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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
72/82

【逃げ?】044【葉矛】

幾分か前に、この回の為に37話を修正しました。

元々先に書いてあった回だけにこちらを優先する結果に……。

考察不足でした。読者の方、御免なさい。

【個体ノ武器】

【雅木葉矛】-0-44----逃げ?




「……---ハァ、ハァ!!」


 ”誰か”も分からない人物を追いかけていたら、いつの間にか学校の外に出ていた。

彼はどこまで行くのだろうか。


「……ハァ、ハァ!く、そ!!」


 僕は”誰か”に追いつけずにいた。

いくら近づいたと思っても”彼”はつかみ所がない。

追いかけてるうちに距離感が判らなくなり、そしていつの間にかまた距離が離れている。


 目の前を見るといつも”誰か”の後ろ姿が見える。

いつもちょうど曲がり角を曲がったところを見る。

チラリとなびく黒い服の端が見えるのみだ。

全体像すら見えない。

どんなに走っても一定の距離以上を詰める事は出来なかった。


「ハァ、ハァ!ハァ……。」


 そのうち僕は走るのをやめた。

気がついたのだ。

------追いつけない。


 しかし、僕を突き放しておきながら”誰か”は僕が見失わない程度の距離を保っていた。

どうやら僕を振り切る気で居る訳では無い様だ。

歩いていても、追いかけれる。



 ……見失うな。




「------…、……。」


 ……気がついたら、ある場所についていた。

翼さんと初めてであった場所。例の公園だ。


 ”誰か”を追いかけていたらこの場所についた。

どういうことだろうか。

あの誰かはどうしてこんなところに?


 公園の中に足を踏み入れ周囲を見渡す。

肝心の”誰か”は見当たらない。

見失った……?



『ズキン!!』



「あっ……!?」



 ……頭痛がする。

さっきまでより、強く、痛い。


『……。』

 ハッとする。

気配を感じる。


……”誰か”が僕の目の前に立っている。



 その”誰か”は少年だ。

僕よりもきっと年下。

だが、顔を上げることが出来ない。

彼の姿を直視することが出来ない。

頭痛が酷くて彼の顔を見るどころじゃない。


『……、……?』


 ”彼”が何かを言っている。

……それは分かる。

だが、内容が聞こえない。

頭痛のせいでもあるが、それだけじゃない。


 視覚に『ノイズ』の様なものが入っている。

 聴覚を『雑音』が占拠していて、何者も受け付けられない。

 感覚は『敏感』さが際立っていて、風でさえ今の僕には鬱陶しく感じられた。


「……や、やめ、て!!」



 ------全てが停止した。

視界に入っていたノイズは晴れ、凄くクリアに見える。

雑音は消えて、辺りは静まり返っている。

感覚は普通で、僅かに吹いている風が肌に当たって心地いい。


「……!!」


 僕は脱力した。

意味の分からない間隔が消えたり現れたり。

もう疲れた。

その場に座り込んだ。

足が身体を支えれなかったんだ。ガクガク震えている。

手で顔を覆い、ひたすら震えた。


 酷く吐き気がする。

目眩がする。

まるで酸欠の時みたいだ。

なんだってんだ。

さっきから僕は一体どうなっちゃったんだ。



「ご機嫌いかがかな、葉矛。」


 不意に背後から声をかけられる。

また、人の気配を感じる。


 だが、今度はさっきの様な不確かなモノじゃない。

現実なのかどうか確認するまでもない。

ちゃんといる。

確信を持って僕は振り返った。


「その様子を見る限り、そうとう苦労している様だな。」



 ……背後にいたのは城ヶ崎だった。

凪よりも強い、最強の少年だった。

僕を真っ直ぐ見据える彼は、公園の入り口付近に立ち僕の逃げ道を塞いでいる。


 ……最悪だ。

最低の状況だ。

僕は学校を出てしまっている!

”人目につく場所だから”手を出せない。

それだから学校は安全地帯なのだ。

僕はその安全地帯からみすみす出て来てしまった。

ここで1人きりでいる僕を襲ったっていいんだ、向こうは!


 何故外に出てしまった?

僕を誘導した”彼”は誰だったんだ?

こうなる事を知っていてやった?まさか罠だったのか?


「何か、”これ”がなんなのか、君は知ってるの……?」

 ……こんな状況だが『苦労している様だな』という彼の言葉が強く印象づいた。

僕はその言葉に救いを求めた。

城ヶ崎だったら何か知っているかもしれない。

だってコレは、元々が彼等の所有物が要因になって引き起こされている現象に違いないのだから。


 開発した連中等、張本人達だったら何か知っているかも。

僕はそう期待した。

目の前の彼は聖樹の”上司”だった男だ。

彼はある程度は階級も高い位置にいるはず。

つまり、何かしら情報を知っていても……。


「……いや、分からないさ。今、オマエが見ているもの、味わったもの、感じたもの。全部分からない。物理的にも論理的にも情報を持たない。」


 ……僕は唖然とした。

あっさりと期待は裏切られた。

思わせぶりな事を言っておきながら何も知ってないのか?

ぼんやりと城ヶ崎を見遣っていたら、彼は話しを続けた。


「今まで『個体ノ武器』を宿した者は例外無く長くてもでも3分以内に命を落としている。原因は決まって『脳の破壊』だ。」

「脳の、破壊……?」

 言葉を遮ってしまった。

しかし、城ヶ崎は気を悪くする事も無く、首を縦に振って肯定した。

そして言葉を続ける。


「全員が全員、宿した『個体ノ武器』を使う事も無かった。何故ならその前に脳が壊されて死んでいる。」

「脳が、壊れる……!?」


 ……実感は湧かないが、ヤバいのだけは伝わった。

言葉の響きだけで恐ろしさがこみ上げて来る。


 僕もそうなるのか!?

さっきから、頭痛が酷いのはそのせいか!?

冗談じゃない!!


「い、イヤだ……!!」

「落ち着け。まず確認したいことがいくつかある。お前は現存する”個体ノ武器”の被験者では異例の生存時間を誇っている。見る限りでは死亡前の予兆も出ていない様だし……。」


 城ヶ崎は冷静だ。

首を傾げ、今の僕の状態を冷静に述べる。

……だが等の本人である僕が冷静でいられるか!

落ち着いてなどいられるものか……!


「予兆って、なにさ!頭痛ならさっきからしているよ!!」

 思いっきり腕を振りつつ、叫ぶ。

酷く、なんでもいいから何かに八つ当たりしたい気分だった。

僕の言葉を聞いた城ヶ崎は再び首を傾げた。

しばらく腕を組んで考え込んで、

「……頭痛、か?」

と、一言呟いた。


 ……僕は頷いた。

頭痛だ。

「……酷い頭痛がして、吐き気がする。」

「興味深いな。」


 ……此の期に及んで、何を言っているんだ、彼は?

頭痛が興味深い……?


 ま、待てよ?

興味深いって、つまり”コレ”は貴重な状態変化であるってことか。

『普通じゃない』ってことか……?

つまり『頭痛』はその『死ぬ』予兆じゃない?

城ヶ崎は僕の心境を悟ってかどうか、先を話し始める。


「従来なら『個体ノ武器』の装備者は例外無くその身に武器を宿してから数秒後、気を失う。その後に起きた瞬間から言動と行動が破綻した状態になっているんだ。まるで人格が変わった様に、その”個人”が持っていた以前の気性や行動が見られなくなる。」


 ……背筋が冷たくなるのを感じた。

”個人の気性や行動”が消えた……。

僕も先程『自分が入れ替わる』のを感じたばかりだ……。

後少しで間違いなく僕もそうなっていた。


 断言出来る。

もし後”数滴”でも”僕”という存在が器から零れ落ちていたのなら、僕は完全に”ウワガキ”されていた。

……その実験を行った人たちも、アレを味わったのかな?

それで、耐えきれなかった……?

何故耐えきれた?


「データでは『個体ノ武器』を宿す事によって、一種の”快楽”を催す事が分かっている。極度の興奮状態に陥る。例えばそうだな……。ギャンブルで大儲けした瞬間とか、そういう時の感覚を味わうんだ。強い幸福感と高揚感で頭がいっぱいになる。……頭痛とか、本人に不快感を催すケースは初めてだ。」


「……どういう、こと?」


 城ヶ崎は首を振った。

両手を広げ、『お手上げ』をする。


「分からない。オマエが何故こうやって生きているかも、この先どうなるのかも予想さえ出来ない。何故お前だけが”個体ノ武器”の発現に成功出来たのか。何で未だに生きているのか。興味は尽きない。そして貴重な実正だ。」


 後半、城ヶ崎の言葉は届かなかった。

頭の中が真っ白になっていく。

……死ぬ?

死ぬかも?


 死ぬ事自体は誰だっていつかは体験する事だ。

精一杯強がって、それはまだ良しとしたとして……。


 だけどこんな死に方ってありか?

なんだよ、『脳が壊れる』って。

なんだよ、『装備者は例外無く』って。


 死には前例があって、生には前例がない。

それで、そんな条件がついているのに僕だけが生き残るなんて、そんな都合のいい事が起こるのか?

……起こりっこ無い。起こったらそれは奇跡だ。

奇跡は起こり難いから奇跡って言われる訳で、起こらない事の方が多い訳で……。



 ……こんな気分、初めてだ。

最悪なんてもんじゃない。

これは”絶望”と呼ぶに相応しい気分だ。

僕の身体には何人、何十人、もしかしたら何百人なのか。

人の命を奪って行った兵器が宿っている。


 しかもこの兵器が奪う命は、他者ではない。

装備者自身だ。

つまり------。



 『僕だ』



 そんなものが自分の身体に入っているなんて、ぞっとするしない以前の問題だ。

意識するだけで目の前が眩む。

考え込んだだけでコロリと逝けそうだ。


「なぁ、葉矛。」


 城ヶ崎がこちらに歩いてくる。

速度は普通で駆け寄る事もせず、無防備に歩いて来る。


 僕はその場に留まった。

逃げたり、叫んだりする気になれなかった。

ただ脱力して何も考えられなかった。


「おいおい、しっかりしろ雅木 葉矛!」

 城ヶ崎は僕の肩を掴んでぶんぶんと振った。

なんだっていうんだ。

放っておいて欲しい。


「……なんだよ。」

 まともに取り合う気にもなれなくて、適当な返事をした。

もう城ヶ崎のことが恐く無くなっていた。

殺されても別にいい。どの道死線は濃いのだから。


 こうなると本当に恐いものなんてこの世には無い様に思えてくる。

死ぬってのは何よりも恐いからだ。

そんなの判っていたけれど、ココまで鮮明に感じたのは初めてだ。

もうイチイチテストの点数に怯えることも無いだろう。

死んでしまう事以上に恐い事なんて……。


「葉矛!ヤケになるな。どうなるとか決まった訳じゃないだろ!オマエはまだ生きている。その限り終わりじゃない。可能性だが、オマエは”成功”したのかもしれないんだ!」

 城ヶ崎はやけに嬉しそうに、またはしゃいだ様子で僕に詰め寄って来る。


「……せい、こう?」

 言葉の意味が分からなくて復唱した。

彼は何故嬉しそうにしているんだ?

僕の疑問を他所に彼は続ける。


「そうだとも!今、他のヤツとは違う道をオマエは辿っている。違う道を通っているのなら、辿りつく場所だって違うはずだ。」

 彼は自分のことの様に嬉々としている。

僕はぴくりと体を震わせた。


「違う、みち……。」

 僕は違う道を辿っている?

つまり『死』に向かう道にはいないということか?

今のまま進めば辿り着く場所は『死』ではない?


 いや、それはあまりに都合のいい考え方だ。

現に僕にも『自我が変わる』予兆の様な現象は起こっている。

終着点が変わった様には思えない。


「……だとしても違う道を通ったって結局付く場所が同じだったら、そしたら意味なんてないだろ?」

「雅木、聞け。」

 城ヶ崎は尚も僕を諭そうとする。

僕のネガティブを否定しようとする。


「オマエとオレは同じだ。オレだって元々成功例のない実験で身体に『固体の武器』を宿した。」

 彼はポケットから小さなネジを取り出した。

安いネジだ。アルミ製で軽そうな。

それを手の平に乗せて僕と目を合わせ、彼はそれを握りしめる。


 ---、彼の手の中から光の線が延びる。

そして輪郭を描き------…。


 ……気がつくとそれは輪郭の形、剣を作り出した。

城ヶ崎の手の平からはネジは消え去っている。


 よく見れば剣は鉄では無い。

アルミだ。これはアルミで出来ている。

剣は先程のネジと同質のモノで作られている!

”握りしめたモノを剣にする”、それが固体の武器のチカラか……?


 憶測だが、多分当たっている。

僕は確信した。

今の現象を見せられたら、それが一番納得のいく解釈の仕方だろう。

凪との戦いの時複数剣を作り出せたのも使い捨てられたのもこのチカラのお陰だろう。


「実験の結果だが、オレの実験は成功した。オレは今ここにこうやってなにも不自由なく過ごしている。だったらオマエだってそうなれるかもしれない。」

「……僕も、助かるの?」


 城ヶ崎の言葉に希望が湧いて来た。

彼は今、目の前で剣を作ってみせた。

彼は僕とほぼ同等の条件で実験の被験者になり、生き残った。

”実例”とまでは行かないが、彼の存在自体が心強く感じられた。

まだ絶望はしなくてもいいのか……?



「それは分からないさ。物事に絶対なんて無いからな。」


 生き残れるかも。

そんな希望を抱いて、それから気づく。


 そうなるとそれはそれで問題が出て来る。

再びこの状況が”恐れるに足る”状況になるのだ。

『死が無い』のなら城ヶ崎は僕の生を脅かすには十分過ぎる敵だ。

再び”個体ノ武器”のチカラで撃退出来る、それは少々甘い考え方だ。

自発的な使い方なんて分からないし。


「葉矛。オレと来い。」

「……え?」

 対抗策を考えていたときだ。

唐突に、彼は手を差し出した。

思いもよらない展開に戸惑う。

『オレと来い』って、仲間になれってことか?


「今、俺達は唯一の成功例であるかもしれないオマエを求めている。データを取りたがっているんだ。」

「それで、終わったら僕を殺すんだろ?」

 彼は僕自体に用がある訳じゃない。

僕の個体ノ武器を宿した後の”経過”が興味深いだけだ。

データを取ったらその後のことは分からない。

僕は警戒心を隠さなかった。

対し、彼は尚も手を差し出し続けている。


「いや。データ収集が終わったらオレと同じ様に働けば良い。」

 考え込んだ後、城ヶ崎はそう述べた。

「戦力になる人材であればわざわざ殺したりなどするものか。オレ達は企業なんだからな。利益の出ない人殺しはしない。要はオマエ次第だ。協力すれば『俺達』はなんだって出来る。」

 一度手を引っ込めると、彼は手に持った剣を地面に突き立てた。

透き通った破裂音に似た音がして剣は形を失った。


 剣を形作っていた金属は全て消え失せた。

崩れ落ち、地面に落ちる前に『すぅ・・・』と消えてしまうんだ。

外側の金属が消え、後には元のネジだけが残った。

彼はネジを拾い上げる。

そして拾い上げたそれをしみじみと眺めながら僕に向き直った。


「……データを取る事で分かる事があるかもしれない。解析が進めばオマエの生存の確立だって上がるかもしれない。悪い話しじゃないだろう?働く限りは給料だってもらえるんだぞ?」


「……、……。」


 甘い、誘惑だ。

僕は考え込んだ。

城ヶ崎に付いて行って、素直にしていればもしかしたら助かるかもしれない。

だって、城ヶ崎も僕と同じ様な存在なのだから。

成功例の無かった実験の唯一の成功例。

僕の場合実験ではなくたまたま起きた出来事だったが、それでも同じ様なものだ。


 ……城ヶ崎は生きている。

こうやって僕たちを追いかけ回している。

そして彼は『狙う側』の立場の人間なのだ。

僕も『狙う側』に立てば、毎日こうやって憂鬱に過ごさなくても済むかもしれないな……。



「さぁ、葉矛。」


 城ヶ崎が手を差し出す。

……彼を、見上げる。


 僕を見下ろしている彼はとても大きな存在に見えた。

僕と彼は同じ様な境遇であるハズなのに、彼は僕よりずっと大きい。

彼は僕と同じ様なモノ。

”死”の濃い存在でありながらかろうじて”生”を得ている。

でも、僕と違って完全に乗り切ったんだ。彼は。

彼についていけば、僕も現状を乗り越えられるだろうか。

この、苦痛から解放されるんだろうか。


 だから、僕は彼の手を…------。


「聞くな!ミヤビギ!!」


 その言葉にハッとして、僕は振り返った。


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