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ドリフィング・エデン・フロンティア  作者: 井平カイ
【忘却の中の感傷】
36/60

トイフェル

 乾いた風が吹き渡る岩場、その中心には鬼とシグマ達。鬼は、その黒い鉄のような右の拳を伸ばしてきた。


「来るぞ!! 散開だ!!」


「はい!!」


「おお!!」


 シグマ達はバラバラに避ける。その中央を通り抜ける鬼の腕。まず仕掛けるのはクロエ。弓を引き、五月雨のような矢を鬼に向ける。それを左手で防いだ鬼は、クロエに向け光線を放つ。


「―――ッ!!」


「ウェポンセレクト――“シールド”!!」


 シグマは一足先にクロエの前に移動し、巨大な楯を構える。まともに受ければ吹き飛びかねない。故にシグマは楯を斜めに構え、光線を逸らせる。


「フルール!!」


「……あい」


 シグマの言葉にフルールはメイスを構える。


「……スキル発動――“スカイウォーク”」


 その瞬間、全員の体がふわりと浮く。そしてフルールもまた宙を舞い、更に呼称を続ける。


「……スキル発動――“アイスベルク”」


 メイスからは青い光が放たれる。しかしそれは鬼に向けられていない。フルールが狙うのは、その足元。光が大地に触れるや、岩盤にヒビが入り、次々と氷の柱が跳び出してきた。形成された氷の柱は鬼の自由を奪う。鬼は両の腕を振り、周囲を取り囲む氷を破壊しスペースを作ろうとする。


「ジール!!」


「任せろ!!」


 鬼が周囲の氷に注意を向けたところで、宙にいたジールは滑空し、戦斧を振りかぶる。


「おおおおおおお!!!」


 そのまま体を仰け反らせ、一気に鬼に向け巨大な斧を振り下ろす。鬼はジールの存在に直前で気付き、片手を翳してそれを防ぐ。戦斧が腕と衝突すると、周囲には激しい金属音と衝撃が広がる。攻撃を防がれたジールだったが、彼の頬はニヤリと笑う。


「――シグマ!!」


 彼の視線の先には、二つの刃を構えたシグマの姿があった。そしてその隣には同じく剣を構えたミーレス。シグマは視線を鬼に向けたまま声を出す。


「行くぞミーレス!!」


「はい!!」


 二人は鬼に向け飛ぶ。二人が持つ刃は三つ。そのまま鬼の腹部に接近し、同時に刃を走らせる。


「「スキル発動――“アスタリスクブレイド”!!」」


 三つの斬撃は一つとなり、鬼の腹部に三本の傷を負わせる。


 

 オオオオオオオオ!!!



 鬼は天を仰ぎ絶叫する。腹部に走る確かな痛み。それを受けた鬼は吠える。シグマ達にも、鬼がダメージを受けたことがよく分かった。


「やった――」


「――まだだ!! 油断するな!!」


 ランクSSのモンスターに手傷を負わせたことに歓喜する面々を、シグマは怒鳴り声で緊張を維持させる。彼の視線が捉えたのは鬼の目。鬼の視線には既に鋭さが戻っていた。

 鬼は体を丸め、両手を腹部に巻き付ける。そして軽く跳び上がり、腕を一気に解放する。放たれた腕は、巨大な独楽のように周囲を無差別に破壊する。


「――――ッ!!」


 鬼の周囲を取り囲んでいた氷は次々に破壊される。腕を戻した鬼は、更に角から光線を放つ。その光線は宙に浮かぶシグマ達を狙う。


「くっ――!!」


 それを躱すシグマ達だったが、空を舞っていたジールの左腕に光線は掠る。その瞬間ジールの腕は爆発し、腕のエフェクトが一瞬乱れた。


「ぐああああああああ!!!」


「ジール!!」


 そのまま墜落するジール。シグマはすぐに近付き、ジールの肩を持つ。


「ジール!! 大丈夫か!?」


 ジールは顔を歪めていた。そして左腕を押さえながら弱々しく声を出す。


「……くそ、何だよこれ……無茶苦茶痛ぇ……」


 ジールにとって、痛覚とは忘れていたもの。しかしそれが腕に走ったことで思い出した。痛いとは、こういうことだということ。これまで、ダメージを受けた場合は、痛覚の代わりにその部分が痺れていた。それはゲームの仕様。ダメージを出来るだけ実感するために、損傷部位の反応を鈍くする。もちろん、これまでプレイヤー達が言っていた“痛い”とは、その痺れのこと。だが、今は違う。顔を歪め、脂汗を出してしまうほどの衝撃が、腕を包んでいた。


「何でだろうな……俺、痛みってやつを忘れてたんだよ……そうだ、これが“痛み”だ……」


「………」


 シグマは眉を顰めた。彼の想像は当たっていた。最悪の想像が。このゲームの世界に、痛覚、疲労といった負のステータスが生まれていた。今、おそらく世界中が混乱しているだろう。忘れていた痛覚。それが、生々しく自分の身に降りかかる。それはとてもゲームなどではない。この世界が、一つの“異世界”として確立した瞬間なのかもしれない。


(攻撃を受けてこれなら、もし死亡したらどうなるんだよ……)


 そう考えるシグマの背中に、嫌な汗が流れる。最悪の想像は瞬く間に膨らんでいく。それを振り払い、(うずくま)るジールに話しかける。 


「……ジール、やれそうか?」


 シグマの問いに、ジールは痛みで顔を歪ませながらも笑顔を作る。


「ああ! あの化物、さっさと狩っちまおうぜ!!」


 そしてジールは立ち上がる。それを見たシグマもまた視線を鬼に送る。



 オオオオオオオオオオ!!!



 鬼は咆哮を轟かせていた。それは怒り。データの塊であるはずのモンスターからは、確かにそれを感じた。宙にいたクロエ、フルール、ミーレスもシグマの元に集まる。それぞれが鬼に視線を向けたまま、声を出した。


「シグマさん……」


「ああ。あのモンスター、まだ元気みたいだな」


「しかし、私とシグマさんの攻撃は確かに直撃したはず……」


「つまりは、それだけアイツの防御力、HPが高いってことだろ」


「……しぶとい」


 咆哮を終えた鬼は、静かに揺れる。それは嵐の前の静けさにも思えた。ユラユラと揺れる鬼。シグマ達の体に自然と力が入る。

 ……やがて、鬼の体はピタリと止まる。


(………来る!!)


 次の瞬間、鬼はシグマ達に向け光線を放つ。


「跳べ!!」


 二方向に同時に跳ぶシグマ達。右方向にジール、フルール、クロエ。左方向にシグマ、ミーレス。すると鬼は両手を同時に伸ばす。右手はシグマに向け、左手はクロエに向けていた。


「二方向か……!!」


 シグマは呼称しシールドを召喚する。向かってくる拳に楯を向け、受ける構えを取る。クロエ達もまた拳に正対し、躱す体勢を整える。だが、シグマを狙う拳は途中でその進路を変える。拳は大きくカーブし、クロエ達に向かう。結果、クロエ達は正面と左方向から同時に狙われていた。


(狙いはクロエ達か……!!)


「クロエ!! 左だ!!」


「―――ッ!?」


 シグマの声でようやく自分たちを狙うもう一つの拳に気付くクロエ達。


「伏せろ!!」


 クロエとフルールに声を上げるジール。二人が屈むとその頭上を拳が飛ぶ。しかしもう一つの拳は依然として三人に向かう。伏せていたジールは頭上に伸びる腕を掻い潜りながら立ち上がり、迫る拳に向け戦斧を振り下ろす。


「うおりゃぁあああ!!」


 衝突する戦斧と拳。だが相手はランクSSのモンスター。戦斧は押し切られ、拳は三人を襲う。


「がああああ!!」


「きゃあああ!!」


「………!!」


 吹き飛ばされる三人は滑りながら大地に伏せる。ジールの戦斧が拳の勢いを軽減はしていたが、それでも圧倒的な力の前に、ジールとクロエはレッドゾーン、フルールはイエローゾーンへと瞬時にHPは減少する。それまで忘れていた痛覚を思い出したクロエ、フルール。体に更なる痛みが走ったジール。そのまま三人は、意識を失った。


「クロエ!! ジール!! フルール!!」


 シグマは三人の元へ走り出した。それは余りにも軽率な行動。それまでどんな時でも冷静に状況を見ていたシグマ、そんな彼らしからぬ行動。クロエ達はシグマにとって初めての“仲間”。それまで孤独だったシグマにとって、初めて現れた暖かい存在。それが、シグマの脳から“冷静”というものを排除していた。無論、鬼はその行動を見逃すことはない。ニヤリとほくそ笑んだ鬼は、角から光線を放つ。しかしクロエ達に意識を注いでいたシグマは、その攻撃に気付いていなかった。

 ……だが、光線が狙ったのは、シグマではなかった。光線の行方……それは、ミーレスだった。


「―――ッ!!!」


 ミーレスもまたクロエ達に目をやっていた。故に、自分へ向かう光線に気付くのが遅れていた。そして、彼女がその攻撃を認識した時、無情な光はミーレスの体を貫いた。


「きゃああああああ!!!」


「―――ッ!!??」


 シグマは、ミーレスの悲鳴でようやく鬼の光線がミーレスに放射されたことに気付く。


「ミーレス!!!」


 視線の先には、激しく地面を転がりながら吹き飛ぶミーレスの姿。彼女の体は後方の岩と衝突し、ズルズルと地に沈む。シグマは血相を変えてミーレスに駆け寄る。そして横目で、鬼がミーレスに向けて更なる光線を浴びせようとしていることを確認した。


「チッ―――!!!」


 シグマは楯を構えながら倒れたミーレスの前に出る。その刹那、鬼からは光線が放たれ、シグマの楯がそれを防ぐ。シグマは後ろに倒れるミーレスに声を出す。


「おいミーレス!! 大丈夫か!?」


 シグマの声に、ミーレスは僅かに体を動かし、消えそうな声を出した。


「……シグマ、さん……」


「―――ッ!? ミーレス!? 無事か!?」


 ミーレスは、全身を包む痛みを実感する。それまで忘れていたそれは、容赦なく彼女の体を駆け回っていた。そして彼女は自覚する。自分のHPが0になったことを。


「……シグマ、さん……すみません……」


「え!? 何だって!?」


 ミーレスの声は、楯と光線がぶつかる音に阻まれ、シグマの耳にはほとんど聞こえない。しかしミーレスはそれに気付くことなく、言葉を口にした。


「……もう少し、お役に立ちたかったです……でも、これまで…みたいです……」


 そしてミーレスの体は光に包まれる。それを見たシグマは、ミーレスのHPが0になったことを知る。


「ミーレス!! 街で待ってろ!! コイツをブッ飛ばして、すぐに俺達も―――」


 だが、ここでシグマは気付いた。ミーレスの消え方が、“異常”であることを。

 ミーレスの体は、足から光の砂に変わっていた。まるでガラスが砕けるかのように、サラサラと風に流される。所々エフェクトが乱れながら消えていくミーレス。それを見たシグマは、自分の中で考えた“最悪の想像”が正しかったことを理解した。


「……おいミーレス!! ミーレス!!」


 シグマの叫びは虚しく響き渡り、ミーレスは完全に消え去った。シグマの後ろにいたはずのミーレスは、姿を消した。


「……クソ!! クソオオオオオオ!!!」


 シグマは叫ぶ。目の前で、プレイヤーが消えた。その消え方は明らかに異常。正常な消え方ではない。それはシグマに、カカと同様に、ミーレスも所在不明になったことを容易に想像させた。それは確信とも言える想像。通常なら光は天に昇り、最後の街に向かう。しかし、今それは起こらなかった。“ミーレスという存在そのものが消えた”……そう言えるような、そんな消え方だった。

 それが分かったシグマは、ただただ叫ぶことしか出来なかった。


 ……しかしこの時、シグマは再び油断をしていた。


「―――ッ!!??」


 シグマは自分を包む影に気付く。慌てて前を見ると、そこには拳を振り上げた鬼の姿があった。


(しまった―――!!!)


 そう思った瞬間、シグマに向け鬼は鉄の拳を振り下ろす。楯をしても間に合わないタイミング。シグマの残るHPは1。シグマは、終わったことを覚悟した。



「―――伏せて!!」


「―――え?」


 その時、声が岩場に響く。それと同時に、鬼の顔面に突如爆発が起こる。鬼は振り下ろした拳をシグマにぶつけることなく、横方向に倒れて行った。


 シグマはすぐに鬼から距離を置き、声の方向に目をやった。そしてそこにいた人物の名前を口にした。


「――亜梨紗!?」


 そこにいたのは、白鎧の少女――アリサ。彼女は剣を鬼の方に向け、スキルを放っていた。アリサはそのままシグマの元に駆け寄る。間一髪助けられたシグマ。だが、彼の胸に去来していたものは、決して感謝の念ではなかった。


「――バカかお前!!」


 思わず怒鳴り声を上げたシグマ。アリサは、視線を鬼に向けたまま横にいるシグマに声だけをかける。


「バカとは何よ! せっかく助けてあげたのに!!」


「何でお前がここにいるんだよ!! お前のHPは、レッドゾーンなんだぞ!?」


「何言ってんの!? シグマだってそうでしょ!?」


「俺は別なんだよ!!」


 二人は横に並んだ瞬間に口論を始める。もちろん、鬼には関係のないものだった。鬼は腕を大きく振りかぶり一気に突き出す。その腕は伸び、シグマ達に向かって行った。


「――とにかく、話は後で!!」


 アリサは剣を構え、迫る拳を躱し、そのまま鬼の方に駆け出す。鬼の腕はシグマの横を通過していく。


「お、おいアリサ!!」


 シグマの呼び掛けに応えることなく、アリサはシグマから離れていく。その後ろ姿を見たシグマは、言い知れぬ不安に襲われていた。


(いくらなんでも無茶だ!!)


 この鬼は、黎明の光の面々で戦っても劣勢に追い込まれているモンスター。それをレッドゾーンの“ただのプレイヤー”が倒すのは不可能に近いだろう。しかも、このモンスターは更に変異したウィルスに汚染されている。現に、つい先ほどミーレスが壊されている。シグマは、すぐにアリサの元へ行こうと走り出す。

 だが鬼は、光線を出しシグマの進行を防ぐ。目の前に放たれた光線は爆発を起こし、シグマの足を止める。


「くっ―――!!」


 シグマの行動はワンテンポ遅れる。その間にアリサは、間もなく鬼の元へ辿り着く。剣を構え、鬼に挑むアリサ。鬼もまた、アリサに狙いを定めもう一つの拳を振り上げる。


「――――!!!」


 その瞬間、シグマの脳裏にカカ、ミーレスの影が過る。光になり消えた二人。カカは行方不明。ミーレスもおそらくそうなっているであろう。そして今、アリサもまたそれに続こうとしている。

 シグマは、亜梨紗を助けるためにこの世界に入った。にも関わらず、その亜梨紗が消えようとしている。心臓が高鳴る。嫌な汗が全身を流れる。


(……絶対、させねえ!!!)


 シグマは再び駆け出した。だが、とても間に合う距離ではない。必死に手を伸ばすシグマ。


(俺は、助けられないのか!? 亜梨紗を守れないのか!?)


 自分への憤りが頭からつま先まで駆け抜ける。歯から音が出るほど口を噛み締める。


(――嫌だ!! 絶対嫌だ!! 俺は、亜梨紗を守るんだよ!!)


 そして手を伸ばしながら、シグマは目を閉じ切に願い始めた。誰にというわけではない。しかし、願わずにはいられなかった。



(……誰でもいい!! 力を!! 俺に、力をよこしやがれ!!)


 

 その瞬間、シグマは自分の中に何かの存在が現れたのを感じた。そしてゆっくりと瞳を開けると、シグマの視界には“あの蝶”が舞っていた。


「――――ッ!!??」


 驚愕するシグマ。だが、すぐにその違和感に気付く。その蝶は漆黒蝶。プレイヤーをモンスターに変異させる異形の存在。……だがその漆黒蝶は、誰に向かうわけでもなかった。まるでシグマを先導するかのように、目の前をヒラヒラと飛んでいた。


(……何だ?)


 シグマは困惑した。これまでとは異なる動きをする漆黒蝶。そして漆黒蝶は黒い光に変わり、シグマの体を包み込んだ。


「―――ッ!!!」


 その光はシグマの内部に侵入する。心の中に黒い光が満ちていく。しかし恐怖はない。むしろ、何かに守られるかのような感覚を感じていた。


「こ、これは……」


 シグマの視界は変わる。彼の周囲はスローモーションで動いていた。風に揺れる岩の隙間から生えた雑草。流される土煙……それら全てが、とてもゆっくりと動いていた。

 その中で、鬼の拳がゆっくりとアリサに近付いて行く。


「―――ッ!! 亜梨紗!!」


 シグマはもう一度強く地面を蹴る。体は光のように移動し、瞬時にシグマはアリサの前に辿り着いた。


「――――ッ」


 それはシグマにとっても予想外の動きだった。それでもシグマは、混乱する頭のまま両手を出す。鉄の拳はシグマの二つの手に衝突する。衝撃の轟音が響き渡ったが、鉄の拳は止まっていた。僅かに足元が滑るが、それまで幾度となく彼を追い詰めてきた拳を初めて止めた。しかも、武器を装着することなく。


「えっ!? シグマ!?」


 アリサからすると、突然目の前にシグマが現れたように見えていた。それほどシグマの速度は速く、アリサの目が彼の動きを捉えることが出来なかった。


「……行けるか!?」


 シグマはそのまま鉄の拳を往なし、鬼に向け駆け出す。鬼の角から光線が放たれる。


「―――」


 シグマが片手を光線に翳すと、そこにはシールドが瞬時に転送される。楯で光線を受け止めたシグマは、楯を消し、両手にナックルを転送させた。そして鬼の腹部に向け、拳の連打を繰り出す。


「うおおおおおお!!!」


 断続的に殴り付ける音が響く。シグマは一際大きく拳を突き入れると、鬼の体は後方に吹き飛ばされる。

 地に転ぶ鬼の姿を見たシグマは、それまでの自分とは何かが全く違うことを感じた。攻撃、スピードはそれまでとは比べ物にならないくらいに上昇していた。それだけじゃない。今シグマは、武器を召喚する時に“呼称”をしなかった。する必要がないことが“分かっていた”。それはあり得ない現象。呼称なしで武器を召喚するという行為は、もはやゲームではなく、ファンタジーの世界とも言える。


「……ステータス表示!!」

 

 シグマは今の自分に起こっていることを確認すべく、呼称する。



 HP  … 1

 TP  … Error

 ATK … Error

 DFS … Error

 MAT … Error

 MDF … Error

 SPD … Error

 SKL … Error

 ANT … Error



「な、なんだよ、これ……」


 シグマのステータスは、“Error”……つまりは、何かしらの理由で表示されなくなっていた。HP以外が“Error”、現ステータスは、全くの未知数となっていた。これまでとは全く異なる“不備”。いや、それはもう不備ですらないのかもしれない。


「プレイヤー情報表示!!」


 次にシグマが確認したのは、自分のこと。そこには、シグマの予感があった。



 プライヤー … シグマ・トイフェル

 レベル   … 1

 ジョブ   … ゴッドハンド

 


「……トイフェル……!!」


 シグマは声を上げる。自分の名前に、“トイフェル”の名が冠していた。つまり、今シグマは漆黒蝶に感染していることを意味する。だが、シグマの自意識は依然として保たれたままだ。桁違いに能力が上がったことと、体を黒い光が包んでいること以外は、何一つ変わってはいない。


「な、なにあれ……」


 アリサは、黒き光を纏うシグマの姿に、ただただ声を零していた。黒衣の少年、黒の光……それは淀んだ色、恐怖色。


 少年と少女は、ただただ今起こっていることに翻弄されていた。


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