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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
82/82

【”心配”の”対象”】054【葉矛】

受験勉強や卒業試験やらなんやらで全然活動出来ていませんでしたが、やっと一段落出来ました。

暫くは拙い文章が続くかもしれませんが、文章力も上達を目指して本腰を入れる次第です。

これからまた更新を開始するので、どうか宜しくお願いします。

【個体の武器】

【雅木葉矛?】-0-54----”心配”の”対象”




「させないッ!!」

 間一髪だった。

 唐突に怒りを露にした美晴さんは、一層にバチリバチリと強い光を纏った電撃の鞭を生成して殴りかかって来た。

 それに反応して凪は、電撃の鞭が振り抜かれる刹那、僕と美晴さんの間に割って入った。

 その場で素早く剣を錬成すると、彼女は攻撃を受けるためにそれを振り上げた。

 青く薄光に反射する刃は青く見られるしなやかな鞭を両断した。

「な、グぅ、ぅッ……!?」

 なのにどうしたことだ。

 青い電流を叩き斬ったとたん、凪は苦しそうなうめき声と共に膝をつき剣を手放した。

 いや、『手放した』というよりも『取り落とした』。

 何があった? 今、凪は鞭を防いだはず……。

 見遣ると、彼女の取りこぼした剣は地面を滑べっていく。

「物体で電撃を受けれるわけないだろ!?」

 断ち切った電流の鞭が尾を引いて剣にまとわりついているのが見える。

 それの影響か、凪の手を離れた剣はあっという間にひびが入り、割れ、溶けていった。

 ……いや、”なんの影響”だよ! 何が起きた?

「電流っていう割には……!」

 素早く身を引き、なんとか距離を取った。

 ふらっと身体の重心が崩れかけていた様に見えた。

 先程僕も少しだけ受けたから分かる。

 身体を伝う電流は、意識さえも遮断し焼尽そうと躍起になるのだ。

「熱量を持っているから、まるで鞭だ……。 電撃のクセに”伝わる”し”叩ける”ってことか……。」

 凪は足取りをなんとか取り留め、大きく首を振る。それでもまだはっきりしないのか、自分の顔を2度程平手で打った。

「厄介だけど、なんとかする……!」

 右手を翳して新しく剣を作り、美晴さんに駆け出した。

「だから、そんなチカラじゃあたしのチカラに対抗出来る訳がないだろ!!?」

 美晴さんが迎撃の構えを取る。

 バチンと1つ風船が破裂したような音が響き、青白い鞭が凪を叩こうと身を翻した。

「当たらなきゃ電撃だろうが氷だろうが一緒でしょうが!!!」

 凪は叫ぶと鞭のしなり(・・・)を身のこなしのみで交わした。  

 一度鞭を交わして懐に入ってしまいさえすれば、凪の方が圧倒的に優位。

 ……のハズだった。

「おねぇさんと違って、まだ甘い……。」

 青い鞭は急に方向転換をした。

 相当な勢いがついていただろうに、一瞬でしなる方向を変えて再び凪に襲いかかる。

 考えてもみれば、電撃である時点でアレは厳密には”実体”じゃないわけで、振りかぶったところで遠心力が働く訳が無い。

 そもそも物理的なチカラだけで振っているわけじゃなかったんだ。

「なんのッ!!」

 側面からの強襲に対し、凪は瞬時に対応してみせた。

 手に持った剣を突き立て、美晴さんからは距離を取ったのだ。

 突き立てられた剣に鞭が当たる。剣を避雷針の代わりにしたんだ。

 電撃は剣を軽々溶かしたが、”それだけ”ですぐに消滅した。


「……マズいな、葉矛?」

 ふと、稀鷺が横から話しかけて来た。

 稀鷺に向き直ってみれば、彼は嫌みに捉えれる程に冷淡な顔つきをしていた。

 凪の戦いを見慣れて来た僕でさえ、今の凪の行動にいちいちヒヤヒヤと肝を冷やす思いでいるのだ。

 なのに稀鷺はこの状況でも表情1つ変えていない。

 それはいつもの”元気な稀鷺”からは想像もつかない冷静さでもある。

 むしろ稀鷺は、この状況に入って冷静になっている節がある様な気さえする。

 僕はといえば、凪が”心配”で気が気で無かった。

 凪が負けたらどうしよう……。


「電流は物体に、それも特に氷みたいな水分子の塊にだったら一瞬で伝わる。」

 唐突に稀鷺は言葉を発した。

 思わず首を傾げた。電流がモノを伝わるからなんだってんだ?

 稀鷺は僕の様子を見遣り、変に表情を崩す事もせずに続けた。

「考えてもみろ、葉矛。ナギちゃんの能力は”その手に氷をカタチ創る”チカラだ。手に触れたカタチで具現化するのが絶対的な条件。氷を持って攻撃し様にも、美晴に剣を当てたらナギちゃんまで感電しちまう。」

「……つ、つまり?」

 流石の僕でも悟った。

 さっきの”マズい”って発言の意味が分かった。

 ただ、それでも一応稀鷺に問いを投げかけた。ひとえに自分だけで納得して、それには満足出来なかったからだ。

「相性が絶望的に悪いってことだ。このままだとナギちゃんの負けだ。」

 帰って来た言葉は、自分で結論付けたソレと同じだったけれど。

 稀鷺は視線を僕からナギと美晴さんに向けた。無情な表情は険しいものに変わっていた。

「……とゆーより、向こうさん加減をしてないからな。下手すりゃ死ぬぞ、あれ。」

 稀鷺の言葉にハッとして戦っている凪を見遣った。

 左手に持っていた剣は中腹から先端にかけて消失していて、今まさに右手に新たな剣を作り出したところだった。

 凪が唯一武器として扱う氷の剣は、美晴さんの持つ電撃に対抗する手段には成り得ない。

 これは単純に美晴さんの方が強いってことじゃない。

 根本的に”相性が悪い”。


「……おい、葉矛。こんな時になんだがよ、オマエならなんとか出来んじゃないのか?」

「な……? なんとかってなんだよ?」

 ……僕はここに来るまでに幾度に渡って唐突な発言を聞き続けて来た。

 けれど、これは冗談抜きに心臓が張り裂けるかと思った。

 だって、すっごい心当たりがあったからだ。

 稀鷺がこちらを見遣って何かを告げようとする。


 ”……やめろ。”


 僕は稀鷺に、こう言い聞かせようとした。

 ”いわなくて良い”って。

 けれど実際にそれを口に出す事は出来ず、代わりに彼が口を大きく開き、声を上げた。

「”個体ノ武器”ってヤツ、お前が持ってんだろっ?」

「……ッ!!」 

 いわれる内容は分かっていたハズなのに、いわれて改めて僕はびっくりした。

 絶句しかけたが、なんとか返しの言葉を思いつく。

 思考はまだ、先程の稀鷺に対しての疑念を振り払えていない様だ。

 僕の思いついた返しは、彼の言ったそれの明確な欠落点を冷静に指摘していた。

「……な、なんで稀鷺がそんなの知ってるのさ?」

 稀鷺は前の作戦(?)の後姿をくらましていた。

 結局資料を持っていたのは翼さんだった訳で、僕は休み中に資料を見せて貰えたが彼はそれを見る暇なんて無かったはずだ。

 だって、今日まで家にも帰ってなくて行方知れずだったんだから。

「……っ。俺だって前の作戦に参加しただろ? 資料くらい、翼さんに見せてもらってるさ。」

 間入れず、稀鷺は続ける。

「いや、そんな事は重要じゃない。今1番重要なことは、その”個体ノ武器”ってヤツをつかえば状況がひっくり返るかもしれないってことだ。葉矛、なんとかならないのか?」

「そんなこと言われたって、僕だってつかい方知らな……---」




 ---”知らない?”



 さわ---。

 ……さわりと、一陣の風が吹いた。

 暖かい、それでいて夏の暑い気候からはかけ離れた風。

 記憶を呼び覚ます、春の様な心地の良い風が頬を撫でる。

 ……必至に気を保った。

 がくりと意識が持っていかれそうになっていた。

 この風は心地が良くて、眠気の様なゆったりとした”何か”を齎して来る。


 ……気がつくと、いつの間にか僕は真っ黒な空間に佇んでいた。

 ずっと向こうまで真っ暗で、空間が続いているのだろうか。

 それともすぐ目の前に壁かなにかがあって、実は凄く狭い空間なんじゃないだろうか。

 そんなこと分からない。

 ふと、目の前にぼんやりとした光が灯る。光の中心点には具体的なカタチこそ(おぼろ)げだが、確かに”何か”が存在した。

 理屈でなく直感で理解する。今すぐに”それ”を手にするべきだと。

 ”アレ”は状況をひっくり返す『カギ』だ。それを手にする事と戦う方法を知ることは=で(イコール)結ばれている。

 コレを持てば、僕は戦える……。

 僕はそれを手にしようと足を踏み出す。理屈で判断した。アレを取れば、今この瞬間の凪の助けになれる。

 ならば、躊躇う事なんてあるだろうか。

 さて、僕は3歩明かりに向かって進んだ。

 ……つもりだった。

 歩みを進めたはずなのに、実際にはその光から離れていた。疑問に思った僕は、小走りに光に歩みを進める。

 しかし、光からは遠のく一方だ。まるでベルトコンベアを遡っている気分だ。確かに身体は進もうとしているのに、後ろに遠のいて……?

 ”身体”? まて、そんなもの何処に有る?

 気がつくと、僕は必至に叫んだ。まただ。身体が無いのに存在している感じだ。


『ダメだ、アレを取らないとナギが負けちゃう!!』


 ……けれど今回は”前に進めた”。

 いつもと違って僕の思う様に動けた。

 今まではただ”傍観者”だった。

 こうやって真っ暗になって、訳が分からなくて、結局自分で動けなくてなる様にしかならなくて……。

 だけど今回は僕の意思で歩みを進めれた。

 ……そうとも、僕の思った通りに動いていたはずなのに、どうして結果が出ない?

 何故、辿り着けなかった?


『ダメだ、ダメだ! 遠くなるのはダメ「嫌だ」』


 声が重なった。

 僕の理性は叫んだ。『ナギを助ける為に、チカラを手にするのだ』と。

 けれど、重なった声は言った。

「い、やだ……。」

 ”チカラに呑み込まれるから嫌だ”と。

 ”もう戦いたく無い”と。

 重なった声は誰のものでもなかった。

 ……それは僕自身のものだった。

 要するに、思考とは逆に本能が判断したのだ。

『アレは手にするべきではない』

 今の僕には身体が無い。だから今の僕はより強い思想に基づいてこの場所で行動する。

 思考よりも本能の方が僕を動かすチカラが強いみたいだ。

 つまり。

『ダメだッ……。』


 僕は、それほど凪の事を心配していない---?


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