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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
23/82

【説明、没落、下手な慰めとカラゲンキー】008-2/2【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-00-8-1/2----説明、没落、下手な慰めとカラゲンキー。




 ……まぁ、それはいい。

 僕の口下手は今に始まったことでは無いハズだ。

 こういう場面で上手く切り返せない時点で、きっと昔から無自覚な口下手だったのだと納得した。

 それより、そんなことよりも気になることがある。

 凪がなんだか違う様に感じるのだ。

 印象と違うというか、知ってる感じじゃないというか。

 具体的には元気が無い様な気がする。

 表情からだろうか。肩をすくめた仕草からだろうか。

 何故だか凪が酷く暗い人物に感じる。

 少なくとも今日の朝まではこんな感じはしなかったから、ハッキリと”違う”と思った。

 確かに、まだ彼女とあってから日数なんて全く経ってない。

 たったの二日……。今日で二日目だ。たった今が、彼女と会ってから二日目の夕方だ。

 全く面識なんて無かったし、接点も殆どこの二日に集約されている。

 そんな僕でも、彼女が人と接する時の態度とか、そういうのはちょっとだけ分かってるつもりだ。

 正しく言うなら、分かってるというよりもそれだけ彼女の態度は僕の印象に残っていたのだ。

 凪は僕と喋るとき、僕が見返さなくても常に僕と顔を、目を合わせて喋ってくれていた。

 ……正直に言えば、だからこそ、僕も見返したりし辛かったのだが。

 いや、止めよう。視線を返せなかったのは彼女のせいでは無い。

 どうせ僕には女の子の顔をガン見するだけの勇気は無い。

 ともかく、凪はともかく僕の顔を見て話してくれていた。

 いつでもそう。少しも目を離さないのだ。

 昨日、僕を励ましてくれた時も、今日の朝、僕の家でジュースを飲みながら話した時も。

 その彼女が、今は俯いてこちらに顔を向けてくれなかった。

 それは僕の目にとても『不自然に』映った。


 ーーーーもしかしたら。


 稀鷺が僕を見た時、もしかしたらこんな風に思っていたのかも。

 僕は、こんな風に彼の目に映っていたのかもしれない。

 けれど、『それだけ』じゃ追求する気になれなかった。

『元気が無さそう』だから、なにかあったのかと追求する気にはなれなかったんだ。

 そうだ。『それだけ』の変化。ほんのちょっとした変化。

 こんな微々たる変化、原因はいくらでも予想は立てられる。

 ただ暑さのせいで顔を上げたくなかっただけかもしれない。

 職員室でよほど”くどくど”とした注意を受け、疲れたのかもしれない。

 いくらでも連想出来る、自分には関係のないちょっとした変化。

 この、僅かな変化だけでも、人に『何かオカシイ』と思わせるのには十分すぎるのかもしれない。

 ただ、この小さな変化だけでは疑問に思ったとしても追求は出来ない。

 だって、それに値することでは無い様にも思えるのだ。


 ……これは、その場で、一々そうやって考えた訳じゃない。

 ただ、深く考えるまでもなく、その場で追求するには値しない気がしたのだ。

 だから、後で結論付けた。


 そういえば稀鷺も、『昨日から』僕がヘンだったと言っていた。

『昨日から』、僕の心境の変化を、行動や言動で悟っていたのだろう。

 はっきりした確信を持てた訳じゃないけど『なんとなく』、『ヘンだな』。

 そんな感覚を、持っていたのだろう。

 しかし、”昨日から”僕の挙動に違和感を覚えてた割に、実際に本人から『ヘンだ』と言われたのは『さっき』だ。

 つまり初見ではその変化を追求して来たりしなかったということだ。

 きっと稀鷺も、今の僕と同じ心境だったのだろう。

 ちょっとの違和感は追求するに値しない。

 ただし、それが積み重なったから”ちょっと”では無くなったのだ。

 気になって仕方が無くなったから、『ヘンじゃないか』と追求するに至ったのだ。


 ーーーー暑さからだろうか。無駄に、一つの事に考えを巡らせてしまった。

 まるで心理学か哲学みたい、かな?

 その方面に詳しい訳じゃないんだけど、勝手にそう思った。


 いや、”思った”で済むことじゃない。

 今考えた事はそれじゃ収まらない

 違うんだ。今の事柄は、今の僕には必要な知識だ。


”『重ねれば』人が注目する程の変化になり得る事でも、回数を踏まなければ大した事態にはなりえない。”


 これはきっと重要なことで、普段の生活もこれさえ踏まえれば大分振るまいを制御出来るのではないだろうか。



「……君のさ。」

「……!?」

 考え中に凪に話しかけられたものだから、思わず飛び退いて身構えてしまった。

 反射的に声のした方向(恋葉 凪)から身を離し、変に凪に対して戦闘態勢を取る。

 考えで頭がいっぱいの時に話しかけられたから、思わずの反応だった。


 ……そして、当然の様に訪れる無言。

 酷く寒くて、夏なのに寒くて周りが凍り付いていて……。

 冷たくて、どうしようも無く対応に困る硬直が辺りを包んだ。

 この沈黙の中で動いていい気がしなかったから、そのままのポーズをキープする。

「……あ、えっと……なんか、ゴメン。」

 何故か謝られた。

 それで硬直は溶けた。

 止まっていた時が動き出す。

 ……にしても嫌な溶け方だ

 気の聞いた事の一つも言ってやれないものか……。


 ……頭上でカラスが鳴いた。

 僕も泣きたい。

 無性に叫びたい。

 それをしたら、当然恥の上乗せをする事になるのだが。

 理解してるから理性は拒む。

 当然だ。

 けれど何故か本能はそれを望む。

 駄目だって。

 凪がこちらを向いていないのがまた、心に何かを突き立てる。

 考え過ぎか? 追撃にも感じる……。

 クソ……。

 これじゃただ痛いヤツじゃないか。

 自分の行動、無意識の反応に深く後悔した。

 思い出しただけで顔と耳が熱くなる……。

 よりによって、凪の前で、こんな……。


「……えっと、それでさ。君がいたからボクは早く帰れたんだ。ちょっと感謝してるよ。」

 頭の中で悪態をついていたら、それを遮るように凪は言葉を発した。

 良い機会だったので、僕も思考を切り替えてさっきの”アレ”から逃げ出した。

「ぼ、僕がいたから?」

 困惑する。

 今回僕は、凪から目を背けなかった。

 凪がこちらを見ていなかったからだろうか。

 どのみち、普段の僕が見たら驚愕するだろう。

 あんな恥ずかしい事した後で、女子の顔を見ようと出来るなんて! 等とコメントを残すだろう。

「そ。君が校門で待っていることを姉さんに説明したら、話しをさっさと切り上げてくれたんだ。君を逃げる為の材料にしたみたいだね、これじゃ。」

 考えるように、空を見上げながら凪はいった。


 ------その姿は、何故だがモノ哀しかった。

 空を見上げた彼女を、僕は黙視した。

 空を見上げている。

 それだけなのに、彼女がどこか辛そうで、僕は哀しかった。

 ……いや、哀しくなった訳じゃない。違う。その表現は間違ってる。訂正しよう。

 凪が哀しそうにしている。そんな風に感じたから。

 僕はそれを見て、”心配”になったんだ。

 ……何故だろう。

 なんで、そんな事を思ったんだろう。

 空が夕焼けで真っ赤だったから?

 さっき、僕が冷たい空間を生んでしまった後だったから……?


 ------全部違う。


 彼女に纏わる『雰囲気』が原因だ。

 彼女が空を見上げていた事、その姿。

 彼女がこちらを向かない事。

 彼女の言葉が、どこか弱々しく聞こえた事。

 全部があった(積み重なった)から、僕は凪を見てモノ哀しく感じたんだと思う。


 ------積み重なる”違和感”は相手に疑問を持たせる。


 ------唐突だが、コーラを見る。

 コーラの中身……。

 ……それはまだ少し、『凍って』いる。

 まるで、『凪が僕にコーラを渡す寸前まで冷凍され続けた』みたいだ。


 コーラの様子を記憶に刻み、そのまま凪を見る。


 今ならなんとなく分かる。

 なんで、このコーラが凍っているのか。

 今更なんとなく分かった。

 なんで、凪に元気が無いのか。


「止めだ。」

 ーーーー急に凪は立ち止まった。急にこちらを向いた。

 突然の事で目を逸らす事が出来なかった。


 ……おいおい、目を逸らそうとしたのか僕は。

 しかしその間も無かったので、僕の視線は正面から凪の瞳を見据える事になる。


「……、つ」

 声は出ない。吐息が漏れた。

 凪の瞳を直視したことは、彼女と目と目を合わせたのは今が初めてじゃない。

 だけど、僕はその時彼女の瞳を見て、途端に動けなくなってしまった。

 ……何故なら、思わず見とれてしまった。

 夕焼けを受けて少し赤みがかった顔。

 その表情はとても澄んでいて、澄んだ何かを僕に想像させて。

 そして尚、その瞳はとても力強かった。

 紅い日の光に負けない、彼女が元来から持つ鮮やかな緑色の光を携えていた。

 彼女の強さは、何か決意を抱いたとか、そんな特別な事柄から来るものなんかじゃない。

 そうじゃなくて、”特定の何かがある”時に出て来るかりそめの強さじゃなくて、普段から存在する強さ。

 ありのままの強さ。ありのままであるからこその強さ。

 凪自身の強さ。生きているって事自体から来る、本質的な強さ。

 ……僕の言葉じゃ、そんな風にしか表せないけど、彼女自身の『心の強さ』を感じた。

 その瞳に、ありのままの”恋葉 凪”が映っていた。


「……どうせこの後話す事の一つなんだ。今ちょっとくらい話したって、何も変わらないよね。」


 こちらを見据えているのに、彼女は独り言を呟いた。

 確かにそれは『独り言』だったのだ。

 今のは僕に向けられた言葉じゃない。

 それが僕の妄想だったのなら、独り言じゃなくて僕にいっていた言葉だったなら、ただの痛いヤツだ。

 返事をしなかったヤなヤツだ。

 けれどそんなことは有り得ない。

 今、彼女は確かに虚空に向かって言葉を述べたのだ。

 ”何も変わらないよね”と。先延ばしにしようが、誤摩化そうが現実は変わらないのだと。

 今の空虚な一言は、彼女自身が”真実を見据える”ために放つ、独り言葉なのだと。


 凪は一度深呼吸した。

 今度は僕を見据えながら言葉を並べる。

 相変わらず僕は彼女の視線を正面から受ける。

 瞳には、彼女なりの決意が含まれていた。

 僕に何かを伝える言葉。それは彼女なりの、独り善がりの独白も含まれて行われた。

 「君も気づいてるだろう? ボクのウェザードとしての力。……氷なんだ。」

 緊張しているのだろうか。

 表情はいつもより険しい。

「氷を作る。モノを凍らせる。モノを冷やす。物体、液体、気体に問わずにね。それがボクのウェザードとしての、力だ。」

 躊躇いがちに、つっかえつっかえ、彼女は告げた。


「ーーー、ーーー……。」


 ……無言。

 ……まただ。

 また場が凍り付いた。

 気まずく2人して黙って、歩道の真ん中で立ち止まっていて動けない。

 僕からは喋れない。言葉を発する事が出来ない。

 ただ、今度の無言は、さっきと違って、恥ずかしさから来る喋り難さじゃない。

 顔が暑くなる様な感覚も、無性に叫びたくなる様な衝動も無い。

 あるのは背筋に入った熱がスッと冷めて行く感覚だけだ。

 ……考えてみれば、『HAHAHA!何を今更!!』な事なのだ。

 しかし彼女はどうにも神妙な顔をしていて、冗談を言ってごまかせる空気ではない。


 そう、考えれば『何を、今更』なのだ。

 凪のした事を考えれば、誰だって察しがつく。


 ……気体を凍らせる。

 何も無いところから氷の剣を出したのはそれだろう。

 ……液体を凍らせる。

 今、僕が手に持つコーラは凍っている。それは彼女(ナギ)から渡された。

 ……固体を凍らせる。

 硬い警棒は凍らせてから真っ二つに折った。


 ……僕は出会った時から、最初から彼女がそういうモノ(ウェザード)なのだと知っていた。

 知っていたというか、なんとなく感づいていた。

 だから僕からすれば別に気まずくなる様な話題には思えない。

 けれど目の前の彼女は凄く苦しそうに、そして絞り出すように告げた。

 本当は言いたくない事を嫌だ嫌だと、表情で、視線で訴えながら僕に告げた。


 たまらず凪から目を離して、周囲を見渡す。

 学校帰り、夕刻とはいえ日はまだ高いというのに。

 誰も他に歩道を通る者はいない。

 誰もこの硬直を邪魔する者はいない。

 ……空気を読んでの気遣いか? いらないよ。そんなの。


 なんでもいい。この際なんでもいいから……。

 なにか、一言でいいから、言わなきゃ。

 さっきは、彼女が氷を溶かしてくれたのだから。

 だから僕は凛と彼女の瞳に視線を返し。


「……えっと、知ってた。」


 ……駄目った。


 言った瞬間に既に手で顔を覆っていた。

 もっと、マシな返し方くらい思いつけ……。

 このシーンは重要だったはずだぞ雅木葉矛!

 ……そうだ、これから書店に向かおう。

 以前、あそこに『誰でも出来る!初恋者必読!モテる男の会話術!!』と言う本が置いてあったのを見たことがある。

 当時の僕には何とも胡散臭く見えたその本があったハズ。

 何だかんだ言ってタイトルまで覚えている。明らかに胡散臭いと思ったことはまだ記憶に新しい。

 しかし、今はその本にすら縋りたい……。


 ……気がつけばくだらない事を考えて現実から逃げようとしていた。

 その間に、凪は悩む。

 次に何を言うか考える。

 僕が何も言わないから。

 それくらい、分かってた。


「……だ、だよね。……そう、だよね。」

 凪は無理矢理笑顔を作った。

 ……それが、彼女が無理矢理に微笑んだ事が、僕にとっては追撃に思えた。

 彼女はぎこちない笑顔を浮かべ、小さく数回頷いた。

「……、どう、思う?」

 彼女は小さく呟いた。

『どう思う?』

 意味はなんとなく分かった。

 だけど聞かずにはいられなかった。

「どうって……?」

 聞き返す。

 彼女に言わせる。

 ……言わせて良かったのか?

 自問した時には遅かった。

「……ボクの、ウェザードとしての、力の事……。」

 薄っぺらく、凄く小さい声。

 危うく聞き逃すところだった。


 今は凪と目を合わせて向かい合っているから分かる。

 目が、涙で揺らいでいた。

 先ほどは力強さを感じたばかりのその瞳は、ただ揺らいでいた。

 とっくに限界だっただろう。

 彼女の瞳に蓄えた涙はあまりに多く、きっと本来であれば既に多量にこぼれ落ちているモノのはずだ。

 しかし、彼女はそれを堪えている。我慢している。何故だかは知らないが、ひたすらに涙を零すことを拒み続けている。

 だから、僕はーーーー。

「……どうにもなるでしょ?」

 考えて何かを言うだけの余裕は無かった。

 僕は、その場で思った事をそのまま口に出した。

「どうにも、なる……?」


『どうにもならない』……。

 本当ならそう言おうとしたんだけど、寸前で『ならない』より『なる』って言った方がいい気がして……。

 だから、この言葉に意味なんて無かった。

 気がついたらそう答えていたんだ。

 少しだけでも、僕も凪を慰めたかった。

 だからなんとか言葉をツギハギして取り繕った。

「だってナギは、ナギ……、だよね?ナギは、僕を守ってくれたし……。それに、コーラくれたし__。」

 ……何が言いたいか、頭の中で整理しようとする。

 陰湿な雰囲気に呑まれそうになるが、それでも言いたい事を考える。纏める

 『どうにも~』からの言葉は『何か言わなきゃ精神』で突発的に言ってしまったことだ。

 故に続ける言葉が思い浮かばない。予め用意したストック(言葉)も無い。

 けれど、それでもなんとか彼女と視線を合わせて今の状況だけは保つ。

 その間になんでもいいから、言葉をつなげなきゃ。

 今、目を逸らしたら、二度とここには戻って来れない。

 そんな気がした。


「……恐く、無い?嫌じゃない?」

 凪の方から切り出す。

 僕の言葉(思考)に割り込むように。

 つまり、それだけ重要なことなのだ。

『凪が、僕にとって恐いかどうか』。

 これは、とっても重要なことなのだ

 先程の言葉以来、凪はとても意外そうな表情を僕に投げかけている。

 しかし目は相変わらず潤んでいる。

 尤も、突然涙目から治る人なんていないか……。

 それを考慮してもだとしても、表情は冴えてると言いがたい。


「ボクはウェザードなんだ。君はボクの事を、怖がったり……しない、の……?」

 こちらの様子を見るように、震える声で、恐る恐ると言った具合に。

 彼女は語りかけて来る。

 凪も言いたい事を纏めきれていないのだろうか。

 つっかえつっかえ、ツギハギに、不器用に。

 選んだ言葉を1つずつ発する。


 ……このとき僕は、珍しく頭が冴えた。

 この質問の答えなら、考えるまでもない。

 何故だか最初から固まっていたように、言いたい事は頭に浮かんだ。

「僕は、その……。ナギが、ウェザードである姿しか知らない。」


 出だしは発せられた。続く言葉を考えるんだ。

 言いたいこと、その内容を思いついても”言葉”を思いつかなきゃ、相手に伝わらない。

 どうにも、その”言葉”を考えるのは難しい。

 伝えたいことは既に固まっているのに。

「……ナギの事は、それしか知らないんだから。それがナギだって、僕は思ってたから。そう思ってて、その上で、こうやった態度で接してるんだよ、僕は。だから------。」

 一度息を吸い込む。

 今のは決して考えた内容を復唱した訳じゃない。

 殆ど考える時間なんて無かった。

 例え考えても、思いついた言葉はその瞬間に頭から次々と消えていく。

 だから殆ど無意識に、思った事を口に出していた。

 ……出せていた。


「ナギがウェザードだから、なんなのさ。僕は最初から君がウェザードだって知ってたし……。今更何で、そんなに重々しく言うのさ……? 『もう知ってました』って、言うしか無いじゃないか……。」


 口べたなりに言いたい事は言えたと思いたい。

 自己評価としてはそこそこに上出来だ。

 ここまでは……。へたれなりに頑張ったつもりさ。

 だが、それにしても不自然な程に口が、舌が働いた。

 つっかえもしなかったし、言葉は次から次へと湧いて来るようだった。

 僕は今一度息を吸い、


「……でもさ、君はボクと一緒にいていいの? 今日だって、早速嫌なこと、あったんだろう? ボクは……。」

 凪は言葉を遮って、そんな事を言って来た。

 凪がなんてつなげたかったか分からないけど、僕は更に、その言葉を遮った。

 感情的に、凪にその先を言わせたく無かったのだ。 だから無理矢理彼女の言葉を撥ね除けた。

 その上で結論を、言った。


「……だから、ナギがウェザードだから、なんだってのさ! ナギは、ナギじゃないか!」

 一度深呼吸を整えろ……!

 一番重要な部分を考え……? 僕は言おうと思って息を吸い込んだんだ……?


 しまった。

 頭の中が真っ白すぎて、何を言いたいか忘れてしまった……!


 少しの沈黙。

 なんとか、言葉を絞り出せ……。


「それに、僕は君に守って貰うしか、無いんだよ。い、今更『やっぱやめた』って言ったら、それこそ一生う、恨むから! ……だから、その、ええと……。」

 今、自身が捲し立てた言葉について。

 言っている最中に考えてみたんだが。

 ……最悪だ。悪夢だ。黒歴史だ。

 言っている内容は無茶苦茶だし、かっこう悪いし、つっかえたし……。

 ……途中までは良かったはずなんだけどなぁ……!

 最後の最後はやっぱり駄目った。

 叫びたい衝動に駆られながら、視線を近くの壁に向けた。

 凪の瞳から視線を逸らした。

 顔が暑くなる。

 先程咄嗟に取ったリアクションに絶望した時と同じ、今すぐいなくなってしまいたくなる様な、たまらない感覚が押し上がって来る……。


 間違いなく、”こういうの”は僕には荷が、重すぎた……。

 こういうのは、本来イケメンのリア充のやる事だろうに……!

 壁から目が離せない。

 首をちょっと動かせば、凪が視界に入る。

 今、凪を見たらどんな顔をしているだろう。

 『今、守るのを止めたら一生恨む』なんて言われて、本当に涙を流しているだろうか。

 それとも、完全に僕を見下した視線を送っているのだろうか。

 どちらでもおかしくない。

 ただ、状況的に後者の方が考えられる。

 ……滑ったとか、そんなレベルじゃない……。

 僕の中で、警笛が鳴る。


『だから、ナギに見捨てられたら終わりなんだって! 立場考えろよ雅木葉矛!』

『もう、遅いのだよ雅木葉矛』


 そもそも相手は女の子な訳で、前者であれば……。

 そして仮に凪がそれを姉でも誰にでも相談して、学校内に広まったら……。

 ……確実に社会的消滅は真逃れないだろう。

 そうなったら『黒服を交わす』とか以前の問題だ。

 既に学校内で変なウワサが流れていたのも、何かのお告げだったのだろうか。

 だとしたらもうちょっと分かり易いカタチでお告げが欲しかった

 ……頭上に輝く死兆星でも探すべきだろうか……? あったらあったで諦めが付いて楽なのだが。


「葉矛。」

「……、うぐッ!!」

 攻撃がヒットした格ゲーキャラの如く、僕は身を引いた。

 バックステップじゃ無くて、ヒットバックで後ろに流れた感じでの後退だ。

 壁から視線を離すが、今度は地面に視線を向けている。

 凪の顔を見るのが恐い……。

 いっその事、このままの状態で殴ってくれ……!

 そう強く願った。

 けれど、僕のこの願いは叶わなくて……。



 ふと気がつくと、肩に、優しく手がおかれた。

「……へ?」

 きょとんとして、思わず顔を上げた。

 目の前の凪は、泣いていなかった。

 かといって、文字通り相手を凍てつかせる様な、冷たい目をしている訳でもなかった。

 凪は『いつも通り』の表情をしていた。

「だいぶ、時間たったね。もう、帰ろうか。」

「あ、え……?」

 突然の、予想外の事の展開に立ち尽くすしかなかった。

 けれど、目の前の凪は確かに穏やかな表情をしていて、どうなってるんだ……?

 さっきの言葉を気にしてない、ということで宜しいのだろうか?


「ホラ。おいてくよ? 君の家に行くって言ってるんだから、君が来なくてどうするんだい?」

 僕の家?ちょっと待ってくれ、展開が急すぎて、付いていけないんだけど……?

 というか、駅前の何処かに行くって話しはどうなったんだ……!?

 僕の家に行く? 初めて聞いたんだけど!?


 僕が抗議する暇もなく、凪は遠ざかっていった。

 彼女は歩くペースが早い。

 だから凪に追いつくために、僕は走る事になった。

 さっきまでの暗い雰囲気は何処に行ったのだろうか。

 良くわからない展開だったけれど、どうにも凪は、気まぐれな性格なのかもしれない……。

 さっきまで、涙目で『ボクを怖がらないの?』と問いかけていた、繊細そうなボクっ娘は何処に行ったのだろうか。

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