28羽
さ、ウサギたんとのうふんあはんも済んだことだし食事……。
「ガハッ! 痛い痛い! 急に手に爪立てないで……ってすでに刺さっとるー!」
「いや、すまん。なんかとてつもなく寒気がしたせいで爪が」
「い、いいよ。それよりも早くご飯行こー」
作り笑いでごまかしてるけど、これちょーイタイ。なにこれ、ちょー血がでとるー。見えないようにケチャップ塗り塗り……。
「血結構でてるじゃねえか! サビヨー貼ってやろうか? なんか悪いことしたみたいだしな」
なん……だと……。
「どうしたおっちー! 急に崩れ落ちるなんて、落じゃなくて崩になるぞ!」
「気にしないで! それよりサビヨー貼ってください! 崩でもいいからっ!」
「お……おお。よいしょっと……」
ぬぉおおぉおおおおおおおお!! ウサギたんが! ウサギたんが着ぐるみの中から一生懸命取り出そうとしてる! ハアハア……。これサービスシーンくるか? 来ちゃうのか!? ちょっとクイックセーブしちゃうぞこの野郎っ! ハアハア……。
「なあ、お」
「なんだいウサギたん! ハァハァ……」
「なんかきんもい息遣い漏れてるんだけど」
超引いてる! フライパン開けたら中身腐ってて「うわ……」みたいな顔にそっくりだよウサギたん!
「紳士の息遣いだよ」
僕はとてつもなく冷静に答えた。ハアハア。
「まあいいや……きもいのは前からだしな。……あ、あったあった。ほれ、手出してみ」
「はーい!」
血止まってないねーこれ。中々深く掘られているね。深すぎて土地の調査に使うボーリング思い出したわ。
「お前の血、なんかすごいドロっとしてるんだな……。ほれ行くぞー……」
くる、くるぞ。ウサギたんの手が自ら僕に近づいて……。ハアハア。断じて気持ち悪い「ハアハア」じゃないからっ。ちょっと興奮してるだけだからっ。
「ちょ、ちょっとこれ粘着テープの部分が手にひっかかって……ああ! イライラするぅ!」
「ひぎゃあああああ!」
ボーリングトゥーボーリングをされた。これわりとマジの方で血が……。はあはあ……血が……。
「ぉお! すまねぇ、ついカッとなってやちまったぜ」
体内の血がどこか一か所から流れ始めているせいか、かすれ声で喋る僕がいた。
「気にしないで。さ、食事いこ。食事」
「おっちー、顔が真っ青だぞ」
「ウサギたんが、心配することじゃ、ないよ」
「加害者俺なのに!?」
「ああ、とても、気持ちが、穏やかになってきたよ……。ヨダカも星になれるんじゃないかな……」
「……おっちー、お前、消えるのか?」
「なんかその台詞、どっかの学校の生徒が、言ってたよね。『結婚してやんよっ』とか」
「いや、知らんがな……」
うわーおぅ! とても冷静な返答をいただいちゃったぞっ!
「てか、これ」
「なんだい、ウサギたん」
ウサギたんの頭を優しく撫でる。ふっわふわ。泡立てた卵白みたいにふっわふわヤッフー!
「ケチャプじゃねえか! くそっ! だましたな!」
「いや、わりとリアリーなんだけ……」
「もう、騙されねえぞ! この野郎っ! 先に行くからきっちり手洗っとけよ!」 (バ)
ウサギたんは目をつりあげ、どこから発しているのかは分からないけど「ぶっ! ぶっ!」と歩くたびに音が聞こえる。そんな姿もキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥト!! 一気にテンションがマックスまで上がりそうだぜ☆
にしても、またウサギたん怒らせちゃったなぁ。まあ軽い冗談とはいえちょっと機嫌を損ねてしまったが、ウサギたんの中にある罪悪感が少しでも消えたならそれでいいや。……僕の株が下がり嫌われる様な事があれば全力でタイムマシーン作るけどさ。或いはタイムリープ……ラベンダーだな。
そういえばウサギって怒る時にお腹か咽喉かの奥で音鳴らすんだっけ? うーん、明日本屋さんによって本買うかな。それかパソコンで調べよう。便利な世の中になったもんだ。
って僕は何のんびり今後の予定を立てているんだ?にさっさと手を洗ってみんなの所に行かないと、手の出血も偉い事になり始めてるし。
「ぴひぃっ!」
いつもの癖でちょっと水を強く出し過ぎたアンド、ウサギたんから攻撃を受けた所に石鹸が染みて変な声でた。
うう……、なんか今日は色々と染みる日だな、心身ともに。何も嬉しくないけれども!
痛みでちょびっと感覚がマヒしている内に一度血やケチャップを洗い流し改めて傷口とご対面……、と思ったけどそれもちらっと深く抉れた所が一瞬見えると、直ぐに新しい血に邪魔されて傷口が見えなくなる。
冷静に眺めていると細かい皺の所に血がにじむと言うか、しみ込むように枝分かれすると言うか……ちょっとだけ見てて面白い。
それにしてもケチャップ偽装して本当に良かった。ウサギたんってば意外と責任感じるタイプみたいだし、一瞬だけどその時はぼうっとするんだよなぁ。分かりやすくて助かる。
そんな事を考えつつもう一度溢れてきた血を洗い流す。今度は染みない様に石鹸を使わないで、水も強く出さずに細く弱めで。というか眺めてて思ったけど意外と深いみたいだし血もなかなか止まんねー。
「……一階部屋に戻って処置しておくか」
ポケットに突っこんだままにしていたハンカチを水でぬらし、傷口に押し当てると僕はササッと自室に戻る事にした。 (時)
「わわわ、忘れ物~♪」
いや、忘れ物じゃないんだけどね。この台詞一回使ってみたかったんだ。なんか有名どころの台詞使えば売れるみたいな風潮が……ないか。とりあえず、身のため~の~救急箱~♪。
鉛筆の裏に付いてる消しゴムみたいな傷してるし、できればガーゼとテーピングが欲しい。でも、自分の部屋にあるものなんてサビヨーくらいだもんな。これでとりあえず我慢しよう……。
……よし、なんかすごい横から溢れ出ようと血が進撃してるけど大丈夫でしょう。
――ガチャッ。
「おっちー」
「ん? どうしたの?」
あ、ウサギたんに対して平常運転してしまった。なんて平凡でつまらない発言をしてしまったんだ僕は……。
「母上のところに行ったらよ、『ガーゼとテーピングをご所望かしら?』って言ったから、持ってきてやったぞ」
「え」
「なんだよ」
これは、これはまさかフラグ立ってしまったか? という冗談はちょっとバックヤードにしまっておいて……。
「ウサギたん、ありがと」
「おう、いいってことよ。あと、次ウサギたんって言ったら、その傷口貫通させるからな」
「ひゅ~。ひゅ~。ウサギたんとか言ってないよ」
わざとごまかそうとしたら爪を研ぎ始めたのでしばし停戦。
「自分じゃできないからガーゼとかしてもらっていいかい?」 (バ)




