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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
48/82

《頑張ろう》25-#4/4《翼》

4分割か5分割か何度も迷ったんですが、結局4分割に落ち着きました。

話のタイトルがころころ変わって申し訳ないです。

【個体の武器】

【恋葉 翼】-0-25#-4/4----不気味な程順調で--《頑張ろう》




 稀鷺君は私の指定したファイルを鞄に積めて行く。

一見ガサツ(・・・)な彼だが、仕事の手際は宜しい。

私の指定した一山は一瞬のうちに無くなってしまった。

結構な量があったのだが。

ちなみに彼は私とは別に行動している。

今は自分の欲しい情報を探し当てているところだろう。


 一方で私は私で、不要で持ち出す価値の無いモノを元々あった場所に戻している。

鞄で持ち出せる量には限りがあるから。

この場で燃やしてやろうと思ったのだが、蒼希君はそれに猛反発しマッチを渡してくれない。

”室内での火遊びはダメだと子供の時から教わっている”といって融通が利かない。

意外と律儀な男だ。


 だが仮にそれが火元となりこの建物が全焼したとしよう。

だからなんだというのだ。

別に構わないだろう。

重要な事に、私は困らないのだから。


 むしろ建物が崩壊したならそれはそれで美味しい出来事であると考えれる。

……私はそう思うのだが。

ともかく火元が無いのではファイルの山に火を放つ事は出来ない。

少しだけ菊地が羨ましく思った。

彼女の様な能力は戦闘以外のこういう場面でも役立つのだ。


 私は今、無性に”壊してしまいたい”衝動と戦っていた。

頭の中は真っ白なんだか真っ赤なんだか分からない。

とにかくまとまりの無い状態だ。

思考が安定していない。

いつもより全然冷静さを保てていない。

今も目の前の本棚をぶっ倒し、ドミノの様に連鎖して倒し、それをしたらどんなに気分が良いかを想像している。

そして、実際にそれをしたい衝動に駆られている。

こんな事で大丈夫だろうか、自分は……。



 ……暫く作業を続けて居た時。

ある、要らない物を棚に戻そうとした時だ。

それが元あった空間のすぐ隣にあるファイルが目に入った。

目をこらしてそれを凝視する。

それは注目するに値する存在感を放っていたから。


 どうして先程は目につかなかったのだろうか。

それほどまでに私も必至であったという事か。

それにしても、コレ(・・)に気がつかないとは私の目は実に節穴だ。


 ……それまで私が取り扱っていたファイルは、全て揃ってプラスチック製の灰色をした安っぽいものであった。

どれもこれも同じ様な背表紙。

書いてあるタイトルと、それに挟まれている印刷用紙の内容が違うに過ぎない。


 しかしそれ(・・)は違う。

私が目前にしているそれは、他のファイルと比べて差別化がされている。

それだけはきちんと黒い皮で背表紙を覆われているのだ。

他の全てが同一感を持って並べられているが為に、ある種の異質性を放っている。



固体の武器(Solid_Arms)



 背表紙にはただそう書かれている。



 私は周囲のファイルを見渡した。

この周囲の棚は、”実験”系のファイルしか置いていない。

それら全ては共通して『~の実験』の様に実験のタイトルが書いてあった。


 なのに、なんなんだこれは。


『固体の武器』?


 どう考えても、名称が実験の内容である様には思えない。

周りのファイルと比較してタイトルの付け方が違う……。

まずそこから異質だ。


 手に持ったファイルは戻した。

私はこの黒いファイルに手を伸ばしかけて、躊躇う。

それはただ黒いだけで、先程まで私が読みあさっていた物と同等の物のはずだ。


 ------なのに、不気味だ。


 ……しかし躊躇っていて情報が手に入る訳では無い。

アレは特別扱いされている物だ。私はそう確信する。

背表紙が違う事がその根拠。

……他には根拠は無い。

しかし特別さを確信するに足る個体差である。


 仮に私の予想と違ったとしても、手に取って内容を見たことで起こるデメリットは考え辛い。

……さっきの精神的なモノは無かった事にして貰いたい。

あれは私に限って起こる問題だ。内容は問題じゃない。


 ともかく、コレにはなにか重要な情報が載っているのではないだろうか?

とりあえず内容を確認してみよう。

意を決して私はそれに手を伸ばす。






「------そこまでにして貰いたいものですね。」



 私はそのままの体勢でぴたりと動きを止めた。

タイミングが良いのか悪いのか。


 すぐ後ろから声がした。

聞き覚えのない声だ。

声の調子から考えて女だ。

実に都合が悪い。


 私から相手に忍び寄る事はこれまでに沢山機会があった。

まさか向こうが隠密に私に近づくとは。

そんな日が来るなんて、考えてもなかったな。

敵は私を発見したら、まず攻撃するか味方を呼ぶかのどちらかだと思っていた。

いきなり”ホールドアップ”はあり得なかったのだ。

……いつも不意など突かれなかったこともその原因かもしれない。


「ゆっくり、手を上に上げてこちらに向いて下さい。」

 小さくため息をつき、指示に従う。

他に方法はない。

彼女の方が圧倒的に戦況有利だ。

下手な反撃は出来ない。


 情報を集めながらもそれなりに周囲を警戒していたつもりだ。

しかし、彼女の気配など察知も出来なかった。

随分『こういう』事柄に手慣れている人物の様だ。


「……レンヨウ ツバサ。」


 やはり女だ。

彼女は赤髪、ダークスーツが特徴的である。

スーツを着ているので若干大人びて見えるが、よく見てみれば私と大差ない年齢に思える。


 ……彼女は鋭い目付きで私を睨みつけている。

通路に巡回していたウェザードなどとは違う。

年齢は近いが、彼女には実力がある。

直感的な物では無く、仕草によってそれを確信する。


 今、彼女は私に銃を突きつけている。

その銃口はぶれる事無く私に向けられている。

更に言えば、それを持つ彼女の表情に戸惑いなど無かった。


 それが彼女の経験値を物語る。

人に銃を突きつけておきながら眉1つ動かさない。

躊躇いが無いから、隙もない。


 そして彼女は不機嫌だ。

眉間にしわを寄せ、私をただ睨みつける。

こちらを友好的に思っている様な表情ではないのは確か。


「誰?そんな物騒なものを向けないでくれる?」


 私は一言、そう言葉を発する。

彼女は私を知っている様だが、私は彼女を知らない。

当然か。

私は向こうにとってこちらは重要参考人なのだから。

こちらを知っていることは当然のことだ。


「黙りなさい。一切の行動は許さない。意味を理解出来ないなら……。」


 彼女は手に持った拳銃を揺さぶる。

最悪、殺す事も躊躇わない様だ。

今までの相手とは勝手が違う。

今までの相手は捕獲のみ考えていて殺傷は避けていた。

この少女は私を殺す気でいる。

ま、考えようによっては仮に殺されたとしても実験動物にされるよりはマシとも取れる。

なるべく気楽に考えよう。


 隙はいつか訪れるかもしれない。

それまでじっと耐えるのが重要だ。

隙さえあれば、そこに賭けれる。


 しかし構える銃がデザートイーグル(D.E)とは如何なモノか。

マグナム弾は威力が高過ぎる。

掠めただけでも相当痛いだろう。

反撃するにも慎重さが求められる。


 デザートイーグルは相当な威力を持つマグナム弾を撃ちだす。

マグナムは薄い鉄板程度では防げない程の威力だ。

本棚を遮蔽物にしたところで、薄い金属であるそれではあの銃の弾丸は防げない。

せめて自動車の装甲程に硬いものならば防げるかもしれないが……。

当然、周囲を見渡してもそれほどの強度を誇る物体は存在しない。


「動くな。」


 彼女はそう言い放つ。

彼女のその一言は牽制として重い意味を持つ。

そんな物騒な物を持っている相手を目前にして動く気にはなれない。

逆を言えば、そぶりさえ見せなければ良い。

じっとしてさえいれば彼女は私を攻撃しない。


 私に出来るのはじっと彼女を観察する事だけだ。

隙が出来るその時を待つことが、今出来る最善の策だ。


 彼女はスーツの内ポケットから携帯電話を取り出した。

操作をしながらも、こちらから目を離さない。

隙が無い。


 これはマズい。

このまま誰かに連絡がついたら私は、私は終わりだ。

私の周りを見渡す行動さえ、彼女は注視する。

何も出来ないのはマズい。

一瞬でも隙が出来れば------。


「させるかァァッ!!」

 突然の叫び声。

……そういえば蒼希君の存在をすっかり忘れていた。

まぁ、結果的に忘れていて良かったか。

目の前の彼女に悟られる事も無かったし。

彼は、私にすら忘れられていたが為に出来た、最高の不意打ちをかましてくれた。


「な!まだいたの……!」

 慌てて赤髪の少女はD.Eを蒼希君に向ける。

……実のところ、彼は叫んだだけで実際に突っ込んだりはしなかった。

一瞬勇みこちらに構えを取ったが、銃口を向けられるや否や全力で本棚に隠れる様に逃亡した。

この彼の判断は正しい。

先程、弾丸は防げないとは言ったが、それでも遮蔽物になるのならば身を隠す意味はあるのだ。

弾丸が貫通するとはいえ、狙いがつけれないのなら当たりはしないのだから。



 少女は表情を歪めた。

自分のしでかした失敗に気がついたのだろう。


 彼女の失敗とは、私から目を離した事だ。

銃口が向いていないなら恐れる事は何も無い。

既に私は彼女の間合いに接近していた。


「しまった……!?」


 私は自分の得意間合いに入り込んだ。

このまま抵抗が無ければ私の勝ちだ。


 ただ、物事そうそう上手くはいない。

この際、彼女が咄嗟に行った判断は正しかった。

彼女は素早く銃を投げ捨てた。

接近され、銃を諦めたのだ。

接近戦になる場合にまで銃に固執する意味は無い。

これは良い判断だった。

ただ、彼女は遅かったのだ。


「ゴメン。」

 私が呟く。

 彼女は素早い動きでスーツ下からナイフを取り出した。

だが、所詮足掻き行動に過ぎない。

私は素早くナイフを持つ手を叩く。

ナイフは地面に転がり、上手い具合に棚の下の隙間に入り込んだ。

あのナイフはもう拾えない。

そして彼女に自衛手段は無い。


「ここは通してね。」

 私は彼女に優しく囁き、また笑顔を見せ、精一杯の力を込めて溝を殴った。

効果的な場所を攻撃したつもりだ。

先程までのウェザードはこの一撃で沈んでくれていたものだが。


 恐ろしい事に、彼女はこの攻撃に反応してみせた。

ナイフを叩かれたその手には何も握られていない。

それ故に出来た行動だろう。

拳が着弾する寸前で、掌で拳を受け止めたのだ。


 本当に恐ろしい。

私でも、これ程に不利な状況でここまで冷静に、正確に対応など出来る自身は無い。


「くっ……。」

 少女は歯を食いしばる。

彼女もギリギリ受け止めたのだろう。

体勢の崩れたところからここまで持ち直したのだ。

大したものではある。


だが、やはり私の有利は揺るがない。



 身を引きつつ回し蹴りを浴びせる。

重い拳を受け止めたばかりの彼女は、実に無防備である。

これがかわせる訳が無い。

かわせないと分かった上で攻撃を繰り出す。

これが決まって彼女は倒れる。

そして私はそのまま脱出出来る訳だ。


 ……しかし、やはりそうそう上手くはいかない。

彼女は私の攻撃に対処した。

攻撃は確かに当たった。避ける事は出来ない。それを知っていて私も蹴りを繰り出した。

彼女は腕を使って守りを堅めた。

その上で蹴りの当たる刹那、後ろに身を引き衝撃を和らげた。


 にわか固めである為、腕による防御は殆ど形だけであった。

ダメージを軽減する効果など殆ど無に等しいものだ。

だから後ろに跳んだ事による衝撃軽減が効果的だったか。

彼女に大したダメージも与えられず、私に有利な競り合いは終わってしまう。


「……ッ、流石に城ヶ崎の追跡をかわすだけの事はありますね……。侮っていたかもしれません。」

 彼女は体勢を立て直す。

銃は持っていない。

彼女が放り投げたそれは彼方に落ちている。


 遠距離からの攻撃はもう無い。

この距離感でもって攻撃を恐れる意味は無い。

そのことより、私は彼女の口から出た言葉に注目する。


 ……城ヶ崎。


 その名前を聞くのは2度目だ。

菊地の元上司らしい人物。

彼について分かるのはそれだけ。

一体どういった存在なのか、詳しい事はまったく掴めていない。

少し気がかりだ。



「こんなに大胆に侵入する事も含めて、実に行動が読み難い。……ここで”なんとか”しておかなければ危険な存在だ。」

 少女は懐から2つ目のナイフを取り出す。

元々は銃よりナイフを使うのが得意な人間なのだろうか。


 ……参ったな。

こうなったら丸腰であるこちらが不利だ。

オマケに彼女は今まで相手にして来た中でも相当に強い。

彼女を相手取る際、少しでも不利がつくのは少々不安がある。

さて、どうしようか。

素直に逃げて逃がしてくれる様な相手でも無さそうだが。



「へっへへ……。」

 ……不適な笑い声がして、私は振り向いた。

この空間に居て、尚且つ場違いなヘンテコな笑い方をする……。

そんな条件に当てはまる人物は1人しかいない。

見ると、いつの間にやら私の後ろに蒼希君がいた。

彼は手に何やら白い球体を持っていて……。

それには導火線がついていて……?


……火がついている。


「逃げるのは結構簡単っスよ?」

 彼はにやりと笑みを浮かべる。

何をする気だ?

成り行きを見守っていると、彼は球を大きく振りかぶった。

野球の投球の様な構え。

蒼希君は赤髪の少女に対し、手に持った球体を投げつける。


 放射状を描き、球が空中を飛んで行く。

球は少女の手前に落ちる。

接地する瞬間球体が破裂し、辺りは白い煙に包まれる。


 爆弾じゃなくて煙幕か。

古い手だし、現実的でない戦法だ。

……そう思えた。


 ……しかし、なんと驚くべき事に逃げる隙は出来たのだ。

彼女は煙幕を爆弾かなにかと勘違いしたのか、手で身を守る様な動作を取ったのだ。

私から目を離した上で、視界が塞がれる。

結果、本当に私を見失ってしまったのだ。


「さて、行きますか!」

 蒼希君が私の手を握る。

躊躇い無く叩く。

蒼希君が傷ついた表情をする。


 入り口の大体の位置は分かっている。

私はそこに駆け出した。


「ま、待て!」

 後ろから声がした。

待つもんか。

煙幕で稼げる時間などたかが知れている。

もたもたしてたら逃げれなくなる。


 廊下に飛び出た私は、一目散にエレベータのある方角に向かう。

隠れている暇など無い。

向かう先に居た敵は無力化しながら進むしか無い。

何が来たって、立ち止まったら追いつかれる。

道のりは遠いが、構わない。

今は先に進むしかない。



「……決めた。」

 私はボソリと呟いた。

一度身体を動かしたのが良かったのだろうか。

思考はまだ赤い感じがするが、冷静さは戻りつつあった。

後で”アレ”を思い出して、また泣くかもしれない。

だが、今は冷静だ。


「なにをです?」

 私はこの人が問いかけてくれるのが嬉しく感じた。

自分の考えを誰かに聞いて貰いたかったのだろう。

私は敢えて直接的に伝える様に言うのではなく、ぼそりと独り言の様に呟いた。


「私はみんな守る。見て見ないフリは、もうしない。」


 私は強く決意した。

この場で。


 私は”彼”に個人的な思い入れがあった訳じゃない。

でも、”彼”を見捨てたことに間違いなく、それによって彼の人生は終わってしまった。

赤の他人と言えば聞こえが悪いが、そんな彼のことを思う度に私は押しつぶされそうになった。

彼が死んでこんなに哀しいなんて。

見ないコトにしたことが、後々こんなにも強く押しかかって来るなんて。


 もう御免だ。

自分の周囲から人が消えるなんてまっぴらだ。

凪も、蒼希君も。菊地でさえ。


 だから、雅木君。私はキミを守る。今度は諦めない。

 私の見える範囲で良い。

私は全部諦めない。

私は全部見捨てない。


 例えそれが”自分が嫌な思いをしたく無い”という自己満足の為だったとしても。

行動動機を批難されたとしても、私は自分のこの行動の正しさを信じる。


 ”理由”は何だって良い。

行動すれば結果が現れる。

結果は必ず意味を持つ。

それがどんな結末を迎えることになろうとも、信じた事を行動して後悔などしない。

後悔するとしたら、何もしなかったときだ。

私の行動したことで出た結果は、きっと”正しい”はずだ。


 だから、私は心の中で強く誓った。

『頑張ろう』と。

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