【違う】042【葉矛】
【個体の武器】
【雅木葉矛】-0-42----違う
『……、……!……、……!!』
ハッと前を向く。
僕は目を見開いた。
見開く為の”目は確かに存在していた”。
……廊下には誰もいない。
誰かが居た様子さえ無い。
後に残る足音が無い。
窓から午後の日差しが差し込んでいる。
夏の強く暑い日差しが廊下の床を焼く。
……状況が飲み込めない。
辺りを見渡す。
廊下には誰もいなくて、僕は学校にいる。
山でも河原でも雪山でもなくて、ここは学校だ。
「……、ハァ、ハァ!……くッ!ハァ……。」
自分が酷く息切れを起こしている事に気がつく。
汗もぐっちょりとかいている。
試しに手足を動かしてみる。
当然、なんの異変も無い。
普通に動く。
手の平はグーとパーを作れたし、肘は曲げれたし肩は回る。
腕がある。
身体が”そこ”にある。
”そこ”には僕が存在している。
「ハァ、ハァ……。はぁ……。」
一体なんだったんだ。アレは?
冷静になれ、整理しろ。
僕は壁に寄りかかり、深呼吸を始めた。
とりあえず、呼吸を整えろ……。
さっき、僕はいろいろなモノを一瞬で見せられた。
それを1から思い返す。頭の中で確認する。
その風景では、僕は……。
……ある時僕は山にいて、馬車に乗っていた。
馬車は山道をただ昇るだけだったんだけど、その道中の景色を頬杖をかきながら眺めていた。
馬車には複数の人が乗っていて、隣の席には……。
顔は見えなかったけど、多分男の人が乗っていた。
ある時、僕は雪山にいた。
雪山には大きな建物が、多分お城だろうか。
そこにある一室で誰かと喋っていた。
その人を僕は知らないけど、何故か少しだけ恐ろしかった。
そしてその喋っていた相手は女性だ。
黒い髪が特徴的で、その風格から男性にも見えるけど、彼女は絶対に女性だ。
何故か確信が持てる。
ある時、僕は町にいた。
その町並みはちょっと古くさくて、だけどしっかりとした石作りの建物が並んでいた。
お城には複数の兵士がいて、僕はそれに囲まれていた。
隣に誰かが居た。
長く伸ばした黒い髪と和服が特徴的だ。
その人は女性で、刀を携えていた。
------……ある時。
僕は、草原にいた。
草原で空を見上げていた。
草原には何も無くて、ひたすら平原で。
地平線すら見える。
時刻は朝だろう。地平線がだんだんと明るくなる。
ちょうど朝日が昇るのだ。
僕は、真っ直ぐに昇り来る朝日を直視していた。
鋼で作られた分厚く重い長剣を原に突き刺して。
見据えた先の風景に。
蒼く静かで暗い、影を帯びた寂しい平原を照らし出す、朝日の神々しさに何故か親しみを抱いて。
僕は、ただ太陽を見つめた。
---後ろに誰かがいた。
それは長い銀髪で、青い瞳をしていて、美しく、力強く、そして凄く親しい間柄の人だ。
ずっと昔から一緒で、ずっと側にいて、彼女はずっと”俺”を支え続けていた。
彼女は、こちらに振り向いて、”俺”の名前を呼んだ。
『……、』
「…------違うッ!!!」
……誰もいない廊下に向かって”僕”は叫んだ。
閑散とした廊下に僕の声が響き渡る。
誰も僕の声に応える者は居なかった。
僕の声は校舎の中に何処となく消えさり、同時に授業の始まりを知らせる予鈴が鳴った。
誰も廊下にいなかったのはもう授業間近だったからだろうか。
僕はその場にへたれこんだ。
一体どうしたんだ、僕は。
分からない。分からなくて不安だ。
足が震えて立てない。
酸欠みたいだ……。
泣き出したい。
なんだってんだ……。
……わからないけど、凄く恐い。
この感覚はとても嫌な感じだ。
体に鳥肌が立って、吐き気がしている。
悪寒も感じる。気分が悪い。
足だけじゃなく、身体全体が震えだした。
「く、そッ……!」
ただ毒づく事しか出来なかった。
分からない。
僕は何に怯えている……?
歯をガチガチと振るわせ、僕は苛立ちを募らせた。
「……!?」
突然、背後に誰かがいる様な気がして、動きをぴたりと止めた。
苛立ちの感情は消え、顔から血の気が引き急に恐ろしくなる。
……身体が動かない。
誰がいるのか確かめようにも振り向けない。
痙攣を起こした様になって、動かしたいのに体は震えるばかりだ。
金縛りってこういうことをいうのか……?
「……ッ!」
こつ、こつ、こつ------…。
誰もいないはずなのに、足音が廊下に響く。
足音は近づいて来る。
”やっぱり”誰かがいる……?
なんとなくそんな気が、ずっとしていた。
真偽を確かめたいが体が動かない。
そして、僕は気がついた。
なにか特殊な効果とか、力の働きがあって動きが封じられているのではない。
『僕が』確かめることを拒んでいるんだ。
他でもない、僕が”ソレ”を見ることを嫌がっている。
……恐れているんだ。
足音はすぐに止んだ。僕のすぐ後ろにいるかの様に、強く響き渡り、それを最後に音はしなくなった。
そして僕の感じていた人の気配は消えていた。
同時に体の震えも止まる。
身体が動く様になったため、振り向いた。
なんとなく分かっていたが。確信を持っていたが・
……廊下には、誰も、いない。
廊下は静まり返っていて僕以外の人間はいない。
……けれど、それが当然なんだ。
これが在るべき姿なのだ。そのハズなんだ。
人がいるはずは無いのだ。
さっき予鈴が鳴って、今は授業中なのだから。
「……そ、そう、だよね。」
1人でぼそっと呟いた。
今のは気のせいか……?
そう考えるのは、考えるだけならあまりに安易だが。
しかしそんな訳が無いのだ。
あの”気配”は確かだった。
気のせいな訳が無い。
言い切れる程、鮮明だった。
……駄目だ。
僕は手の平を顔に当てがった。
これ以上考えるな。
もういいじゃないか。放っておけば。
考えたく無い。
これ以上”コレ”に感けたらもう後戻り出来なくなる……。そんな気がする。
だから目を逸らせ。見ないでいろ。見ないで良い様にしろ。
目を、瞑ってしまえ……。




