表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
26/82

《偵察。考察。状況判断》 009-#《城ヶ崎》

【個体の武器】

【城ヶ崎】-00-8----説明、思考、反撃への糸口ー。 《偵察。考察。状況判断。》



「あっつい。暑いぞ……。」

 ……6月。恐るべし6月。

暑いのだ。ただひたすら。

自分の目的を忘れそうになる程に暑い。


 オレはあるマンションの外に立っていた。

入り口を眺めながら1人でぼやいていた。

 ここに例の雅木少年がいるそうだ。

正直なところオレ個人も雅木 葉矛の事は直に一度見ておきたいと思っていたし、その機会は遠からず取るつもりだったのだが……。

まさか、こんなに早くなるとは。

オレはここに偵察に来たのだ。


 こうやって聞くとオレって下っ端みたいだろ?

違うんだ。

オレはある程度上に立っている、偉い立場の人物なんだ。

そのはずなんだ!


 ため息がもれる。

ああ、何でオレが直々にこんなトコロまで出向いてこにゃならんのだ。


……暑い。

汗が頬を伝う。


 脳裏にオレがここに来るはめになった原因。

その時の映像が頭に過る。


……あの女。

オレは、オレは仮にも『雇い主』だぞ……!


 オレの服装は、非情にシンプル。

上下黒のぴちっと締まったダークスーツ。

ますます、暑苦しい。

汗で凄く不快な気分になるし。黒は熱を吸収し易い。

その上スーツは通気性が悪い。故に余計に暑さを感じることになる。

悪い事だらけだ。



 それでも真昼間ではないんだ。

大分日は傾いている。

昼間よりマシだと思え。

思考を切り替えろ。オレ。

コレは仕事だ。

既に部下が1人偵察の出来るポジションを確保しているはずだ。

誰でもいいから一番近くのオレの班の部下を1人、待機しておく様に現場には連絡を入れたのだ。

彼はもっと暑い思いをしているに違いない。

雅木葉矛は既に帰宅していると聞く。

さっさと偵察を済ませてしまおう。

帰って冷房に当たってアイスでも食べるのだ。



「……お前か。この場に待機している部下ってのは。」

 マンションビルの側面。

その男は立っていた。

ソイツは何も喋らず、ただ小さく礼をした。

またため息が出そうになる。

コイツは暑さからいつも以上にローテンションになっている様だ。


「……平井。器具の準備はできているか。」

 そう。

以前から平井と命名したその男がそこに立っていた。

コイツも黒スーツを来ている以上、オレと同じ苦しみを味わっている訳で。

少し親近感を抱いた。


「ハイ。この位置でコイツを使えば中が見れるはずです。確認すべき点は部屋の広さ、家具の配置、玄関の距離、部屋の人物です。」

 丁寧に確認までしてくれた。

モチロン、何を見に来たかは分かってるさ。

忘れやしない。

忘れそうになったけれども。

「分かっている。で、器具って……。どれだ?」


「いえ、コレですが。」

 ……この黒服はフザケているのだろうか。

この男が持っている物は、例えて言うなら潜水艦が水面上を見る為に使うスコープと同じ様な物だったのだ。


「そんなわけないだろ……?器具って、エージェントの使う器具ってもっとこう……カメラ付きラジコンヘリとか、超高性能マイクロカメラとか……そういうのじゃないのか……?なんだよ。コレ。名称すらわからないぞ……?」

 目の前の男はサングラスの位置を”クイッ”と直した。

オレに良くわからないスコープのような物を渡す。


「……とにかく、私はこれで。任務に戻らせて頂きます。」

 オレはスコープを受け取る。

その上でヤツを引き止めた。


「ちょ、ちょっと待て。お前、ここで一緒に偵察するんじゃないのか……?」

 平井はもう一度サングラスを”クイッ”とした。

「いえ。平井、と呼ばれなくするタメには、少しでも早く実績を出さなければならないので。私は仕事に戻ります。」




 ……1人になってしまった。

頭上を見る。

4階。窓が開いているのはあの階だけだ。

あそこが雅木の部屋だ。

良くもまあ都合良くあそこだけ開いているものだ。

都合が良いのはオレにとってありがたいことなのだが。


 やる事は簡単だ。

スコープの先端部分をあそこの窓にあわせてのぞき口を覗けばいい。

……なんか、外見的に締まらないな。


 文句ばかり言っていても何も始まらない。

とりあえず行動を起こそう。

「……っとと。」

 スコープを立てようとして、よろける。

クソ……。変に重いな……。

「……お、おお??」


 バランスを崩した……!

マズい……立て直せない……!



 思わず目を瞑った。

やっちまった!

ガシャーンと大きい音を立ててスコープが倒れ……。


……、……。



 ……無かった。

途中で『支え』が効いた。

何が起こったのかと目を開けた。

「……こんなところで、何をしているのです。貴方は。」

 目の前に居たのは、見慣れた顔だった。

赤い髪。青い瞳。

すました無表情。


「……それはオレの台詞だ。リコ。」

 李解 理子。

お邪魔虫が何故こんなところにまで出没しているんだ?


「私はお邪魔虫じゃありませんよ。」

 言葉に出していた様だ。

ま、コイツの好感度が下がろうが何だろうが構わん。

ところでコイツ。

倒れ掛っていた、つまりある程度勢いのついたスコープを”片手で”受け止めたのだが。

見た目以上に力があるようだ。

知らなかった。

ちなみに片手にビニール袋を持っている。

コンビニにでも寄ったのだろうか。


「まあ、”李解 理子”も”お邪魔虫”も大差はないだろう。意味は同じだ。コレを受け止めてくれた事には感謝するが、何でお前がここに居る。」

 スコープの体勢を直し壁に立て掛けた。

このクソ重い事重いコト。

もう少しまともな器具は無かったのだろうか。

「……休暇ですので。」

 彼女は澄まし顔で言う。

暑い中でコイツだけ涼しそうだ。


「休暇……だと……?」

 休暇ってなんだ……?

しばらく頭の中で『キュウカ』と言う言葉を復唱してみた。


「……うちの会社に、そんなシステムがあったのか……?」

 全く知らなかった。

何せ土日含めて常に働き詰めだったから……。

考えてみるまでもなく酷いブラック企業だ。

休みが欲しい。

目の前にいる同僚はその休みを満喫している……?


「申請したら通りました。休日に何処に居ようと私の勝手です。貴方に詮索される言われはありませんし、したらセクハラで訴えます。」

「お前の休みの過ごし方なんて誰が知りたいと思うんだ、このど阿呆が。自意識過剰にも程がある。むしろいつもオレの情報をかき集めているのはお前だろうが。そっちこそ大概にしないとセクハラで訴えるぞ。」

「私は情報班ですから。社内の人物の情報を持っているのは必然であり当然だと思いますが。」

 理子はため息をついた。

やれやれ、と首をふり、それからビニール袋をあさり始めた。


「そもそも、何でお前はいつものスーツを着ていない。正装と言う事で一応は義務付けられているはずだが?」

 理子はいつも女性物の、やはりダークスーツを着ているのだ。

だが、今目の前にいる彼女はなんというか、肩が出てて、全体的に白いふわりとした服で、スカートで……。

ともかく、涼しげな格好をしていた。

つまりいつも通りスーツを着て行動しているオレと違って、非情に涼しそうであり羨ましかった。


「休暇ですので。」

「……クソ。羨ましい。」

 ここは素直に反応した。

何故だが、袋をあさる手を止めオレをじっと見て来た。

「なんだよ?」

 その視線が気になって、オレは即反応を示した。

いつもだったらこの俺の天性のスルースキルが働くはずなのだが。

やはり熱さは人の判断能力を低下させるらしい。


「羨ましい、ですか。」

 ワザとらしく躊躇いがちな様子で繰り返す。

なんだってんだ?コイツ。


「城ヶ崎、女装の趣味があるなら私の私服をお貸ししま------」

「その発想と理屈はおかしい。全体的に。お前は狂っている。」

 ……コイツの考え方って一体どうなってるんだ?

何処をどうすればそういう発想になるんだ?

”羨ましい”ってのは普通に考えて『涼しい』ってトコロに決まってるだろ。

常識的な考え方をすれば普通そうやって解釈出来るだろ。

そもそも女装するにしたってお前の私服などお断りだ。

……いや、絶対やんないぞ?する訳が無い。


「私は正常です。少なくともこんな酷い暑さの中むさ苦しいスーツ着て行動している貴方よりは。」

「仕事なんだから仕方ないだろ。オレだって、出来れば普通に涼しく過ごしたいんだよ……。」


 ダメだ。

こんなヤツに構っていたらいつまでたっても作業が終わらん。

理子に背を向け、オレはもう一度頭上を見遣る。


 4階上の窓までの1・2・3階の窓は閉まっている。

いずれも閉まっている窓は外の見えないタイプの曇ったガラスだ。

これなら、直線的にスコープを伸ばしても途中の階に居る住民にバレる心配は無い。

更、周りは背の高い建物で囲まれていて、周囲に直接この建物のこの側面を見る事が出来る場所は無い。

それは事前に調べて来た。

都合のいい条件は揃っている。

それが覆らないうちに済ませてしまおう。


「城ヶ崎。」

 ……人がヤル気をだして仕事に向かおうという時に、理子はまた話しかけて来た。

お邪魔虫め。

オレはそっぽを向いて仕事に集中する仕草を見せた。


「城ヶ崎。」

 もう一度話しかけられる。

今度は首筋に何かが当てられた。

思わず飛びのいた。

当てられたそれはとんでもなく冷たかったのだ。


「な、なんだよ!」

 理子は何かを差し出していた。

「アイス、ですが。」

 依然、オレにそれを差し出している。

注意深く理子の持っているそれを見る。

確かにアイスだ。

良くあるコンビニとかで売っている安いアイス。

確か79円で買える。


「……だからなんだよ。」

「要りませんか?」

 オレは首を傾げた。

前後にコイツの発した言葉を考えて、察した。


「くれるのか?」

 このアイスを。

ちょうど、というべきか。

先程から喉も乾いていたし冷たい物が欲しかった。


 飲み物じゃあないにしろ目の前にあるアイスは今のオレにとって非情に魅力的な物だった。

手を伸ばし、途中で止める。

アイスと理子の顔を交互に見比べる。



「なんでしょう?」

「……いくら、だ?」


 考えても見たらコイツがなんの利益も無しにオレにモノをよこすとは思えない。

行動動機をはっきりさせておかないと、コイツからはモノを受け取りたくない。

非情に不安だ。


「流石に、それでお金を取ろうなどとは考えていませんよ……。」

「金じゃなくても、何か取るつもりは無いか?例えば情報とかでも……。」

 突然、理子はオレの腕を掴んだ。

グイッと引き寄せ、手に強引にアイスを握らせた。


「譲る、と言っているのです。何かを取ろうなどと考えたりはしていません。さあ、さっさと食べるがいい、です!」

 ……そっぽを向いてしまった。

機嫌を損ねてしまったようだ。

だが、いつもの振る舞いや行動を考えれば疑わざる追えないヤツなのだ。コイツは。

しかし、本人が”譲る”と言っている以上、これ以上疑う必要は無い。ハズだ。

いろいろ注意をしなければならないヤツではあるが、コイツは嘘はつかない。

信頼はしているのだ。

仲間として。


「悪かった。アイス、ありがとうな。」

 礼と謝罪をいい、オレはアイスの袋を開けた。

多少溶けかかっていたが、急いで食べれば大した問題にはなりそうにない。

ソーダ味とコーラ味の二種類があるのだが、敢えてコーラを選んだのはコイツの趣旨だろうか。


「……、……。」

 横で理子が、じっと見て来る。

ただ、見ているだけなのだが……。


「……、……。」

 ……落ち着かん。

作業の手を止め、理子に向き直る。


「やっぱり腑に落ちない。なんで突然オレにアイスなんてくれるんだ?お前はオレが嫌いなハズだろう?」

 問いかけると理子は考え込んだ。

しばらくして、一言。


「……休暇ですので。」

 そう返して来た。

俺は悟った。

コイツに深く追求しても詳しく答えはしないだろう……。





「------、じゃ、頼んだ。そっち持っていてくれよ?」

 このスコープを1人で支えるのは不可能だと判断したオレは理子に手伝って貰う事にした。

どうせ暇しているならと、ダメ元で頼んでみたら意外にもあっさり引き受けてくれた。


「これでいいですか?」

 やはり1人で支えるよりよほど楽に事が進む。

理子……。

この同僚は実は怪力っ娘だったのか。

本気で怒らせると恐いタイプだな。

同時に、本気で起こらせると愉快な気分に浸れるタイプでもある訳だが。


「考えてもみたら、貴方程の立場の人が何故こんなトコロに直々に出向いているのです?偵察なら部下に命令すれば良い事。この場に出向くのは不自然ですし、危険だと思うのですが。」


 理子の言う事は正しい。

だが、そうせざる追えない状況なのだ。

「宜しい、アイスの分は答えよう。今オレの部下でこの調査を”任せれる”人材が居ないと言う点が1つ目だな。この調査は、ある作戦を行う為に必要な事だ。絶対に失敗は許されん。」


「作戦、ですか。一体どんな?」

 オレはただ首を振った。

今、コイツに言う訳にはいかん。

『いろいろな意味』でな。


「そこまでの情報が私のアイス分と同等ですか。随分と安いですね。」

 理子は皮肉じみた口調で言った。

安物のアイスでそこまで情報をせびられてたまるか。

まあ、それなりに嬉しくはあったのだが。


「前言撤回だ。また今度、違う形で礼はするよ。」

 満足してくれないなら、別の手段を考えるしか無い。

今度、ジュースでもおごってやろう。

謙虚に9本程。


「違う形、ですか。……期待は、しないでおきます。」

 壁に沿う様にスコープの先端部分を伸ばした。

伸ばせば伸ばす程、先端が重くなる。

その分、理子には踏ん張ってもらう。

オレは急いで落ち着き慎重に手際よく準備を整えていく。


「おいおい。オレは嘘は言わないぞ。仕事とは関係の無いところで、今度何か返すさ。」

 先端部分が目当ての雅木葉矛の部屋の位置に届いた。

やはり、部下に頼めば良かったかもしれない。

冷静になって考えてみればこんな変な物を使って男の部屋を覗き見している俺は、他から見て大分『アレ』な人に見えるだろう。

少なくとも、オレ自身が客観的に見たらそう感じる。

仕事だものな。しゃあない。


「……期待はしませんよ。」

「それでいい。」

 若干ではあるが、この場に理子が居てくれて良かったと思った。

こんな作業、1人でやってたら疲れるし萎えるしで大変だったろう。


 さて、やっとの事で部屋の中を見れる様になった。

壁沿いにちゃんと伸びきった機材を眺めながら、オレは一息入れた。

……これ、どうやって片付ければいいんだろうなぁ。

「調査、するならするでさっさと終わらせたらどうですか?」


 理子に言われるまでもない。

オレだってさっさと済ませて帰りたい。

冷房のある部屋に。

身体はもう少し休ませて欲しいとせがんで来るが、なんとか誘惑に打ち勝ち作業に戻った。

のぞき口を見れば、上の様子が分かる。

僕のお仕事は、内部の様子を簡単に纏めて文字にするだけの簡単なお仕事です。


「……何が見えますか?」

 隣でそわそわしながら聞いて来る。

「ちょっと待ってろ。今見てる。」

「様子くらい、すぐに答えて欲しい物ですが。」

 一度、覗き口から目を離して理子の顔を見る。

コイツ、覗きたいのか。


「覗きたいなら代わろうか?お前もそういう年頃だろうしな……。」

「そ、そういう事を言っている訳では……!」

 理子の事は置いといて、スコープから見た内部の様子だが……。

何も見えない。

正確には、花瓶しか見えない。

窓際に花瓶が置いてあった様で他には何も見えない。


「……、……。」

 だいたい一分くらい花瓶を眺めていた。

実に無意味な時間だった。

オレは無言で片付けを始めた。


「城ヶ崎、目的は果たせましたか?」

 理子が訪ねて来る。

なんだか、今日のコイツはやけに愛想がいい。

裏があるんじゃないかと疑いたくなるくらい。

手伝ってくれた事とアイスをくれた事。

どちらにも感謝している。

それだけに、まさか『何も見えませんでした』と答える訳にもいかず……。


「……理子、これ、どうやって片付けようか?」

 話題をそらすしか無かった。

すまん。

すまん理子。

コイツに対して、これほど心から罪悪感を抱いたのは初めてだ。

しかし顔に出ない様に注意せねば……。

 この合理主義者は無駄な事を嫌うからな。

自分のした事が無駄だったとわかったら、それこそ恐ろしい。

腹いせにありもしない妙なウワサを流されるかもしれない。

子供の様な発想だが、コイツならやりかねん。

そういう性格だからな。


「回収は部下に指示すればいいでしょう。私たちはこの場で解体だけ……。」


 『バリィン!!!』


 突然、頭上でガラスの割れた甲高い音が聞こえて来た。

それと同時にガラスの破片が振って来る。

自身の身体を庇おうと身を屈めた。

目の端に理子の姿が移る。

私服だから肌の露出が多い……。


 咄嗟の判断で理子を押し倒し、庇った。

ガラスの破片が降り注ぐ。

破片は4階の高さから落ちて来た訳だが、運良く俺に怪我は無かった。

暑い時、スーツを着ていて初めて『得をした』気がする。


「……あ、城ヶ崎。……その、ど、どいて……ください。」

 すぐ目の前に理子の顔があった。

とりあえず無事な様だ。

俺は服にかかったガラスを振り払いながら、立ち上がった。


「悪い。リコ、怪我は無いか?」

「……私は、大丈夫です。」

 周りを見渡し、状況を把握する。

散らばったガラスは、頭上のスコープのレンズ部分のもの、みたいだ。

「まさか、貴方……その、随分と積極的、なんですね……。」

 何を言っているんだコイツは。

オレは理子を無視する事にして、機器を素早く畳んだ。

……何故割れた?

機器の先端部分をおろし、原因を探る。

原因はすぐに分かった。


「……銃弾の後がある。」

 ぼそりと呟いた。

何故だか頭上にあるあの開いた窓ガラスから、銃弾が飛び出て来たのだ。

ほどなくして部屋の窓は閉まった。

「……悟られましたか?」

 オレはただ頷いた。

確証はないが、多分見つかった。

そうでなければ、一般人があんな小窓から弾丸を垂れ流したりはしない。


「レンヨウ、か。」

 また小さく呟いた。

雅木自身にこのような事が出来るとは思えない。

銃を扱う事が出来るとは思えないし、そもそも持っているはずが無い。

機材に気づくことが出来る程の洞察力、感を備えているとも思えない。

恋葉だったら、前に送った部下の銃を奪っていてもおかしくない。

『拳銃を損失した』との報告もあった。


 思った以上に、恋葉は侮れない。

姉の方にしろ、妹の方にしろ。

「あの部屋に恋葉が居たなら、やはり雅木は”使える”な……。」


 オレは小さくほくそ笑んだ。

今日の作業が完全に無駄になった訳では無いので、それが嬉しかったのだ。


隣で理子が首を振った。


「レンヨウが居たと断定するには、少し無理があると思いますが。レンヨウのその姿は捉えられていません……。」

なんだ、そんな事か。

俺は親切にも説明をしてやった。


「あの部屋に拳銃があって、それから弾丸が放たれた。拳銃は先日部下が彼女等に奪われたばかりだ。それで十分、恋葉がここに居るという根拠になるだろう。ミヤビギ自身が銃を手に入れ、それを扱えるとは思えん。」


 機器をなるべく小さく畳んで適当なところに放置した。

後で誰かに回収してもらおう。

この場で持って帰るには、コレは目立ちすぎる。


「これ以上ここに居る意味は無い。リコ、休暇取ってたんだろ?手伝ってくれて助かった。」

 結局、コイツは休暇を使って俺の手伝いをしてくれたのか?

何かの『ついで』なのだろうが。

その”何か”がなんなのか、気にはなるが追求したらセクハラらしいので自重を強いられている訳で。

永遠の謎、かもな。


「いえ。貴方に、思わぬところで助けられたのは、なんと言いますか……。」

「気に触ったか?」

 若干の煽りのつもりだったが、理子は真面目な顔で首を振った。


「そういう訳では……。感謝は、しています。」

 歯切れが悪い返事しか返ってこない。

感謝している、と。

素直にコイツがそういった事に、オレは驚いた。


別に悪い気はしなかったが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ