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睡眠男子の異世界行脚 ~眠りあれ~  作者: えいてぃ
第1部 新たな英雄
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空輸でノルデン到着


「空の旅はいかがでしたか?」

「スリル満点だったよ……ははは」


 徒歩3日、馬車で1日――100キロの道程が、30分とかからなかった。

 時速にして200キロ強。

 防風機能も飛翔魔法に含まれているのか風は感じなかったものの、新幹線並の速度はシャレにならなかった。


 それにプラスして。


「手を放されるんじゃないかってヒヤヒヤしてたからなぁ」

「あれくらいの勢いでぶつければ魔物も倒せるでしょうね」

「……放すなよ? 絶対だぞ?」

「ご心配なく。キャッチ・アンド・リリースは心得ています」

「いやいや、それじゃ放してるからっ! せめてリリース・アンド・キャッチにしてくれよ!」

「よろしいのですか?」

「よろしくない、ぜんぜんよろしくない」


 話しながら歩く俺たちの現在地は、ノルデンまで3キロほどの地点。

 街に近づくと畑が増えるため、飛んでいるところを見られないようにと一応配慮したのだ。


 魔法があるこの世界でも、空を移動する手段はそれほど一般的ではないそうだ。


 リーンのように飛翔魔法――実は羽は出さなくても飛べるらしい。最初のときのは演出だったとか――を習得するか、空を飛べる大型の使い魔と契約するか、翼竜やペガサスなどを従える騎士団に入るか。

 それくらいであり、実際のところそれら3つの手段の根本は同じ――どれも飛翔魔法だ。


 ただし、飛翔魔法は鳥類に近い種族が持ち得ている風系魔法との相性の良さに由来する、いわば天性に近い魔法で、一般人の習得は困難らしい。


「街に入るとき、身分証みたいなのは必要ないのか?」

「フルーク王国では身分証も通行料も要らないはずです。それより、アカシ様の服装が問題になるかもしれませんね」

「制服だしな、元の世界の……あ、こんな感じならどうだ?」


 ブレザーを脱いで、シャツの裾をズボンから引っ張り出した。

 制服校における夏季の男子の標準的スタイル。これで異世界風味なフォーマル感は薄れるはずだ。


「そうですね、それならそれほど目立たないでしょう」

「オッケー……と言いたいが」


 ちょっと考えてみると、だ。


「何でしょう?」

「どう考えてもリーンのが目立つだろ。門番がナンパしてくるくらい美人だし」


 努めて意識しないようにはしているものの、陽光の中にいる同行者はやばいくらいに綺麗だ。

 昨日初めて下界に降りてきて現状無名であることを差し引いたとしても、視線に対する引力は国民的アイドル級。

 まあ、近づきがたさは大統領以上かもしれないので表面上の問題は少ないかもしれないが。


「あのような愚者はそうそう存在しないでしょう」

「冒険者は荒くれ者が多かったりしないか?」

「降りかかる火の粉は昨夜のように払います。もっとも、私を狙うのであれば、私を従者とするアカシ様を排除しようと目論む輩の方が多いかと思いますが」

「ああ……リアルに想像できるわそれ」


 それからしばらく、特に問題なく港町ノルデンに入ることができた。


 * * *


 ノルデン――遠く北東の山脈から流れてきたレンゲル川が形成した三角江を中心とする、フルーク王国随一の港町。

 人口は5万人を数え、レンゲル川上流域及び草原地帯へと発展中。


 家々の建材は石や煉瓦が主で、だいたいこのような建築様式がこの世界では標準的だという。

 高温多湿の日本ではあまり見られない西洋風の街並みだが、~風と言ってしまえるあたり違和感は特にない。


 ここが地球ではないと強く思わされるのは、やはりというか、住人の姿だった。


 2メートルを軽く越えていそうな大男は、豹のような顔と肌をしている。尻尾も生えていて、獣人と呼んでいい種族のはずだ。

 逆に1メートルほどの背丈で成人していそうな者もいるし、耳が不自然に長かったりする者もいる。

 髪の色も多様で、日本では当たり前の黒から茶系統の色はむしろ少ないくらいだ。

 普通の人間種族が多くを占めているものの、人間とは異なる外見の種族が目立ったりもしていない。


 多国籍ではなく多種族社会――といったところか。

 昨夜『血が混じる』というようなことも聞いたので、ある程度は混血も可能なんだろう。


 そんな住人たちは顔見知りに声を投げ合いながら徒歩で街を行き交っている。


「すっげー活気あるなぁ」


 地元の寂れた商店街も昔はこんなふうに賑わっていたんだろうと思わせる光景だ。


 大量生産大量販売、車という個人の強力な移動手段――それらはきっと、街の平均的な活気を奪ってしまうのだろう。


「豊かで、さらに発展中の国ですから、フルーク王国は」

「やっぱり貧しい国とかもあるよなー……」

「この世界は乱世ではないと言いましたが、大局的には乱世へと向かっています」

「……そうなのか?」

「天魔の戦争は天使が構築した身分制度が原因でした――」


 天魔戦争終結後は、世界から支配階級がいなくなり様々な国が乱立した。

 当初はどの国も治世に優れた者が政を行い、世界には平和と平等が広がっていった。


「しかし、1000年も経つと事情は変わりますし――新たな事情も生まれてくるものです」

「権力者の世襲とか利権争いとか……?」

「はい。それも含め、資源の有無や政治の善し悪しによって豊かな国と貧しい国に分かれています。身分の固定化、それによる貧富の差も拡大していますね」


 富める者はさらに富み、貧しき者はさらに貧しく。


「過去の天使が悪魔の眷属に対してした扱い――奴隷制度も再び生まれています。もっとも、それらが理由で戦争や紛争が起きたとしても、神が介入する案件にはあたらないのですが」

「じゃあ、どんな状況なら介入してくるんだ? 天使と悪魔のときは介入したんだろ?」

「単純に火力の問題ですね。大陸が焦土と化すような争いは許容できないということです」


 それはつまり、天使や悪魔はそれくらいのことができる存在だということか。例えば隣にいる天使も。


 そういえば、あの砂漠も英雄が降臨したときにできたとかいう話だ。

 生身の生き物がそれほどの力を発する――。元の世界じゃ考えられないな。

 人類最強でも熊とガチンコで殴り合ったら負けるだろうし……。


 その分、科学が発達して、核兵器などというものも生まれた。

 神の介入が同じ条件なら、核戦争だけは防いでくれるかもしれない。

 ……いや、ホント頼むぞ。爺さん。


「あの建物のようですね。ところで、看板は読めますか?」


 リーンの視線を追うと、周囲より大きな建物があった。

 掲げられた看板には『冒険者ギルド』と書かれている。


 目にすれば意味がわかるし、書こうと思えば字も思い浮かぶ。

 文字への翻訳機能もついているようで非常にありがたい。


「読めるし、書けそうだ」

「――そうですか。それは残念です」

「ホントよかったよ、そんなとこまで頼らずにすんで」


 それより。


「さあ、俺たちの冒険はこれからだっ……!」


 世界情勢にしんみりしていたが、テンションが上がってきた。




「おおお、なんという……ことじゃ」


 東京の街が巨大怪獣によって踏みつぶされていく――。


「世界が放射能に汚染されるとこんな異常生物が誕生してしまうのか……あな恐ろしや」


 核戦争だけはどうあっても阻止せねばならぬなっ。


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