19羽
そう言って父さんはステップがうまく踏めていない、何だかぎこちないスキップもどきをしながらお風呂場へ向かった。しかもシャツを脱ぎながら。
もうどさくさにまぎれて僕もこの家を飛び出したいけど……そんな軽やかステップ踏める気分じゃないからな……。
「なあ、その……気にスンなっておっちー! 誰にだって隠したい事があれば、それがみんなにばれて恥ずかしい思いをする時はあるだろ!」
それはごもっともかもしれないけど、だけど……!!
「それがまさか家族プラスアルファから受ける事なんて誰が予想できるか!」
僕はそう叫びながら慰めようと近寄って来たウサギたんを全力で抱きしめた。あんなに精神的に滅多打ちにされたんだ、これぐらいしても良いだろう!
僕の唐突な奇行に驚いたウサギたんは一瞬びくりと身体を震わせると「うわああああああああッ!!」と叫びながら僕の顔に縦一閃、更に横一閃、とどめに顎を蹴り飛ばしてあっつい抱擁から力ずくで逃げ出す。
「心身ともにクリティカルダメージッ!!」
顎を蹴られた勢いでそのまま床に仰向けに倒れる僕。その瞳には様々な感情の結晶が浮かんでいるけど誰にも文句は言わせない。
と言うか、何で一度にメダフォ○ス二回も喰らわないといけないんだ! いつ溜めたんだよ! そんなに嫌だったのか!!
「び、びっく……吃驚したじゃねぇか! 気持ち悪ぃ!」
「このド変態!!」
ウサギたんに抱擁に対しての文句を言われながら、地味にガスガスと横腹を蹴られる。
ウサギたんから言われるのはまだ分かるけど、何で最期の一言は母さんからなんだ?
「落、今のは無い。確実に、無い」
はい、お風呂から上がったホッカホカの父さんにも冷たい視線をいただきました。そんなに時間がかかってない所から察するに、またシャワーだけで済ませたな? いや、どうでもいいか。
「それはそうと落、言いたい事があるんだが」
「その前にあなた服着たら? ウーちゃんもいる事だし」
「ん? おお、これは失礼」
真顔で僕に話しかける父さんは確かに腰にタオル一枚だけの軽装だった。いやいや、軽装とか言うレベルじゃないくらいに軽いな!
あー……もう、ウサギたんの前なのに! 何だか父さんの恥ずかしさと、僕自身の悲しさで顔が熱くなってきた。
「まあ、服を着るのは後にして」
「後なんかい」
普通のサラリーマンの筈なのに意外と引き締まっていて、程良く割れている腹筋が恨めしいぜ。僕に分けてくれよ、遺伝的じゃなくって物理的にでもいいから。
「落、お前さっきから顔血だらけだぞ?」 (時)




