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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
46/82

《悲運》25-#2/4《翼》

【個体の武器】

【恋葉 翼】-0-25#-2/4----不気味な程順調で--《悲運》



 ……そんなときだ。

ふと、ある情報が私の手の中に舞い込んで来た。

たまたま複数のファイルをガサリと掴んだ時にこのファイルは混ざり込んだ。


 私は手に入れたそれを、一瞬躊躇った後開いた。

躊躇ったのは、あからさまに”マズい内容の情報である予感がしたからだ。

踏み入り過ぎる、と言う意味ではなく、見ていて気分の良くならないモノであると予想出来たからだ。




『実験成果-人体』


 -人体実験-



 ……それがファイルのタイトルだ。

題名からして嫌な予感しかしない。

しかしどう考えてもこれは重要な情報である様に感じるのも確かだ。

というか、こんなあからさまな題材のものが、内容的に重要でない訳が無い。


 そして、私は私の”思った”以上にその情報を知りたがった。

頭で考えている以上に、私はその情報を閲覧したがっていた。

いつだったか。

こう言ったことが行われているのでは無いのかと、私は実験の存在する可能性を、凪と雅偽君に話した時があった。

その際、雅木君は言った。


こんなの(人体実験など)、おとぎ話の中でしか存在しえない事のはずだ。』と。


 ……その通りだ。

口にこそ出さなかったが、私は強く賛同していた。

少なくとも私はそう言う認識も持っていた。

今日この日までは、『現実味は無いことだ。』という認識だった。



 ”あの時”の私は予想を言っていて、自分自身でそれの非現実さを理解していたのだ。

正しくは、”存在して欲しく無かった”だけかもしれない。

そんな予想など、私の妄想であってくれるならそれで良い。

本気でそう思っていた。


 ……最低だ。

私があの時述べた事。つまり人体実験の有無だが、それは実在する事の様だ。

こうして資料がある以上は彼等は既にそれを行っているということになる。



 ファイリングされている沢山の印刷用紙には以下の様に情報が書き込まれていた。


 ------、パッと紙を見遣って、最初に目を引くのが『人体実験』の文字だ。

この段階で悪い予感は当たってしまっているな。

コイツ等は、人の身体を使った”遊び”をしているのだ。

他人が他人の身体を弄って言い訳が無いだろうに!



 その次に、紙には『何をしたか』が書かれている。

私が今見ているこのページには、『衝撃干渉・結果』と書かれている。

”衝撃干渉”の意味は……、読み進めればイヤでも把握出来る……。



 最後に書かれるのは『結果』。

”成功”か”失敗”か。

更にそれの《補足》が書かれる。

つまり実験の経過などの詳しい内容が書き込まれている。


 ここでは『実験から何かを得られた』事を”成功”と呼ぶらしい。

仮に被験者になった当人がどうなろうと結果が得られれば良いらしい。

人の命より知識の開拓が優先されているのか?

人は実験動物とは訳が違う……。ハズだ……。

彼等はウェザード(私たち)のことを何だと思っているのか。

人として見てすらいないのではないのだろうか。

実に失礼なヤツ等だ。



 ……以上の説明を踏まえた上で見て欲しい。

だいたいこんな感じで書かれている。


私の見ているページは簡潔に表現するならこんな風である。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『人体実験-衝撃干渉・結果』

被験者ーB-13



『成功』


《備考》

肉体硬度強化系ウェザード、サンプル”B-13”を使用した実験。

実験はサンプルA-9で行った実験との比較である。

A-9は特殊なウェザードである様で、Aタイプにも関わらず福次効果は肉体表面硬度の強化であった。

A-9実験では本社採用手榴弾の直撃に2発耐えたが、2発目被弾直後に絶命。

比較して今回、同様の実験で結果を求めたところ同手榴弾3発分の衝撃を受けても存命を確認。

肉体硬度強化系の能力を持つ者の中でも、Bタイプウェザードは特にその恩恵、効果がはっきりと強く現れる事が分かった。

尚、手榴弾が人体に掛けた正確な衝撃量の数値化は出来なかった。詳しくは別紙A-9の実験データ参照の事。


本実験は既に3度目である。

違うBタイプウェザードを使用してもほぼ同様の結果が得られた事を考慮するに、A-9の耐久性が他の肉体強化系能力者よりも低かった事は個人差ではなく、Bタイプが特色として特に”肉体硬度強化”に特化していると考えて差し支えないだろう。


C、Dタイプについてはまだ硬度強化系能力者が見つかっていない事から検証不可能である。

後日発見された場合、同様の実験を行いタイプ事に福次効果に適性の様なものがあるのかを検証する必要があるだろう。


尚、被験体であるB-13は違う実験で使用出来る状態に無かった為、4発目の手榴弾にて絶命させた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 ……以上の様な事が書き連なれている。

これが紙に書かれている内容の全てではない。

長いため一部は短縮した。


 文面だけでは伝わらないと思うが、紙にはB-13と呼ばれたその人の顔写真、実験の様子を一々記録した経過の写真などが貼付けてある。

私はただそれを眺め、ページを捲った。

覚悟はしていたが、なかなかショッキングな内容だ。

……呆れて言葉も出ない。

最低の研究だ。

本当に、人の命を何だと思っているのだ。


 こんな最低の実験の結果など燃やしてしまうのが一番だ。

『処分してしまいたい。』コレを見たらそう思うのが普通の感性だろう。

意外にも私は正常な感性を持っていた様だ。



 私は今すぐにでもこのデータを消してしまいたい。

しかし感情的な私がそう訴える一方で、理性的な私は冷静だった。

コイツは利用出来るのだ。

非常に重要なデータであるのだから。


 おぞましい実験である事は否定出来ない。

それ故に書いてあることは”実際にそれをしないと確証を得られない事”ばかりである。


……このデータが消えたら犠牲になった人たちの意義も消えてしまう……?


 そもそも、データの為に人の命が犠牲になる事自体が間違いではあるのだが、それを言って彼等が悔い改めるか。

どの道犠牲になった人たちは戻ってこない。

だったら、せめてこのデータを役立ててやるのが彼等の弔になるなのではないだろうか。

自分たちを殺した人間より、私たちの様な同じ立場の人間の役に立った方がまだ無念では無いのではないだろうか。


 ……また私は言い訳をしている。

都合のいいことばかり言って、自分の良い様に物事を解釈している。

気がつくとこれだ。

どれだけ自分を正当化したいのだろう。

私は情けない人間だ。






 ------、ページをぱらぱらと捲っていたときだ。

私はある1ページに目を止めた。


 ページには、何処かで聞いた名前が。


 何処かで見た顔写真が乗っている。




 ……嫌な感じがする。

誰なのか、すぐには浮かんでこないが非常にヤな感じだ。

どこで、この顔を------。


------------------------------------------------------------------------------------------



 ------それを見たとたんに、視界がぐらついた。


 ------誰なのか、それに気がついた瞬間、意識が朦朧とした。


 ------自分が一体何を見たのか。それが認識出来なくなった。

見た物を認識する事を、身体が強く拒む。


 視界のぐらつきは酷くなって行く。


 私は恐怖した。

目の前が暗くなって行く事に。

そして、そこに書いてある内容に。




 ……逃げる様にページを戻す。

1つ前の”見ても害のないページ”に非難する。

見ない事で少しでも心を落ち着けようと試みる。



 案の定そのページを見ていたら落ち着いた。

……いや、違うか。

このページを一枚捲った、あのページさえ見なければ視界は安定する。

落ち着ける。ある程度頭の中んを整理出来る。

一個後ろのページさえ見なければッ!


「ハァ……、げほッ……、ッ!……ハァ!」


 気がつけば肩で息をしていた。

意識的じゃなかったが、私はその状態に便乗する。

なんとか落ち着こうと必至に深呼吸をする。

深く息を吸い、深く吐く。


 体勢も、その場にへたれこむ様な形になっていた。

足が震えていて上手く立てない。

それ程に私は興奮状態になっていた。

興奮と言っても高揚感など無い。

恐怖で理性が働かない状態に近いのだろう。



 ------吐き気がする。

 ------めまいがする。


 私は自問する。


 何故?

何で、今、この名前が?

何でこんなところで見ることに!?

次のページを見るのが恐い。

先を見れない。


 ふと、今見ているページに目を落とす。

そこに書いてある印刷用紙の一番の書き出しには、当然の様にこう書いてある。

そう書いてあるのは当然なのだ。

だって、そういう資料を挟んだファイルなのだから。


『------人体実験------』




「……ッ!!」

 頭を鈍器で殴られた様な気分だ。

文字を見た私は更にどん底に突き落とされる。

気持ちは沈んで行く。体調も悪くなる。

凄く気持ち悪くて、居辛くて。


 ”その文字”は私の逃げる場所を完全に潰した。

その上で現実を直視させる。


 なんて馬鹿だったのだろうか。

軽はずみにこんなものを見たつもりは無い。

けれど、こんな事ってあるか……?

悪意を感じる。

この偶然にッ!



 ……以前言った通り、偶然とは必然だ。

これも巡り回って訪れた必然なのだろう。

しかし、それにしたって、このタイミングに巡り会わせるのは悲運だ。



 私はその場にへたれこみ、口元を強く抑える。

足に力が入らなくなったのだ。

私は必至にこみ上げて来る吐き気と戦う。


 だめだ だめだ だめだ だめだ だめだ。

先をみてはだめだ だめだ だめだ だめだ。

現実から目を逸らすのはだめだ だめだ だめだ。



 この先を見てはならない。

分かっている。


 でも、現実から逃げる事は出来ない。

そんなことだって分かっている!

だけど、このファイルに”あの人の名前”があるってことは……。



 ……万が一に間違いってこともあるかもしれない。

実は”その人”は違う実験に参加し、資料が作成されたのだ。

このファイルに紙が入ったのは何かの間違いで……。


 ……分かっている。

それはあまりにも愚かな期待だ。

また私は自分の良い様に物事を解釈しようとしている。



 震える指が私の指が勝手にページをめくる。

淡い期待、低過ぎる可能性に縋る様に。

それは無意識だ。

止められない。

『止めろ。』

心はその手を止めたがる。

だが止まらない。

心で命じること以上の何かが、私の手を進める。



 ファイルのページがめくられた。


 刹那、私は目を強く瞑った。


 お願いだ。

……お願いだから。

なにかの間違いで紛れ込んだのであってくれ。

それ以外はダメだ。


 そんな思いで目を瞑った。

正確な事柄が好きな私が、この時だけは”不正確”を祈った。



「レンヨウ、さん?」

 いつの間にか蒼希君が隣に来ていた。

声で分かる。

しかし、目を瞑っているから具体的な様子は分からない。


 彼が覗き込んで来る。それは気配で分かる。

しかし、それ以上に感ける事は出来ない。気に出来ない。

そんな余裕が無い。

この私に、余裕が出来ない。




 ------、ゆっくり目を開ける。

現実からは逃げれない。

そんなこと、分かっていたから。


 目を開けた直後、前が見えなかった。

視界がぼやけている。

涙ぐんでいるからだ。

涙を堪えようとしてもその感情はどっと押し寄せて来て抑えきれない。

視界がはっきりする寸前、私は咄嗟に天上を見た。


 今のうちに、上を向いている間に印刷用紙のページを進めたかった。

もしくは再び1ページ戻したかった。

今開いている場所は見たく無い。

しかし、指が動かない。

次第に首は疲れて来る。


 もう限界だ。

流石にまだ首の疲れは無い。

だが、すぐ下を見れば目に入る”情報”から逃げ続けているこの状況がたまらなく嫌になったのだ。



 私はファイルに目を------。


 ------落とした。




「------あ。」




 私はその紙を、印刷用紙に書かれた文字を見てしまう。

今度は認識出来た。

出来てしまった。


 私は小さく声を発する。

それは悲鳴を上げる感覚に近い。

しかし、悲鳴程の大きな声が出なかった。

脱力して、小さく呟く様な情けない音しか喉から出てこなかった。





 ------、罪悪感。無力感。屈辱感。敗北感。

それと、後悔。


 ……それら全部が一気に押し寄せて来る。

心に荒波を立てる。

もう乗り越えたはずだ。

こうなってるのは、分かっていた事のハズだ。

心の準備をする猶予は有り余る程に存在していたはずだ。


 なのに『”彼”が実際にどうなったか。』

その末路、その証拠を見つけてしまっただけで今まで感じるのを止めていた分の後悔が全て一気になだれ込んで来る。


 ぼやけていても文字は読めた。

読めてしまうのだ。

私は紙に書かれた文字を読む。



「……じん、た、い。」

 震える声で、ファイルの顔写真の上に。


「じっ、ぅッ……けん。」

 赤い文字でくっきりと書かれているその文字を言葉にした。


 その行動(発言)はほぼ無意識に行われた。

本当に小さくか細い声だったと思う。

自分で自分の声が彼方から聞こえて来る様だった。


そんな小さな声で念仏を唱える様に私は続ける。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ------、解剖結果。



『失敗』


《備考》


 異常見つからず。

雷を能力に持つウェザードは能力が発現しても人体の構造自体には影響が無い。

これまで13体のサンプル全てが共通しており、このサンプルも例外ではない。

このサンプルも通常の人体と大差ない個体である。

サンプルとしてもとっておく価値はないだろう。

実験後、速やかに処分されたし。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ------。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『失敗』


《備考》

 肉体的外傷に干渉する福次効果無し。

13体のサンプルのうち1体は傷の治癒能力が高いことが分かった為に続行した

実験だが成果は得られず。

また、”個体ノ武器”への同調耐性無し。

強制同調を行うも強烈な拒否反応を示し嘔吐、吐血などの症状が------。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 腕が震えて、視界は更にぼやけて。

それ以上は読めない。

 初めてだ。

こんな、頭が何も働かない状況は。

何も考えれない。

理性的に物事を見れない。



「ふざ、けるな……。」

 今まで人前で言ったことも無い様な汚い言葉……。

そんな言葉を私は呟いていた。

自分でも言葉を発した事に気がつかなかった。


 真っ白な頭が、思考が。


 ……真っ赤になって行く。

脈は強く早く打ち、顔がどんどん熱くなっていく。

心臓の鼓動が聞こえて来る様だ。

それほどに強く胸が脈打っている。

冷静さなどカケラも無い。


 この感覚が何なのか、私は知らない。

ただ頭が働かなくて、ただただ苦しさが湧いて来て、ただただただッ!溜まらなく悔しい!


「ふざけるな……!!」

 2度目。

声は先程よりも大きくなっている。

ファイルを握る手に力がこもる。

全身が強張ってわなわなと震える。


 手も身体も震えている。

それは人体実験というコトに対する恐怖心では無い。

自分もそうなったかもしれない。

けれど、それについては恐さなど無い。


 あるのは哀しさ。

それとやりきれなさ。

圧倒的な罪悪感。

私がした訳じゃないのに、私は罪を感じている。



「ふざ、けッ!!!」

 拳を振り上げたその瞬間。 

私はその場に崩れた。


 足に力が入らない。

身体を起こしていられない。

慌てて口を手で押さえた。

そうで無かったら、今頃こみ上げて来た嘔吐物を吐き出していただろう。


 身体の力が抜ける。

全身まるでこんにゃくか何かになってしまったのだろうか。

震えるばかりで力を保てない。


「く、ぅぅ……!う、うぅぅ……。」


 頭にあるのは吐き気による気持ち悪さ。

今自分の身体が震えていて、力が入らなくて、心から感じる気味の悪さ。

そしてなんともたとえ様の無いもどかしさ。

それに準じた脱力感。



「……ごめん、なさ……。」


 最後まで言えない。

吐き気が言葉を発することを邪魔する。

気がつけば頬を涙が伝っていた。


「……、……。」


 呟きたかった。

誰かに何かを言いたかった訳じゃない。

伝えたかった訳じゃない。

ただ、言葉にして出したかった。


『助けれなかった。助けられたのに。……かもしれないのに。私は無力で、私は見捨てた。私さえちゃんとしていれば、貴方は助かっていたかもしれないのに------。』



 ……そうじゃない。そんなことじゃない。

 もっと一言で良い。

頭に浮かんだ言葉を言ってしまいたかった。



『御免なさい』



 ……その短い言葉は、言えなかった。

吐き気のせいばかりではない。

心が囁くのだ。


『オマエには許される価値も、許しを求める権利も無い。』




「う、あぁぁ……。」


 視界が遠くなる。

結局言いたい、呟きたい言葉は言えなかった。

それを言う資格など、私には無い。

許しを請う資格など、私には無い。

自己満足に過ぎなくとも、私は許しを呟けない。

……甘えるのは、自分自身が許せないから。


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