《それに付き合う完全主義者》001-#1/2《翼》
※【♯付きナンバリングに付いて】
話数に#の記号が使われているものは、【葉矛】視点の話の補足です。
同時進行に、違う人の視点から見て書かれたもので、読むことで物語への理解を深めれると思われます。
#付きの話は、《》の記号によって括弧付けされます。
……と、言いますか読まないと意味不明かもしれません。
【個体の武器】
【恋葉翼】-00-1-1/2----好奇心ーそれと出会い。 《それに付き合う完璧主義者》
『恋葉 翼』。
まず彼女と言う人物の概要を話そう。
彼女は優等生として周囲に認知されている。
成績優秀、運動神経良し。
更に言えば、本人は特に気にもしていなかったが容姿も非常に宜しいと評判だ。
部活動はテニス部に所属しており、部員の中でも優秀であった。
人付き合いが苦手な訳でもない。
普通に友人は多かったし、周りからの評判も良かった。
学校の男子生徒にも放ってはおかれない。
容姿に自信のある者、基本的に女子に好かれるタイプである者達の間で、彼女は一種の目標の様に扱われていた。
故に、彼等は彼女の気を惹こうと様々な方法を試した。
例えばある者は彼女の掃除分担を自ら引き受けたり。
ある時は彼女が教師から頼まれた用事を代わりに行った者がいた。
また、彼女の学校での役職を手伝う者もいた。
所謂”モテる”男子に囲まれる彼女を見て、羨まない女子などほんの一握りである。
……ただし、自身のそういった環境に対して、彼女自身はうんざりしていたが。
確かに手伝われて悪い気はしない。
作業は早く終わる。人手が多いのは単純に楽で良い。
……しかし、下心丸見えの男子生徒には魅力も何も抱く事が出来ないのだ。
例え容姿が良かったとしても、彼女の目には滑稽にしか映らない。
彼女は別に容姿など気にしない。確かに容姿が良いにこしたことはないとは思うが……。
しかし、”恋葉 翼”が一番気にするのは”心構え”だ。少なくとも彼女は、下心溢れる行動で気を惹こうとされても靡いたりは出来ないのだ。
故に、異性との関わりが少なく無いのにも関わらず、彼女は今まで恋愛などとは無縁な存在であった。
自分に対して下心を抱かない存在にであった事が無いからだ。
---また、彼女は生徒会会長兼風紀の取り締まりも行っている。
敢えて重ねて言おう。彼女は”完璧”だ。
非の打ち所がない。完璧である。まさにその言葉に相応しい人物だ。
……だが、”完璧だ”と言うのはあくまで他人の意見。
捉え方によっては偏見とも言えるかもしれない。
彼女自身が言い出した事じゃない。
”完璧”。
そう呼ばれている彼女自身が一番分かっていた。
『そんなもの、存在する訳が無い。少なくとも、自分は違う。』
彼女は自身を褒めるものが現れる度に、顔や口にこそ出さなかったが心底ウンザリしていた。
褒め言葉など貰ってもなんの解決にもならない------。
彼女には悩みがあった。いや、恋葉 翼は現在進行形で悩んでいる。
彼女は一年と半年前、唐突に『ウェザード』としての力を得た。
彼女の意思、望む望まないに関わらずそれは突然訪れた出来事だった。
ただし、その出来事自体は彼女にとってはどうでも良い事の一つだった。
なぜならそんな力に頼らずとも十分過ぎる生活を送っていられたからだ。
手に入れた力だが、彼女がそれを行使する事は全く無かった。
使用する必要は無いと考えていたし、かといって見せびらかして自慢する気にもなれない。
むしろ彼女は自分がウェザードである事を隠し続けていた。
飽くまで『普通の人間として』見られたかったのだ、彼女は。
ただでさえ自分は『偏見』をもたれている。
これ以上、そういった類いのものが増えるのはウンザリだった。
チカラを隠すこと自体は、流石に他者に”完璧”と言われる程の彼女だ。他愛も無いことだった。
---他人に悟られない様に。
---他人に自分から打ち明ける事もせず。
---他人に力を見せる事もしない。
……力を持っていることを打ち明ける相手は、妹だけで十分だった。
……さて、問題のタネは学校以外で発生した。
彼女を『ウェザードである』と認定した上で、付け狙って来る輩が現れたのだ。
その事に対して最近は常に対処方法を模索していた。
これは放っておける問題じゃない。
いつか、彼等はきっと私の日常を破壊する。
その時にはきっと家族も、妹も巻き込まれるだろう。
それはあってはならない。
彼女は様々な形で模索し続けているが、何故自分がウェザードだと知られてしまったのか全く分からなかった。
そして彼等が何者なのかなど、知る余地も無かった。
自分がウェザードであることは家族にも知られていないのだ。
……ただ1人の妹以外には。
何故? 何度考えても思い当たる切っ掛けは浮かばない。
どうして”彼等”に知られてしまったのだろうか。
……考えても分からない。その事が余計に彼女を苛立たせた。
---ところで。
彼女を完璧と評価したのは世間だったが、彼女は世間の評価に答えねばならない。
何故か。何故なら世間体というものは日常を送る上で一番気にしなければならない事だからだ。
彼女自身は自分がどう見られようと、どうでも良かった。
……違うな。
どう見られても良いというのは正しい表現でない。
正しく言うなら、単純に他人からどんな目で見られようが気にならないだけの余裕があっただけだ。
正当な評価さえ受ける事が出来ればそれでいい。彼女は普通に生活出来れば満足なのだ。
ただし妹だけは、アレにだけは迷惑をかけたくない。
それは彼女が自身の日常を送る上での唯一の例外。この例外があったから彼女は常に完璧でなければならないのだ。
常に妹にとって尊敬出来る、最良の姉でありたかったのだ。彼女は。
その為に彼女は自身を完璧主義者として確立させた。周囲からの評価も信頼も得て、誰からも尊敬される存在であり続けて……。
そうして常に妹の目標であり続けようとしていたのだ。
そのことに、彼女自身はまだ無自覚であったが……。
現在世界に存在するウェザードだが、基本的には異端者として扱われている。
あるときは尊敬の対象になるそれだが、殆どの場合は『畏怖』や『軽蔑』の対象になる。
仮にウェザードであると世間にバレたなら、その時は自身に関係のある者も……。
だから、自身がウェザードである事は周りに知られたくない。知られてはならなかった。
なによりも、妹のために。
そして------。
『---その日』
恋葉 翼は不機嫌だった。
何故か?
翼には、”私”には分かっていたからだ。
今日、また彼等は襲撃して来る。
朝目が覚めた時から、その事は分かっていた。
いくら彼等が気まぐれを装って攻撃を行ったとしても、既に一年間程付き合っている敵なのだ。
私はとっくに彼等の行動を分析していた。攻撃の周期、規則性を見いだしていた。
それを元に結論を出せば、彼等は今日も懲りずに自分に突っかかって来るハズ。
考えるだけでも頭が痛い。
そろそろ諦めてくれないものか。
彼等の目的がなんであれ、私は絶対に好き勝手させない。
---寝起きのぼうっとした頭で時刻を確認する。
今日は少しだけ遅く起きてしまった様だ。少しだけ急いで支度しなければ遅刻してしまう。
私は自身が付け狙われていたとしても学校を休んだりは出来ない。
『いつも』と違う行動を取るのは駄目だ。
あくまで、私は私として自然な行動を。
違和感を抱かせない態度で臨まねばならない。
だから、今日も『いつも通りに』登校した。
……やっぱり。
家から出て数分、早速だ。
……視線を感じる。
私は敢えて気にせず、それとなくいつも通りに歩みを進める。何も異常など無いのだ。
さて、私が感じている視線は決して色づいた男子生徒の視線ではない。
もっと違う感じのものだ。
私を見ている彼等は気配を隠そうとしている。
……これは悪意のある視線。殺気の籠った嫌な視線だ。
---彼等について分かっている事がいくつかある。
まず彼等は、人の多いところで仕掛けたりはしない。
それは何故か。あくまで予想に過ぎないが、彼等はあまり公然とこちらに攻撃出来る立場には無いのだ。
多くの人に見られるのは向こうにしてみても悪い事であり、向こうもそれは避けたいのだ。
たぶん、この予想は当たっている。
この国は他人に暴力を振るう事を良しとしない国であるから、それが影響しているのかも。
---次に。これも確証はないが。
先の私の予想では、彼等は公然と私に危害を加えれる立場には無い。
……はずなのだが、どうも彼等の行動は黙認されているような気がする。
彼等が狙うのは、『ウェザード能力を持つ者』。
そう、狙われているのは私だけじゃない。
私が知る限り彼等に狙われている者は何人か居る。
……いや、居た。
翼はそれの存在を知っていた。
……話しは変わるが、少し付き合って欲しい。
半年程前の話しだろうか。
その時翼は、”私”はただ見ていただけだった。見ている事しか出来なかった。
”彼”がウェザード能力を持っていたことは知っていた。
知っていたのだ。知っていたのに。
彼は日常生活で自身の能力を度々行使していた。
それは見せびらかす為じゃない。たまたま得た力を有効に利用していたに過ぎなかった。
それが無ければ私が彼に気を止める事も無かったろうけど。
彼は懸命に皆に隠していたが、私はたまたま彼の力を見てしまったのだ。
彼は自分の持つチカラについて悩んでいた。その時、私もまたウェザード能力を手にしていたし、彼の気持ちは十二分に理解出来た。
かといって、自身がウェザードだと打ち明ける相手は妹だけで十分だ。私は彼を観察したが、彼に接触はしなかった。
……思い返せば丁度その頃だった。
私が彼等に狙われ始めたのは。
『きっと、彼も付け狙われているに違いない。』
私は心の中でそんな事を考えていた。
実際に彼が攻撃を受ける様な場面を見た事は無かったが、私が狙われ始めてから彼もどこか疲れた様子を見せ始めていたのだ。
気持ち的に余裕が無いというか、漠然としているのだが”何かが怖い”様子で……。
今にして思えば、その時彼にもっと気を配っていれば……。
彼と協力関係か、何かを結んでいれば……。
彼に『私もウェザードだ』と、一言声をかけていれば、今頃彼は……。
---彼は、ある日居なくなった。
どうしてか。それは分からない。……分からないフリをした。
世間一般では彼が居なくなった理由は問われなかった。
何度か学校に、彼の両親が訪れていたのを見た。
当然だ。自分の息子が行方不明になったのにも関わらず、警察にも相手にされずメディアも取り上げない。
あからさまに”オカシイ”。”彼等”の行動は黙認されて居るに違いない。
休み時間、職員室前を通ると両親の痛みの籠った叫び声が聞こえる。
……私には関係がない。関係はなかったんだ。
声を聞く度に私はそれとなく早足になり、その場を離れた。
離れながら私はいつも自問自答をするのだ。
『私が悪かった? いいや、違う。私に出来る事なんてなかったんだから、結果は同じになっていた。』
……私が彼に感けなかったから彼が消えたのか? いい加減にしろ。私如きが関与したからといって彼の運命が変わったのか? 私に彼の運命を変える様なチカラがあったのか? 思い上がりも甚だしい。
……そうやって理屈的に考えても、私の胸は張り裂けそうになった。
モチロン、恋葉 翼ともあろう者が訳も無く落ち込んでは居られない。
その様子も見せてはならない。私は必至になって自分の心を外に出さない様に努めた。
……ただ、誰かに心境を感づかれて相談事を問われようものなら、その時の私なら話してしまったかもしれない。
冷静になって考えてみれば、間違いなく彼は『彼等』に”何か”されたのだ。
何をされたか、詳しくは分からない。
知る事は出来ない。
知る事は許されない。
そもそも彼の末路について確証はない。
しかし路上で殺されでもしたのなら、いくらなんでも世間にこの話しは出回っただろう。
それが予測を付ける為の材料になる。彼がどうなったにしろ、既に”世間とは関係の無い場所、状況”になっている。
……予想とは一種の妄想である。
だがこの話題は妄想にしてはやけにリアルだ。考える度に憂鬱になる程に現実味を帯びている。
考えてはいけないと思っても『材料』があるから嫌でも考えてしまう。
そう、この話しは世間に全くと言って良い程に知られていなかった。
学校内でさえ一瞬の『話題のネタ』になったに過ぎない。
……他に彼の力を知っているものが居たのだろうか。
一瞬だけ『彼はウェザードだから狙われた』という話題も上がったのだが、すぐに話題にも上がらなくなった。
彼の力を知った者が誰なのか。そもそも居たのか。気にはなったが調べるのはあまりにリスキー。
私は黙認した。
彼には悪いが。
当初は心が痛くて、泣きたいと何度も思ったものだが。
もう乗り越えたから何も感じられない。
時折自分の残酷さと非情さに呆れてしまうが、その時の翼は妹と自身の事で精一杯だった。
……今だって精一杯だ。
私の予想では、『彼は連れ去られたのではないだろうか』というものが一番有力だった。
死んだにしろ生きてるにしろ、彼は世間に関与されない様な環境に入った上で”どうにか”なったのだ。
だから世間的に情報も出回らない。そう考えると辻褄が合う気がする。
……今となってはそれは”確信”だ。翼の予想は、半年の間に確信に変わった。
この半年、翼は何もしなかった訳じゃない。
---彼の現在の状態など今はいい。
仮に彼等の正体を突き止めたところで、翼自身に出来る事などありはしないのだ。
『チカラ』が違いすぎる。
今のまま、今のまま生活を送るのが一番ローリスク。一番危険性が少ない。
出来るだけ危険でない選択をとり続けるのが、今出来る最善の策。
だが、いつかはなんとかしなければ。
反撃の機会はいつか来る。
それまで、じっくり待つんだ。
根拠は無いけど、希望を持って時間が経つのを待つ。
今は行動を起こす程切羽詰まっていない。大丈夫。今はまだ……。
私はそう判断していた。
また、翼は心の中で密かに誓っていた。
”私”自身は、絶対彼の轍は踏まない。絶対に。
---やっぱり。
今日も学校で『いつも通り』の生活を送った。
---朝。いつも通り登校し、自分の席につき。
---授業中。絶対に上の空にならず、周りの者の目を気にせず。ただ堂々と授業を受け、また教師の問いには確実に答え。
---昼休み。友人数名と一緒に持参した弁当を広げ、次のテストがなんだと、軽く世間話を行い。
---放課後。部活動より優先して生徒会室に向かう。教師、及び他の生徒会委員と今年行う学校行事について話し合った。
その間、『彼等』は襲ってこない。また気配もなく視線も感じない。
学校では攻撃出来ない。仕掛けれないんだ。
翼はほくそ笑んでいた。
手も足も出せず、もどかしく思っている相手を妄想するのが楽しかった。
だが、帰りには細心の注意を払わねばなるまい。
放課後、私の周りに誰もいなくなってしまえば彼等が私を見逃す理由も無くなるのだ。
気がつけば一万文字を超えていたので、2つにわけました。
……文字数多いな、私の書くもの。




