表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
58/82

【死宣】033【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-33----死宣




 ……、……。

この間一体何秒間だっただろうか。

現実的な時間としては10秒、いや僕が下の階に落下してから5秒も経ってはいないのだろう。


 苦しくてたまらないこの時間は、そんなにも短いものだった。

しかし、それを味わう当の本人たる僕には永遠のことにも思えた。

思考が”ぷっつん”してしまう直前になっても、僕は相変わらず『死ぬ』という自覚を持てていなかった。


……もうどうでもよくなっていた。

何もかも思い出せなくなっていたし、苦しいのは消えないし。



”------どうでもいい”




 心の中で僕は何度も呟いた。

意識が遠くなって行くのが恐くて、それを叫び続けなければ死ぬ前に精神が死んでしまいそうで……。


 ……ふと、辺りの様子が変わった。

目の前が完全に暗くなる最後の最後、僕の真っ赤な視界にはそこに存在しえない光景が映しだされる。

映像はやけに鮮明。そして短い様で長い様で、はっきりしている様でぼんやりしている。

つかみ所の無い虚ろなものだった。

今思えば、それはこの数週間の”記憶”だ。

走馬灯って言うのかな。


 どうでもいい。そう思っていた僕だが、その映像に全神経を集中させた。

見逃すまいと躍起になった。

……なんだ。”どうでもいい”なんて嘘じゃないか。



 ……最初に翼さんの姿が移る。


 思えば彼女に会ったからこんなことになっているんだ。

僕は公園で戦った彼女の姿を思い出した。

最初、黒服の男達を薙ぎ倒した時は圧巻だったな……。

 彼女は僕を守ってくれるって言った。

現にそれを精一杯実行してくれた。

約束は果たされなかったが、ちゃんとやってくれた。

……最後だからかな。ヤケにおおらかになってるじゃないか、僕。

彼女に対して怒りや疑念は浮かばなかった。


 ……そういえば聖樹は最初、初対面の僕を刀で

斬りつけて来たっけ。

それからまた尋ねて来て、凪と戦いたいとか言い出して。

日常的に僕の部屋の飲み物を飲みあさっていたっけ。

後からは味方になってくれて、なんだかんだ言って僕を守ってくれた。

家で同居ってのは本当に如何なモノかと思うけれど、まぁ楽しく過ごせていたと思う。


 ……稀鷺か。

いつだって僕の相談役だった。

この事件に限ったことじゃなくて、いつだって良い友人だったんだ。

事件には巻き込まないって僕が決めたのに、結局聖樹に追いかけられた時にまきこんじゃって。

そういえば、最後までキミが何者か分からなかった。

ちょっと気になるな。

キミって何であんなに強かったんだ?

キミのそれは、ただ喧嘩が強いってレベルじゃなかった様に思える。



 それで、凪。

最後の最後まで一生懸命守ってくれたのはキミだ。


 ……ゴメン。

僕が無力で、迷惑ばかりかけて。

しかも僕はネガネガしい性格してて、キミはいつでも励ましてくれて。

なのに、僕はなにも出来なかった。

戦いに参加だって出来なかったし、守ってくれたのにこうやって……。



 ------…死んじゃうんだ。


 ……そうか。……僕は死ぬのか。


やっと、頭で認識出来た。

僕はもう助からないんだ。


やっと、理解出来た。



 ……そうなると自分がいなくなった後のことを考えだす。


 聖樹も凪も動ける状態じゃない。

翼さんと稀鷺は追いかけられてるし、助けなんて無いだろう。

凪達は捕まって、僕は死ぬのか。

稀鷺は、翼さんは逃げ切れるだろうか。

逃げ切ったとしても翼さんは大切な妹を失うことになる。

死ぬことが無かったとして、その先どうなるかなんて分かったもんじゃない。



 ……なんだよ、この最低な終わり方は。

僕が死ぬのはまだ良い。

なんで聖樹が、凪が傷ついて捕まるんだ?

これが戦った結果?

戦った……。


「……。」


 小さな怒りが込み上げて、すぐに沈下した。

もう記憶の映像さえ浮かんでこない。

でも、やっと僕は僕が死ぬことを認識した。

そして振り返ることで改めて、本当に何度も味わったことだけれども。

自分が如何に”何もしていなかったか”が分かった。



 凪は守ってくれた。

 稀鷺は守ってくれた。

 聖樹は守ってくれた。

 翼は守ってくれた。



 ……僕は、誰1人守っていないじゃないか。

皆が戦った場面はパッと浮かぶ。

それに対して、僕は……。


 僕自身が断言出来る。

僕がしたことは”逃げること”だけだった。

常に逃げて、戦いからは背を向けて、後ろでは皆が戦っている。



 ……もう恐いと思う余裕さえなかったけど、悔しかった。

なんで凪が、聖樹が傷ついて……。

なんで、なんで。 なんで……。


……遠くなる意識をなんとか掴み続ける。

これを手放したらもう二度と目を開けられない。



 判っている。

これは苦しい時間が長引くだけの試みだ。

だけど、それでも僕は藻掻いた。抗った……。


 僕は、後悔したかった。

ここまでの道筋、ほんの数週間の出来事を振り返る時間が欲しかった。

だからこそ必至に延命を試みたんだ。

苦しい中でも、僕は記憶をたどり続ける。

そして後悔し、ココロの中でひたすら謝る。



 ……判ってる。

所詮、意味など無い行動だ。

こうやって苦しんだって何も変わらない。


 判って、いるんだ……。

頭で判っているだけじゃない。

もう、まぶたをあけつづけることも、できなくなってきているから……。




 ……、……。



 辺りは真っ暗になった。

アレだけ体が痛かったのに、もう何も感じ取れなくなっている。

感覚がない。

動けない。

”動こう”なんて発想自体が浮かばない。


そうやって僕はどんどん闇に堕ちて行く。

落下する感覚はない。

ただ、ゆっくりと、そこの無い空間を、堕ちて……。




 ……、……ッ?



 虚無感に苛まれていた僕を、何かが刺激する。

……体がそれに反応した。

刺激を受けて再び息を吹き返す------。





 ------僅かに残っていた聴覚が物音を捉えた。

これは、ガラスの割れた様な音だ。

続いて金属製の何かが床を転げた音。







『……ッ!』



 ……咳が出た。

口から血が出る。

体に痛覚が戻る。

僕の体がそこに”在る”のが分かる……!



 聴覚が察知した”何か”の存在に体が反応した。

その”何か”を確かめるべくか。

身体の機能の一部が戻る。


 依然体中の感覚、その殆ど麻痺しているが、一部の痛覚が戻った。

喉が痛い。背骨が痛い。



 少しだけ聴覚が戻った。

先程の”金属の様な何かの音”は凄く鮮明に聞こえたのだが、戻った聴覚が察知する音は酷く不鮮明だ。 

酷く大きい耳鳴りが続く。

聞こえて来る音は全てノイズが走り、何の音かマトモに識別することは出来ない。

かろうじて”何かが聞こえているだけ”だ。

これでは聴覚としての役割を果たすことは困難だろう。



 視覚が戻った。

目を開くと同時に頭に辺りの景色が叩き込まれる。

思わず面食らってしまった。

風景は赤と黒だけで構築されている。

暗く、不気味で狂気に満ちた世界だ。

……モノの輪郭線をはっきり捉えることは出来ない。

全てのモノが歪んで映る。

視覚としての役割を果たしきれていない。



 ……やはり助かりそうには無い。

戻った五感の一部は早くも失われ始めている。

どんなに控えめに考えても戻った部分全て、とてもじゃないが”感覚”としての役割は果たせていない状態だ。


他の感覚、つまり味覚は血の味以外を受け付けない。

嗅覚は気道が血で塞がっていて機能しようがない。

感覚は痛覚で占拠されている。


 ……悟った。

やっぱり数秒後にはまた真っ暗な世界に逆戻りだ。

本能的にそれを知った。


……五感のことを気にする前に、そもそも基本的な心肺機能すら役目を果たせていないのだ。



 ……そんな人間と定義するにはあまりに身体機能が足りていない様な状態で、僕は本能的に動き出した。

動けば寿命が縮むのは明らかだった。

それでも僕は首を音のした方角に向けた。

僅かな延命を試みる程度の理性はとっくに吹き飛んでいたんだろう。

音のした場所は近い。

微かに戻った視力が、辺りの風景を見せてくれた。



 やはり全てのモノが赤く、黒く、そして輪郭さえはっきりと捉えきれていないこの世界。

狂気に満ちたカタチの無い世界。

こうとしか捉え様が無い。

”コレ”だけが頼りだ。他に頼れる感覚はない。

マトモに働いていない視覚で、僕は音を出した存在を探す。


 ……僕の視力は普通の景色をその様に捉える程に衰えていた。

赤と黒の比率が変わって行く。

時間が経つにつれ”黒”の比率が多くなって行くのだ。

そして意識もどろりと溶け出す……。


 ……そんな状況で、ふと気がつく。

赤と黒だけが認識出来る、毒々しい色のへばりついたこの世界。

全てが歪んで見える世界に------…。




___1つだけ、赤く無いものがあった。




 それは”銀色”と”金色”を交互に行き来する様に色を変えて輝いていた。

赤と黒だけの世界で1つだけ、それは異質性を放っていた。

まぶしい。

この世界にその色はまぶし過ぎる……。



 それは”鍵”の様な形をした何かだ。

正確なカタチを捉えられないはずなのに、”それ”のカタチだけは認識出来た。

アレは背後に見える割れたガラスケースからこぼれ落ちたものだろうか。



 ……何を考えたんだろうか。

僕は床に転がっているその小さな鍵に------。



「……ッ!!! う、グぶゥ!! ……グ、ぶヌ、ガ、ゴ ハ、ぶハァ……ぁ、ァア!!」



 ……腕を動かしただけで肺から血がドっと噴き出した。

咳き込む。

肺に入り込んだ血が咳と一緒に飛び散った。

やっぱり息さえまともに付けなくて、凄く苦しい。



 それでも体にチカラを込める。

とっくに一度限界を迎えたはずの体は、やけに僕の思った通りに動いた。

ちゃんと体は動いたのだ。

動くだけの力が残っていたのだ。

きしみを上げ、そして痛い。

しかしもう意識ははっきりとしていた。




 僕は、最後の力を全て使って------。


 ------、縋る様に、”それ”に手を伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ