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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
53/82

【城ヶ崎の実力】028【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-28----城ヶ崎の実力




 ……、……。


 あ、れ?

確かに引き金は引かれたハズだ。

でも、何も変わった様子は無い。


 目を瞑っていても分かる。

銃声はいていないし、聖樹が倒れた様子も無い。

凪の声は聞こえていないし、ついでに僕も声を発していない。


「あー、と。」

 ……それは城ヶ崎の声だ。

先程とは打って変わって随分細い声だ。

何が起こっているのか確かめるべく、僕は目を開ける。


「……弾丸(たま)切れ?」

 まず目に映ったのは、手に持った銃をしみじみと眺める城ヶ崎の姿だ。

銃口を覗き込むような茶目っ気のある仕草を見せ、それからこちらをチラリと見遣る。


 何故だか非情に気まずい雰囲気が流れる……。

なんというか、格好がつかないというか……。

いや、そんなこと言ってる場合じゃ無いのは知っている。

だけど、単純にダサいだろう。今のは。


 明確な隙を晒しているのに、凪が攻撃を躊躇っている。

無理も無い、この空気じゃ迷うよね……。


 ……聖樹が走った。

銃の脅威が無くなった今、接近は容易だ。

刀を振りかざし得意間合いまで一気に飛び込む。

接近すれば銃を使う城ヶ崎よりも聖樹の方が強いはずだ。


「おっと、踏み込みが甘いな!」

 そんな予想はあっけなく裏切られることになる。

城ヶ崎は斬撃を拳銃の銃身で受けとめた。

聖樹の型にハマらない一線の斬撃は非情にあっけなく、そして完璧に止められた。

あんなに簡単に防ぎきってしまうなんて!


 拳銃の狭い鉄板を正確に適切な角度で斬撃に差し込む。

刃は銃身を滑ること無くぴたりとその動きを止める。

受け止めたときの角度、差し込むタイミング、力の籠め方、衝撃の殺し方。

いずれかが1つでもちょっとでも違っていたなら、刃は銃身を滑り銃身を離れ、城ヶ崎本人へ達していただろう。

銃の使い方を完璧に間違えているが、それ故に尚更凄い。


 ただし攻撃を完璧に止められた本人、聖樹自身はそれに大した同様を見せない。

最初から想定していたことだ。そう言わんばかりに刀を振り抜き体勢を立て直す。

相手の実力を分かっているからこそだろう。


「ここだな……!」


 聖樹が身を引いた直後、今度は凪が仕掛ける。

彼女はいつの間にやら城ヶ崎の後方に回り込んでいた。

既に手に氷の剣を生成している。


 凪の剣が振り上げられる。

氷で出来た半透明の刃が、宙に軌跡を描く。

斬撃は正確な道筋で城ヶ崎に伸びる。

……が、しかし。


「連続攻撃としては、実にお粗末だ。」

 その言葉と同時に城ヶ崎は銃を投げつけた。

それも、振り向きもせずに。

またもや使い方を間違えている……。


「採点出来たものじゃないな。」


 まるで背後に目でもついている様だ。

凪に向かって投げられた銃は寸分違わず凪の眉間に直撃した。

拳銃は言って見れば鉄の塊でもある。

飛び込んだ際の慣性もある。相当痛いだろう。


「う、ぐッ……!?」

 空中でバランスを崩す凪。

対し城ヶ崎は振り返り、拳を握りしめる。

凪はなんとか転ばず着地出来るが、そこには既に構え、狙いをつけた城ヶ崎が待ち構える。

彼は地面を一回大きく踏みしめ、凪の懐に飛び込む。

拳を引き、あからさまに一撃加えるつもりだ!


 ……と、僕の視界に聖樹の姿が映る。

今まで死角にいた。

攻撃を防がれた彼女は一端距離を離し、体勢を立て直したのだ。

彼女は声を上げることもせず、凪に攻撃を仕掛けようとする城ヶ崎に迫る。

闇討ちとはああいうことをいうのか。


 そして聖樹は早い。

今からでは、凪に対しての攻撃は止められないだろう。

しかし攻撃後の隙を突くことは出来るハズだ。


 攻めることは、守りを捨てることであるのだから。

理屈で考えるなら凪を殴っている最中、少なくとも右腕は完全に使えない状態にある。

当然防御は薄くなる。

その上、凪の方に集中していれば聖樹に気を配ることも困難なはずだ。

少なくとも視野は制限される。

凪の方を向いていないと攻撃だって当たらないのだから。

今の城ヶ崎は、凪とは対極の位置に居る聖樹を視覚的に捉える事は出来ないはずだ。


 ------、一発。

強烈な打撃が、凪の細身な体の土手っ腹を貫き、その華奢な体を2つに折る。

凪は寸前に腕を使って守りを固めたが、それでも衝撃を受けきることは出来ない。

ダメージを無効化する事は出来ない。


 城ヶ崎の拳は振り抜かれ、凪の体が宙を舞う。

冷静に考えてみれば分かるが、恐ろしい怪力だ。

しつこい様だが彼は僕と年齢差は大差ない。

それが、人を1人吹っ飛ばす威力を秘めた拳を繰り出せるのだ。


 吹っ飛ばされた凪はコンクリート製の床に身を滑らせることになる。


その拍子に青い髪留めがほどけてしまった。

着ていたワイシャツの一部が破け淫らな姿に……。

まて、流石に自重しろ、僕。


 ……長い髪を地面に垂らし、彼女はただ地に横たわり動かなくなった。

一撃でこんな事に……!

凪なのに、なのに一撃で行動不能になってしまった!



 銃弾無しの、いわば機能する武器の無い生身でも、稀鷺より圧倒的に強い。

聖樹が”勝てない”と言い切ったのも納得出来る。

確かにこの人は強過ぎる。規格外だ。

黒服数人を同時に相手取る方が凪、聖樹共に楽だと言うだろう。


 ……しかし、今彼は完全に無防備だ。

この瞬間に限って、凪の身を吹っ飛ばした今だけは無防備であるはずなのだ。

聖樹は勝負に出た。

この一瞬の隙で全てを決めるべく。

次のチャンスが来るか分からない。

この一撃が、勝負の鍵だ。


 ------勇み声も出さず、ただ飛び上がって、振り上げて、振り下ろす。


 一瞬、振り上がった刃は頂点にて赤い日の光を受け刀身も真っ赤に染まった。

それからすぐ、目にも留まらない速度で振り下ろされる。

目の端に赤黒い軌跡を残し、刃は真っ直ぐに城ヶ崎に伸びる------。




 ……なのに。

条件は整っていたはずだ。

聖樹の攻撃は完璧なタイミングで行われた。

城ヶ崎は動けなかったハズだ。

聖樹に気がつくことも出来ないハズなのだから。


 ……なのに、城ヶ崎は斬撃を軽々とかわした。

振り向いたり、そう言った動作すらない。

ただ身を翻し斬撃を避けたんだ。

なんでさ!

本当に後ろに目でもついてるのか!?


「声も音も無かった。確かに分かり辛くはあったがな……。」

 再び城ヶ崎は一歩踏み込んだ。

凪にしたのと同じ様に、拳を後ろに引き。


「……クッ!?」

 聖樹は動けないでいる。

刀を振り切って、刀身は地面に叩き付けられた。

全重心を乗せた一撃をかわされ、完全な無防備を晒している。

硬直を付こうとして、逆に硬直を晒してしまった。

状況は優勢だったはずなのに、次の瞬間には一気に劣勢に追い込まれていた。


「そう殺気立ってちゃ、気づかない方が阿呆だ!!」

 聖樹の横っ腹に凪に打ち込んだのと同等の一撃が入った。

彼女は防御すら出来ず、それに直撃する。

アレはどうしようもない……。

避けれる訳が無かったんだ。



「あ、ああ……。」

 ……これは、僕の声だ。

僕に出来たのは手を前に差し出し、ただ見ていることだけ。

情けない声を出しただけ。

何かを変えることも出来ず……。


 聖樹は文字通り”吹っ飛んだ”。

凪のすぐ隣までは宙を舞い、そして地面に体を叩き付ける。


「ぐあぁぁ……。あぁ、ぐぅ……。」

 悲鳴ともうめき声とも取れる絶叫を最後に、彼女はぐったりと横たわった。

どうしようもない……。あんなの、まともに喰らったら平然としていられる方がおかしいんだ。



 辺りに静けさが戻る。

終わった。

戦いにもなっていないよ、これじゃあ……。

だから、戦いが終わった訳じゃない。

終わったのは、僕たちの”抵抗”だ。



 ------信じられない。

凪と菊地が戦って、全く歯が立たないまま終わってしまった。

菊地に至っては、能力さえ使う前に終わった。

この場に立っているのは多少呼吸を乱した城ヶ崎と、何も戦ってない故に無傷である僕。

その2人だけだ。



……、……。

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