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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
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《平日昼間、友人宅にて。》40-#《稀鷺》

【個体の武器】

【稀鷺】-0-40-#----凪の苦悩--《平日昼間、友人宅にて。》



 んー、実に良い天気だ!

初夏の日差しを浴びながら、俺は駅前の田舎町な地帯を歩いていた。

まぁ、ここら辺では一番活気だって都会っぽいんじゃないかな。

見上げる程のビルとかはここでしか見れないし。


 駅前通りにはビルが多い。

建物と建物の間から日の光が漏れ、それは窓に反射し町の色を鮮やかにする。

多少日差しが強すぎて肌を焼くのが気に喰わんが、それ以外はパーフェクト!

俺は平日の昼下がりに堂々と町中を歩きながらコーラを飲み干した。

学生と言う職に縛られている身としては、こういう滅多に無い体験が真新しく感じられる。

平日に出歩いてるってだけでちょっとだけテンションがあがるのだ。

さてさて、目的地までもう少しだ。



 大学への進学を考えている俺としては、平日学校を無く休むことはしたくない。

中学校の頃、結構やらかしてるからな……。

出来るだけ受験に不利が付く様な行動は慎みたいところではある。

まぁ、そうも言っていられない事態だから、こうして休みをとっちゃった訳なんだけどな。


 さてさてそんなことを考えながら駅前から離れ、俺は独り住宅街へ向かう。

住宅街の方面に向かって暫くして、すぐに辺りから人気(ひとけ)が消える。

住宅しかないからな。

この辺りにわざわざ人が目的地として訪れる様なコレと言ったものは無いのだ。

平日昼間であることも原因だが、閑散としている。

あー、独りって寂しい!


 クッソ迷い易いこの構造は、何度来ても如何なモノかと思う。

毎回ここいらの道の分かり辛さに毒づいてしまう。

何処を歩いても同じに見えて迷ってしまう。

まぁ、目的地である『アイツ』の家までの道のりは流石に覚えてるけどな。



 さて、住宅街にひと際大きくそびえ立つマンションがある。

同じカタチのが三つならんでるんだな。

葉矛の借り家よりも規模は大きいが個人の部屋の大きさは小さい。

まぁ、独りきりで家を占拠出来てるってだけで結構羨ましいけどな。


 真ん中に聳えるマンションに入る。

階段を上りある部屋を目指す。

最初から行く場所は決まっていた。



「カズヤー!オラ、開けろー!」


 数分後、目的の部屋の前に付いた俺は扉を乱暴に叩いた。

気遣いとか、そんな面倒な過程はすっ飛ばす。

葉矛の住まう場所はやたらと品格漂っていて、そういう融通を利かせる行動が出来ない雰囲気だ。

しかし、ここなら配慮無しでも問題ない。

俺は容赦なく何度も扉を叩いた。


 ……しばらくは反応がなかった。

もう一度、今度は全力で呼び出しを行おうかと思っていたところで、ヤツは姿を現した。


「……城ヶ崎、くん。乱暴はよ、よくない……。」

「あぁ?俺がいつ乱暴したよ?」

 出て来た少年は滑舌悪く、また聞き取り辛い小さな声で俺に文句を言う。

んで、俺が少しどやした(・・・・)だけで、コイツはうじうじと下を向く。

まぁ、そう言うヤツだから仕方が無い。



 俺が尋ねたのは中学からの友人、”本条 和弥”の家だった。

同学年だ。同クラスだ。しかし見る頻度は非情に少ない。

コイツは若干不登校気味で、故に最近学校でも顔を合わせるのは稀になっていた。


 運動神経底辺、勉強中堅下。

その口から発せられる言動、態度などから悟ることが出来る性格は、まさに絵に描いた様な2次元ヲタクである。

ヲタクって呼ぶと怒るがな。

ちゃんと”オタク”と呼ばなければならないらしい。

コイツなりの拘りの様なのだ。


 ……まぁ、正直そんなことはどうでも良いんだ。

今回の目的とは関係ない。

別に俺はコイツの大好きな2次元を否定する気は無い。

どの次元に行ったって可愛い女の子は可愛いんだ。そう決まってるんだ。

ただ、”3次元女子は例外無く男をもてあそぶ悪魔”って言動は如何なものだろうかとは思うが……。

……おっと、まぁ良いと言いつつ深く考えてしまった。



 ---、俺は和弥の家に上がり込み、勝手に菓子と飲料を物色した。

ヤツはぶつぶつと文句を言うのだが、直に俺に言うことはしない。

そういうことが言えない性格なのだ。

こういうタイプのヤツは結構いると思う。

自分の意見を言うのが恐くて辞めるヤツ。

そう言うのって、大体見ていてイライラする。


 ……ただ、コイツの場合は相手を気遣って言うのを躊躇って、というのが大きい。

自分がどう見られるから、というのが少ないヤツなんだ。

それは、俺が良く知ってる。

だからどうしても嫌いにはなれない。

互いに嫌いになれないから、今も友人なのだ。


「そんで。予め言っておいたもんは手に入ったのか?」

 俺の問いにヤツは力無く首を振った。

無理だったのか!?

思わず菓子から手を離してヤツに向き直ると、

「なんとか、や、やってみせたけどさ……。」

……身を縮めながらヤツは言った。


 いやいや、分かり辛いからその態度。

成功したならもっとしゃきっとしようぜ、シャキッと。

安心して俺は再び菓子とジュースを啄んだ。



 ……ところで、この俺が葉矛や凪ちゃんの非常事態であるこの状況で、真っ先にコイツの家に尋ねたのには訳がある。

分かるだろうか? いや、分かる分けないよな。

簡単に言おう。誰にでも取り柄の1つはあるのだ。


 和弥のパソコンを操る技術力は”魔術師(ウィザード)”と言われるレベルである。

俺には良くわからんが、ネットとかで”魔術師”と呼ばれるレベルの使い手は相当凄いらしい。

それを鼻に掛けて日頃から自分を”天才”だと言い続けている程だ。

それしか取り柄が無いヤツ、とも言えるかもしれないが、1つの取り柄もコイツのレベルまで極めれば十分凄い。

その点で俺は和弥を尊敬している。


 故に、先日俺の手に入れた資料の信憑性を確認してもらっていたのだ。

パソコンの扱いに関して、俺はコイツを尊敬し、また誰よりも信頼している。

それと、例の”資料”から得た情報を元に更に他の情報を探してもらった。

資料から得られた情報では、まだ足りないのだ。



 ……俺がヤツに確認させたことは、凪ちゃんや翼さん、葉矛とは無縁の内容だ。

俺が個人敵に気になっていて、そして解決しなきゃならん問題がある。

俺はその『問題』を解決するための近道として、先日の作戦に協力したのだ。

葉矛には黙ってるが、最初から凪ちゃんがウェザードであること、葉矛が変なヤツ等に絡まれていることは知っていた。


 最初からと言っても、気がついたのは葉矛の様子がおかしかったあの日だったが。

俺の冷やかしまじりの質問に答えれず、頭を抱えて真剣な趣で答えを探した様子を見て、異変に気がついた。

ちなみにこのことは翼さんにゃ隠さんかった。

いや、隠せなかった。

彼女は俺より上手だったのだ。

俺が知ってたコトを”知ってた”。

その上で俺から話しだすのを待ったのだ。

自分から聞いてこない辺り、こちらとしては嫌らしいと感じるばかりだ。



 ともかくある程度、俺は俺なりに動かなきゃならん。

葉矛達の様子も気がかりだが、優先順位というものがある。

……ま、俺のやってることは結果的に葉矛の身を救うことにもなる。その予定だ。

許容して貰うことはしないが、つべこべは言わないでもらいたい。

友達として、葉矛には黙っていてもらいたい。



 ふと、目の前の”電脳の魔法使い”が喋りだした。

「え、えっと。け、結論から言わせて貰ってキミの持って来たコレは100%本物……。凄いよ、コレ。世間に出回ってない様な情報ばかりだ……。ぼぼ、僕だってキミが尋ねてこなかったら調べもしなかった! こんなの、どっから持って来たのさ?」

「……あんまり気にするな。」

 俺は目を背けた。

いくらなんでも”一企業”の施設に殴り込んだ、なんて言えない。

アイツ等、俺達の良く知ってる企業の子会社だからな。


「ま、まぁともかく。コレ、とんでもないことが書いてあるけどさ、僕は驚きはしないんだぜ!しょ、正直ささ最初からあの会社、怪しいって睨んでたんだよね。魔法使いの感ってヤツ? 元から陰謀論とか結構言われてたしね。某、有名掲示板でもよく囁かれてた陰謀論、きき聞きたい?」

「いや、遠慮しとく。」

 滑舌が悪く聞き取り辛いが、まぁ言いたいことは分かる。

そしてコイツの自慢話やウンチクは聞き出すと長い。

しかもどんどん早口になるし話題が難しいから分からなくなる。


「んで、他に新しく出て来た情報とかは?」

 ヤツは俯いた。

いや、お前の場合それじゃ成功か失敗か分からんから。


「カズヤ?」

「い、いやぁ、無かった。」

 ヤツは肩をすくめた。


「さ、(サーバー)にはアクセスしてみたんだけどさ、駄目。探した場所が悪かったのかもしれんが、俺にはみつからんのです!」

「何威張ってんだよ……。」

「威張りますとも、そりゃ。情報の代わりにこんなん見つけちゃいましたアァン! ……見る?」


 ヤツは意味ありげに呟き、PCの前に俺を手招きした。

面倒だったが、俺は持っていたぶどうジュースを置きPCの画面を覗き込んでみる。

画面には1つのウィンドウが立上がっていた。

動画ファイルを再生している、様だ……?


「お、おい?コレって!?」

「フヒヒw かか、監視カメラのヤツ、コレ全部残ってたお……。」

「その喋り方辞めろって。」

 和弥が巫山戯た口調で言うが、事態は結構深刻だった。

映っていた映像だが、捉えられていたのは『俺達』だったのだ。

俺、翼さんがガードマンをヒーローキックでぶっ倒したところが再生された。

聖樹とナギちゃんが葉矛を挟んで口論しているのも見える。

クソ、アイツ羨ましい。

いやいや、そんなことよりだ。

あんな堂々と入っていったのだからこういうのがあるのは分かってたが……。


「……ぞっとするな。」

 実際に映像を見てると背筋が冷える。

俺、結構マズいことしちゃったのかも……。

若干の罪悪感と、後に戻れないっていう脅迫感が押し寄せて来る。


「ま、僕みたいなて、天才にかかれば一瞬でぜんぶあぼーん(・・・・)、だけどね。」

「……消したってことか?この映像を?」

 和弥は今度こそ得意な顔をした。

ナルホドな。

物的証拠を消滅させてくれたのか。

コイツが”消した”ってんなら、向こうさんはもうこの映像を持っていないのだろう。

ネットにも指紋的な痕跡が残るらしいのだが、コイツは何かする時に後を残す様なことはしない。

えっちぃ2次元の女の子が映ったサイトを観覧すれば、確実に履歴を消す。そういう男だ。

……ちょっと救われたかもしれんな。


「そんでこの映像は世界で唯一、このPCにしか入っていないわけで、僕はそれを……。」

 和弥はウィンドウを閉じた。

すぐに多数のファイルが画面に表示される。

友人はその中の1つ、ある動画ファイルにカーソルをあわせる。


「削除っと。」

 ヤツがマウスを操作し、その動画ファイルは跡形も無く消えた。

これで証拠隠滅完了ってなるのか?

とりあえず監視カメラの映像は消えたのだろう。

コイツがそういうなら、絶対そうなのだ。


「ミッションコンプリートォォ!! ハハ、この僕に不可能なんて……!」

「うるせぇ。」

 叫ぶ和弥を一括し、俺は画面から離れる。

しかしまぁ、いい仕事してくれたもんだ。


「クソ、僕みたいな天才を友人に持っていて幸せなヤツだよ、キミは! ……一度行ってみたかったんですお……。」

 思わずため息をついた。

なんて自意識過剰なヤツなんだ。

まぁ、天才ってのは間違いではないのだが……。

くどい様だが、自称しているだけあって実力はあるヤツだ。


「そんでさ。つまりこんな映像があるってことは、”あそこ”に乗り込んだってことだろ? ったく。どうせまた、とんでもないことやからすんだろ?」

「また、な。」

 こんな無茶2回目だ。

まぁ、コイツには”前回”にも付き合って貰ったわけで、今回もそうなりそうだ。


「だっ、だったら、またこ、コイツの世話になるんだろ? 用意してある僕に感謝するべきそうするべき。」

 そういって和弥は、小さな木箱を取り出した。

こいつは……。


「これって……。よくこんなのとっておいたな、お前。」

 箱の中に入ってる物だが、コイツは俺の切り札だ。

昔、切り札として使っていた物だ。

捨て場に困ってコイツに預けた”秘密兵器”だ。


 俺は和弥に対し、素直に感謝した。

ホント、よく持っててくれた。

そして、俺は”それ”に手を伸ばした。


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