【その代償は痛み】017【凪】
【個体の武器】
【恋葉凪】-0-17----その代償は痛み
------葉矛達がいなくなった公園で菊地と見合う。
夕刻に近づいているにも関わらず、夏の暑い日差しが降り注いでいる。
辺りは随分と静かだ。
菊地もボクも喋りはしない。
喋りだしていいものか躊躇う程の、一種の気まずさが辺りを包んでいた。
「……キミを放って姉さんを追いかけたら、キミは追いかけて来るだろう?」
「ああ、そうだな。」
ボクの方からなんとか一言、彼女に声をかけた。
……なんでボクが気を使ったみたいになっているんだろう。
相手を気遣うなんて、夏の暑さにやられたのかもしれない。
何かするならさっさと終わらせて帰りたいものだ。
冷房に当たって冷たい物を食べたい。
「レンヨウ。お前の攻撃は私に大きく劣っている。だからといって、私はお前に手を抜くつもりは無い。」
……言ってくれるね。
ボクは嫌みを言う気にもなれない。
そもそもそっちの攻撃が優れているのはその”エモノ”のおかげだろうに。
キミの技量じゃない。
「こっちも、今回は手加減出来ない。」
左手を見遣る。
前回受けた傷は”完治”している。
この一週間、葉矛に気遣って貰ったおかげである程度楽が出来た。
傷の治りが異常に早いのはウェザードになった恩恵だろう。
目の前にいる菊地も顔面、それと体中をボコボコにしてやったのにもうすっかり治ってしまっている。
身体能力の向上。
それもウェザードのチカラの一端だ。
傷の治りが早くなるというのは一例。
どんな形で現れるかは分からないが、個人事に何らかの形で身体に変化が起きる。
例えば姉さんはボクの様に傷がすぐ治ったりするコトは無い。
その代わりに、以前より目が凄く良くなったとか言ってた。
……つまりあの眼鏡は伊達なんだね。
奇しくも菊地 聖樹とボクに現れた福次効果は同じものだった様だ。
お互い傷の治りが早い。
コイツと同じ系統の能力を持ってたなんて、何か宿命を感じるな。
「一週間前の轍は踏まない。構えろ。全てを理解してやる……!」
菊地の瞳が赤く染まった。
……仕掛けて来る気は満々らしい。
けど、1つ分からないことがある。
全てを理解?
どういう意味だ?
「戦うっていうなら、ボクはそれに付き合うしか無い。でも、キミは一体何でボクと戦うんだ?」
葉矛がいたときはそんな悠長にコトを聞いている間など無かった。
今は話しが別だ。
急ぐ必要は無いし余裕はたっぷりある。
葉矛と奇妙な関係で結ばれていたことと言い、聞きたいことは沢山ある。
どういう事情で”人質役”になったのか。それは後で葉矛に聞ける。
けど”菊地が戦う動機”だけは、本人に聞きたくなったのだ。
何故、ボクと菊地は戦わなきゃならない。
ボクは葉矛と姉さんを守るために戦う。
だけど彼女には何があるんだ?
「……分からない。」
彼女はぼそりと呟いた。
「分からないことがあって、それがなんなのかが分からなくて、だからコレから……。その答えを見つけるんだ。」
「戦うことが答えを見つける方法だって……!?」
意味がわからない。
何も分からないと言っていて、何故戦うことが有意義であると言えるのだろうか。
根拠は何なんだ?
追求する必要が……。
「それさえ分からないさ。どの道結果が付いていないというのは、何とももどかしくてな……!」
菊地は刀を構え直す。
その動作を見てこれ以上会話を続けることを諦める。
彼女は”答えを探す”とか言っているが、やることは結局先日の憂さ晴らしか。
……上等だ。
今日は出し惜しみもしない。
コイツの実力は分かっている。
余力を残そうとは思わない。
一番強烈な攻撃で確実に終わらせてやる!
「行くぞ……!」
菊地が間合いを詰めて来る。
その速度、詰め方。
間合いの測り具合。
全くの素人ではない。
かといってプロのそれでは無い。
独学に基づいた独特の戦い方。
テンプレ通りに動いていたのではこちらが危ないかもしれない。
こういう戦いをするヤツは、何を隠し持っているか分かったもんじゃない!
「ハッ!!」
垂直に振り下ろされる刀。
その刃をまともに受けたら、氷の剣など粉々に砕け散ってしまう。
溶けかけた氷の剣でこういった直線的攻撃を真っ向から受けることは出来ない。
……ならば!
「うりゃ!」
真っ向から受けるのではなく、斜面を作って受け流す!
刃が当たった瞬間に剣に掛けた力を抜き、斬撃を受け流す。
刃がボクの身体に当たらなければなんだって良いのだ。
流す様にしても結局氷の刃にはヒビが入ってしまったが。
「猪口才だな!」
聖樹が斬り直して来た。
ヒビの入った剣でコレを受けれるか?
いいや、無理だ。
仕方ない。
この剣は捨てよう。
この剣では、菊地の切り返しに耐えることが出来ない。
素早く判断を下したボクは剣を捨て、素手で刀を止めた。
刀を持った手を掴み力で押さえつける。
「……くぅ!印象通りだ……。キミ、力強いんだ?」
「お前は!見かけの割に、良く……粘る……!」
互いに力を抜けない。
硬直状態だ。
近距離で両手を塞がれて、単純な力比べをするほか無い。
ボクが諦めたらそのまま刃に切り裂かれるし、菊地としてもここで引いたら敵に体勢を立て直されてしまう。
互いに手が塞がっていて能力を使うことが出来ない。
日差しの強い中、暑苦しい力比べなどするはめになろうとは思わなかった。
「右手の治りが、早い様だな……?さすがに、マルチタイプ……と言ったところか。」
不意に、菊地がボクの左手を見ながら言う。
傷の治りが早いのはお互い様のはずだ。
そんなに気になることか?
それに……。
「マルチ……?何のこと、だ?」
聞き覚えの無い言葉だ。
マルチタイプ?
ボクが、それだって言うのか?
「自覚は無いのか……。そらッ!」
「クッ!」
身を捩らせ、こちらのバランスを崩しにかかって来た……!
だったら!
体勢を維持するのを諦めたボクは、力一杯に掴んだ腕を振り払った。
このままじり貧したって、こっちに良いことは無い。
1度、体勢を立て直せれば!
「良い判断!だが!」
振り払って崩した体勢を、無理矢理にでも立て直して追撃を掛けようとしてきた。
熱意はいいが、それだけじゃ上手く行かないこともある。
それを教えてやる……!
当然、無理矢理に直した体勢は衝撃さえ与えられれば非常に脆く崩れ去る。
その上防御に関しては酷くお粗末な体勢だ。
足下はがら空き。
「そこだ!」
身を低くして滑り込む様に足払いを仕掛ける。
スライディングを仕掛けた。
そんな風に表現した方が伝わり易いだろうか。
「うあ!?」
こちらに向かう際に付いた感性は足払い程度では止まらない。
むしろ勢いづいて宙に放り出された。
菊地が公園の端まで転がって行く。
その様子を見ながらボクはゆっくり体勢を立て直すことが出来た。
服に付いた土を払う余裕さえある。
「舐めた、真似を……!」
菊地はすぐに立上がった。
参ったな。
このタフさに付き合ってちゃ、また剣を使わされてジリ貧負けする。
今回は葉矛だって、蒼希君だっていない。
頬を汗が伝うのが分かる。
そして、先程まで氷の剣を握っていて冷たくなっていた僕の手も、既に温かくなって来ている。
夏の暑さもボクにとってはじわりじわりと体力と戦力を奪って行く要素だ。
やはり、手加減している場合ではない。
『全部活用しなくていい。』
『いざとなったら、逃げれば良い。』
姉の一言が頭に過るが、そうもいかないだろう。
全力で迎え撃つに値する敵だ。
彼女は……。
そう、だ。
この距離だったら------。
準備だって出来る。
まだ、今日は剣を1つしか作っていない。
余裕だ。多分出来る。
「今の隙、攻撃を仕掛けるなら絶好の機会だったはずだ。レンヨウ、加減をしている余裕が……。」
「静かにしてもらおうか……。」
菊地の話しに耳を傾けるどころじゃない。
次の一撃にかける。
------集中、しなくては。
戦いをすぐに終わらせる為に、確実に勝つ為に。
この敵は、加減をしていて勝てる相手じゃない。
「次で------、」
深く深呼吸をする。
右手を見遣る。
手の平で空気が凍り付き、蜃気楼の様に景色を歪ませている。
……失敗出来ないんだからな。
上手くやれよ、レンヨウナギ……。
「------終わりにしようか。」
凍り付いた空気を、握り潰す。
------握った手の平から冷気がこぼれる。
氷の剣を握ったって、冷たくて持てないなんてことが無い程に”冷たさ”に強くなっているはずなのに。
この冷気は、手の平が凍り付いて二度と動かせないんじゃないかと思わせる程に冷たい。
ボクの手にちくちくとした痛みを与える。
痛み無くして、強力な技は出せない。
なにかのゲームの技みたいだ。
リスキーで、でも強力。
この切り札は確実にアイツを倒しきれる。
「終わりだと?随分と舐められている様だな。ま戦い始めて間もないのに、お前はあたしを倒せると。」
「倒すさ。」
手の平の痛みが増して来ている。
だが、握り拳を今ほどく訳には……。
「ほう。大技かなにかを繰り出すつもりか?ここからでもお前の”滾り”が伝わる。だが……。」
菊地の瞳が紅く光る。
彼女も右手の平を突き出す。
……動作が素早い!
「それまで、待ってやるとでも!?」
思っちゃいないさ!
掌から、真っ赤な炎弾が撃ちだされた。
ボクは掌の痛みに耐えながら、炎弾をかわした。
冷気による痛みは、既に激痛の域に達している。
痛みが腕から体中に伝わる様だ……。
涙がにじむ。
今すぐ掌を広げてしまえば楽になる。
誘惑がボクを惑わせるが、なんとかそれからは目を背ける。
痛くたって、それでも我慢だ……。
今はまだ……。
「一発ハズしたら、2発でも3発だろうが撃ってやるさ!」
言葉通り続けて炎弾が放たれる。
モチロン当たる訳にはいかない。
極力動き回ってすべてを避ける。
避ける。避ける。
向こうも攻撃は狙いをつけて撃ちだしている。
何発かボクを掠めた。
非常に熱いが、掌の周辺だけは酷く冷たい。
外れた炎弾は、公園の周りを取りかこむコンクリートの塀を焦がした。
鉄棒の握りを一瞬で赤くしたし、砂場が一部溶けて黒くなった。
奥のフェンスの一部が溶け、公衆トイレの壁を黒く焦がした。
利用者がいないとはいえ、この大惨事を見て何とも思わない人はいないはずだ。
救いは、炎弾攻撃自体はあまり大きな音を伴ったりしないことだ。
音によって駆けつける人はいないはずだ。
炎弾をかわしながら、右手を意識する。
まだ”溜め”が足りない。
この技はこうやって時間を掛けて準備をしなくてはならないこと、それと準備中のこの激痛が一番の難点だ。
……しかも、失敗したら脱力して、暫く動けなくなる。
成功したらしたで、結構なデメリットがある……。
正直、使いたくない。
だが、コレを使わず菊地 聖樹に勝てるという保証は無い。
自分の技量不足が恨めしい。
姉さんが戦っていれば、こんなに切羽詰まったりはしないはずだ。
……いや、何を考えている?
姉に手伝って貰いたかった、とか考えているのか?
ダメだ。
役に立てるところで立っておかないと、ボクは……。
「隙だらけだな!」
「な、しまっ……!」
悩んでいる場合じゃ無かった!
隙を付け狙われた……!
炎弾に夢中になっていたボクは、菊地との距離感を掴み損ねていた。
通常ならば仕掛けて来る様な間合いでもないのに、遠めの距離から炎弾を囮に飛び込んで来た。
ボクは剣も持っていない状態だ。
斬撃をかわすことは出来ない!
「う、ぐぁぁッ!!」
刃が、左肩を貫いた。
すぐには何も感じない。
だが、まず最初に感覚が無くなって来る。
だんだんと自分が刺されたことを実感して来て、身体から力が抜ける。
顔から血の気が引いて行くのが分かる。
そして、鈍痛が広がり始める。
痛い。
痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い……!
左肩の付近から、何か生暖かいものが垂れ始めているのが感じ取れて……。
凄く不快だ。
急に吐き気がしてきた。
鈍痛は激痛に変わって行く。
だんだんと叫び声を上げたくなる衝動が大きく膨らんで行く。
ダメだ、と自分に言い聞かせる。
叫んじゃダメだ。唇を噛んで必至に痛さに耐える。
意識が飛ぶのも、自暴自棄になるのもダメだッ……。
傷口を見るのはイヤだ……。
見ても良いことなど何も無い。
だから、必然的に正面の菊地とじっと目を合わせることになった。
目の前がかすんで見える。
意識はちゃんとしている。
だが、涙ぐんでいるせいで前がぼやけるのだ。
「あ、ぐぅ、ぅぅ……。」
唇を噛んでもうめき声までは我慢出来ない。
声が漏れる。
痛い。
声をだしても痛さを和らげるコトは出来ない。
「痛いだろう、レンヨウ?泣きたいなら泣けば良い。涙ぐんでいる顔も、なかなか見物だ……。」
右手は無事だ。
冷気の漏れは止まっている。
肩の痛み以上の激痛が、右手の平を襲っている。
……逆に、この痛みがあるからこそ、ボクは本格的には泣き出さずにいれているんだろう。
この痛みにはある程度慣れている……。
痛みは、より強い痛みによって打ち消されることがある。
……格好など付けずに言えば、肩の痛みに構う程の余裕が無くなって来ているのだ。
「み、もの?なに、言ってるんだか……。余裕を見せるのは良いが、勝つのはボクだ。」
左肩は極力動かさない様にする。
しかし同時に、倒れたりしない為にある程度刃と傷口の抵抗を考えず、力を入れて踏ん張る必要がある。
刃が傷口をえぐり続ける。
……強がっても、やっぱり痛いものは痛い。
「……まだ強がれるか。左手は封じたも同然だがな?出来れば右手を封じたかったが……!」
突き刺さった刀に力が加えられた。
更に深く、刃が肩に突き刺さる……。
「う、あぁ、ああぁぁ!!」
刀は等に、肩を貫いている。
血が、血が吹き出て地面にぽたぽたと落ちる……。
ダメだ。意識するな……!
意識すればそれだけ痛いし、何より気が遠くなりそうだ……。
「フフッ。良い顔だ。さっきに増して……随分、可愛らしい顔だ。」
菊地がボクの頬に触れる。
……てゆうか、撫でる。
背筋の当たりがぞわりとした。
……滴り落ちる血の気持悪さのせいばかりじゃない。
ボクを見つめるその目は、若干ながらうっとりとして……!?
まった、まさかコイツ、実は真性のソッチ系か!
「ちょ、待った、一応だけど確認させてくれ。まさかキミって……その、同性に興味ある?」
言い方は直球だ。
こんな時に何を聞いているかと思われるかもしれない。
だが、これはボクにとって死活問題だ!
今コイツと硬直状態になっていて、しかもこちらは不利を背負っている。
そんな状況で、相手が”そう言う人”だったなら、ボクは更に全力で彼女を否定せねばならない。
そして、彼女はボクの言い繕わない質問に慌てることもしなかった。
ただ、戸惑いもせず答えた。
「どう思う?あたし自身はどちらでも構わないが……。」
菊地の左手が、ボクの頬を撫でる。
そのまま、その手は肩になぞる様に添えられ、更に下に……。
「ちょ、まてまてまてまてッ!!!」
なんとか身体を捩らせて抵抗を試みる。
刀が傷をえぐって痛さが増すが、それにかまけるよりも重要な抵抗であった。
右手は使えない。
左手は動かない。
だが抵抗しないと大切な何かを失ってしまいそうで、ボクも必至になった。
「愛いヤツだ……。今この瞬間に限ってはそう感じるよ、レンヨウ。」
……ボクは身を凍らせた。
物理的に凍り付いてしまった様に身体が動かなくなる。
こ、肯定しやがった!!
今の一言は肯定と見て間違いないよね!?
コイツ、今更否定しようがボクはオマエをそういう系だと見る!
もうそれ以外に見れない!!
「は、離せって!頼むから、せめて手は止めて!!」
必至の形相で訴える。
ともかく、身体を捩って尚抵抗を試みる……。
硬直している場合ではない!
いつからだ?
どの辺りからそんな気があった!?
ボクはオマエに興味ないぞ!
「……うガッ!」
そんなボクの自問は痛みにかき消された。
今度は刀を捻って来た……!
抵抗が鬱陶しくなったか。
しかし、それをする為に彼女は一度刀を握り直した。
一時的に手は除けられた。
とりあえず助かった様だ。
痛いのに何故か安心出来る不思議!
ただ、1つ思うことがある。
ここが壁際だったら幾分か楽だったんだろうに。
後ろが壁ならそこに寄りかかっていれば良い。
なんとか踏ん張って、倒れるのだけは避けねば……。
もし倒れたら二度と巻き返せない……!
起き上がるチャンスがあるとは思えない。
それに、このヘンタイにナニされるか分かったもんじゃない!
「……さて、そろそろ泣き顔を見せてくれないか?苦しんでいる顔ばかりじゃ心が痛むからな。」
……、……。
刀を深く突き刺すたびに、菊地とボクは密着する。
距離が縮まる。
……いや、それ自体は良いことじゃない。
モチロン。彼女がそういう人間だと言うことが分かった今、出来ればお引き取り願いたい。
事実、もう一度彼女は左手をボクに付けようとして来た。
身をかがめて噛み付いてやろうか。
……だが、ボクはそれをしない。
何故なら、密着すればする程状況的にはボクが有利になるのだ。
哀しいことにね。
------右手を意識する。
既に、準備は完了している。
アレだけあった激痛も今は感じない。
……何故なら、右手の感覚がないのだ。
「喘ぐだけじゃ物足りないな。なにか、言ってみせてくれないか?」
「……、……。」
------感覚はない。
だが、ちゃんと動く。
暑い。寒い。痛い。
そういった感覚はないが、確かに右手の神経は生きている。
「声が小さくて聞こえないんだがな。」
「------それで煽っているつもりか……?」
……掌を開く。
ここまで我慢して、我慢して、ずっと溜めていたこの技。
この距離なら外さない。
「……なッ!?」
開かれた掌から、青白い光が大量に漏れだす。
それらは決して強い光ではないが、冷気を伴い周囲に広がる。
「近づき過ぎなんだよね、キミ。調子に乗り過ぎたんだ……!」
開いた掌から、蒼白い炎の様なモノが上がっている。
実際には、コレは炎じゃない。
揺らぐ冷気がそうやって見えてるってだけだ。
この”技”は決して『一撃必殺』の様なものではない。
ましてや、万能性や安定性なんてカケラも期待してはならない。
だが、氷を作り出すこと以外に出来る唯一の技なのだ。
成功する条件は、『相手が近くにいること』。
一定距離内の相手に対して有用な”技”だ。
”効力がある”と言う意味で考えれば、その距離は長い。
だが、実際に効力が”有効に”働く距離は短い。
しかし、今回程密着したこの状態ならば今から回避したって逃げれない。
「レンヨウ……?お前、何を!?」
聖樹はボクから身を離そうとする。
だが、もう遅い。
「『次で終わりにする。』そういったハズだ!」
掌にゆらゆらと揺らぐ、淡い青白い光を。
ボクはそれを、握りつぶした。




