11羽
「そうかー、インフルエンザとかの時も採血するもんねー」
まるで出来立ての新婚夫婦みたいな笑顔でウサギたんに言う。
「そうそうー。ははははー」
ウサギたんもかわいい小動物の雰囲気を出しながら返事をする。
「ははははー」
ウサギたんと笑い合いつつ横目でちらちら凶器を確認する。あれで刺されたら一発で昇天しそうだなあ。あの針折れないかな。
「んじゃ、刺すぞー」
注射器を構えた狂人、いや、凶兎? がこちらにじわりじわりと近づいてくる。
僕の敗因はこの時に凶兎から目を逸らし、扉の方へと逃げようとしたことだった。ウサギたんのジャンプ力やら走るスピードを知らなかった僕は丸いおしりにとてつもない違和感を覚えた。痛くはない。気持ちよくもない。強いて言えば後悔の念があるくらいだ。
「どっせい!」
「ぬぁああ! ちょっち! ウサギたん!?」
「あー、ちょっと血抜いてっから我慢せい」
やる気のない声とは裏腹にごっつい血液採りよる! この子、恐ろしい子!
「いや、これ以上抜かれると僕の血が持たないんだけど!」
「あ、と、ちょっと……。せいやっ!」
バキッ。
「よしっ! これで血液採取はオーケーだな! よく頑張ったぞ落下物!」
四つん這いから崩れている僕の頭を、優しく撫でながらウサギが言った。
「これとこれをこうして調合して~」
なんか僕には見えないところで調合クエストを開始し始めた。特選キノコはいりますか、なんつって。だめだ、血を抜かれすぎて頭がくらくらする。いや、それでも、おしりに残る違和感半端ないんだけどね!
「ウサギさん」
「ん? なんだ?」
知らないふりをしているんだろう。きっとそうだ。医療ミスだよこれ……。
「おしりに針刺さったままですよね?」
「え……」
「さっき「バキッ」ってなったよ! おかしいよさっきの音!」
「もう、いちいちうるせえなあ、自分のけつくらい自分で拭けよな」
プスッ。
「はいっ、これでいいんだろう」
医療ミスしといてその態度ですか……。これ訴えたら勝てるけど、なんか恥ずかしいので訴訟はしないでおこう。
「それで、ウサギさんは何を作っているんだい?」
マイおしりを撫でながら尋ねる。だってね、これ、痛いんだもん。
「さっきも言った通り抑制剤みたいなもんさ。ほらできたぜ」
あー、とっても形がのどに優しい形してるー。親指の爪くらいの普通ののど飴だこれー。
「僕に飲ませた、飲み込ませたやつよりずいぶんと小さいんだね」
「あったりまえだろ! お前の母さんにあんなの飲み込ませたら詰まって死んじまうぜ」
「僕も死にかけたんですけど」
「そんなことよりも、早く物置いくぞこら!」
「はっ、はい!」
僕は背中にウサギを背負い、さながら兄弟のようなその風貌に感激しつつ物置へと向かった。 (バ)