【恋葉 凪】003-1/2【葉矛】
・月曜日更新。
ある程度書き溜めるコトが出来たので、しばらくは更新が早めに行えそう。。。
……故に、誤字脱字多めかも。
【個体ノ武器】
【雅木葉矛】-00-3-1/2----恋葉 凪
背筋が凍った。
身体が動かなくなった。
コイツは間違いなく先日ここで恋葉さんにボコボコにされていた連中と同じところのヤツだろう。
着てる物から雰囲気、何まで全部一緒なのだ。
「君、単刀直入に聞こう。ちょっと前、ここでウェザードを見かけたんじゃないか?」
黒スーツの男が切り出す。
口調はフレンドリーだったがその目は真剣そのもので、僕を好意的にはみていなかった。
この人は僕を『疑って』見ている。
僕の何を疑っている?
「え、と。僕は、知らないんですが……。」
周りを見渡す。
公園には誰もいない。
平日の昼間だというのに周囲に人影はなく、誰かが通る気配も無かった。
ちょっと裏通りだとこの有様ですか……!
どれだけ寂れているんだ、この国は!
「そうかね! いやぁ、君に聞けば分かる事があるんじゃないかと踏んだんだがね!」
わざとらしく、大きめの声で話す。
他に誰もいないのだ。この公園には。
公園の周りにも。
助けは無い。誰もこの男の声を聞きつけはしない。
……毒づいても無駄だ。
三日前と違い恋葉さんもいない。
思考を働かせる。
コイツ等は何が目的だ?
翼さんを襲ったときは彼女がウェザードだったからだと思われる。
けど、僕は違う。ウェザードなんかじゃない。だったら僕に感ける理由なんて……。
『見かけたんじゃないか』
……その言葉から察するに、僕が今この黒服に話しかけられている理由は……。
アレを、恋葉翼の戦闘行動を見たのが原因だろう。間違いない。
……マズい。マズいっ! 間違いなく、今は僕が狙われてるっ!?
……早く、早く立ち去った方が良い。立ち去るべきだ。
……逃げろ。逃げろ。恐い……!
「……いえ、僕その、帰って宿題しなきゃいけないんです。課題、溜まってて。失礼しま……」
立ち上がった僕の肩を黒スーツの男はガッシリ掴んだ。
力が強くて逃げ出せそうに無い。
肩が痛い。ギリギリと掴まれて僕は身を竦める事しか出来なかった。
「すまないね。少年。先日うちの諜報班から、君がウェザードと何らかの関わりを持っている、もしくは、君自身がウェザードなのではないだろうか、という情報があってね。雅木君。」
体が完全にガチガチに固まった。
今、僕の名前を呼んだ?
強張って声も途切れ途切れになる。舌も上手く回らなくなる。
向こうは、僕の名前まで知ってる?
なんで?
というか、僕はウェザードじゃない!
無いはずだ!
それを考えるのは後で良い。
今は立ち去らなければ。
本当に、早く!
だが声が出ない。
大声を出して助けを呼ぶ勇気がない。
僕はコイツ等を恐れている。心のそこから!
「……ぼ、僕はウェザードじゃあ、あ、ありませんよ! それにウェザードと関わりがある訳でも!」
ふぅ、と目の前の男は息を吐く。
右手を除けて自分の服のネクタイの角度を直した。
「……だとしても、どちらにしろこちらにとって、キミは重要参考人だ。なに、時間は取らせないとも! ちょっとだけでいい、ついて来て話しを聞かせてくれればいいんだ!」
彼の後ろに、黒い高級感のある車があるのが見えた。
公園の入り口にいつの間にか止まっていた。さっきまであんな車無かったはずだ。
僕はこの瞬間学校から出る前に「フラグ」立てまくった自分自身に深く憎しみを抱いた。
ついでに好奇心に負けて公園に入った自分にも。
駄目だ、ついていったら終わる。
仮にこれがゲームだったら、あの車に入った瞬間『ゲームオーバー』の文字が表示されるだろう。
だがコレはゲームじゃない。
ゲームオーバーしても、コンティニューはない。
「あ、貴方は、一体なんなんです!?」
気がついたら叫んでいた。
同時に冷静に相手の素性について疑問を抱く。
意外と僕は冷静なのかもしれない。
恐怖心は消えないが思考はちゃんと働いている。
「私か? 対ウェザード事件専門担当班、調査委員。|平井 哲《ひらい さとし、とでも、名乗っておこうかな。なに、警察関係者だ。怪しい者じゃないさ。」
そういいながら、ネクタイを直した手で胸ポケットから手帳を取り出す。
それには確かに”それっぽい”感じで素性が書かれていた。英語で書かれてたから読めなかったけど。
けれど、そんなものを出されても信用なんか出来なかった。
絶対にコイツは先日ここで一人の女子生徒を襲っていた連中と同じ所属のヤツなんだ。
”絶対”だ。そう確信出来ていた。
明確な証拠がどうとかじゃなくて。カンというか、雰囲気というか。
そうだとも。
警察関係者が女子高生を囲んでナイフやら銃やらを突きつけてたまるか!
……そう叫んだのは心の中。
現実は厳しく、震えて声が出ない。肩をつかんでいる左手の力が強まる。
『血が……。血が止まりそう……。』
『そんな事考えてる場合じゃ無いって。』
黒スーツの男がしびれを切らしたと言わんばかりに詰め寄った。
「ま、どちらにせよ君に選択権は無いんだ。おとなしくついて来てくれないか? さもないと……。」
---その瞬間だった。
僕の右肩を掴んでいた手の力が急に抜けた。
と思っていたら、次の瞬間には目の前の男はその場に薙ぎ倒されていた。
「……ッ!?」
何が起こった!?
唐突過ぎる展開に僕は唖然とし、その場から動けなかった。
「……人さらいも感心しないが、人の選択権を奪う事は特に許せないな。」
すぐ隣から、その声は聞こえた。
隣に声の主は、いた。
いつの間に僕の隣にいたんだろう。
「それは、横暴と言うものだ。」
威厳というか、力強い声。物言い。
それは女性の声だった。
隣を見遣る。すぐ横に少女が立っている
見覚えがある。
つい最近に見た、あの女子生徒……。
「あ、あれ? 恋葉さん……?」
そう呟いた後何か違和感を感じた。
……何かが違う? 隣に立っている彼女は何処かあの時と違った。三日前見たときと違ったんだ。
髪の色、目の色、着ている制服……。
特徴は恋葉さんと一致していた。
少なくとも僕の記憶の中の恋葉さんと。
なのに何か違う。
何が違うかは具体的に示せないけど、なんとなく違うのが分かる。
「ん~、話しは後でも出来るよね? 雅木君! ちょっと付き合って貰うよ?」
「へ? あ、え?」
言うが早いか。
彼女は僕の手を握ると走り出した。
僕も訳が分からないままではあったがそれに続いた。
手を握られている以上、僕も走らないと2人揃って転んでしまう。
彼女の走りは僕の全力疾走とほぼ同じペースだった。
僕は全力で彼女のペースにあわせた。
……だがここで気がつく。公園の入り口には車が止まっている。
そうだ。冷静に考えて出入り口は塞がれている。
この公園には出入り口が一つしか無い。
周りが背の高い仮住居。つまりマンションやアパートなどの賃貸住宅で囲まれているからだ。
当然、奴らの仲間もいる。
案の定車から2人の男が出て来て……。
彼等は銃を構えていた。
僕は嘆く。この公園は出入り口を増やすべきだ! 黒服に待ち構えられやす過ぎる、この構造は!
「うぇえ!? 恋葉さん? ストップッ! ストップッ!!」
構わず彼女は直進する。
っ、途中で不意に、彼女は僕の手を離しそのまま僕を手で払う様に押しのけた。
「うわッ!」
簡単にその場に倒れてしまう。
制服が砂で汚れ、地面に掌を打ち付ける。
砂地で摩ったため掌が痛い。見ると手の平が血でにじんでいた。
……だが、それで良かった。
次の瞬間、さっきまで僕のいた位置を銃の弾丸が突き抜けた。
あのままの姿勢でいたら打ち抜かれていたのは間違いない。
踏ん張らなくて良かった。
……踏ん張れなかったわけじゃないぞ。
仮に弾丸が当たったらという場面を想像出来たら、きっとぞっとして顔を青ざめるくらいの反応は出来たと思う。
けれど今はそんな余裕は無い。
まず手足が震えてまともな行動が難しかった。
手足の震えは最初平井って人に話しかけられたときから起きていたことだ。
心拍数もかなり早い。
自分で分かる。
なんとか立ち上がろうとするが、その際地面についた左手を『グギッ!』とやってしまってまた痛い目をみた。
声は上げなかったが涙目になった。
……痛い。
そんな僕を尻目に、彼女は男二人相手に突っ走って行った。
「突破させて貰う!」
至近距離、銃の届かない間合いに入り込んだ彼女は、三日前にやってみせたように武器を持った方の相手の手首を掴んだ。
そして自分の方に引き寄せる。
引き寄せる間に何をしたんだろう?
勝手に相手の体が駒の様に綺麗に『回転』して、自然な形で彼女は黒服の背中を取った。
次に反対の手で後ろから首を絞める様な形で羽交い締めの様に拘束し、動けなくした。
『羽交い締め』と言っても片手だったけど。
手首を掴んでいる方の手で拘束している男の手を、正確にはその手に握られている銃をもう片方に向けさせた。
もう片方の男は銃を構えているが撃たない。
拘束された男が盾になっていて撃てないんだ。
他人の手を介して正確に狙いをつけると、彼女は自身の手で二回、引き金を引いた。
一発目は腹に、二発目は右太ももにそれぞれ当たった。
撃たれた男が銃を手放しその場に倒れ込む。
拘束している男から銃を奪い取り、前に押し倒すと同時に素早く三回銃の引き金を引いた。
太もも、右肩、左脹ら脛にそれぞれ当たった。
弾丸を撃ち尽くした後、彼女は銃を放り投げた。
「雅木君、立てる?」
彼女はこちらに駆け寄って来て左手を差し出した。
「う、うん。」
「じゃあ、急いで。移動するよ。ここじゃ、ちょっと目立ちすぎる。」
彼女は周囲を見渡しながら、そういって差し出していない”右手”をひらひらと振る。
僕の方も左手を差し出すと彼女は再び僕の手を握り、尻餅をついていた僕を引っ張り立たせた。
当然握られたのは左手。ちょっとした痛みが走るが我慢出来ない程じゃない。
「やはり、貴様……!」
後ろでさっき僕の肩を掴んでいた、平井さん(?)が立ち上がった。
やっぱり、銃とか持ってるよね。
お決まりだよね。わかります。
彼女はため息をつきながら、黒スーツ平井に向き直る。
「君たちの相手をしている程は余裕は無くてね。悪いけど……。」
恋葉さんが右手掌を平井に向ける。
スーツを着た男は武器を構える前に、咄嗟に手を交差させて自分の身を守るように構えを取った。
「では、また後で!」
ニヤリと笑い彼女は掌を地面に向ける。
バチバチ! と空気を切り裂く様な……。
身近な物で例えるなら、服を脱ぐ時にたまに静電気で「パチパチ」音が鳴る時あるじゃない?
アレをもっとキツく、大きくした様な音がした。
音がして、一瞬で視界が塞がった。
目の前が見えない程の濃い『霧』が当たりを一瞬で包んだ。
その霧は彼女を中心に広がったように見えた。
僕は思わず身震いした。
……寒い。
6月なのに辺りが一瞬で寒くなった。
さっきまでちょっと熱いかな、くらいの体感温度だったハズなのに……。
季節的にこの時間帯に空気が冷えてくるなんてあり得ないハズ。
しかし現に、霧が起きた瞬間一気に体が冷えたんだ。
急に体が腕が引っ張られた。
そうだった、もたもたしてる場合じゃない!
今は夢中でその場からはなれる事だけ考えた。いや、考えろ!
他の事は、この場から離れてから考えれば良い!
公園から少し離れただけで霧は晴れた。
手を引っ張っている彼女はまるであの深い霧の中で目が見えているようだった。
まっすぐに出入り口まで僕を引っ張っていったのだ。
振り返えると霧があるところと無いところで境界線が出来ているのが見える。ある一点からは白い霧が壁の様に道路の視界を塞いでいる。
黒スーツの男達は誰一人追いかけてこない様だ。少しだけホッとする。
後ろを見ていたら一瞬足並みが乱れた。
彼女が前につんのめる。
「振り返ってる場合じゃない。今は走る事だけ考えて!」
「わ、分かった! ゴメン……。」
二つ返事を返す。
逃げなきゃならない事は分かっていた。
そして何よりこの”恋葉さんによく似た”人について行く以外、安全に逃げ切れる方法を知らない。
ついて行けば逃げ切れるって保証は無いけど、それでも一人より全然安心出来た。
道を走り続ける。
……僕の家から離れる様に。
あぁ、帰りたい……。
家の方角を見遣って、僕は急にホームシックに陥った。