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ドリフィング・エデン・フロンティア  作者: 井平カイ
【白き闇/黒き光】
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世界の今

 大地を駆けるアインは跳び上がり、木々を足場に跳躍を繰り返す。ウルは足を止め、バネのように統一性のない方向に飛び回るアインに目をやった。二人の表情は対照的だった。刺すような視線を向けるアイン。優しい顔を浮かべるウル。


「ツァイ……こうして力試しをするのはいつぶりだろうね……キミは、まだ“夢”を見てるのかい?」


「お前には関係ない。――それと、俺はアインだと言ったはずだ……!!」


 一際強く木を蹴り出したアインは、両の拳を構えウルの背後に向け突進する。そして腕を振り、肘の外側に伸びる刃を向けた。しかしウルも素早く体を捻り、巨大なブレードを振る。空中でぶつかる刃と刃は甲高い金属音を生み出し、二人の動きを一時停止させた。


「―――」


「―――」


 再び視線をぶつけ合う二人。刃は弾かれ、双方が一度距離を置く。逸早く追撃を始めたのはウルだった。


「スキル発動――“グライドスラッシュ”」


 巨大な刃を振りかざすと、それから光の斬撃が飛び出す。迫る光刃に対し、アインは拳を振り上げる。


「スキル発動――“グランウェーブ”!!」


 アインがそのまま拳を大地に突き刺すと、大地からは光が空に向け溢れ、それは波となってウルの方に向かっていく。光の刃と光の波はぶつかり、轟音と衝撃波を生み出し、周囲の木々の葉を散らせる。光が収まり視界が開けるや、瞬く間にウルとアインは跳び出していた。

 二人の刃が空中で交差する。アインは拳と刃を巧みに駆使し、絶え間ない連撃を出し続ける。片やウルも全く引けを取らない。巨大な刃と柄は一見すると扱いが難しいように思えるが、彼は見事にそれを使いこなしていた。刃を走らせ、柄で打撃を与え、攻撃の隙間を作らない。全くの互角と言えるほど、二人の力は拮抗していた。無論、達人と呼べるレベルだった。


「相変わらず……やる!!」


「ツァイこそ。その武器は相変わらず面倒だね」


「その名で呼ぶな……!!」


 二人の攻撃は更に激しさを増す。斬り、殴り、躱し、往なし、受け、ぶつかり合う。赤と青の煌めきは、深緑の森の中を駆ける。過ぎ去る刃と相手の姿を瞳に映す。それぞれは風のように過ぎ去り、炎のように激しい攻撃を繰り返す。


 どれほどの時間が経っただろうか……いつしか二人のHPは共にイエローゾーンへと変わっていた。


「はあ……はあ……」


「はあ……はあ……」


 二人は肩で息をする。だが共に握る拳は未だ力強い。周囲には、依然としてピリピリとした空気が漂っていた。


「……ウル、そろそろ終わりにしよう」


 ふいに、アインはそう語る。


「………」


 ウルは汗を浮かばせながらもにこやかに笑顔を返す。その視線の先で、アインは右手を天に翳した。


「……何をしてるんだい?」


「これが、この世界の“今”だ。その目に刻め。――“変異”!」


 そしてアインの右手からは漆黒の液体が溢れる。体を包んだ液体は、仄かな光を放ち始めた。……そう、それはニコルが使用したモノ。アインは、それを召喚した。

 アインの体は黒の光に包まれる。


「へえ……これは驚いたね……」


 その姿を見たウルは、心に浮かぶ言葉を素直に口にする。だが、言葉とは裏腹に、その表情は余裕に満ちていた。


「その顔、いつまで持つかな……」


 アインは地を踏む足に力を入れる。いつ飛びかかるか分からないような雰囲気を出す。だがここで、ウルは口を開いた。


「……確かに、このままじゃ勝てないだろうね。――なら、“僕も”使おうかな」


 ウルもまた、右手を天に翳した。それを見たアインは、踏み出そうとしていた体を一時元に戻す。


「―――ッ!? それは――!?」


「悪いけど、キミだけじゃないんだよ……“変異”」


 そしてウルの体にも漆黒の液体が纏わり、光に変わる。


「お前……どうしてそれを?」


「何を言ってるんだ? キミだって使ってるじゃないか。キミこそ、どうしてそれを使えるのかな?」


「………」


「………」


 黒い光を纏う二人は、同時に沈黙に伏した。それぞれが相手の動向を伺い、攻撃の機会を図る。そして再び、同時に駆け出した。黒い光の衝突は、森の木々だけが見ていた。




 ◆  ◆  ◆




「――ちょっとー!! ニコルー!?」


 とある建物の地下では、アリサが声を上げていた。誰もいないそこは薄暗く、叫ぶアリサの声だけが壁に反響していた。アリサは、そんな地下の牢獄の中にいた。鉄格子とブロックの壁に覆われたそこは、ジメジメとした湿気があった。


「……はあ……まいったわ……まさか、こんなところに閉じ込められるなんて……」


 アリサは鉄格子の手前で座り込んだ。そして膝を抱え、自分の身に起こったことを思い出す。


(ニコル……どうしてあんなことを……)


 拠点施設でニコルに案内された場所は、人目が付かない建物の影だった。そこでニコルは、プレイヤーを拘束するアイテムを使用した。ひし形の光の器の中に閉じ込められたアリサは、そのまま転移のアイテムで連れてこられたその地下に幽閉されたのである。

 アリサを牢屋に入れたニコルは、こう話していた。


『アリサ、お前はここで待ってろ。お前がいると、あいつを狩るのに集中できない……』


(アイツって、たぶんシグマのことよね……。あの時のニコルの目、異常だった。……それに、ニコルの横にいたあのフードの女性は……)


 ニコルの横に立っていた女性……即ち神格者は、常にニコルを先導していた。状況から見るに、ニコルが変わった原因はあの女性にあると考えるのが妥当だった。その二人は、シグマを狙っている。そう考えると、アリサの不安は募っていた。


(……シグマ……大丈夫かな……)


 もちろんシグマの強さは知っている。だが、それでも不安になってくる。膝に深く顔を沈めた。どうしようもなく不安で、今すぐにでも様子を見に行きたかった。だが、その地下はアイテム無効の特殊フィールドがかけられており、転移のアイテムは使えない。鉄格子もとても開けることが出来ない。アリサは不安を抱えたまま、誰かが来るのを待つしかなかった。


 その時、誰かが階段を降りてくる音が聞こえた。足音は壁に反響し重複しているが、一人ではないようだ。


(……ニコルかしら……)


 アリサは階段の方を見た。ニコルが戻ったら、彼の真意を聞くつもりだった。


「………」


 じっと睨むように階段を見つめる。やがて影が映し出された。そして影の主は、アリサの前に姿を現した。



「――お? いたいた……」


 牢獄に軽い声が響く。それは到底ニコルのものではない。


「あなた達は……」


 彼らの姿を見たアリサは、目を丸くしながら立ち上がる。


「………」


 大きな帽子を被った少女は、何も声を発しない。どこか複雑な表情をしながら、アリサを見ていた。


「……迎えに、来た」


 フード付きのマントを被った少女は、声を小さく呟く。その目はどこか眠そうだった。


「あなた達……確か……」


 アリサの声に対し、青年は満面の笑みで声を掛けた。


「アリサ……だったか? 俺ら“黎明の光”が、助けに来たぜ!」



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