10羽
「めんごめんご☆」
「くそう! 可愛いからゆる……したいけどそういうわけにも!!」
今度は頭にコツっと手を当てるだけでなく、片目を閉じるという技あり! むしろ一本!
「ああ、違う! お前の可愛さに悶えている場合じゃないんだ!!」
「さらりとキメぇ」
この際ウサギたんの言葉は右から左。聞きたくない情報を流すのも世を渡るすべなのだよ。
「なあウサギたん! 母さんにもあの薬飲ませたら治るのか!? 親父帰ってくる前に何とかしないと、こんなの説明つかないだろ!」
「そこを何とか」
「お帰りー父さん、母さんは今ウサギたん触って倒れてるけど気にしないでね! なんて言えるか!!」
「行けそうじゃん?」
「逝けそうだな!」
ただし母さんが。
「まあ安心しろやおっちー、俺だってこうなる事くれぇわかって人様ん家入れろつったんだ。対策くらいあらぁよ」
「ほ、本当!?」
ウサギたんはぐっと小さなおててで拳を作ると、僕の肩に軽くぶつける。非常に可愛いが。今回は悶えてる場合じゃないぞ!
「なんで俺様に触れてあんな風になったかと言うとだな……」
「え、今その説明いるの? 早く母さん助けてくれるんじゃなくて?」
まさかの説明フラグに突っ込まざるを得なかった、だって倒れてるんだよ?人命第一じゃん!
「良いから聞けっての、お前のおふくろさん救出にもかかわる話なんだからよ。それとも何か? 今度は口封じのために手ぇ突っ込んだろか」
「それはそれで……」
「まんざらでもない、って顔すんなや……」
おっと、顔にまで出ていたか。というかウサギたんが心底気持ち悪い物を見る様な目で僕を見ているけど、きっと何かの間違いだよね? うん、僕はそう信じる。
「で、だ。なんであんな症状起こすかと言うと、俺様という存在に対して体内の抵抗物質が出来てないからなんだよ」
まあ風邪や流行病と同じようなもんさ、とウサギたんはわかりやすい例えを出してくれた。
「そして今おっちーの体内は薬を飲んだ事により、俺様に対する対抗物質が産まれている。ほれ、今なら触っても抱きついても何ともない筈だぞ?」
勿論させないけどな! と言わんばかりに腕をクロスさせてその身を護るウサギたん。見てるだけでも十分幸せである。
「あの薬は若い人間になら何の問題もないが、ある程度歳を重ねた人間にそのまま服用させるのはちぃとばかし良くなくてなぁ……。一度人間に適応させなきゃなんねぇんだよ」
なんだ? ウサギたんは何が言いたいんだ?
「その説明と母さん救出待つのと一体どういう関係が?」
「そう焦りなさんな……ん~っと、もうちょっと右かな~?」
僕の疑問に答えないでウサギたんは四次元ポシェットを再び漁りだす。またあのおっきな薬出すのかな……。
「じゃーん」
意気揚々とウサギたんがとりだしたのは、なんと太くて大きな注射器だ。
「いきなり注射器なんて出してどうすんのさ?」
「そりゃあ勿論」
「勿論?」
「今からおっちーの血液を頂戴する」 (時)