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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
27/82

【刀を持った訪問者】010【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-10----刀を持った訪問者。



 その日、僕は”いつも通り”の休日を送っていた。

翼さんの話しでは、家にいる限りヤツ等は手出しをしてこないらしい。

1人で家にこもっていたらそれこそ襲撃を受けそうなものだが。

実際に凪は今まで一度もそんな事にはなった事は無いと言っていたし僕はそれを信じた。


 時刻はもうじき午後5時半程になる。

時計を見ながら、僕は手元に置いてあったペットボトルのお茶を飲み干した。

もともと中身の残りも少なかった。


 実を言うと今日『一応、最初に迎える休日だから、監視が目的だが一緒にいた方がいいのでは』と、凪に言われていた。


 けど、それは断ったのだ。

休日を削ってまで僕の保身をして貰うのは……、有り難いのだけど。

彼女に悪い気がしたし、攻撃が無いなら1人でゆっくりしたかった。


 僕はノートパソコンと睨めっこをしていた。

今まで起きた出来事を日記の様に纏めていたのだ。


 これを公開する気は無い。

けれど、仮に僕の身に何かあったとしたなら、家族が遺品としてコレを探し当て僕の居た痕跡を辿ってくれる。

仮に”黒歴史ノート”とか、”妄想乙”とか思われても一応は考える切っ掛けを与えれるだろう。

何故、僕が居なくなったかを。

事実だけ書いていれば必然的に辻褄の合う文章になる。


 変な組織に狙われて毎日が過ごし難い。

偉そうなことを言う様だが、家族にはこういう状況になって欲しく無い。

もっと言えば、他の誰であってもこの状況は味わって欲しくなかった。

だから、他の誰かが『切っ掛け次第で生活が変わってしまうかもしれない』という意識だけでも持つ切っ掛けになってくれれば。


そう考えていた。


 自分で言うのもどうかと思うが、痛い妄想だ。

内容ではなく、書く動機が、である。


 第一に、僕が死ぬ事前提なのは酷くネガティブだ。

だが、経緯を書き綴る事で僕自身が見落としている事を発見出来るかもしれない。

どの道この作業はやめないだろう。

時間も余っていたし、ある種趣味の様な感覚で行っているのもある。

そして、こうやってこれまでの出来事を振り返っておかないと、今までの出来事をまた疑ってしまいそうで。


 書いてある内容がファンタジー過ぎて僕の記憶を自分で疑いたくなるが、それでもこの書いてある事は現実のハズだ。

僕に実際起こった事柄だ。

受け入れなければ。



 あの後。

つまり、翼さんの説明を受けた後。

翌日から、平日はなるべく自然な学校生活を心がけた。


 朝は凪と登校する。

道中稀鷺がそれに加わる。

最初は気まずかったけど、僕も稀鷺も3日程で大分慣れて来た。

凪は、イマイチまだ稀鷺のテンションに着いていけてない様子だったが。


 昼休みはやはり凪と食事。

回りの視線が当然痛いのだが、稀鷺がいる場合のみ視線を気にしなくて済む。

稀鷺がいるだけで大分見られ方が違うのだ。


 学校にいる間はとりあえず自分の身の危険を気にしなくてよかった。

学校では、普通の学生として『普通に』過ごせる。

凪もいるし、安全なのだ。

家にいる時よりリラックス出来ているかもしれない。


 それから放課後。

やっぱり、一緒に下校。

頼りきりで申し訳ない感じはするが僕だって助かりたい。


 嫌でも当分は凪に頼りきる事になるだろう。

当分がいつまでになるかは分からないけれど……。

卒業までにはこの事柄も解決するといいが。



 ふと考えを巡らせてみる。

僕自身は結局なにも変わらず、相変わらず自分の身すら守れない程に脆弱であった。

進歩があったとすれば……。

そうだな。大分、異性として凪を意識しなくて済む様になって来たこと。か。


 慣れたのかもしれない。

普段は普通に友達として、話題も無いが喋って時間を潰す事が出来る様になって来た。

コレは僕にとって大きな進歩だと思う。

いろいろな意味で。


いちいち、話しかけるたびに勇気を振り絞っている様では、普段も、いざというときも、なにかと不便である。



 果たして、それが本当に進歩と言えるだけの事柄なのかは分からないが。

しかし、僕にある変化などその程度のものだったのだ。

短期間で大きく変われる訳が無い。




 週末までそうやってやり過ごした。

幸い敵のヤツ等は攻めてこなかったし、なかなか楽しい一週間を過ごせた様に思う。

日常が変化したからか。

授業中にメリハリがついて大分集中も出来る様になった気がする。

変化があると大分心持ちや行動力が代わる。

僕はそういう人間だったらしい。


 分かってる。

そんな事言って浮かれてる場合じゃ無い。

だけど、そうやってポジティブにもモノを考えていかないと、いつか壊れてしまいそうなんだ。





 数分後。

時刻は40分程になるか。

この一週間のことを振り返り、思い出しながらPCに打ち込んでいる時だった。

突然、玄関のインターホンが鳴った。


 翼さんの失言を思い出し、笑いがこみ上げて来た。

そしてその後銃が暴発した事を思い出し、気持が沈んだ。

まだ花瓶の残骸は片付けてない。

今日の内に片付けなくてはならないだろう。


 しかし、こんな時間に誰が訪ねて来るというのだろう。

稀に稀鷺が遊びに来る事はあるが。


 いや、その発想を今書くのはいい訳だ。

この時、僕は全く警戒をしていなかった。

完全に無防備に、なんの考えも持たずに玄関に向かった。

またインターホンが鳴る。


「ハイハイ。今開けます……。」

 チェーンとか、かけておけば良かった。

自分の置かれている状況を考えれば、それはあまりにも軽率な行動だった。

次からは安全を考えてそうする事にしよう。

鍵を開けた瞬間、扉はもの凄い力で開けられた。


「……、!!」

 声を上げる事も出来ず、僕はただ身をすくませて後ずさりした。

扉は蹴破られたと表現しても差し支えない。

あまりに強く開けられたため、オデコをぶつけて非情に痛かった。

「……ミヤビギ ヨウム、だな?」

 名前を呼ばれて顔を上げる。

この時僕は、痛さで声を上げまいと必至に痛覚と戦っていたんだ。

目の前に立っていた”少女”と目が合う。


 背丈は僕と同じくらい。

恐らくは年齢も大差ないだろう。

黒い髪は肩にかかってまだ余裕がある程に長くて、僕を見る眼差しは鋭く冷たい。

手に筒状に丸めた新聞紙を持っている。


 彼女を見て、外見的特徴で一番重要だったのは”南紅葉高校”の制服を来ていたコト。

自分の学校ですら女子生徒との絡みがない僕が他校の生徒と、ましてや女子生徒と面識がある訳が無い。


 目の前にいる者が何者なのか、一切の心当たりが無かった。

何故向こうは僕の名前を知っている?


 僕は身震いした。

その鋭い眼差しに見抜かれて、また彼女の素性が分からず困惑し、恐怖して。

「答えろ。ミヤビギ。」


「は、はい。そう、ですけれど……。」

 姿勢低く謙虚に答えた。

なんなんだろうか。

間違いなくこの僕に用事がある様だ。

僕が答えるが早いか、彼女は新聞紙を投げ捨てた。

正確には新聞紙の『部分』を、だ。

その中には黒く、反りのある長い棒が閉まってあった。


「あたしを、恨むな。」

 その棒には”握り”があった。

シュルン、と滑らかな金属音がして、棒から銀色の棒が……。

違う、コレ違う!棒じゃない!!

「に、日本刀……!?」


「出会って間もないが、サヨナラだ。」

 呆然と立ち尽くしたままだったら僕の首は飛んでいただろう。

……ゴメン、訂正だ。

首が飛んだかは分からない。

胸の辺りが引き裂かれることになったのは確かだ。

反射的に後ろに下がったのが良かった。

それと、腰が抜けて尻餅をついたのが良かった。

振り上げられた刀が僕の服をかすめた。


「な、なんななな!?」

 いきなりすぎてまともに喋れない。

身体の動きも悪い。

パニックに陥ってまともに行動を考えられない……。

身体はガチガチに硬直して、自分の身体なのに正確に動かない……!

だけど、『逃げなくちゃ』いけないのは分かった。

そりゃ、もうはっきりと。



「そうだ。抵抗してみせろ……!」

 今度は刀が振り下ろされる。

間一髪。

立上がろうとしてまた尻餅をついて、結果的に斬撃を避けれた。

せ、整理しろ!?

今の状況からして……。

刀を持った人が現れて。

二度、僕を狙って刀を振って……。


あれ?

僕、殺されかけてる!?


「じょ、冗談じゃない!!」

 こんどこそ立上がって部屋の奥に走った。

当然、一瞬でリビングに着く。

ここでこれ以上逃げ場が無い事に気がついた。

周りを見渡す。

なんでもいいから逃げ道を探す。

考えろ、どこからなら逃げれる!?


 ベランダ……?

ダメだ、非常用の逃げ道なんて使ってる時間もない。

そもそも非常用ハシゴとかそういうものがあったかどうかも定かではない。


 じゃあトイレ?

トイレは玄関付近だ!

何を言ってんだ、僕は!

しかもトイレなんて入ってどうするんだよ!

それこそ『詰み』だ。

トイレに入ったらそれ以上に逃げ場なんて無い!


 そうだ、窓から飛び降りよう!

……僕は馬鹿だ。

マンションの4階から飛び降りて助かるものか。

仮に助かっても病院行き。救急車が来る前に殺される。


 後ろから少女が迫ってくる。

向こうからしたら僕を追いつめたも同然なのだ。

彼女は焦る必要は無い。

だったら僕は精一杯焦る。


 不意に、目の端に割れた花瓶の破片がそのままになっているのが映る。

何も考えれなかったが、咄嗟にそこまで逃げる。

僕の脳は本能的に、無意識に最善の策を考えついていたに違いない。

今思い返しても、それが最善だったかどうかは定かでないけれど。

 振り返ると”彼女”がいた。

黒い髪に手をかけ、その青い瞳は僕を見据えている。

僕は部屋の角に追いつめられていた。


「……あっけないな。もう詰み、みたいだぞ?抵抗はしないのか?」

 どこか、僕を馬鹿にしたような口ぶりだ。

そして、随分と余裕そうだ。

この娘は、人を攻撃する事をなんとも思っていないのか?

さりげなく花瓶の破片を掴めるだけ手に握りしめた。

手の平を切ったが気にしている余裕は無い。

「それじゃあ、これで終わり……。」


 彼女が刀を構え直した瞬間。

この瞬間を待っていたんだ!

この瞬間こそが、付け入れる唯一の隙であると僕は判断した。

感情ではなく、本能がそう判断した。


「お、終わりって決めるな!」

 右手に握りしめた破片群を力一杯投げつける。

手の平から血が雫になって足れる。

大した怪我じゃない。

包丁で指を切ったとき程酷い怪我ではない。

だがいつも通りならきっと痛がったり、何かしら反応を示していただろう。

非常事態や、危険というものは人からそういった『いつも通り』さえ奪ってしまう。

このとき、当然僕は手の平に出来た、些細な切り傷を気にすることなど、みじんにも無かった。


「なッ……」

 僕の、この反撃は予想外だったのだろう。

意表をつかれた彼女は咄嗟に身を守るべく両手で自身を庇った。

「コノッ!!」

 左手の破片群を投球する。

隙が出来ている!

2回目を投げると同時に全力で彼女の脇を走り抜ける。


「くッ!!」

 咄嗟に刀が振り上げられたが、無茶苦茶に振り回されたそれが僕に当たる事は無かった。

それにしても、間一髪。

もし一瞬でも走り出す判断をするのが遅かったら。

もしかしたら、太刀筋に捕まっていたかもしれない……。



 そのまま、全力で玄関に向かう。

玄関の扉は、先程彼女が乱暴に開けたそのままになっていた。


 玄関で靴を履く余裕は無い。

置いてある靴を掴み、全力で扉を閉めてエレベーターに走った。

ご近所さんの部屋の前を靴下で全力で走り抜ける。

見た目的に端から見れば謎過ぎる行動だが。

そんなの気にならなかった。

気にしていられる程の余裕も無い。

それくらい、かつて無い程に僕は必至だった。



 エレベーターに辿り着いた僕は、まず神に感謝した。

”天”は”神”はまだ僕を殺すつもりは無かった様だ!

ちょうど上の階からこの階に降りて来た人がいたのだ。

ここで足止めを喰らってたら詰んでいたかもしれない。

降りた人に、すれ違い様に小さく頭を下げエレベーター内部に駆け込む。

なるべく素早く1階行きのボタンと”閉じる”ボタンを押した。


 急いで!お願いだから早く扉閉まって……!

必至に閉じるボタンを連打した。

ゲームの連打コマンドより頑張って連打入力してたと思う。

壊れたって知るものか。

こっちは命がかかってるんだ!


 僕の部屋から、少女が飛び出して来た。

大分タイミングが遅い。

花瓶の破片は思ったよりも足止めになったようだ。

こちらを見るなり、まっすぐに走って来る。

手には黒い棒、もとい鞘に納まった日本刀を持って堂々と走って来る。

だがエレベーターの扉が閉まるのは、彼女がこちらに着くより早かった。

結構な余裕があって扉が閉まりきりエレベーターが動き出した。


 肩から力が抜ける。

へなへなと、その場に座り込んでしまった。

腰が抜けて立てそうにない。


……、なんとか、この場は逃げ切れた様だ……。

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