29羽
今回は邪な気持ちや疚しい感情は一切ない状態で、割と自然な感じでナチュラルで無添加な感じに申し出る。おっとツッコミはいらないですぞ。
普通に考えて片方の手をもう片方の手で処置するのは出来なくはないけど、面倒だし形が崩れたり時間がかかったりと慣れている人以外はお勧めできない。勿論僕は慣れていない人の部類だ、だってこんな怪我するの記憶の限り初めてですもの。
さあ届け僕のピュアピュアハート、もとい切実なる願いよ!
「おう、分かった。さっさと手ぇだしな」
「ありがとう」
ウサギたんは少し考えた後に首を縦に振ってくれた。考えるくらい疑われているのかと思うと目から再びアクアマリンが生成されそうだが、今は何とか捻じ曲げられること無く通じてくれた事に喜ぼう。エア万歳三唱。
「おっちーがキモい気を放ったのが一番の原因とはいえ、ここまで大惨事になるとは思わなかったからな。ちょっとだけだが・・・・・・まあ、悪いと思わない・・・・・・事もない事もないわけでもなくもない」
「わーい、ややこしー☆」
「認めたくないんだよう」
「素直になった方が良い事あるよ?」
「ほーう、例えば?」
「……僕に優しくも情熱的な抱擁をしてもらえ「せいっ」でぃあああああああい!?」
言葉の途中で包帯をぐぎぃって骨が言うかと思うくらい締めつけられた。メチャイタイデース。
「じょ、冗談に決まってるかも知れないじゃないか……」
「信じらんねーよ」
「僕のこの眼をみ「みませーん」てくれなかったああああああああ」
今のウサギたんは優しさの中にとげと言うか、サボテンが潜んでるね。ちくちくぼんばー。 (時)
「だから、もうじっとしとけって……」
あれ、今天使のような声が。
「もう一回、ワンモアプリーズ」
「だから、おとなしくしとけばちゃんとしてやるからよ。大人しくしとけって」
雷が僕の中を駆け巡る。これはキター!! 確実に天国への階段にワンステップ近づいたぞっ☆
「ウサギたんもツンデレなんだからもうっ」
「あ?」
「ひぎいぃいい! ごめんなさい、うそです。優しく・し・て――ギャー!」
「ほら、もうこれでいいだろ」
あ、うん。途中まですごく丁寧に巻いてくれてたのに、最後の巻きまきで台無しだー。
悲しげな眼でウサギたんを見つめると、狂気に満ちた目でこちらを睨みつけてきたので、大人しく従順な犬のふりをしました。
「さあ、さっさと飯いくぞ」
「わんっ」
「きもっ……。おっちーそれはないわ……」
ちょっと口滑っただけジャン!
うわ、すげー。ウサギってあんな冷酷な眼作れるんだー! 冷たすぎて永久凍土の地で砕かれて粉々になるかと思ったー……。
「ごめん、ちょっと犬の真似してみただけなんだ。無かったことにして――」
「母上から預かったこのボイスレコーダー持ってるからもう無理だぞー」
「あ、投了」
こりゃ当分こき使われるの覚悟しなきゃな……。アクアマリンまた出てるけどもう気にしない。だって、男の子だもんっ。 (バ)
「にしてもなんでそんな物を……」
タイミング良すぎっていうか、ジャストタイミングっていうか……あ、同じか。
「いやー、なんか母上が『面白そうな予感がする』って言って起動した状態で渡してきた」
「えー……」
僕の母さんは確かに小さい頃から凄い! て思う事はあったけど、ここ最近更に超人化が進んでないか? この前も『予感がする』と言って宝くじ当ててたし。
僕は先程ウサギたんに巻いてもらった包帯がほどけないか、動かすのに問題は無いかを確認しながら思い出す。
「動かすのにきつくないか?」
「ん、大丈夫。ウサギたん上手だね」
「へへっ、伊達に医学を目指した訳じゃないからな!」
「そっか、お医者さんごっこでこの技術「あ、蚊」デュンッ」
言葉の途中に咽喉に何か小さく丸みを帯びた何かが、物凄い勢いで優しく致命傷を負わせに来た。いや、優しくねぇよ。
「げほっ、ごっ、ごふ」
「おっちーおっちー、さっさと飯行こうぜー」
「ごほっ、ぞう……そうだね」
何度か咳き込んだ後、僕の呼吸が落ち着いた頃を見計らってウサギたんが僕の頭に乗る。ウサギたんがしっかりつかまりバランスが取れたら軽く二回叩く、これが僕らの中で自然と生まれた合図だ。
僕はあんまりウサギたんが揺れない様に気をつけながら立つと、ベッドの上に置いたスマートフォンをポケットに入れる。
「腹減ったー」
「僕もだよ」
部屋を出ながら互いに笑いあって平和と幸福を実感……。
「じゃないよ!?」
「うお!?」
さっき僕ウサギたんに咽喉狙われたんだぞ!? ってか、襲撃されたんだ! 呼吸も整うのが速かったから良かったけど、最悪今日で人生にピリオドをちょんっするとこだったんだぞ!? ウサギたんが来てから頻繁にあるせいもあるけど、これはちょっと慣れすぎだろ!
「ど、どうしたんだよおっちー」
ああ、いきなり叫んだからウサギたんを脅かしてしまった。
「ちょっと慣れって怖いなって思ってさ」
「え、ああそうだな。なんでも慣れてしまうと感覚は狂っちまうな。それがどうした?」
「いや、たった今実感したんだ」
「ふーん、そんな事よりお腹がすいたよ」 (時)




