《退屈な作業。それと情報室への潜入。》25-#《翼》
【個体の武器】
【恋葉 翼】-0-25#-1/3----不気味な程順調で--《退屈な作業。それと情報室への潜入。》
扉の前に警備員が2人いる。
両方とも銃を持っていて頑丈そうだが、そういう福次効果を得たウェザード程には打たれ強くもないだろう。
条件付きではあるが、無力化は簡単だ。
だが、その際周囲の仲間に知られてはならない。
彼等は提示報告用に無線機を常備している。
無線機から手を離した隙を狙わねば。
背後にいる蒼希君と目を合わせる。
彼はこくりと頷いた。
先程述べた条件とは彼のことだ。
彼を戦力として考慮に入れれるのならば2人同時に無力化することなど容易い。
彼が片方だけでも相手出来るなら、戦う際に凄く余裕が出来る。
そして確実性も増す。
……が、正直信用出来るかどうかまだ分からない。
信頼してるしてないじゃなく、単純に私は彼が戦っているところを見た事は無いから。
ここで一度、”刀を持った菊地”と張り合ったその実力を見せてもらうではないか。
彼の戦力を測る良い機会である。
物陰から隙を伺い、その時が来た。
彼等2人が私たちの隠れている植木鉢&ゴミ箱から目を離したのだ。
提示報告を行った直後で、腰に無線機を付けている。
すぐに手に持ち連絡を取るのは無理だ。
補足させて貰いたいのだが私は背の高い植木鉢の植物の陰に隠れていて蒼希君がゴミ箱の陰に隠れていた。
手の仕草で蒼希君に合図する。
彼が頷いたのを確認し、私は物陰から飛び出した。
私は奥方にいる方の警備員に狙いを定める。
相手が背を向けているこの状況で一番有効な手を考える。
考えるとはいえ、後ろ側から出来ること言ったら感性を付けて勢いのある蹴りを入れることしか思いつかない。
相手の背骨をブチ抜くつもりで私は飛び蹴りを浴びせた。
ガードマンは小さいうめき声を上げ倒れた。
「おい!一体なん……。」
もう片方の警備員が事に気がつく。
しかし発言は途中で中断される。
蒼希君も私と同じことをしたのだ。
彼のそれは、どちらかというと特撮モノのヒーローのやっているそれに近いモーションであったが。
いや、私がそう言う特撮モノの動きとかを知っているのはたまたま朝テレビを付けた時に目に入ったからだ。
揚げ足を取られる前に断言しておこう。
決して私個人がそう言った物を見ている訳じゃない。
「トゥ!!」
勇み声を上げ、蒼希君は飛びかかった。
蹴りは見事に背に命中した。
蹴られた当人は地面に顔を擦ることとなった。
「フリャぁ!!」
その後綺麗に着地を決め、何故か丁寧にポーズまで付けた。
呆れることも出来ない。
このコ、楽しんでる……。
「声、大きい。周りに人がいたら一発でバレてたわ。」
私は小声で呟く。
付近に人が居なかったから助かった。
「居ないから良いじゃないッスか!確認はしてるって!」
彼は無邪気だ。
戦力になるのは分かったが、問題点がある様に感じる。
この先なにも起こさないと良いのだが。
「お、お前達、一体……?」
そう言えば人の上に乗ったままだった。
私は実に失礼だ。
だけど、貴方は起きてちゃダメなの。
私はその場で三度足を振り下ろした。
------さて、邪魔者はもう居ない。
彼等には一緒に部屋に入ってもらおうか。
倒れているのを見つかるよりは良い。
蒼希君の持って来たバックにロープが入っていた。
大きなバックには過剰なまでに用意周到にいろいろなモノが入っている。
懐中電灯に携帯充電器、非常食まで。
……確かにいざという時困らないが、どんな”いざ”を想定しているんだ?
この人は山にでも行くつもりでここに来たのだろうか。
「お!ここにカードを入れるみたいッスね!」
「静かに。」
私は扉の取っ手に付いているカード差し込み口にカードを刺した。
小さい機械音がして扉のロックが外れる。
さて、いよいよだ。
中に何があるにしろどうせろくでもない物ばかりだろう。
その中の役立ちそうな物は全部持ってく。
その他は蒼希君の鞄に入っていたマッチで燃やし尽くしてやる。
私は扉を開いた。
------、部屋の中を見渡す。
室内は学校の図書室と比較出来る程度に広い。
天上の高さこそ廊下のそれと変わりない様だが、内部の空間は無駄に広く感じられる。
この部屋は特別他の部屋よりスペースを取られている様だ。
ここにあるのは棚、棚、棚、棚。
ひたすら金属製の本棚が置いてあり、そこには本ではなくファイルがびっしりと収納されている。
コンピュータなど電子機器の類いは無い。
扉が頑丈だった割にここに保管されているのはファイルだけ。
最新式のセキュリティが守っていたものは随分とアナログな情報だった。
しかし、目的地はここで間違いないはずだ。
東側の壁に窓がある。
情報通りの風景だ。
それが確証。
情報に偽りは無い。
保存方法がアナログでも、入っている『データの質』自体はデジタル化したそれと変え様が無い。
「うへぇ、埃っぽいな!」
蒼希君がぼやく。
確かに部屋は埃っぽい。
頻繁に人は出入りしている様だが、手入れはされていない感じだ。
汚れる要素がないから汚れていないだけ。
まず換気が行き届いていない。
この部屋が汚れていようが空気が悪かろうが、私には関係が無いのだが。
様を済ませてさっさと出て行こう。
私はファイルの背表紙を追った。
ずらりと並んだ様々な題名の付いたファイルの中から必要な物を探す。
必要な物を選んで運び出す必要がある。
こうしてのんびりとあさっていられる時間はあまり多く無いハズだ。
警備員は交代制だから。
提示報告が行われないのでは異常に気がつかれるのも時間の問題だ。
急いで必要な情報を纏めなければならない。
全部持ち出すのは無理だからだ。
持ち出すのは必要な物だけ。需要のあるものだけ。
「蒼希君。私はここで調べ物をする。キミは……。」
ふと、蒼希君はこの部屋でするべきことが無いことに気がつく。
配慮して掛けた言葉だったつもりだ。
しかし彼は私の方を見向きもせず、棚に目を走らせている。
不意に彼は言った。
「いや、俺も見ときますよ。」
そう言いながら彼はあるファイルを手に取った。
そのタイトルは、『魔術師による犯罪履歴』……?
魔術師とはウェザードのことか。
だとしたら、ウェザードが起こした犯罪の記録か。
そんなものが見たいのだろうか。
「俺は俺で気になることがある。だからレンヨウさんは気兼ねなく自分の気になること調べてってくれれば良いと思うッス。」
そう言いながら彼はファイルのページを捲っていく。
やはりこちらを見向きもしない。
彼のページを読みあさる速度はとても速い。
まるで最初から目当てにしている項目があったかの様に。
必要の無い情報は読み流している様だ。
やはり彼には彼なりの目的がある?
考え過ぎか。
本人に問いただして教えてもらえるだろうか。
……止めだ。
この場で気にしても仕方が無い。
問いただすことは後でも出来る。
私は彼の言う通り、自分の欲している情報を探した。
------、ファイルの背表紙を流す様に見る。
私が見ている棚は”実験記録”を纏めたファイルが置いてある様だ。
背表紙に書いてある題名を読んでみると、大体こんなことばかり書いてある。
『能力衝撃実験』『能力制御実験』『魔術師人口的発生実験』。
背表紙の題名だけで分かる。
コイツ等はやはりろくなコトしてそうに無い。
”人口発生”なんて、そんなことしてどうする。
アイツ等の目的は朧げである。
彼等はウェザードを何だと思っているのだろうか。
『人口発生』とは、つまるところ『人為的にウェザードを作る』と言う事か。
ざっと内容に目を通すが大体はあっていた。
やはりそういう事の様だ。
通常の人間をウェザードにする?
ますますやっている事の意味が分からない。
予測の範囲は出ないが、彼等は別にウェザードが憎くて狩っている訳では無いらしい。
……これ以上考えても無駄だろう。
ヘンテコな実験を繰り返し人に迷惑を掛ける非常識な人間のことなど理解出来ない。
何故なら私には良識というものがあるからだ。
良識のある人間は人を攫ったりする様なそういった発想自体を持ち合わせない。
恐らく私と彼等は根本的に思考が、いや人種が異なるのだ。
私は無駄なことを好まない。
今は目の前の作業に集中する。
それが一番無駄じゃないことだ。
一々考察を働かせるのは少なくとも今は無駄なことだ。
時間と集中力をそれに割くのは効率的でない。
今するべき事はささっと目的にしているモノを探し当てるだけだ。
……そもそも私が求める今回の目標だが、実のところ具体性を持って探っている訳では無い。
とりあえず”有力な情報”があれば良い。
例の”同盟”にとって需要のある情報を持ち帰れば良い。
ある程度だがどういった情報に需要があるのか、それは把握している。
私は棚から幾つかのファイルを物色する。
『能力者発生条件・参考資料』『能力”属性”調査結果』『”強化系”魔術師』……。
同盟にいるウェザード達は自身の正体に付いて情報を求めている。
前も言った通りウェザードの本質は未知。
”どういった存在”であるのかも把握されていないのだ。
自分たちですら、自分がどういった存在なのか分かっていない。
他の人間とどう違うのか。力の原理はなんなのか。そもそも普通の人間として成り立っているのか。
私たちウェザードが自分について分かっていることは、特別な力があるということだけ。
一体何故こうした者達が現れたのか。
一体何故自分たちが、つまり私も含まれている訳だが、特定の人に限って力を得たのか。
ウェザードの数は増加傾向にあるが発生原因だって世間には出回っていない。
私はそのことをふまえた上でファイルの題名に目を通した。
その結果”ピン”と来たのだ。
こうして”人為的な発生”を試みる段階まで辿り着いているコイツ等の資料にだったら、そのヒントが隠されているハズだ。
このファイル達に刻まれている情報達は恐らくこの世界上でもっとも信頼出来る情報元だ。
実際の研究結果がただ書かれているのだから。
そこに改ざんの必要は無い。
間違いの有無は分からないが、書かれているのは真実だけのはずだ。
ここにあるのは人為的な情報統制の網を潜っていない情報。
持ち帰れば、きっと彼等はこれを欲する。
そうなればしめたものだ。
一般的に世間では互いの利益になるように行動すれば相手も友好的にこちらを見てくれる。
この場で情報を集め、代わりに彼等にもそれ相応のこちらに対する利益を求める。
その為に今日こうしてここまで来たのだから。
------私は時間の許す限り、必要なファイルを選び拝借して回った。
拝借とは名ばかりだが。
もちろん返すつもりなんて無いのだから。
主観的に見て重要そうに感じた情報を手に取る。
内容を確認し、私の主観で価値があるかどうか判断する。
価値があるならば容赦なく持ち去る。
それをひたすら繰り返して行く。
憂鬱な作業だ。
ゆっくりとしていられない事も作業中の私の心境を乱す原因になる。
気がつくとため息が出る。
もう何度ため息をついたのだろうか。
酷く退屈で面倒な作業だ。
いつまでこれを続ければいいのだろうか。
私は作業に飽きを感じ始めていた。




