21羽
「んあ? おっちー、まだいたのか……って、冗談だ冗談! そんな本気で泣きそうな目ぇすんなよ!」
「だって、だってぇ……」
「安心しろ、誰も本気お前さんを無視してなんか……」
「やっと反応してくれたのがウサギたんで嬉しくてぇ……!」
「そっちかーい」
ううっ、散々放置されたあの時間も、こうして僕にウサギたんが話しかけてくれるまでの待ち時間だって思えばなんてこと無いのさ。むしろ数十分ぶりに僕だけに向けるウサギたんの声が心地よいくらいで、思わず涙腺が緩んでしまった所だ。
あ。涙腺が緩んだ事によって生成された僕のアクアマリン(と言ってみたがただの涙)が静かに目から零れ、塩分を含んだアクアマリン(敢えて貫く)はそのまま縦一閃と横一閃の傷口に優しく触れてじりっとソフィー。
「あ゛ぁ゛ーーーーーーーーーーーーい゛っ!?」
「うおっ!?」
誰が許可をしたわけでもなく優しく触れますねとアクアマリン(笑)が傷口に触れ、そのまましみ込んだ事により傷口に塩を比喩ではなく現実で体験する事になってしまった。ウルトラ痛い! 夢にしたい、あれもこれも!
僕が驚きと痛みに対する咆哮を上げた所為でウサギたんをまた驚かせてしまったが、今回はそれよりも自分を優先したい。
「と、とりあえず涙を拭け! な?」
うぅ、そうだウサギたんの言うとおりだ。今の痛みに対して生成されつつある次のアクアマリン(凶器)が僕の心と顔の傷口にしみ込む前に、ハンカチで拭い去ってしまおう。勿論、ハンカチが傷口にあたって悲鳴を上げるなんて真似はしない。
「よし、そのままじっとしてろ……いや、お前さんの部屋に行こう。そこで俺様がぺぺぺーっと治療してやるからな」
この姿に対し流石に罪悪感を抱くとウサギたん。この子、本当は優しい子なんですよ。でも何で僕の部屋なんだろう?
「おっちーの部屋ならいくら散らかしても問題なさそうだしなぁ」
僕の抱いた疑問を口に出す前に応えてくれたウサギたん。これは以心伝心に喜ぶべきか、僕の部屋が散らかるであろう未来に嘆くべきか……。まあ、勿論前者なんだけどね。
そんな感じで僕は視界を確保できる程度に目元にハンカチを押し当て、ウサギたんの治療を受けるべく自室に戻った。移動中に今のくぅと小さな音が腹部から聞こえ、ウサギたんが情けなさそうな所がおっちーみたいだと笑う。うるさいやい。
ああ、でもそう言えばまだ何にも食べてなかった気がするなぁ。 (時)




