【微妙な変化は仕方なくて】006-2/2【葉矛】
水曜日にUPする予定だったのに……。
自分の目標も守れず、僕は……!
停電うらめしやーッ!
【個体ノ武器】
【雅木葉矛】-00-6----微妙な変化は仕方なくて
掻い摘んで話そう。
まず結論から言おうかな。
学校での過ごし方だが、全くもっていつも通り『には出来なかった』。
……現状、事態は深刻を極めている。
一体何故、こうなってしまったのか……。
振り返る意味も含めて過程を話そう------。
---まずは授業中を振り返る。
なんとなくいつも通りにしていても、後ろの席にいるナギが気になる。
チラリとナギの方を見遣るとほぼ確実に目が合うのだ。
目が合うと彼女は笑顔で軽く手を振って来る。
だからなんとなく気になってしまって、何度もちらりと見てしまった。
「雅木!よそ見をするな!」
……今日一日で何度先生に言われただろう。
「今日、雅木なんか変じゃない?」
……今日、何度クラスでそう言われただろう。
だけど、気になるものは気になったんだ。
今思えばそれは、あまりに軽率な行動だった訳なんだけど……。
---次に昼休みだ。
隣のクラスの稀鷺のところに赴いた。
教室に入ってすぐ、僕は異変に気がつく。
男子生徒の大半が僕の姿を見て目を吊り上げた。
女子生徒のほぼ全員が、グループ内の会話を”ひそひそ声モード”に切り替えた。
周りの目が気になって稀鷺に問いただしたところ、恐ろしい展開になっていることが判明する。
……そのクラスでは何故だか僕とナギが『付き合っている』んじゃ無いかとの噂が立っていたのだ。
当然僕は、唐突なその展開に面食らった。
何故だ? 稀鷺が喋ったのか?
それしか考えられなくて、必至になって本人に問いつめたら、『我関セズ』らしい。
稀鷺曰く、学校について一時間目には自分が何も言わずとも噂が広がっていたそうだ。
---”いつの間にか”だ。
原因は判らない。だから余計頭が痛い。クソ、どうしてこんなことに……?
……ちなみにそれが無ければ稀鷺自身が噂を広げるつもりだったらしい。
なんて友人だ……。
---仕方なくその場で稀鷺といつも通り弁当を食べる事にした。
稀鷺はいつも通り接してくれた。……のだが。
普通に弁当を食べていて、クラスの何人かの男子生徒が『噂は本当か』と問いつめて来た。
普段僕に話しかけもしない連中もだ。こんなときばかり絡んで来る。僕は苛立ちをなんとか隠し通した。
ちなみに、咄嗟に否定はしたんだけれど、あろう事か本当にタイミングや都合の悪い事に……。
……そこに、ナギが訪ねて来た。
……呆然とする数人の男子生徒の前で、僕も唖然としていたが、
「葉矛、一緒に食べていいかな?」
と。そういいながら、弁当を持って来た。
---結局、僕は断ることも出来ずにそのまま3人で弁当を食べた。
当然弁当を食べているだけなのに、その最中も周りの男子の目が痛い。
……ナギはそれを全く気にしていない。
稀鷺はといえば、周りで見ている男子諸君の味方だった。
この友人、露骨にいつもの僕の悪いところとか気にしているところとかを話題に出して嫌がらせをしてくる。
その度に目の端で男子生徒が稀鷺にきらきらとした眼差しを送るのだ。クソ、なんて友人だ……。
結論を言えば、会話はそこそこに行ったが、昼休みの間ずっと僕はとてつもなくその場から離れたい衝動と戦うことになり、また頭が痛かった。
……どうしてこんな状況に追い込まれているんだ。
---結局、放課後になった時点で、少なくとも学年中に噂が広まっていた。
HR後、廊下を歩きながら考える。
その間もずっと男子生徒女子生徒の目線目線に追われ続けられる。
僕は常に下を向き、ひたすら考えることだけに集中して少しでも気を紛らわせていた。
……本当に分からない。稀鷺が喋っていないなら何故広まった!?
少なくとも、昨日学校が終わるまで僕は彼女の存在自体を知らなかった(気づいていなかった)訳だし喋った事すら無い。
つまり学校内でそういう雰囲気を出したことはない訳だ。
仮にこんな噂が昨日の昼間に広まっていたら僕は本当に分からないと言った様子でいられただろう。
凪と知り合った今となってはそうはいかない。
どうしても顔に出てしまう。(どやぁ・・・)と。
……だが実際問題、付き合ってるとかそんな仲では決して無いのある。
しかしあの雰囲気の中、ナギの方から話しを、食事を持ちかけてきてしまったので弁明も出来ない。
……これは頭を抱えざるをえない。
僕がなにを言おうともはや説得力は無いだろう。
ナギが否定すれば変わるのかもしれないが、ナギ本人は全く関せずと言った具合に完全無視を決め込んでいる。
凄い。周囲を全く気にしないあの態度は凄いと思った。
自分が噂や普段の会話の話題にされるってなかなか嫌なものだ。
気にした様子を見せないとは言え、ナギにも悪い事をしてしまった様なそんな感じがする。
……一日、凄く過ごし難かった。
それに疲れた。
廊下ですれ違うたび、こそこそと何か言われている気がしてしまう。
常に誰かに見られている様な、そんな錯覚を受ける。
噂話で盛り上がっている団体を見ると、とても気になる。
……なんだかとんでもない事になってしまった様な気がする。
この事柄は黒服に追いかけられる事以上に僕にとって死活問題になり得る。
黒服達が追いかけて来る時間よりも学校にいる時間の方が明らかに長いのだからね。
……再び思う。どうしてこうなったんだ!?
纏めよう。僕は『あの”恋葉 翼”の妹に手を出した』男子として一日で有名になってしまったようだ。
今や学校内の大半の男子生徒が僕の敵だ。
そして学校内の大半の女子生徒のうわさ話のターゲットにされてしまった。
稀鷺の言っていた事の意味が分かった。
”止めといた方が良い”という言葉の意味が。
これでもし”翼さん”との関係が囁かれていたら、僕は社会的にも物理的にも潰されていたのかもしれない。
今日はいつもより授業が、休み時間が、学校にいる時間が長く感じた。
そして何より酷く疲れた。
僕は本来『とても陰の薄いヤツ』程度の認識で生きていた人間だったはず。
そのポジションは以外と気に入っていた。
面倒事が起こらないからだ。
しかし今となっては、その立ち位置は過去の話しだ。僕は既に”影の薄いヤツ”で収まらない存在になってしまった。
そんなの望んでないってのに……!
……翼さんと出会ってから僕の日常はどんどん変化して行っている。
まだ出会ってから殆ど経っていないが、彼女と関わってから僕の生きる世界は大きく変化してしまったように思う。
いや、まだ変化していくんだろうか。
割り切る必要があるかもしれない。
”多少の変化は仕方ない”と。
これからはある程度、そう割り切って現実と向かい合わなければならないだろう。
---そう割り切って行動していれば、ヤケにならなければきっと活路は開けるのだ。
事実、今日も当然の様に終わりが来た。
なんの終わりかって学校の終わりだ。
授業が全部済めば学校は終わる。
僕は今日以上に『部活に入っていなくて良かった』と思った事は無い。
……さっさと帰りたい。
だけど、その前にナギを待たなきゃならない。
いくら気持が沈んでいてもナギに『放課後空いている』と言ってしまった事は忘れていなかった。
……それで、校門で彼女を待っていたら稀鷺に絡まれた。
今日だけはそっとしておいてもらいたかったのに……。
僕の思いなどお構いなしに彼はやって来た。
「今日の昼休みは勘弁してやったが、とうとう話しを聞かせてもらう時が来た様だ。」
稀鷺は割と真面目に切羽詰まった表情で迫って来た。
……逆の立場だったら、僕もこういう風に迫るんだろうか?
いいや、僕ならきっと配慮するはずだ。
この友人は空気を読んだり人に対しての配慮が足りなさ過ぎる。
僕はため息を抑えられなかった。
「なんであの娘と仲いいんだ!? なにがあった! 噂は全部本当か! 例えば放課後コソコソとデートしてたってヤツも!!」
「……ちょ、ちょっと待った! なんなんだその噂は!!」
そんな噂まであるのか!?
ますます誰が噂を流したのか気になる。
放課後、確かに凪と会ったのは事実なのだ。
だとしたら、ウワサを流したヤツは放課後僕と凪が一緒に居るところを見た訳で……?
……待てよ?
もしかして、僕と一緒のところを見たんだったら、凪の戦ってる時を見たんじゃ?
だとしたら……。
勝手な自問をして、それを自分で否定した。
冷静に考えろ。
もし”それ”を見ていたなら、いくらなんでも『デート』してたなんて話しをするか?
ありのまま起こったことを話すはずだ。普通なら。
凪がウェザードであると言うことがバレていないのはいい。
でも僕的には社会的立場が危うい訳で、結局素直に喜ぶことが出来ない。
「火の無いトコロに煙は立たないゼ、葉矛! ……んで、実際どうなのよ。誰にも言わないから、この親友にだけコッソリ教えてくれよ? これじゃ気になって眠れないんだ……。」
稀鷺が迫って来る。
参ったな。
『誰にも言わない』か。
どうするべきだ?
少し、考えてみよう。
……どのみち回答しない限りこの友人は追求して来るだろう。
そもそもコイツは僕の知っている限りで”一番の”と言っても過言ではない友人だ。
つまり一番、かどうかは分からないが、僕に配慮して聞いて来てくれるヤツ。
僕が本気で嫌がればそれ以上むやみに追求してきたりはしないだろう。
---だけど、コイツに言い訳が出来ないなら他のヤツに聞かれた時も通用しないんじゃないか?
今は聞いて来るのが稀鷺だからはぐらかしたりちゃかしたり出来るだろうし、考える猶予だってある。
だがこの友人に迫られて、それから逃げている様では、他の人間と接していく事はかなり困難なのではないだろうか。
普段関わらない様なヤツが今日話しかけて来た。
アイツ等は稀鷺程僕の身の上を考えてはくれない。
稀鷺以上にしつこく聞いて来る事も考えられる。
……だからこの質問から逃げるのは駄目だ。
稀鷺から逃げる様じゃ、これからの生活で関わらない様な人間たちからすら『普通に』過ごしている様に見られなくなるかもしれない。
なんとか答えてみよう。
---ありのまま素直に話す?今まで起こった出来事を全て1から……。
駄目だ。
それはつまり恋葉姉妹がウェザードであると暴露するという事だ。
論外。彼女たちは自身の力を隠している訳で、それを勝手に人に言う事は出来ない。
……実はちょっとだけ、稀鷺に喋って相談に乗ってもらいたいという気持はある。
だがそれで稀鷺を巻き込む事になったら嫌だ。
そもそもこんなトンでも話し真面目に聞いてもらえるか事態怪しい。
『僕が突然謎の黒服集団から命を狙われるようになってしまった。だからそれに対抗するだけの力がある恋葉姉妹に頼っている。敵は時として拳銃すら向けて来る謎の組織だ……。』
……うん。嘘をついた方がよっぽど信憑性のある話しが出来そうだ。
端から見れば厨二設定にも程がある。
真顔で言ってしまったらそれこそ完全なる『痛いヤツ』だ。
---なら、いっそ嘘をつこうか?
いっその事”勘違い”を認めてしまう?
実はそれは僕の望みであるのかもしれない。
素直に凪は可愛い。
周りがそういう目で見て来るなら、それはそれで……。
多分だが、噂通り僕がナギと『付き合う関係』だったら何も恥じる事も後ろめたく感じることも無いのだ。
事実としてそういう関係でないから僕は今、とっても居苦しい訳で……。
……やっぱりそれは出来ないな。
結論を言えば、『嘘でも認める事は出来ない』のだ。
少なくともナギに無断で関係を認めるのは駄目だ。
ナギからすればいい迷惑だろう。
現在の段階で既に迷惑をかけているだろう。
凪と付き合っていると公言したりした場合、僕は自意識過剰にも程がある男になってしまう。
それは、下手すれば彼女に見捨てられてもおかしくないレベル……。
見捨てられたら最後。そうなったら僕は終わりだ。様々な意味で。
……稀鷺が納得してくれる言い訳。
それを今日1日で考える猶予など無かった。
僕は沈黙して考える。
相手が『稀鷺』と限定されている段階で考える言い訳の難易度は大分下がっているハズなのだ。
納得してくれて、稀鷺に重荷を背負わせなくて、ナギに迷惑がかからなくて、僕の悩みが増えない言い訳……。
------、考えろ。
……ダメだ、考えつかない。
「おい、葉矛。どうしたんだよ?」
稀鷺がかけたその一言でハッとする。
いつの間にか僕は俯いていた。顔を上げて稀鷺を見る。
心無しか、心配そうな表情を向けている……? 何故?
「な、なにがさ?」
何故か吃ってしまう。
咄嗟に応えようとしたからだろうか。
「いや、ヤケに考え込んでたし、そんなに聞かれたくないのかな、と考えた訳だ。」
稀鷺は少し考えてから続けた。
心配そうな、というより躊躇いがちに。
「お前さ、顔色かなり悪いぞ? なんていうか、昨日からなんか”ヘン”だ。『いつも通り』の反応が返ってこないって言うか、急になんか変わったって言うか?」
僕が『ヘン』? 『いつも通り』じゃない?
周りにはそう映っているのか?
「……もしかしてだけどさ、ウワサとかそういうの以上になんかあるのか? 言える事なら言えよ。重要な事だったら、本気で俺のココロの中だけに留めておいてやるからさ?」
稀鷺は本気で言っていた。
いつも何処かヘラヘラしてるヤツだが、この時ばかりは顔が真剣だった。
そんなに僕は深刻そうな顔をしていたのだろうか。
『言える事なら』言っているさ……。
僕はそんな思わせぶりな台詞を呟く事すら躊躇った。
なにが切っ掛けで、彼を巻き込むか分からない。
どれが切っ掛けで、恋葉姉妹に迷惑をかけてしまうか、分からない。
僕はバイト帰りに公園に立ち寄っただけでこの状況に追いやられている。
学校や私生活で僕の現状況を誰かに悟られるのは宜しくないと思われた。
軽率な行動は慎むべきだ。僕は既にそれを学んでいる。
「……? 稀鷺、何か聞こえない?」
……その時、ちょうどだ。
学校裏から……。確か、後者裏はテニス部のコートと体育館、弓道部の練習所がある。
そこがなんだか騒がしい。
「葉矛。お前、話しの逸らし方が下手だな。」
……その意図があったのは認める。
稀鷺はため息をついた。
騒がしさには全く興味が無いらしい。
こちらに背を向け、校庭に向かって歩きだした。
陸上部である稀鷺は、後15分程で部活が始まるハズだ。
「分かった。聞かれたくないんだな? じゃあ聞かない。だが、後で聞いて欲しかったらいくらでも聞いてやる、いつでも言えよ。それと他のヤツが無理矢理聞いて来たりしても、言えよ。なんとかしてやる。」
そこまで言ってこちらを振り返った。
「……なんか聞こえないか? 葉矛?」
「だから、そういったろ?」
なんだ、コイツただ聞こえてなかっただけか。
騒ぎを気にしていないんじゃなくて聞こえてなかったのか。
稀鷺は校庭ではなく、学校裏に向かった。
騒ぎの正体を確認するつもりだろう。
僕も続く。
……稀鷺の後ろを歩きながらこの友人が言った事を考えた。
『なんとかしてやる』
話してなんとかなる様な問題でもないんだけど、それでもちょっと安心出来た気がする。
……僕はとてもいい友人を持っている。
そうやって心から思えたんだ。




