表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
32/82

【訪問者再び】015【葉矛】

初めて挿絵を付けてみた。

結構手間取ったよ…w

ともあれ、後は話しと絵の質ですね。

精進します。

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-15----訪問者再び。



「……、……。」

「……馬鹿だよな、お前は。」



 突然だが、今現在僕は最大の危機を迎えている。

場所は僕の家。

リビングでの出来事だ。


 テーブルを挟んで菊地聖樹が僕を睨みつけている。

傍らには、既に新聞紙を剥いである日本刀……。

彼女の愛刀ツバキエンガが立て掛けてある。


 僕がどう話しを進めていいものか、躊躇っていると彼女の方から話しかけて来た。

いや、罵倒することを話しかけると呼んでいいものか数個紙躊躇われるが。


 どうして、こういう状況になったか経緯を説明させて欲しい……。





------------、数時間前の出来事だった。




 その日、僕は『いつも通り』の休日を過ごしていた。

その日とは当然今日だ。

翼さんが言った通りなら、今日はなんの襲撃も無く平和に過ごせるはずだ。


 そういえば、つい一週間前もこんな過ごし方をしていた気がする。

そして、時刻はもうじき午後5時半になる。


 今から考えてみれば、デジャヴだ……。

僕はPCに向かってキーボードを叩いている。

お茶の入ったペットボトルを隣においてもう数時間PCと向かい合っている


 つい、一週間前もこんな過ごし方をしていた気がする。



 先週は菊地と言う少女からの襲撃があって、凪が追い払って……。

そう、アレから一週間が経っているんだ。


 今日は一週間後の土曜日。

7月に入って、もうすぐ訪れる夏休みに心を躍らせていた。



 それにしてもこの一週間、過ごすのにはいろいろと苦労した。



 菊地を追い払ってあの後、珍しく僕が凪を家まで送って行くことになった。

その後(稀鷺曰く)吹奏楽部の人たちが通りすぎるまで黄昏れた様に川を眺めて過ごした。


……もちろん、訳も無くそんなことはしないとも。


 誰でも今の凪をみれば、一目で『なにかあった』コトくらいは把握出来るだろう。

こんなに傷だらけじゃあね。

同じ学校の吹奏楽部の人たちに今の凪の状態を見られるのはマズいと思った。

冷静に考えて、こんな状況の凪と僕が一緒にいたらどんなウワサが広まるか、分かったもんじゃない。

ただでさえ、凪はそれで迷惑してるに違いないのだ。

これ以上迷惑はかけれない。


 それに、凪は酷く疲労してふらふらだったし、、身も服もボロボロだった。

だから少しでも休めたら。

そう思ったのも、あったんだ。


 ちなみに、稀鷺には早々にかえってもらった。

当然『おい、どういうことになってるんだよ?俺だけ置いてきぼりとか、お前それでも友達かよ!!』

と、若干粘られそうになったのだが、『来週くらいには話す』と凪が言ったらあっさり帰ってくれた。



 そして、次の日からのその週一週間。

なんと、凪はちゃんと学校に通っていた。



 能力を使ったことによる精神的疲労は一日あれば治るらしい。

だが、左手全体に大やけどをしている上、肩には剣が突き刺さった傷があるわけで。

凪はそれを隠しながら学校生活を送っていた。


 ……凄く、大変だったと思う。

日常で行う動作1つひとつに苦労する程に、凪の傷は深かった。


 だけど1つだけいいこともあった。

いや、良いこと、とは言えないかも知れない。


僕は、僕なりに出来ることを見つけた。


 私生活で不自由そうにしているところを手伝うのだ。

地味だが、初めて彼女の役に立てている様な気がする。

これはこれで正しい答えなのかもしれない。

戦い以外で全力でサポートする。


 当然、これで僕が凪と『同等の立場』にいるなんてコトは言わない。

飽くまで僕は守ってもらっている立場で、凪には感謝している。

だけどきっと僕は彼女の役に立てた。

それがちょっとだけ嬉しかった。


なんだかんだ言っていつも通り過ごせていたのかも。


 凪が弱っているこの一週間、敵は一切仕掛けてこなかった。

単純に、運が良かったと思っていいのかな。

あまり深く考えすぎるのもどうかと思う。

僕は、飽くまで前向きに考えることにした。




 ……話しを戻そう。

なんだかんだで一週間を頑張って過ごしたのだ。


 なに?”なんだかんだ”は短縮し過ぎ?

勘弁してくれ。

毎日同じ様な苦労の連続で語ってもつまらないことばかりしかなかったんだ。


 いつも共通して周りからの目線は痛かったし、授業には身が入らなかった。

昼休みは稀鷺も一緒に過ごし、帰りは一緒に帰った。

それだけだった。



 それで今日まで何事もなく過ごせたんだけど、今にして思えば何もなさすぎて緊張感が抜けたのかもしれない。

 ……僕は”バカ”だったんだ。

フリとかじゃなくて、本気で『何も無い』と思っていた。


 二週間連続であの様なハプニングが起こるはずがない。

ないハズだ、なんて思っていた。


 だから家の扉が叩かれたときは『宅配便かな?』と思って。

また同じ失敗をしてしまった。



 モチロン以前と全く同じ状況で同じ失敗をした訳じゃない。

今回扉にはチェーンが付いていた。

前回の時に一気に扉を開けられてそのままピンチになったのを反省したんだ。

ちゃんと少しは進歩した。

それでなお失敗したんだ。




========================================


「……ミヤビギ。なんだ、これは。」

 チェーンが付いているとは言え相手が誰か分かるまでは扉を開けない。

それが一番安全なんだろう。

次からそうしよう。


「えっと。クサリ、かな?」

 目の前にいるのはもうわかっているだろう。

菊地 聖樹だ。

若干開いた扉の隙間からこちらをじっと見ている。


「そんなコトは分かっている。どうしてこういうものがあるのかと聞いているのだ。」

 彼女は苛立った様子を隠さずみせる。

相変わらず険しい表情。

キメの細かい黒い髪。


挿絵(By みてみん)


そして土日だと言うのに制服を着ている。

前回もそうだったが、この人は学校帰りにでも僕の家に寄っているのだろうか。

……まさか休日も制服で過ごしている訳じゃない、よね?



 その手には例の如く新聞紙が握られている。

絶対、中身はアレだよね……。

「えっと、キミみたいな人が尋ねて来るから、かな……?」

「対策の『手段』を考えろ、雅木。」


 菊地はクサリに手をかけるでも無く、ただこちらを覗いているだけだった。

……その気になれば、クサリなど壊せそうなものだが。

そうしないのは、やはり周囲を気にしている証拠だろうか。


「……これじゃ、ダメかな?」

 殆ど呟いたに近い。

彼女に対しての返答をしたつもりも無かった。

「ダメだ。」

「な、なんで?」

「分からないか?私がここを動かず、ずっとお前が出るのを待っていたとしたら?お前は何処にも行けないだろうが。」


 言われた事について少し考える。

言われてみれば確かにそうかも。

凄く迷惑だ。

そして不便。

外に出ないで生活など出来る訳がない。


 いや、待てよ?


「で、でもこうやって時間を稼いでその間にナギを呼んだら?」

 菊地の表情が歪む。

凪の名前を聞くまで、彼女は『済ました顔で』こちらを睨んでいた。


「レンヨウ ナギ、か……。」

 凪の名前など聞きたくもないと言った様子で吐き捨てた。

凪がいなきゃ苦労無く僕をやっつけれた訳で、そうやって嫌う気持も理解出来るかもしれない。

僕が彼女の立場だったら凪を危険視するだろう。


「確かにアイツが来るのは厄介だ。認めよう。だが、こんな薄っぺらい扉一枚でいつまでも耐えれると思うか?私はまだ”その気”になっていないだけだ。」

 こんな扉くらいなら簡単に崩せると言いたいのか?

だったら……。


「なんで、何もしないのさ?」

 菊地はヤケに大人しかった。

先日は僕が扉を開けかけたのと同時に一気に蹴破ったクセに……。

今回は普通に僕が開けるのを待って、今も扉になにかするでもなく普通に佇んでいる。


大人しく無いのは口調だけだった。


「今回、私はお前を殺しに来た訳じゃないからな。ただ、お前と話してみたいだけだ。」

 ハイ?

話してみたいだけって……?

何を言っているんだ、この人は?

先日僕に切り掛かって来た人が、今は僕と喋りたいだけだって?

「ど、どういう?」

「言った通りだ。別に危害は加えない。だから入れてくれ。外は暑いんだ。」


=======================================



 ------そういう訳で彼女を家に入れた訳だが、その後の第一声が『バカ』の一言である。

なんでそんな事を言われなきゃいけないんだろうか……。

「私が本当に”ただ話しに来ただけ”だったから助かったが……これが罠ならお前はもう死んでいるぞ。」

「な、なんで僕が怒られてるのさ……。」


 納得はいかないが、ともあれ彼女は本気でただ話しに来ただけの様だ。

その証拠に彼女は僕を脅す様な事ばかり言うが、刀を抜く様なそぶりは見せない。

それに能力で僕に火をつけたりそういった暴力的な事もしない。


「別に怒っている訳じゃない!ただ……。」

 そこまで言うと彼女は俯いた。

その先を話そうとはしない。


「……ただ?」

「な、なんでも無い。……忘れろ。」


 不意に彼女は立て掛けてある《椿焔我》を手に取った。

当然僕は身構えた。

椅子から立ち上がりそろりそろりと距離を取る……。

「別にお前に何かしようという訳では無い。クセ(・・)の様なモノだ。気にせず、座っていろ。」

「気にせずって言ったって……。」


 凶器を持った相手を目の前に、落ち着いていられる訳が無い。

キミは一度僕にそれを向けた。

だったら尚更そうだろ。


「……そのまま立っているのなら、ついでに飲み物を取ってくれないか。この暑い中で、お前に数分間外に立たされていたんだ。それくらいしてくれてもいいだろう。」

 ず、ずいぶん身勝手な言い分だな……。

けどなんだか逆らうのが恐くて僕は冷蔵庫からジュースを取り出した。

今日はオレンジジュースしか冷蔵庫に入っていなかった。



「……それで、なんの用事なのさ?」

 一向に用件を言わない彼女に切り出した。

コップを出したのにも関わらず彼女はそれに見向きもしない。

2リットルペットボトルのオレンジジュースに口をつけて飲み続けている。

殆ど満タンに入っていたのにも関わらず、恐ろしい事に…ろそろ無くなりそうだ。

結構高いんだぞ、それ。


「ただ話しに来た、では不満か?」

 ペットボトルから口を離して、そう漏らした。

……既にジュースは、一口二口で無くなりそうな量だ。


「不満っていうか、それって動機としてどうなの?」

 彼女はフッと笑みをこぼした。

「確かに『ただ』話しに来た訳じゃ無い。少し確かめたいことがあって来た。もっとも、どうやらそれはこの場では検証しきれないらしいが。」


 確かめたいコト?

良くわからないが、やっぱり他に動機があったのか?


「ミヤビギ、唐突だが1つ頼まれてくれ。」

 そういいながら彼女はジュースを飲みきった。

空になったペットボトルを置いて彼女は言った。

2リットル、結構あっという間になくなっちゃったな……。


「えっと、危ないコトなら勘弁……。」

「私の人質になれ。ミヤビギ。」


それだけ言うと、彼女は椅子から立ち上がり刀に手を掛けた。






------------------------------------------------------------




「------、どうした、ミヤビギ。もっと自然に振る舞っていろ。」

「……、……。」


 そんなコト言ったって、無理だ。

熱いし眠いし、隣にキミの様な刀を持った物騒な人物がいては無理だ。


酷い状況だ。


 僕は、いや僕たちは、例の公園に来ていた。

僕はベンチに腰掛け、誰もいない公園の砂場を眺めている。


 となりに、菊地 聖樹が座っている。

肩に新聞紙で包んだ《椿焔我》を立てかけ、じっと公園の入り口をみている。


「……お前がその様子じゃ、レンヨウ以外のヤツが来た時に怪しまれるだろう。もう少し落ち着け。」

 そういう本人も、なかなか険しい表情をしていた。

……夏の暑さに耐えているのもあるだろうが、今の彼女の表情をみたら、怒っている様にしか見えない。


 ……大丈夫だ。

凪以外の人から見れば、僕が虐められている様にしか見えない。

絶対その逆には見えない。


「キクジ、さん。どうしてこんなコト、するの?」

「ミヤビギ、私の事は『ミサキ』と呼べ。名字で呼ぶな。”さん”も付ける必要は無い。既に私たちは、命を狙い狙われた……という、普通より深い関係の間柄なのだからな。」


 何故か、彼女はどこか誇らしげに言った。

……僕にはこの人の感性は、理解出来そうにない。

確かに、普通より深い間柄でないと思うが……。

関係を見ても、絶対に”親しい人”として間柄は成立しないと思う……。


「え、えっと……。」

 僕が吃っていると彼女の表情は元の険しいモノに戻った。


「そんなコトより、ミヤビギ。ちゃんとレンヨウに連絡はしたんだろうな。」




------------------------------------------------------------



 ------つい十数分前だ。

「私の、人質になれ。ミヤビギ。」

「い、いや、どういう用件だよ、それ!」

 聖樹の唐突な発言に、僕は面食らった。

意味が分からない。

急に人質になれって、要するにやっぱり僕に危害を加えようとして来たんじゃないか!

信用した僕が、馬鹿だったのか!?

2リットルジュース返せ!


「……無論、お前を危険な目に遭わせるつもりなんて無い。最初に言ったろう?『危害は加えない』。」

「な、なら一体どういう……。」

 彼女は手の持った《椿焔我》を机の上に置いた。

手放したのは良いが、そんな物騒なモノを僕の部屋に置かないで欲しい。


「お前は、エサだ。言い方は悪いが、レンヨウを呼び出す材料になってもらう。」

 エサ?

それって、要するに凪を呼び出して……。

「ちょ、ちょっと待って!」

 呼び出した凪をどうするかなんて、ちょっと考えれば分かる。

『僕には』危害を加えない?

だから、凪を倒しやすい様に、僕に人質をしろってコトか?


 冗談じゃない!

僕は痛いのも、恐いのもやだけど、これ以上僕のせいで凪に傷ついて貰いたくない!

そもそも、凪はまだ怪我も治っていないんだ!


「ぼ、僕を盾にして凪を倒そうって……。」

「そんな訳があるか。そこまでしてレンヨウに勝とうとは思っていない。」

 彼女は不快感を露にした。

だが、人質の役割と言ったら、それくらいしかない様な気がする。

考えてもみれば、最初から凪に目的があるのなら、凪の家に行けば良いのだ。

僕の家を知る事が出来たのなら、凪の家だって知る事が出来るハズだ。

わざわざ僕の家に来る必要は無い。


「私はな、ミヤビギ。レンヨウと会って、確かめたい事があるんだ。もしかしたら、戦うかもしれない。だが、お前を関連づけて、ヤツの不利になる様に立ち回るつもりなど無い。お前は、ヤツが『本気になる』為の、エサとして私の側にいれば良い。」


 ……結局僕は、エサなんですね。

”盾”に市内という言葉、信用出来るのだろうか……?


「ところで、ミヤビギ。」

 菊地は空になった2リットルペットボトルを僕に差し出した。

「喉が渇いた。腹も減った。何かよこせ。」




------------------------------------------------------------




 ------凪を本気にするって、そんな事をして何の意味があるのだろうか。

行動の動機が分からない。

確かめたい事ってなんなんだ?

聞いてみようか。


「……み、ミサキ、さん。」

 思い切って声を掛けた。

 返事が無い。

一瞬躊躇って、もう一度声をかける。


「みさきちゃん……?」

「……まぁ、良しとしよう。」


 返事があった。

呼び捨てにするにはとても抵抗があったのだ。

”ちゃん”付けなら反応してくれるらしい……。

それでも相当な抵抗があるけど、仕方あるまい。


「確かめたい事って、なんなのさ?」

「……私にも、分からない。」

 分からない?

さっきから、何度も『自分の確かめたい事の為に行動している』というニュアンスで話しているのに、その”確かめたいコト”が分かっていないって?


「そんなのって……。」

「分かって無い事を求める為に私は戦おうとしているんだ。レンヨウと戦ったあの日からだ。どうにも私の中に”もやもや”とした不確かな、何かが生まれたんだ。」


 いきなり彼女は立上がった。

《椿焔我》を包んでいた新聞紙を取り去る。

黒い鞘が露になる。

「……私は、その”何か”が一体なんなのか、それが知りたい。もやもやとさせたまま放置するつもりは無い。」



「葉矛!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。


 凪だ!

こちらに向かって駆けて来る。


 何故か制服姿だ。

なんで凪も制服なんだろうか。

流行ってるのかな、休日でも制服姿でいるのが。


「来たな!レンヨウ!!」


 聖樹は椿焔我を抜き、鞘を投げ捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ