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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
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【折れる”椿焔我”】045 【葉矛】

【個体ノ武器】

【雅木葉矛】-0-45----折れる”椿焰我”



 城ヶ崎の後ろ、公園の入り口に聖樹が立っている。

聖樹は真っ直ぐに城ヶ崎を見据えていた。


「城ヶ崎!キサマ、あたしの次はミヤビギをたぶらかすか!」


「……たぶらかすって、そのつもりは無かったんだがな?葉矛はオレと似ている。葉矛の悩みはオレも分かる。自分の居る路線の前例が全て”死”であることの恐怖、お前にはわからないだろうな。」


 聖樹の手には彼女の愛刀が握られている。

さっきまで学校に居たよね?

どこから持って来たんだ?

気にしている間に彼女は刀を構え、真っ直ぐこちらに突っ込んで来る……!


「離れろって、言っているッ!!!」


 城ヶ崎は一歩も動かない。

聖樹の勢いに気圧されることもなく、真正面から向き合う。

僕はひとまず城ヶ崎から距離を置いた。

聖樹の斬撃に巻き込まれてしまうかもしれなかったからだ。


「相変わらず、直線的なバカだな。」


 ------刀が振り下ろされる。

城ヶ崎は相変わらず一歩も場を動かない。

防ごうという動作すら見せないのだ。

アレでは、刀は城ヶ崎を真っ二つに……。


「なりませんね。そうは。」


 不意に声が聞こえた。

騒がしいこの状況で、この声は澄み渡りはっきりと聞こえた。


 鋭い金属同士がこすれ合う音がして、聖樹の斬撃は止まった。

聖樹の刃は城ヶ崎に届いていない。

届く寸前で止まっている。


「いやぁ、済まないなリコ?」


 聖樹の斬撃を防いだのは少女だった。

赤い髪が特徴的で城ヶ崎同様この夏の中スーツ姿でいる。

初めて見る人だ。


 手には太めの短剣が握られている。

サバイバルナイフと呼ぶのだろうか。

実際に見るのは初めてだ。

ふっとい刃はナイフと呼ぶには不相応に大振りで、またゴツい。


 ともかく、少女はその小さな剣で聖樹の日本刀を完全に止めていた。

刃物同士の競り合いに得物自体の大きさは関係ないのだろうか。

……そうは思えないのだが。

しかし事実としてサバイバルナイフは日本刀を受け止めて競り合っていた。


「こんな程度の低い攻撃、貴方であるなら避けられたハズです。そうやってなんでも私任せにするのはやめて頂けませんか?」

「お喋りしている暇があるのかッ!?」


 聖樹は追撃をかけた。

刀を一度引き、もう一度。

今度は刃を振り上げる。


 ナイフを持った本人を狙うのではなく、ナイフ自体を狙っての攻撃だ。

長ものを使って短いナイフを叩き落とそうというのだ。

遠心力を働かせたこの一撃なら、ナイフで受けたなら弾き飛ばせるはずだ。

ナイフの強度はともかく、握っているのは人間だ。


「……貴女が相手なら。」


 ぼそりと、赤髪の少女が呟いた。


 ------ふと、その瞳が黄土色に染まったのが見えた。


 少女はナイフを振り下げた。

聖樹の刀と、ナイフがぶつかり合い------。


 『キィィン!!』

……甲高い金属音が響く。


 ------『椿焔我』が一方的に折れた。

凪の作り出す氷の刃よりも硬い、純粋な鉄製の刃はあっけなく砕けた。

折れた刃は身を回転させながら飛び、落下して行く。


「な、なに!?」


 赤髪の少女は素早くナイフを構え直す。

対して聖樹はと言えば得物が折られて完全に無防備を晒していた。

動揺もしている。

実に隙だらけだ。

マズい……!


 ------刀はナイフに比べて大振りだ。

一撃に強くチカラをこめれば、外したり失敗したときの隙はとても大きくなる------!


 逆に刃が小さく軽いナイフは取り回しに優れている。

聖樹の刀を折って、すぐに次の行動に移れる……! 

「結構、その余裕も出来る様です。」


 聖樹の二撃目が行われてから、一瞬の出来事だった。

聖樹の制服が赤く染まって行く。

そして染みが制服を伝い、染みは紅い雫を作り、紅い液体は地面に落ちて溜まる。


 少女は刃の大きめの、そのナイフを聖樹に突き立てた。

……それも、胸に。


「……、……。」


 一瞬抵抗を見せた。

けれど、すぐに聖樹は無言で崩れ落ちる。

一度折れた刀を地に突き刺したが、体は支えきれない。

支えの刀からこぼれ落ちる様に、彼女の体は地に横たわった。

その際、喘ぎ声さえ出さなかった。


「……な?」


 何が起こったか、まるで理解出来ない。

……何が、なんで、こんなことが?


「おいおい、いくらなんでもやり過ぎじゃないか?言っておくが、オレはこの件に関しては事後処理はしないからな?」

「貴方が原因でしょうに。……とはいえ、この程度でしたか。案外あっさりと終わりましたね。貴方が目をつけていたらかには、もう少し抵抗があるものと思って行動をしたつもりでしたが……。」


 赤髪の少女と、城ヶ崎が何かを話している。

僕はそれをのんびりと聞く事は出来なかった。

声なんて耳に入らなかった。


 ---なにが、なにが起こっている。

なんで、聖樹は倒れている?

原因は分かっている。

だけれど、事実を認識出来ない。

なんで、どうして……。

そんな言葉ばかりが頭をぐるぐると巡る。


「葉矛!」


 訳が分からなくて、ぼうっとしていた時に僕の名前が呼ばれて……。

……振り返ったら、今度は凪がいた。



 なんだ、このデジャブ。

つい今起きた事がまた起ころうとしている。

僕はそんな予感がして、しかし何も出来なかった。

声を出すことさえ恐くて出来なかった。

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