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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
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【意味なんて無い…?】029【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-29----意味なんて無い…?



「------さて、と。」

 投げ捨てた拳銃を拾い上げ、城ヶ崎は呟いた。

彼は僕に視線を合わせる。

この場に残った敵勢力は僕だけになってしまった。


 対し、僕はと言えば立ちすくむばかりだ。

城ヶ崎と目が合ったからと言って、改まった恐怖など無い。

だって凪と菊地が居ないんじゃ同じだから。

恐ろしかろうが、勇もうが、僕は彼に敵わない。

だから怖がったって意味が無いのだ。


 それと、2人が束になっても敵わない相手が居ることにショックを受けていたのだ。

だって、あの2人の強さは僕が良く知っているんだ。

それなのに2人揃っても勝てないなんて。



『あたし達にも力量があるし限界がある。』


 ------ふと、聖樹の言っていたその言葉を思い出した。

これが、限界だったというのか。

これが”戦力不足”ってことなのか。


 確かに僕は無力だ。

……この場でそれを再確認する。

意外と冷静ではあった。

さっき、聖樹の言っていた言葉の意味がこんなに早く分かることになるなんて。



『あたしもレンヨウも居なくなって、そこで初めて自分の力の程を知ったとしたら------。』


「……手、遅れ?」

 僕は無意識に、ボソリと呟いた。

 確かに手の打ち様は無い様に思える。

僕は今、僕の力の程を思い知らされている。

理屈じゃなく。目の前に明確に倒せない相手が居て、初めて”本当の意味”で自分の程度を理解出来る。


 ……どう見積もっても勝てない。

僕の力では、希望さえ持つ事は出来ない。



「意外と冷静なんだな?」

 城ヶ崎が語りかけて来る。

無意識に頷いてしまう。

彼の口調は敵意に満ちた物では無い。

むしろ友好的にも思えるものだ。


「まぁ、諦めが肝心って言うもんな。」

 彼がこちらに歩み寄って来る。

僕は逃げも隠れもしない。

したところで、抵抗にすらならない。


「ま、安心しなって。さっきも言った通り、オレは殺すとかそんなつもり一切……。」


 言いかけた城ヶ崎は素早く振り向いた。

言葉を止めざるを得ない程の理由があったのだ。


 彼のこめかみを掠める様に、炎弾が飛んで来た。

砲弾の様に大きく、また鋭い速度でそれは駆ける。

炎弾は狙った対象に命中こそしなかったが、その先にある屋上床に着弾し爆発を起こし、コンクリート製の床の一角を消し飛ばした。

随分と大きな穴が出来上がったものだ。

……見れば下に吹き抜けになっているじゃないか。

当たったら勝負はついていたのだろうが……。



「外した、か……!」


 ……城ヶ崎を挟んでずっと向こう。

先程打撃を喰らった聖樹は立上がっていた。

反撃を始めようと、刀を持ち直し姿勢を正し。


 だが、顔に冷や汗をかき、顔色も優れない。

額から一筋、顔を伝う様に血が流れ出ている。

体の一部、主に胴の辺りを片手で支えながら苦しそうに姿勢を維持している。


 万全の状態じゃない。

控えめに見ても、今すぐ病院に運ばれるべき状態である。

しかし、彼女のその目は死んでいない。

城ヶ崎を捕え、逸らさず、しっかりと見据えている。

怪我をしながらも、彼女はこの状況に絶望はしていない。


「れ、んよう!まだ、準備は整わないのか……!?」


 ------すぐ後ろで凪も起き上がっている。

片方の膝をつき、右手を額の当たりに持って来て握りこぶしを作り、険しい表情でその姿勢を保っている。

髪留めがほどけているため、いつものポニーテールではなくなっている。

ロングのきめの細かく長い髪が、風に(なび)いている。

彼女は何にも気を取られる事無く、その姿勢のままぴくりとも動かない。


「……キクジの方は、確実に仕留めたと思ったんだがな。」

 銃を腰にさし、黒い狩人は聖樹達に歩み寄る。

対する聖樹は刀を握る力を強めるに留まった。

先には動き辛い。

その猶予がないのだ。

迂闊な行動は出来ない。


「早く、しろよ……。長くは持たないからな……!」

 じっと敵を見遣り、腰を落とし構える。

敵の行動に対して対応し易くする為だ。

……もっとも、聖樹は既にダメージでふらふらである。

”反応”出来ても”対応”出来るかはかなり怪しい。


「早くして欲しいなら黙ってろよ!集中しないと……。」

 聖樹に何かを急かされた凪は不機嫌気味にそう答えた。


 その凪はと言えば……。

……何をしている?


 相変わらず(かざ)した掌を握りしめ、じっと身動きを取らない。

左腕はだらりとたれ、敵を見ることもせず、ただただ表情を苦痛に歪めるだけだ。

凄く隙だらけ……。


「ハァッ!!」

 聖樹から仕掛けた!

猶予が無くとも、城ヶ崎が隙を見せたならすかさず割り込む。

その方が勝機があると判断したのだろう。

刀を振り上げ……。


「遅過ぎる。」

 ダメだ。

城ヶ崎の言う通り遅過ぎる。

万全の状態でも太刀打ち出来ていなかったのに、攻撃を喰らって更に反応が遅くなっている今の状態では尚更……。


 刀は振り下ろされる前に無効化される。

城ヶ崎は素早く拳銃を腰から引き抜き、その銃身で刃を叩いた。

いつもの聖樹ならなんてこと無く対処するだろう。

重心を崩すことも無く身を引き立て直せただろう。


 それが出来ない程に、あの一撃で体力を消耗していた。

彼女は叩かれた拍子によろける。

今の彼女にはあの刀は重過ぎる。

やっとのことで振り回しているそれを思いがけない軌道にずらされて、それを支えきることは出来なかったのだ。


 聖樹の体に回し蹴りが入れられる。

怪我を負った体には重過ぎる一撃だ。

吹っ飛ぶ、とまではいかない。

しかし地面に強く叩き付けられる。

確実にダメージは蓄積しているハズだ。


「……まだ、ま、だだ!」

 それでも聖樹は立上がる。

額の皮膚がさけ血が流れている。

疲労とダメージの蓄積で普通に息をすることにも支障が出て来ている。


……でも、立つんだ。



「諦めの悪いヤツだな。」

 今度は隙を窺うこともしない。

城ヶ崎はただ当たり前に聖樹に近づいて、ただ一撃を入れた。

銃を鈍器の様に扱い、その鉄製の銃身で聖樹の頬を殴りつけた。


 聖樹は膝から地面に崩れ落ちかける。

しかし、膝を地に着けただけでなんとか持ちこたえる。

どんなに差があっても、彼女は城ヶ崎を見据えていた。

真っ直ぐに、瞳に敵対心を込めて見据えているのだ。


「……あのな。やっぱ、ダメだったろ?」

 聖樹を見下ろしながら、彼は言った。

聖樹の城ヶ崎の距離は近い。

その気になれば両者攻撃の届く間合いだ。


 聖樹は既に刀を振るう力も残っていない様で、やっとのことで刀を手放さない様に出来ている、と言った様子である。

対して城ヶ崎は余裕綽々としている。

考えてみれば、彼は一撃たりとも攻撃は喰らっていないのだ。

幸い今の彼は聖樹に攻撃をすることを考えていない様だ。

そうでなければ聖樹の身はまた宙を舞っていたことだろう。


「2人だろうがなんだろうが、埋まらない差はあるのさ。諦めて降参しないか?」

「誰が、するもんか……!」

 提案はあっさりと蹴られる。

聖樹は飽くまで強気だ。

なんでだ。

この劣勢でも、どうしてそうやっていられるんだ?


 彼女には力があるから?

違う。どの道その力は敵に通用していない。

全く通用していないなら力なんて無いのと同じ。

僕と同じ状況であるはずなんだ。

なのに、なんで戦っていられるんだ……?

今の彼女の立場は僕と同等だ!それで彼女だけが戦っているのは何でだ!?



「……死にたいのか?」


 銃口を聖樹の眉間に突きつける。

銃弾は入っていないはずだ。

だけど……。


「や、やめて……。」

 気がついたら情けない声でそうぼやいている。

いつもそうだ。

いつだって、ただ呟くことしかして無いじゃないか、僕は……!


「死ぬのは嫌だが、諦めるのはもっと、なぁ……!」

 ------、瞬間。

聖樹の瞳が紅く染まった。

一瞬で城ヶ崎の目前に手の平を差し出し、火炎を発生させる……!



 ------、そう、一瞬だった。

城ヶ崎はただ黙って、その様子を見下していた。

聖樹の攻撃は届かない。

いや、発生さえしなかった。

途中までは”成功した雰囲気”だったのに、いきなり彼女は”力尽きた”。


 力を滾らせ、炎の能力を使おうとした彼女は、それを成し遂げる前に力尽きた。

まるで糸の切れた人形の様だ。

力強く戦闘態勢を取っていたのが嘘の様に、彼女は沈んだ。

あんな状態で戦闘を続けていられた訳が無いんだ。

無理をし過ぎて、ここで積み重ねたそれがのしかかって来ただけだ。


「あ、あぁ……。」

 聖樹はうつろな目で城ヶ崎を見つめる。

彼女は全ての力を使い果たした。

文字通りの虫の息だ。

でも彼女は、城ヶ崎の”降参”の提案を否定した。

小さく首を振って、彼の差し出した手には(かま)けなかったのだ。

それに対して城ヶ崎は返答した。


 ……銃身でもう一撃、彼女の頬をぶん殴ったのだ。

信じられない。

もう、戦う力だって残っていない女の子になんであそこまでするんだ……!



 ……ついに、聖樹は地面に倒れ込んだ。

なんとか膝を付く様に押さえ込んでいたのに、それさえ出来なくなって。

彼女は地面にうつ伏せた。


「限界、か……。後の、ことは……。」

 声は掠れて最後の方は聞き取れない。

すぐにでも駆け寄って状態を確かめたい。

本当に死んでしまっていないだろうか?

だって、あれだけ強力な攻撃を何度も何度も受けたのだ。

生きてるにしたってどんな状態になってるか分かったもんじゃない……。



「バカだ。」

 城ヶ崎がかがみ込んで、聖樹の顔を覗き込む。

その上で、彼女を罵倒した。


「本当にバカだ。力の程も分からないで。お前はただ痛い思いをしただけだ。お前のその痛みはな、完全に無駄だ。無意味だ!意味も持たない愚かな行動だった!」



「……違う。」

 ボソリと、呟いていた。



「なに?」

 彼はこちらを振り向いた。

聞こえていた様だ。

確かに彼の力は圧倒的だ。

僕なんて、彼がその気になればあっという間に殺されてしまうだろう。

いつもならそう考えただけでひやりとして、言葉も出てこなくなる。

なのに、僕は言葉を続けていた。


「違う!ミサキはバカなんかじゃない!!意味の無いことなんかしていない!!」

 渾身の力を使った叫び声だった。

彼に対しての恐怖心とか、そんな物は無かった。

今の僕は怒っている。

聖樹の行動をバカにした彼を許せない。


「意味は無かったさ。最初から降参して無傷で連れてかれるのと、こうやって傷ついて結局連れて行かれることと。違いなんてないだろ。損してるだけだ。労力の無駄だ。」

「そんなことは無い!!」


 拳を握りしめ、僕は叫んだ。

悔しい。悔しかった。


 彼女は倒れる寸前まで城ヶ崎を凛とした瞳で見据えていた。

力なんて通用しないのに。

それでも強気に挑戦していたのだ。

それを無下にあしらわれたのが腹立たしかった。



 ------身構える。

通用する、しないじゃない。

このまま引いたら文字通り聖樹の痛みも無駄になってしまう。

ここで引く事は出来ない。

僕は僕に出来ることをするんだ。

……やってみるだけやってみろッ!!

案外なんとかなるかもしれない!



「正気、なのか?」

 それだけ言って城ヶ崎も身構える。

正気だとも。

これで負けたとしても……。

いや、負けられないんだ!



「------、ま、そんな必要はないんだけどね。」


 ……唐突な展開になった。

突如外野から声が投げ込まれ、辺りが青い光に包まれた。


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