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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
40/82

【家での自由すら奪われて】023【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-00-23----家での自由すら奪われて





「ただいまー。」


 放課後は本屋に立ち寄って例の本(覚えていないなら気にしないでくれ)を探し、それから凪に送られてそそくさと帰宅した。

週末には大切な用事がある。

今は身体を休めておかなくては。

故に今日は勉強しない。

テストが近づいているが、それどころではないのだ。

学年が上がらないのは辛いが、命の危機と比較する程の問題ではない。



 ところで、家に誰もいないのは分かっているのだが中学生までのクセでつい『ただいま』と言ってしまう。

決まって部屋に僕の声が木霊(こだま)するだけで返事など帰ってこないのだが。



「……ふぅ。」

 がらにもなくため息が出た。

最近疲れてるな。

日記を書いて風呂に入って、今日は寝てしまおう。

そう思って靴を脱いでいた時だ。



「おかえりなさい。」

「……ッ!!ガッ!!」


 なんだって!?

突然のコトに動転して舌を噛んでしまった。

痛さを気にするより、気を確かに持つ方に集中する。


 どういうことだ!?

今、聞き間違いでなければ『おかえりなさい』って帰って来たぞ!?

もちろんこんなこと初めてだ。

というか、そんなことはあってはならない。

この家には僕だけが住んでいるハズだ。

だったら、『おかえりなさい』って帰って来る方がおかしいじゃないか!


 入る家を間違えたか?

そんなことは無い。この鍵で入れたのなら僕の家だ。

自分の持つ鍵を念入りに確認したがなんてことはない。

確かにコレはいつもの僕の家の鍵だ。

誰かの物を間違えて持って来てしまったり、そんなことは無い。



 声は奥から聞こえて来た。

部屋に誰かがいる……?

噛んだ舌をちろちろさせながらリビングまで走った。

血は出ていないがきっと口内炎になるだろう。

僕を驚かせた犯人の正体を確かめなければ。



------------------------------------------------------------------------------------




「……。」

 そして、リビングに辿り着いた僕はただ絶句した。

思考が止まった。氷付いてしまった。

手に持った鞄をその場に落としてしまう。

目の前で一体何が起きているのか、これが現実なのか夢なのかの区別さえ出来なくなってしまっていた。

それくらい目の前の光景は非現実的だったんだ。

舌を噛んだ痛みも完全に忘れてしまっていたさ。

いったい、なにがどうなっている?



「やっと来たか。さ、風呂にするか?食事か?それとも……。」



「……ちょっと、ちょっとだけ待って欲しい。」


 やっとのことで一言だけ発することが出来た。

目をパチパチと瞑ったり開いたりして思考を整える。

夢ならこの時点で醒めているはずだ。

醒めてないなら、コレは夢じゃないということになる。

試しに頬を抓ったが、痛かった。


つまり、ユメジャナーイ!?



「どうした?」

 当の本人はきょとんとした顔をする。

今僕はどんな表情をしているのだろうか。


なんとか言葉を探して、それを発する。


「ミサキさん?なんで、どうしてここに居るんだよ!?」



 僕が驚くのも無理は無いだろう?

 ……目の前に居るのは菊地聖樹その人だった。

リビングの椅子に座り、我が物顔で僕の買い貯めたお茶を飲み漁っている。

確か彼女は放課後、『用事がある』と言って誰よりも早く帰って行ったハズだ。

それがなんでこんなところに居るんだ!?


「何故って、あたしがあたしの家にいたら問題があるか?」




 ……、……?

この人は一体何を言った?

僕の日本語の理解力が足りないのかな。良く意味がわからなかったぞ?


「いや、ここは僕の家で……。」

 れ、冷静になれ。

彼女に言いながら、僕は自分の言葉を頭で復唱する。

ここは僕の家であって彼女の家ではない。

彼女は間違えている。

勘違いしているんだ。

彼女の言っているコトは真実じゃない……。


……そんな自己暗示も聖樹の一言で吹き飛ばされることになる。



「そうだな、そして今日からあたしの家でもある。」

 そう言った聖樹の表情は実にけろりとしたものであった。





 ------、はぁ!?

いや、なんだって!?

唐突な発現に頭が追いついてこない。

最近こういうの増えてない!?

こういうサプライズは要らないよ!?心臓に悪いから!!



「ちょ……!?」

 言葉を発しようとしたが、先程噛んだ舌が痛む。

都合良く僕の言葉を遮ってくれる!

なにも言い出せずにいたら、彼女は勝手に話しを進めて行く。


「使っていない部屋があったからそこを借りる。いや、違うな。貰うぞ。あたしの食事はお前に任せる。存分に腕を振るえ。」

「そ、その理屈はオカシイ!」


 両手を”バンッ!”と机に叩き付け、精一杯の抗議した。

彼女は再びきょとんとした顔をする。

いや、なんでそんな顔してんのさ!

そんな顔されても困るよ!!


「だってそれは、ダメじゃないか!?冷静に考えて!!」

 具体的に説明しようとしても言葉がつっかえる。

何故ダメなのかって詳しく言おうとしても咄嗟に説明文が出てこない。


「ダメか?あたしは構わないのだが、お前が嫌か?」

 少しだけ哀しそうな顔を見せた。

イヤかどうかって……。


「イヤとかそう言う訳じゃないけど、そう言う問題でもないでしょう!」

 表情そのままに彼女はじっと僕を見つめて来る。

……なんだ、この罪悪感は!

僕の抗議におかしいところなど無いはずだ!


「なら、出て行けと?」

 ぼそりと呟いた。


「暑い中を荷物を運んで来たのに。一生懸命、汗水垂らして頑張ったのにその努力を無に帰すというんだな。1人の女子を灼熱の日の下に晒し、宿無しで生活させるというんだな、ミヤビギは。」

 ジトッとした眼差しで、弱々しい声でそう述べられる。 

うぅっ……。

そういう言い方をされると弱い。

これで追い出したら僕が悪者みたいじゃないか……。

危うくそのまま押し切られそうになるが、首を振ってそれを否定した。

思考を落ち着けるんだ。

口車に乗るな。

聖樹の言っているコトにはいろいろとおかしい点があるぞ。


「宿無しって、だったら元々何処に住んでたのさ?」

 元々南校に通っていたのならその辺りに住んでいた家があるハズだ。

最初から家が無い分けないだろ、学校に通ってるんだし。

彼女は路上生活しているにしては非常に清潔感がある。

つまり宿無しは嘘なはずだ。


 元居た家に行けば良い。

というか、普通にそこが自分の家だろう!?

僕の問いかけに彼女は小さく首を振った。


「私は数日前までヤツ等の施設に泊まっていた。そこは表向きはただのアパートの様になっているがな。昨日までは病院のベッドの上だった。……あたしに帰る家なんて無い。」


 そう話す彼女は、表情が切実であった。

今、帰る家が無いってことかな……。


 ……どうやらそれは本当らしい。

確証なんて無いけど、僕にはそう思えた。

彼女はそこまで演技派には見えない。

目の前の彼女の表情から読み取るならば、彼女は確かにそのことを苦しんでいる。

その施設とやらに住む前の場所もあるハズだとは思うのだが……。

空気的に聞き出す気になれなかった。



「……それで。結論は?お前はあたしを放り出すか?」

 今度は泣き落としじゃなく強い口調で言って来た。


 考える。

容認したい気持はある。

だが、それにはいろいろと問題がありすぎるだろう。

例えば世間体とか。

高校生で異性と同居とか……。

そんなの、僕的にも”引く”様な事柄だ。


 そもそも僕は完全に聖樹を信じきれてはいない。

もしかしたら隙を突いて僕だけを器用に殺したりどこかへ連れて行ったりするんじゃないだろうかって考えはある。


……けど。



「……騒ぎだけは、勘弁だからね?」


 容認するしかなかった。

この状況で彼女を追い出したら、僕自身が引きずってしまうから。


 ……何より、僕に詰め寄った彼女の表情は非常に刺々しく”断ったら何をしでかすか分からない”という恐怖感を僕に与えたからだ。

この場で暴れられたら、もっと困る。

彼女はマッチやライター無しで僕の部屋を消し炭に出来るんだから。



「それで良い!さすがミヤビギだ。あたしが見込んだだけのことはある。」

 急に上機嫌になる聖樹。

僕はただ唇を噛み締めた。


 結局口車に乗ってしまった。

僕の今までの自由な生活は容赦なくどんどん制限されて行く。

今回聖樹が家に居る事で、僕の家の中での自由度はいろいろと下がるだろう。

……なんというか、憤りを感じる。


 その中の不幸中の幸いというべきか。

聖樹とは別の部屋で過ごすことが出来る。

初めて大きな部屋を借りて良かったと心から思えた。

間違いだけはおこしてはならないだろう……。

”間違い”だけはッ!

大切なコトだったから2度確認した。

相手が聖樹なだけに、まずそれは無いと思うが。




「……それでだ。」


 彼女は椅子から立ち上がり、こちらに身をよせて来た。

僕はハッと、彼女と目を合わせる。

聖樹はワイシャツの第2ボタンまでを外しながら、僕に詰め寄って来た。


「さっきの続きだが。風呂か、食事か。それとも……。」

「ご飯で。」


 僕は躊躇い無く返答した。

そんな単純な死亡フラグに引っかかる僕では無いのさ。

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