【恋葉 翼】002【葉矛】
更新が早いのはここまでかも!
今後も、週に1、2回は更新したいと思います。
主に『月曜』『水曜』『土日』『祝日』等に更新する予定です。
【個体ノ武器】
【雅木葉矛】-00-2----恋葉 翼
……空が、青い。
『日常』は、何事も無かったかの様に『普通』に進んでいる。
正直困惑している。
あんな『非日常的な』ことが起こったのに……。
……次の日は『いつも通り』にやって来て、僕もそれとなく『いつも通り』過ごしている。
そして今、現在。
三日前の出来事を淡々と思い出しながら、僕は学校で授業を受けていた。
モチベーションが上がらず、内容も朧にしか把握出来ない。
時計を見遣る。後10分程で昼休みだ。
いつもならそこそこに聞いている授業も、今日に限っては全く聞く耳を持てなかった。
あんな出来事と遭遇してから三日経っていた。
土日を挟んで三日だ。今日は月曜日なのだ。こんな心境で一週間を過ごさなくてはならないと思うと憂鬱になる。
あの日の翌日、翌々日が休みだったのは不幸中の幸いだった。
休みの間にある程度は心に整理を付けれた。
僕は授業を完全に身限り、目を瞑ってあの日の事を思い返した。
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------気がついたら大通りに出ていた。
小さな町の一番栄えている場所だ。
ここには一通りのお店はあったし駅も近い。
この大通りから駅前にかけてあるお店と言えばちょっとしたカフェ。それや本屋、ファーストフード店など。
まだ夜も浅いこの時間帯では東紅葉の生徒も多くいるらしい……。
この時間帯に出歩く様なヤツ等には出来れば出会いたくない。
誰かにからまれたり、そういう気分じゃなかった。
ついでに言えばここからは学校までは近い。だいたい15分程で付ける。
僕の家は学校との距離と比べればもうちょっとだけ遠い。
ここから歩いて20分くらいはかかる。
名も知らぬ女子生徒に手を引かれ、人ごみにまぎれる。
彼女はあたりをキョロキョロと見渡しながら、だんだんと人の少ないところに移動する。
最終的についたのは、駅前の広場だった。
ある程度人はいるが点々とだった。
そこは意味が良くわからないオブジェが置かれていたり、噴水があったり……。
……よくある駅前の広場だ。
そこにいるのは大抵この時間帯の町並みでそれっぽい雰囲気を出したがるリア充どもくらいだ。
……クソ。
ココロの中で小さく毒づいた。
リア充など爆発してしまえば良い……。
そんな駅前広場のベンチに二人で腰掛ける事になった。
あれ? ま、待ってくれ。思い返してみて思ったけどちょっとリア充的状況?
……いやいや、それは違うぞ雅木葉矛。
いくらなんでもポジティブ思考過ぎる。
「それで。」
少女は切り出した。
表情は極めて深刻な表情だ。
まるで両親を僕に殺されたとでも言いたげな、険しく厳しい表情を向けている。
「君は、なんであの場所にいたの?」
「え?」
いきなりの問いかけに戸惑った。
彼女はまっすぐにこちらを見て来る。
先に断っておくけれど、この時僕は何がなんだか分からなくて、僕も深刻そうな表情をしていた。
彼女に僕の表情が”そういう風に”映ったかは分からないけど。
もしかしたら、酷い間抜け顔だったかもしれない。
「そ、その……えっと。僕、あの先が家だし。バイト帰りで、遅いのはいつもで……。」
険しい顔でじっと見られる。
あんな事があったばかりで、凄く怖いし緊張したし。
そもそも僕は女子と喋る事自体、なれてないんだよッ。
少女がじっと目を合わせて来たので、慌てて顔を伏せて大急ぎで続けた。
まともに顔を見ながら喋ったら、いつまでたってもまともに喋れない気がしたのだ。
「わ、悪気があったんじゃないんだ。ちょっと、通りかかったからみてみたかったとか、じゃなくて! たたま、たまたま僕は、あそこにッ、いただけで……。」
必至に言い訳する。
分かってる。見苦しいのは、分かってる。
けれど理解して欲しかった。
何を理解して欲しかったのかは分からないけど、ともかく理解して欲しかった。
悪気は無かったんだ。
自分が、一体どんな悪いことをしたかは分からないけれど。
とにかく悪気は無かったんだ!
「分かった。もういい。」
彼女はそういって、今度は表情を和らげた。
僕は顔を上げ、彼女をみた。
初めてちゃんと顔を見た。
じっとみると、ただ可愛らしかった。
目つきは鋭くは無いのだが、優しげでもなく。
なんというか、言い方が悪いかもしれないが眠そうというか「やる気がなさそー」な目つきだった。
あ、ピンと来る言葉があった。『ジト目』だ。
その瞳は濃い緑色で、髪も同じ。
髪型だが、短く切ってさっぱりしている印象だった。
「あのさ。」
「え!?」
気がついたら再び彼女の表情が硬くなっていた。
「そんなに見られても困るんだけど。」
困惑した様な表情を浮かべて、切れ目の入った制服の肩を庇った。
……、彼女の言葉の意味を数秒考えて、急に顔が熱くなった。
「あ、ご、ゴメン、なさい!」
やらかしてしまった。
どうしてこうも無神経にしていられたのだろうか、自分は!
堂々としたガン見を、こんな至近距離で行うなど自分は一体何を……!
全く意識などしていなかったんだ。
恥ずかしいとかそういうのじゃなくて、自分の失態が恐ろしくなって顔を伏せた。
目の前の少女はウェザードかもしれなくて、ウェザードと話した事なんて殆どない。
いや、それ以上に僕の普段の生活では女子との会話自体殆どない訳で!
「君、雅木君だよね?」
不意に名前を呼ばれる。僕は唖然としてわたわたと悶絶するのを辞めた。
どうして僕の名前を知っているんだ?
そう聞き返したかったが舌が回らない。
何か言葉を探したが見つけられない。
彼女は小さく笑うと、
「いつも蒼希君と一緒にいるでしょ? 彼、五月蝿いから。君も目立ってる。」
そういいながら、何気なく彼女は空を見上げた。
どこか遠くを見る様な目だった。……ように思う。
この場ではなく違う何かをみている様な……。
「だから、一緒にいる貴方も目立ってる。それに君は……」
そういう事だったのか……。
別にこの僕に気があったとかそんな突発的フラグでもなんでもないんだ。
彼女の『君は----』以降の発言は、僕が独り合点をしていて聞き取れなかった。
相変わらずぽかんとしている僕に女子生徒は笑いかけた。
いや、『微笑みかけた』という表現の方が正しいのかもしれない。
その表情はどこか優雅で、余裕があって……。
「……私は恋葉。『恋葉 翼』。君の一年先輩になるのかな。」
そう言いながら彼女はベンチから立ち上がり、僕に手を差し出した。
「家まで送る。それと、今日の事は忘れちゃった方がいい。そう思う。」
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------昼休みになった。
僕は極力周りの人、クラスメイトだろうが非クラスメイトだろうが目を合わせない様にしながら、弁当を持ちまっすぐ隣のクラスの稀鷺の元に向かった。
他の人と目を合わせないようにしたのは『どこかに三日前の黒服の手下がいるんじゃないか』というありそうもない予想が頭に過ったからだ。
ちょっと過剰過ぎるかもしれない。
だけど、考えずにはいられない。
「よぉ! ネボスケさん!」
『いつも通り』稀鷺は笑いかけてきてくれた。
僕も思わず笑みがこぼれる。
いつも通りって、こんなに安心出来るものなんだ。
……などと、悟りを開いた先人の様な思考をしてしまった。
僕が稀鷺のところに来たのには理由があった。
授業中いろいろな考えを巡らしていた時、稀鷺が学校の「女の子」の事に詳しい事を思い出した。
なんでも「リア充目指す事3年半は伊達じゃない!」らしい。
稀鷺なら彼女、レンヨウさんについて何か知ってるかもしれない。
だから彼に女子生徒の事を聞こうと思ったのだ。
「どうしたんだ? 弁当、食わんのか?」
笑いながら語りかけられる。
自分が呆然と立ち尽くしていた事に気がつく。
僕は苦笑を浮かべて稀鷺の前に座り、弁当を広げた。
「あのさ、キサギ。」
稀鷺がこちらをみる。
ちょうど彼は弁当の最初の一口を頬張ったところだった。
「『レンヨウ ツバサ』って人の事、知ってる?」
「……!? ブッッ!!」
……一瞬我慢しようとしたのは見えたけどさ。
稀鷺は、口の中の物をぶはっと吐き出した。
普通に汚い。
しかも、一部僕に掛かった。
「うわ!汚ッ!!」
反射的に回避行動を取ったが、避けきれない。
うわぁ……。弁当のフタあける前で良かった……。
危うく今日の弁当を諦めざるをえない状況になるところであった……。
僕は稀鷺に、僕の出来うる限り最大に嫌そうな顔をして向けた。
「わ、悪い。けどよぉ……。急にどうしたんだよ?」
謝罪の言葉はあったが、彼の目は謝罪の気持ちより疑問の感情を表していた。
別にいいけどさ。
弁当自体に掛かった訳じゃないし。
弁当自体にかかっていたら、怒ってたかもしれないけど。
今は『恋葉』さんの事を知りたかった。
弁当を吹き出した事を指摘したり、話しを逸らすのは良くないだろう。
昼休みの時間は限られているのだ。無駄には出来ない。
「弁当がダメになった訳じゃない。それよりその、なんとなくその人を見かけたから、どんな人かなって気になっただけだよ。」
気を取り直してもう一度聞いてみた。
『見かけたから』ってのはちょっと苦しかったかもなぁ……。
でも、特に理由とか浮かばなかったし咄嗟にそう言ってしまった。
強ち間違いじゃないとは思うのだが。
稀鷺は不思議そうに僕を眺めたが、ほそぼそと話し始めた。
「『レンヨウ』ってのはさ。その、なんだ。俺に言わせれば『優等生なテンプレ』って感じの人だ。」
「……優等生のテンプレ?」
それを語っている本人の顔は、あまりにも真剣だった。
多分真面目な一個人の意見なのだろう。
こういう話題の時、稀鷺は普段授業を受ける時よりも真面目になる。
「あぁ、俺が考えるに一番良い表現だと思うね。成績優秀。運動神経よし。学年の学級委員会長をやってるのもあの人だし、なんてか、『出来ない事が無い人』って感じ。オマケに美人だしな!」
昨日の彼女の顔を思い返す。
……、あの人って、そんなに凄い人だったの?
ずいぶんな、ベタ褒めだな。
稀鷺はある程度話しを大きくする事があるけど。
たまにじゃなくて、そういうのは結構多いけど!
……しかし稀鷺は真剣に話している。
この友人は強ち間違った事を言っていないハズだ。
この友人は話しの内容を飛躍させる事はあれど、本質自体を変える事は無いのだ。
「んで! ちょっと問題だ。なぁんで俺はお前にこんな事を話しているんでしょう!? こんな話題になったのは何でだ!?」
急に稀鷺が詰め寄ってきた。
ワザとらしく咳払いし、大きめの声ではっきりとそう発音する。
急にテンションが高くなったが、これはいつもの事である。
急に分からないタイミングでテンションが上がるんだ。この友人は。
僕はもう慣れている。
「”何で”って、僕が聞いたからじゃない?」
「せぇかい! 大正解だ、友よ! なんでそんな事を急に聞いて来たんだ? ただ『見た』からってはちょっと無理あるゼ?」
やっぱりか。
やっぱり不自然だったか。
なにか良い言い訳を探そうとしたが、すぐに手で制された。
「待った! やっぱ今から言わんでも良い! 食事中にまた吹き出す事になりかねない!」
詰め寄るため席の椅子から腰を浮かせていた彼は、そのまま前傾した体制で椅子に座った。
つまり僕に対して多少身を乗りだした状態だ。
僕は弁当のフタを開け、弁当箱を手にもって食べ始めた。
食事中、稀鷺の動向には気を配らねばなるまい。
見てからでは”回避行動”は間に合わないのだ。
「あのなぁ、お前もしツバサさんを狙っているんだったら止めとけ?」
「え、ええ!? そんなんじゃないよ?」
勘違いされても仕方が無いとは僕も思ったが、本当にそんなつもりはない。
否定した。
「ならいいけどさ? あの人は学校の大半の男子の人気者だしな……。下手に狙ってる様なそぶりは見せない事だ。噂になるぞ? ついでに言うならだが。彼女はど~ぅもクールというか冷めてるというか。良く言えば凄く冷静な人なんだな。だから、狙っても大変なだけだ。止めとけ。」
「だから、そんなんじゃないよ?」
もう一度否定。
焦ったりするのはワザとらしく見えてしまう。
実際彼の言っている事は外れているのだ。
冷静に返した。
それを聞いた友人は前傾を解き、弁当に集中し始めた。
「ハッハハ! それならいいけどよォ?」
信じてくれたみたいだ。安心した。
下手なタイミングで『弱み』として会話の駆け引きに使われると厄介だ。
僕も弁当に集中した。
昼休みの時間は、割と少ないのだ。
「ん? 俺、何か言い忘れた様な……?」
稀鷺が弁当箱から顔を離す。
「どうしたの? キサギ。」
稀鷺は難しい顔をしている。
だがすぐ首を振った。
どうでもいいと言った具合に肩をすくめ、弁当に集中する。
「いや、忘れた。もういいや。」
---何事も無く放課後になった。
今日も日常に変化は無かった。
変化があったのは心境だけかもしれない。
いつも通りの進行、展開。
授業、休み時間を繰り返す。休み時間には友人と喋り、授業中は重要な部分だけ聞いて後は寝る。
いつも通りの風景、景色。
学校が終わった後、まだ日は高く昇っている。
初夏だからか。太陽は放課後も明るくて、校舎の外壁を赤々と照らしている。
学校で恋葉さんを見かける事は無かったし、見かけたところでどうしただろう。
三日前の夜遭遇したって事を理由に話しかけるのか?
そんな度胸は無かったし、向こうもいい迷惑だろう。
『忘れた方が良い』ってのは、そういう意味もあったろうし。
お互い『あんなコト』は無かったんだ。
そうだ、アレは僕には関係の無い出来事だった。
いや、出来事じゃない。起こってすらいないのだ。
あれはきっと夢だったんだろう。
------本当に忘れてしまおう。
それで、明日からは授業をちゃんと聞いて、また普通に過ごすんだ。
今日はバイトだって無い。
僕は部活には入っていない。
稀鷺は陸上部だ。学校に残るだろう。
他に帰る友達もいない。
よく喋る仲の友人達はだいたい何かしらの部活に入っていたし、一緒の方向に家がある友人は稀鷺だけだ。
……。一人で帰ろう。さっさと帰ってしまおう。
そして今日はさっさと寝てしまおう。明日からは何も考えず、また普通に過ごすのだ。
何も起こりはしない。
起こりはしないはずなんだ。
============、それから。
------10分後、帰り道で例の公園の前を通った。
僕は学校が終わり次第、早足で帰路についた。
ただ例の公園の前についた時、つい気になって立ち止まったんだ。
公園には誰もいない。
まだ日が高い為、あの日受けた不気味な感じは無かった。
なんとなく公園に入る。
そしてベンチに腰掛けた。
一息ついて背伸びをして、それから思う。
ここは平和そのものだ。
こんな何も無い住宅街の一角にある小さな公園で、例えるならアニメかゲームのヒロインみたいな人がそれらしい戦いを繰り広げていた。
……ちょっと考えれない。
本気であの出来事は現実じゃなかったんじゃないか? とさえ思えた。
……思うだけじゃなくて、どうにもその状況があったことが、信じられなくなって来ている。
夢……?
------それでも、アレは間違いなく現実だった。
……現実だったんだ。
目を逸らしてもそれは変わらない。
探した訳でもないのに、その証拠を見つけてしまった。
ベンチの鉄枠に酷く傷ついて、というかへこんだ部分があった。
多分ここに銃の弾丸が命中したんだろう。
公園の中央のあたり。
地面が一部、不自然にえぐれている。
子供が砂場遊びの延長戦として掘ったにしてはずいぶん酷いえぐれ方だ。
また、不自然でもある。
恋葉さんが、何かしらの技を出した時、踏み込んだ事によってついたのだろう。
そんな気がする。だって、凄い迫力だったもの。
様々な『先日の出来事の存在を立証するモノ』が、僕の視界に飛び込んで来る。
この公園に入ったのも、きっとコレが見たかったからなんだろう。
ちょっとでも先日の事を信じられなくなったから。
関わりたくもないと思っているクセして”先日の出来事”を証明してくれる何かを……。
無意識に求めたのだろう……。
……僕の、『好奇心』は。
好奇心って、本当に厄介だな。
危ないかもしれないのに、避けようとするとその『危険』が気になって立ち止まってしまう。
それもこれも好奇心のせいだ。
そんな、詩人の様な事を考えているそのときだった。
---目の前に『黒いスーツの男』が現れた。
彼は僕に語りかけて来た。
「……君、ちょっと良いかな?」
------思考が凍り付いた。
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