12羽
物置は正直目も当てられない状態だった。
荷物は崩れ落ち、蓋が開いて中身がダバァ。壁にかけてあった物はつっぱり棒ごと落下してグシャァ。何より一番酷いのは、実母のスカートの中身だ。恐らく倒れた拍子に何かに引っ掛かったんだろうけど、これだけは本当に見たくなかった。
気分が沈む僕に反してウサギたんが何故か楽しそうに僕を小突く。
「おっちーのラッキースッケベェ~」
「ごめん、ウサギたん。今そのノリ無理……」
こんなのラッキーじゃない、ラッキーだとしてもアンラッキーだ……。
「おっちーが落ち込む……おっちーこむ?」
「疑問形で言われても……」
「オッチードットコム」
「だからと言って、アドレスみたいに言わないでよ」
「イリョウジコ、アット、オッチーコムシーオードットジェーピー」
「どこだよそこ!? あと医療事故って、さっきのことか! 認めてんじゃん!」
「……てへっ☆」
「許せる!!」
『正義は正しい』という言葉には賛同しかねるけど、『可愛いは正義』はなんとなくわかる。正義の定義って勝つ事だろ? 可愛いだけで勝ち組、つまり正義じゃないか……。僕はこの可愛さに勝てるわけがない!
「まあ、そんな事はおといてだな。おっちーが実母のパ「うああああああああ!!」うっせーぞおっちー!」
「やめてください! 僕は今現実を見たくないんだ!!」
僕はウサギたんの言葉を反射的且つ今までにない程大きな声で遮った。なんでいきなり現実をつきつけるのさ!? さっきの流れで徐々に薄れて行ってたのに!!
僕が見たのは荒れ果てた物置の中と、倒れている母さんだけだ! 本当にそれだけなんだぁ!!
「俺、今初めておっちーの本気を見た気がする」
それがどういう意味で言われたのかはよくわからないけど、誰だってこんなの時は本気で別の事に意識を集中させたくなるだろう。現実は大体の確率で残酷なんだからさ。
「おっちーがそうしたいならそうでも良いけどさ、とりあえずとっとと薬飲ませよーぜー」
「あ、ああ、うんそうだね」
しまった、あまりにも……よくは覚えていないけど、衝撃的な事があった所為で忘れてた。うん、衝撃的な物置の荷物の崩れ具合。僕はそれと可愛いウサギたんしか見てないし、うん。
「といってもウサギたんしか手順わからないじゃないか」
「そうでした」
てへっとまたしても可愛いポーズをとる。もう流石に見慣れたからいちいち悶えたり息を荒くしたりしないぞ!
「おっちー顔がおかめさんみたいになってんぞ」
どうやら僕は顔に出やすいらしい。 (時)