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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
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【違うハズだった】046【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-46----違うハズだった




 凪は倒れている聖樹を見て、表情を曇らせた。

聖樹は凄く沢山の血を流して、地面に……うつぶせになって倒れている……。


「キクジ……。ボクが、もっと早くしてれば……。」

 凪が呟く。

それは自分に対しての忌ましめだっただろう。

だけれど、僕は責められている様な気がして落胆した。



”……ナギ、君までそんなことを言うのか?”


……だめだ、まだ思考が追いつかない。

聞いたこと見たこと、認識した事柄を端から悪い方に考えてしまう。

いつも通り能率的な思考の運びが出来ない。




『聖樹は、どうなった?』


 ------刺された。

不意に自問自答が行われる。

それは状況を確認する為に無意識に行われた脳内会議だった。


『どうして?』


 ------それは、あの赤髪が刺したからだ。

僕はただ、見ているだけだった。

だけど他にやりようなんてあったか?

仕方なかったじゃないか。

出来ることが無かったんだから最善だったんだ。これが最善だった。

……同時に最悪でもある。


「……城ヶ崎。今度は貴重な方のサンプルがやって来た様ですが。」


 理子と呼ばれた赤髪は凪に気がつき、新たなナイフを取り出した。

……先程のナイフは聖樹に刺さったままだ。


「……オレじゃ加減が聞かないからな。たまには、オマエの優秀なところを見せてもらおうか。」

「加減して捕獲。ま、良いでしょう。私ならば容易いことです。貴方が偉い口聞けない様にする良い機会です。」

 新たなナイフを構え、理子は凪と向かい合う。

凪は手の平を空に(かざ)す。


「そのままだ。出来るだけ甘く見積もっておいてくれ。その方が楽で良い。ボクはキクジ程油断もしなければ、冷静さを失いもしない……。」


 凪は剣を作り出し、構えた。

透き通った青白い氷の剣は日の光に焼かれてすぐに溶け始めた。

……アレが、聖樹の『椿焔我』を折る程のナイフに対抗出来るのだろうか。


「勝つつもりでいるんですか? 健気ですね。……しかし適わない故、それは虚しい。」



 ------『言い訳をするな。聖樹は、”誰のせいで”刺された?』


 不意に脳裏に声が過る。

ふと僕は、この声が単なる自問でないことに気がついた。

声は僕の思考に無いことを言って来る。

……さっきから何だこの声。

何が言いたいんだ?


 ------『聖樹はアイツと戦ったから刺されたんだろう?だったら、聖樹が戦った理由を作ったヤツが……。』


 ------違う。

それは、違う。違う!

違うだろ? 僕のせいだっていうのか!?


「はッ!!」

 剣を構えた凪は、一直線に赤髪の少女に向かった。

……ダメだ。

その剣じゃ斬り合いなんて出来ない!

本物の剣の方が硬いんだから!


「冷静を失わない。そう言う割には、焦っている様ですね。」

 理子は短剣を構えると、凪を迎え撃った。


 凪が剣を振り上げる。

それに合わせて、理子は短剣を振り抜く。


 氷の剣と大振り気味の短剣の軌跡が交差して、凪の青白い剣が真っ二つに折れた。

「……そんなこと!」

折れた氷の剣を、力任せに突き出した。

無理矢理にでも、その切り合いで少女を仕留めようとしたのだ、凪は。



 ------『もともと、ミヤビギ ヨウムは馬鹿だったんだよ。言葉に惑わされて、危うく敵に寝返りそうになって。』

 う、うるさい!

死ぬか生きるかだったら、ちょっと悩んだって別に良いだろ……!

仕方の無い、ことだろう……?


「……ありますね。貴女は、焦っているのです。」

 少女はあっさりと凪の攻撃を止めた。

折れた剣を握っている手を手首をしっかりと掴み、完全に動きを止めた。

「うぁ……!?」

 氷の剣は折れている為に長さが足りていない。

折れてさえなければ、刃は確実に赤髪の少女を捕えていただろうに。

手首を掴まれた凪は氷の刃を手放してしまった。


 ------『自分が生きる為に選択することは悪くないさ。けどな。ヨウムは今そこに、血だまりを作って倒れている、その女の子を裏切ろうとしたんだぞ?ヨウムは助けてくれる大切なお友達を裏切ろうとしていたんだ。』


 絶対に違うッ!!!

裏切ろうなんて……!

僕が凪や聖樹を裏切ったりなんて、するものか!


 ------『城ヶ崎について行くってことはヨウムを守っていてくれた人たちと敵対するって事だ。言い訳はするな。一度は寝返ろうとしたクセに、傷ついた聖樹の心配なんてしちゃって……。』


 黙れよ!

その原因を作った大本は、”オマエ”のクセに!!

僕の前に現れて、僕をここまでつれて来て!!


 ------『ここまで付いて来たのはヨウムだろ。別に”俺”はついて来いなんて言ってない。お前は恐いことから逃げる為に言い訳を探していたんじゃないか?俺みたいな不安定な存在は日常ではあり得ない。だから話しを聞けばこの不安を解消する何かが得られるかも。そう思って縋ったんじゃないのか?』


 そんな、そんなこと……。


『変化が欲しかったんだ。その為に行動した。その結果はコレだ。お前はこの結果に責任を持て。現実として受け入れろ。』


 ない、はずだ……。



「葉矛。戦闘の見学中済まないが、そろそろ行こうじゃないか?」


 ---声がすぐ隣でした。

ハッとして声のする方角を見遣る。

目に見えない誰かとの会話は、そこで打ち切られた。

……城ヶ崎が隣に来ていた。


「さぁ、こっちだ。ここは理子に任せておけばいい。」

「い、行くわけないだろ。」


「うあぁっ!!」

 凪が地に投げ出された。

倒れている聖樹のすぐ隣に添い寝するような形になる。

凪が倒れた直後、持っていた2つの剣は砕け散った。

「……瞬間的に剣を2つも作るとは。能力の使いこなし方にも目を見張るものがある。」

「五月蝿い!」


 勇みながら立上がった凪は、地面に突き刺さった折れた『椿焔我』を引き抜いた。

折れてはいるが、氷の剣よりは実用的な武器になりえるかもしれない……。


「行かないのか?」

 城ヶ崎はおどけた様子で尋ねた。

「うん。悪いけど、凪達を……凪から、離れる訳にはいかないからね。」


 ……さっきの声を思い出す。

あれは間違いなく、先程まで僕が追いかけていた”彼”のものだ。

……どうしてそう思うのかは、分からない。

だけど”絶対そうだ”と言い切れるまでの自信がある。

確信がある。根拠は無い。


 ……あの声の主が言っていたコトは的確だ。

論で考えれば明らかに正しいことを言っていた。

……だから。


「……実のところ、そう言うと思ってたがな。最初からそう言う場合のパターンも、ちゃんと用意してある訳で、ね。」


 城ヶ崎はポケットから2つのネジと3つの釘を取り出した。

手の平を重ね合わせ、その『素材』を隠す様にする。

手の平から光が漏れ、次の瞬間には彼の手の中に槍が握られていた。


『固体ノ武器』


 原理は分からないが、素材にした物質を、同形等の物質の違う形をしたものに変える。

そういう力。

それで、剣や槍、武器を作れる。


「だったら、力ずくだ。怪我してもオレのせいじゃないからな?」

 城ヶ崎は長い槍を握り直していた。

僕を攻撃するつもりだ。



「------、きゃああぁ!!」

 理子と戦っていた凪だが、ついに勝敗がついた。

僕が見た時、彼女の持っていた椿焔我が空中に投げ出されていた。

折れた椿焔我は、刀身が砕けて更に短くなっていた。


 ------凪の首筋にナイフが突きつけられる。

「さて、降参して貰えますね?」

「……だ、誰がッ!」

 凪はナイフを払おうと動いたが、その手こそ理子に払われた。

バランスを崩し、更に状況は悪くなる。


「仕方ないですねぇ?だったら……。」

 理子は凪の首からナイフを下げると、代わりに開いた手で、凪の首を絞め始めた。


「う、ご、ぁ……!?」

「こってり、絞ってあげましょう。降参してくれれば、すぐに緩めて差し上げますよ?」

 地面に押し付ける様に首を締め上げる。

凪の表情が苦痛に歪む。

目をギュッと瞑り、両手を首に掛けられた手にあてがい除けようとする。

赤髪の少女のチカラは強い様で、また凪は思う様にチカラが出ない様で、結局何の意味も持たない。


「向こうは終わりだな。さて、お次はコッチだな。」

 城ヶ崎がこちらに駆けて来る。

城ヶ崎は迫って来る。

手にした槍を振り上げて。

そして、彼は槍を薙ぎ払った。

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