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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
70/82

【違う】042【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-42----違う





『……、……!……、……!!』



 ハッと前を向く。

僕は目を見開いた。

見開く為の”目は確かに存在していた”。


 ……廊下には誰もいない。

誰かが居た様子さえ無い。

後に残る足音が無い。


 窓から午後の日差しが差し込んでいる。

夏の強く暑い日差しが廊下の床を焼く。



 ……状況が飲み込めない。

辺りを見渡す。

廊下には誰もいなくて、僕は学校にいる。

山でも河原でも雪山でもなくて、ここは学校だ。



「……、ハァ、ハァ!……くッ!ハァ……。」 


 自分が酷く息切れを起こしている事に気がつく。

汗もぐっちょりとかいている。


 試しに手足を動かしてみる。

当然、なんの異変も無い。

普通に動く。

手の平はグーとパーを作れたし、肘は曲げれたし肩は回る。

腕がある。

身体が”そこ”にある。

”そこ”には僕が存在している。


「ハァ、ハァ……。はぁ……。」


 一体なんだったんだ。アレは?

冷静になれ、整理しろ。

僕は壁に寄りかかり、深呼吸を始めた。

とりあえず、呼吸を整えろ……。


さっき、僕はいろいろなモノを一瞬で見せられた。

それを1から思い返す。頭の中で確認する。

その風景では、僕は……。



 ……ある時僕は山にいて、馬車に乗っていた。

馬車は山道をただ昇るだけだったんだけど、その道中の景色を頬杖をかきながら眺めていた。

馬車には複数の人が乗っていて、隣の席には……。

顔は見えなかったけど、多分男の人が乗っていた。


 ある時、僕は雪山にいた。

雪山には大きな建物が、多分お城だろうか。

そこにある一室で誰かと喋っていた。

その人を僕は知らないけど、何故か少しだけ恐ろしかった。

そしてその喋っていた相手は女性だ。

黒い髪が特徴的で、その風格から男性にも見えるけど、彼女は絶対に女性だ。

何故か確信が持てる。


 ある時、僕は町にいた。

その町並みはちょっと古くさくて、だけどしっかりとした石作りの建物が並んでいた。

お城には複数の兵士がいて、僕はそれに囲まれていた。

隣に誰かが居た。

長く伸ばした黒い髪と和服が特徴的だ。

その人は女性で、刀を携えていた。




 ------……ある時。

 僕は、草原にいた。

草原で空を見上げていた。


 草原には何も無くて、ひたすら平原で。

地平線すら見える。

時刻は朝だろう。地平線がだんだんと明るくなる。

ちょうど朝日が昇るのだ。

僕は、真っ直ぐに昇り来る朝日を直視していた。


 鋼で作られた分厚く重い長剣を原に突き刺して。

 見据えた先の風景に。

 蒼く静かで暗い、影を帯びた寂しい平原を照らし出す、朝日の神々しさに何故か親しみを抱いて。

 僕は、ただ太陽を見つめた。



 ---後ろに誰かがいた。

それは長い銀髪で、青い瞳をしていて、美しく、力強く、そして凄く親しい間柄の人だ。

ずっと昔から一緒で、ずっと側にいて、彼女はずっと”俺”を支え続けていた。


 彼女は、こちらに振り向いて、”俺”の名前を呼んだ。



『……、』






「…------違うッ!!!」



 ……誰もいない廊下に向かって”僕”は叫んだ。

閑散とした廊下に僕の声が響き渡る。

誰も僕の声に応える者は居なかった。


 僕の声は校舎の中に何処となく消えさり、同時に授業の始まりを知らせる予鈴が鳴った。

誰も廊下にいなかったのはもう授業間近だったからだろうか。



 僕はその場にへたれこんだ。

一体どうしたんだ、僕は。

分からない。分からなくて不安だ。

足が震えて立てない。

酸欠みたいだ……。


 泣き出したい。

なんだってんだ……。

……わからないけど、凄く恐い。

この感覚はとても嫌な感じだ。


 体に鳥肌が立って、吐き気がしている。

悪寒も感じる。気分が悪い。

足だけじゃなく、身体全体が震えだした。


「く、そッ……!」


 ただ毒づく事しか出来なかった。

分からない。

僕は何に怯えている……?

歯をガチガチと振るわせ、僕は苛立ちを募らせた。




「……!?」


 突然、背後に誰かがいる様な気がして、動きをぴたりと止めた。

苛立ちの感情は消え、顔から血の気が引き急に恐ろしくなる。

……身体が動かない。

誰がいるのか確かめようにも振り向けない。

痙攣を起こした様になって、動かしたいのに体は震えるばかりだ。

金縛りってこういうことをいうのか……?



「……ッ!」


 こつ、こつ、こつ------…。



 誰もいないはずなのに、足音が廊下に響く。

足音は近づいて来る。

”やっぱり”誰かがいる……?

なんとなくそんな気が、ずっとしていた。

真偽を確かめたいが体が動かない。

そして、僕は気がついた。


 なにか特殊な効果とか、力の働きがあって動きが封じられているのではない。

『僕が』確かめることを拒んでいるんだ。

他でもない、僕が”ソレ”を見ることを嫌がっている。

……恐れているんだ。



 足音はすぐに止んだ。僕のすぐ後ろにいるかの様に、強く響き渡り、それを最後に音はしなくなった。

そして僕の感じていた人の気配は消えていた。

同時に体の震えも止まる。


 身体が動く様になったため、振り向いた。

なんとなく分かっていたが。確信を持っていたが・

……廊下には、誰も、いない。



 廊下は静まり返っていて僕以外の人間はいない。

……けれど、それが当然なんだ。

これが在るべき姿なのだ。そのハズなんだ。

人がいるはずは無いのだ。

さっき予鈴が鳴って、今は授業中なのだから。


「……そ、そう、だよね。」


 1人でぼそっと呟いた。

今のは気のせいか……?

そう考えるのは、考えるだけならあまりに安易だが。

しかしそんな訳が無いのだ。

あの”気配”は確かだった。

気のせいな訳が無い。

言い切れる程、鮮明だった。



 ……駄目だ。

僕は手の平を顔に当てがった。

これ以上考えるな。

もういいじゃないか。放っておけば。


 考えたく無い。

これ以上”コレ”に感けたらもう後戻り出来なくなる……。そんな気がする。

だから目を逸らせ。見ないでいろ。見ないで良い様にしろ。


目を、瞑ってしまえ……。

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