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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
69/82

【???】0--【※※】

【コタイノブキ】

【※※※※※※※※※※※】-0-==----??--???





『なんだよ、コレは……?』


 ------気がつくと辺りは真っ暗で、何も見えない。

何も感じない。聞こえない……。

……僕はどうなった?

確かさっきまで、学校の廊下にいたはずなのだが------。



 ここではありとあらゆるものが死んでしまっているようだった。

それは生物に限らず、”存在すべきもの”まで死んでしまっている。


 時の流れを感じられない。

 空間が見えない。

 人の声が聞こえない。

 全て死んでいる。


 僕自身も”ここ”の影響を受けている様だ。

ここと同質の存在と成ってゆく。

自分の体を感じられない。

感覚が無いのだ。


 動かすべき腕が無い。足が無い。

そして動いているべきである、(シン)の鼓動を感じない。

辺りの空気を感じられない。

こんなに、ここまで”何も無い”のは初めてだ。

今の僕は空っぽの器と表現するに等しい。

今の僕になら様々な事柄をありのままに受け止められるだろう。



『……う、ぁ?』



 不意に、辺りが明るくなった。

しかし依然として身体の感覚はない。

それに自由も利かない。


 僕は、どうなってしまったんだ……?

自分の状態を確認する術が無い。

故に分からない。分からないままでも刻は過ぎ行く。

事柄も過ぎゆく。



『あ……あぁ、ぁ?』



 ---、刹那。

景色が見える。

いいや、見えているのではない。

僕の中にその景色が流し込まれている。

それを勝手に認識するから”見えている”様に思えるのだ。


 感覚がない、体なんて無いはず。

僕には脳なんて無いはずなのに”認識”出来ている。

とても奇妙な体験だ。そして不気味でもある……。

流し込まれた景色は質量を持ち、空っぽである僕を満たして行く。


 認識されたそれらの景色は、次の瞬間には消えている。

受け止めた後、一瞬で彼方に流れて消え去って行く。

流し込まれて、浮かんで、僕がそれを認識して、そして消える。

何度となくそれが繰り返されて行く。


 ……しかし、消えてもそれは僕という器に残っている。

それらは僕の記憶に”刻まれて”行く。

流れ去った後も僕という存在の中に蓄積されてゆく。


 草原。岩山。河原。海。町。家。

それらの風景が頭に浮かんでは消えて、消えた後も僕の頭に残り続けて、だから頭がどんどんいっぱいになって行ってゆく……。


『あ、あぁぁ……!ぐ、ぅぅ……!?』

 不意に苦しさを覚えた。

もう入りきらないのに、それでも無理矢理入れようとするからだ。

僕は抗う術を持たない。

故に苦しさだけを感じて、それに抵抗さえ出来ず、ただ受け入れるしか無かった。



 人が見える。

 声が聞こえる。

 風を感じる。


 人が消える。

 声が消える。

 風も止む。


 人を『思い出す』。

 声を『思い出す』。

 その中に、仄かな風の感触が残る。



 ---そう、”思い出して行く”のだ。

最初から”そう在った出来事”を辿って行く。

元から”そこにあった”経験が、次々に僕の中に蓄積されてゆく。


 ------しかし、思い出したそれらは明らかに”僕”の物じゃない!



 ------、思い出されたそれら全てが、僕を飲み込もうと迫って来る。



『あ、あぁぁ、うぁ!!!!』



 迫って来る迫って来る迫って来る……!!

風景が流れてきて、その風景の場所の風や空気を感じて、そこに居た人を感じて、声を聞いて……!

どの場面でも僕は、いない!


 当然だ。これは僕の(おこな)った事柄ではない!

だけど、空っぽになっている今の僕はそれ等を受け止め、そして正確に的確に把握して行く。

身体の自由は利かない。

”ダレカ”の視点で、”ソレ”を見ている。

強制的だ。僕はもう辞めたいのに!



 僕の記憶じゃない!

 僕がしたことじゃない!

 なのに、それらはまるで僕がした事の様に、鮮明に僕の記憶に刻まれて行く……!!



『グゥ、ぅぅ!!あ、がァァ……。』


 僕の心境や状態など、”彼”は全く考えてくれない。


 僕に構わず風景はどんどんと切り替わる。

 流れて行く。

 まるで風の様に、僕を掠めて流れ去って行く。

 まるで風の様に、また次の風景が僕に当たって来る。


 しかしそれらは風の様に『”過ぎ”去って』はくれない。

 流れて来たそれは、自身が持つ”内容”だけを僕に植え付けて去って行く。

 流れて来るそれを一度受け止めたら、どんどんと僕に蓄積して行く。


 元々多大に余っていたのであろう、僕の頭の中の隙間を、どんどんと埋めて行く。

あまりに急な速度で詰め込むから、痛い。


……痛い痛い痛い痛い痛い!!!

痛覚を感じる動体が無いというのに、それは痛みだと分かる!


『……あぁ、うぅ!!』


 まともな思考なんてもう働かない。

既に、僕に『余った』場所など無かった。

”受け止めたもの”を収容するだけのスペースは、空いていなかったんだ。

”器”は既に満たされようとしている。


 ……だけど、風景は依然押し寄せてくる。


 ……だから、風景は『ボク自身ヲウワガキ』し始める……。


『グ、あァァ!!うあぁぁぁぁ!!??』



 押し寄せるそれは、元々そこにあった邪魔な”僕”という存在を押しのけて、そこに収まろうとする。

押しのけられる。

器から零れそうになる……!


 ダメだ、やめろ……!

ダメダダメダダメ、だ……!!!


『や、ぁ……!』


 渾身の力を振り絞って、叫ぼうとする。

声は出ない。

声を出す為の器官が存在しない。

チカラも入らない。

チカラを出す為の体が存在しない。

僕は、僕という存在を証明する為の手段を持ってない。

ここに僕はいない……?



『……、……。』



 もともと、僕なんて、いなかったのだろうか。

 ……もともと、ミヤビギなんて、いなかった?


 じゃあ、ぼくは だれだ?



 ------わか、ラない。

判らなくなる。


全てが崩れて行く。

……クズレて、ゆく。


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