契約の話
契約を交わし、物語は加速する。
朝起きて身体が消えてしまっていない事に取り敢えず安心した。
昨日言われたとおりにあの神社に向かって自転車を漕ぐ。
あれほどの鉄骨に押しつぶされたというのに、自転車は籠が少し歪んだだけで普通に乗れた。
なので、昨日の事故の事は家族も気がついていない。
鉄骨に埋れながらも生還した少女、と近所では少し話題になっているが、まさか美月の事だとは誰も思っていないだろう。
神護神社に着くと狐達はご飯の時間だったようだ。
まだ朝の11:00でお昼には少し早いが、お稲荷さんを一緒に食べた。
…なかなか美味しい。
「昨日は取り乱してごめんなさい。あの、私…死んだことなんでなかったから…」
「あぁ、ええんやよ。私等も突然の事で驚いとったさかい…。」
昨日と打って変わって優しいほっそり狐。
「という事で、私等は前の神の遺言に従って、あんさんに使える事にする。」
戸惑った顔の美月に構わず自己紹介を始めた狐。
ほっそり狐の本名は、判狐(因みに本名の事は真名と言うらしい。)
ぽっちゃり狐の本名は、業狐と言うそうだ。
「真名を主に教えるのは主従の証。あんさんが主である以上真名を渡した我等はあんさんに従うしかない。」
「あとねー、僕らの力の出力も美月ちゃんの『神気』の量で変わってくるからね!」
「さ、そうと決まれば契約を。」
此処までで既に色々理解出来ていない美月は言われるがまま親指に針で小さな穴を空け本の少しの血をそれぞれの狐の額に塗りつけた。白い光でたくさんの漢字が幾何学模様を浮かび上がらせ、少し驚く。判狐と業狐が何か長ったらしい事を呟いているが聞き取れない。空中に浮遊していた二匹が床に足を着けると共に光は消えた。
「えっ?!えっ、何?!何なの今の!」
慌てる美月。
判狐は少し真剣な眼差しで告げる。
「美月。こんな事で驚いてたらあかんのやで。これからは、戦う時も沢山あるんや。覚悟しいや。」
お土産に四つ程の御守りを貰った。丁度良いから、仲良し四人組に配ろう。
それから、前の神の遺言をよく読むように言われたけど、あの字を美月は読む事が出来ない。
明日は用事があるそうなので神社には行かなくていいらしい。神様不在の神社なんて神社と呼べるのか。
なんて思いながら、始まった物語にワクワクする美月だった。
物語を始めてしまったことに後悔するのはまだ、少し先の話である。
始まった物語を止めることは誰にも出来ない。