いて驚いてる。一体何を驚いているんだ?
「もう僕の出血なんてウサギたんが来てから日常的な事だろー? 何を今更焦ってんのさ」
僕も慣れて出している所に問題はまああるんだろうけど、今回も軽度だろうしまだ慌てる時間じゃないさ。あれだ、転んでかすり傷作った帰り道に家に着く頃には血が止まってるみたいな? うん、多分違う。
「いや、なんかお前……顔色が……」
「失礼な、元からこういう色だよ」
今日の夕飯はラーメンでも煮魚でもなく、豚肉を何かのたれでざっと焼いたものだ。色々とあって時間が経ったから少しさめているけど、それでも十分美味しいのは主婦の力なのかそれとも魔法なのか。どちらにせよ見習いたいものだ。
「ちょっとウサたん、さっきからお箸進んでないよ? 気分でも悪いの?」
熱でもあるのかな? とりあえずお箸を置かないと手で測ろうにも測れない。
「え、あ、いや俺はなんて事ないが」
「良いからじっとする」
僕はお箸を置いて、少し離れた位置に座るウサギたんに手を伸ばし「おっちー!」そのままウサギたんに倒れてしまった様だ。小さいけど力持ちなウサギたんにギャップ、も……。
「うぇへぃ」
「おっちー!?」「るっくん!?」
僕はウサギたんに支えられたまま、迫りくる眠気と重力に身を任せた。 (時)




