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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
19/82

【微妙な変化は仕方なくて】006-1/2【葉矛】

そろそろ2分割無くしたいなぁ……


とりあえず、休日更新です!

【個体ノ武器】

【雅木葉矛】-00-6----微妙な変化は仕方なくて



 ……朝だ。

 正直、今日は学校を休みたい。

 科目がどうとかじゃなくて、今は外に出たくないんだ。

 昨日の夜は帰るなりぐっすり眠ってしまった。

 緊張状態が続くというのがどれだけ体に負担をかけるのか、理屈じゃなく分かった気がした。

 僕はベッドから体を起こし、周りを見渡した。

 なんてことない。ここはいつも通りの僕の部屋だ。

 ……少なくともパッと見では部屋に銃弾が撃ち込まれたり、そんな形跡は見当たらない。


 ------同じ仮住まいでもナギのアパートと違うところ。

 それはこのマンションがまだ新しいと言う事。

 それと、僕が住んでるのは先に書いた通り『マンション』であるというところだ。

 僕の住まいの方がちょっと広い。

 部屋が三つあるんだ。

 僕はそれぞれを”リビング”、”勉強用の部屋”、”稀鷺とかが遊びに来た時に招き入れる為の部屋”って感じで分けて使ってるけど正直無駄だと思う。

 学生にこのサイズの家はちょっと大き過ぎる。使い切れないんだ。

 掃除も大変だしね。ああ、さっき上げたそれとは別に風呂とトイレもあるよ? モチロン。


 ---今、僕が寝ていたのは『勉強用の部屋』。

 机とベッドとタンスがあるだけの部屋だ。着替えもここにある。

 制服は朝すぐに着替える為に、前日に机の上に用意しておく様にしているんだ。

 そろそろ起きなくちゃ。

 顔を洗って朝食を済ませ、着替えた僕は余った時間をその場でのんびりと過ごした。

 今から十五分後に家を出たとしても学校に早く着き過ぎてしまう。

 いつものことだけど早く起き過ぎたかもしれない。


 僕は一人でちょっと優越感に浸っていた。

 しかし特にする事も無いのでリビングで一人、テレビを見ていた。

 毎朝見ているニュース番組も、やっている内容は昨日と大して変わらない。

 ……細かい変化はもちろんある。

 放送されている事件や事故の内容は変わるし『今日の占い』の結果も違う。

 ……しかしそんなことは良い。

 今僕は見たいものがあってこの番組を見ているのだ。


 ---、一年程前から放送を開始したウェザードに関しての専用特集コーナーが、僕の見たかったものだった。

 これは『専門家』とやらがニュースキャスターとウェザードについての最新の情報。

 そうだな、例えば彼等が起こした『事件』だとか『奇跡』……? とかの紹介だ。

 元々このコーナーのキャッチフレーズは『突如現れたウェザードという存在! コレは人類の進化か? 真相に迫る!』だったのだが、特に真相になど迫っていない。

 毎日『事柄』の紹介ばかりで、ウェザードがどういう存在なのかと言うことは全く言わない。

 彼等の存在や成り立ちを科学的に証明したり、解説したり。

 僕はそういうのを望んでいた。

 自分が巻き込まれてみると、そういった新しい疑問に直面するものだ。

 ……僕は小さく舌打ちした。

 テレビの情報でウェザードについて対策を練れる程の情報は得られない。

 この『専門家』とやらも、実はなにも知らないのではないだろうか?


 ------無理もないのかもしれない。

 そもそも今の今まで”この世に存在してなかった”ものなのだから。

 前例なんて無くて、現象自体も謎。

 だったら、数年ぽっちで解明出来る方が凄いのかもしれない。


 ……?

 何の音だろう。

 玄関から扉を叩く音が……!?

 ……うわ、忘れてた!!


 僕は慌てて立上がって玄関に走った。

 朝が”いつも通り”過ぎて完全に忘れてた。

 今日は、今日からナギ(・・)と学校に通うのだ。

 モチロン彼女は”護衛”という名目で僕に付き添ってくれる。

 ……しかし、周りの人間にはきっとそういう事情があるとは思われない。

 うん、僕、リア充。完璧。

 周りから嫉妬されること間違い無しだ!

 ……それくらい、そうやって考えることくらい許してよ。

 そのくらいポジティブに考えなくちゃやっていけない。


「---お、おはようございます……。」

 玄関の鍵を外し、扉を開けた僕はまず挨拶をした。

 実にローテンション。しかし眠い頭をなんとか働かせてそれだけは行った。

「敬語禁止。」

 彼女はそういって人差し指と中指を合わせてピッと、僕の額に突きつけた。

 出会い頭の出来事。僕が面食らっていると、

「おはよう、葉矛。今すぐ行っても時間余るよね。入って良いかな?」

 そういって、言っただけで僕の返答を待たずに部屋に上がった。

 ……。


『稀鷺、なんか、ゴメン。』


 ……とっさに心の中で友人に謝罪した。

 それが適切な態度な気がしたんだ。



「---うわぁ? ずいぶん広いね、君の家……。」

 リビングに直行した彼女の第一声はそれだった。

 周りを見渡してしきりに頷いている。

 あ、危ない危ない……。

 土日の内に掃除しておいて良かった……。

 普段からあまり綺麗に整えている訳ではない。

 これからは毎日掃除する習慣をつけてもいいかもしれない。

 ”咄嗟の時”に失敗しないってだけで掃除をする価値はあるだろう。


「広いな……。イイナ……。」

「ひ、広くても使い切れないし、掃除が大変なだけだよ……。」

 やけに目を輝かせているナギに、僕は告げた。

 事実として『友人を迎える部屋』の出番は非常に少なかった。

 大体の用事はリビングだけで事足りる。

 ……にも関わらず、掃除だけはきっちり行わないといけないのだ。

 やはりホコリとか溜まっているのは、住んでいて不快だ。

 つまり使っていない部屋はただ僕の労力を消費させるだけの場所になっていて、非情に無駄。

 使わないものがあっても、結局使い道は無いのだ。


「ん、まあ、そんなものなのかな? ただ、ボクの家くらい狭くても窮屈だけどね。」

 彼女はそういいながら周りを見渡している。

 そのうきうきとした様子を見る限り、余程広い家や広い部屋が欲しい様だ。


「……あ、そこに座ると良いよ。飲み物とか要る?」

 ふと、彼女が立ったままなのに気がついたから、テーブルに着く事を進めた。

 一つ大きな楕円型のテーブルがある。その周りに椅子が六つ。

 ……そんなものが置いてあっても部屋は広々と感じる。

 寝転んでテレビを見れるだけのスペースがある。


 どれだけ部屋が大きいか分かるかな。

 決して自慢してる訳じゃない。本当に掃除が大変なんだよ。

 借りる時は『とにかく広い部屋』としか考えてなかったからなぁ……。

 ……もちろん家賃もちょっと高い。

 親からの小遣いは大幅にカット。

 当然のコトではあるが、今思い出しても哀しい。

 自分の軽率な行動と判断を反省したい。


「ん、悪いね。じゃあ飲み物も貰おうかな。」

 そういって彼女は椅子に座った。

 僕は冷蔵庫から飲み物を取り出そうとして躊躇った。


「牛乳とオレンジジュースどっちが良い?」

「あ、ボクは朝に牛乳飲むと、体調悪くなっちゃってね……。」

 オレンジジュースを選んで取り出した。

 食器棚からグラスに注いで彼女の前に置く。

「悪いね。ところで、葉矛。」

 僕は彼女から見て、斜め向かい側に座った。

 彼女はあくまで姉にいわれて僕の家に訪ねて来たのだ。

 仲良くなった訳じゃない。

 まだ、正面や隣に座る勇気はない……。


「……今日の放課後、空いてるかな?」

「全然空いてますが!」

 ……反射的回答だった。

 事実、今日はバイトも無く暇だったんだけど。


「敬語禁止。」

 今日二度目の指差しを食らう。

 い、今のも敬語としてカウントされるんだ?

 呼び捨てもなれていないのに、結構気を使うな……。


「ま、それなら良かった。放課後、昨日話してないことも含めて話したい事があるんだ。」

「話したい事……?」

 ……ちょっと早すぎない? 展開的な意味で?

 否。今、フラグが嵐の様に乱立している僕だったら、あり得ない話しじゃない……。

 ……ところで今の僕の心境、こういうのなんて言うか知ってる?

 『死亡フラグ』、現実的に言うと『オレアル理論』。

 前に友達がそんな言葉を言っていた気がする。

『あれ?あの娘オレ(・・)に気がアル(・・)んじゃね?理論』の略らしい。

 意味はまぁ、見た通り。

 ……大丈夫、僕だってそこまで自分に酔っちゃいないさ。

 心の中では”気のせいだ”と判っている。

 現実として、彼女は次の様に付け足したのだ。

「---そ。君も言ったでしょ? 『僕にだって知る権利がある』って。ボクたちの、まあ敵って言ってもいい。アイツ等の事を、ボクや姉さんの分かってる限りで君に話しておこうと思って。」

 ……ここで話してもらう訳にはいかないものか。

 しかし、後で話すと言っている以上はそれ以上に追求したり催促するのは失礼というものだろう。

 僕は頷いた。

 ……そのとき違和感を抱いた。



 ---彼女の顔に、あるべきものが無い……。

 首を傾げた。

 何でだろう……。昨日頬に『切り傷』があった。

 銃弾を避けきれなかった為についた傷。

 ……それが無い。


「ん、ゴチソウサマ。コップ、このまま置いておけばいいのかな?」


 オレンジジュースを飲みきった彼女は、ひとまず、グラスをその場に置いた。

 時計を見遣った。

 ……いつの間にか20分程、時間が過ぎていた。

 片付けるのは帰ってからだな。

 流石にそろそろ家を出ないと。

 傷について聞きたかったが、まあ、後でもいいか。

 そんなじろじろ見れた訳でもない。もしかしたら見間違いで、実際は頬にかさぶたがあるのかもしれない。


 ところで、どうでも良いけど……。


 あ、ゴメン稀鷺。

 今、君の事どうでも良いって言った。


 とにかく、あの稀鷺は歩くのが早いから毎回向こうから追いついて来る形で朝合う事になるんだ。

 今から家を出たならば”いつも”よりちょっと遅い登校になる。

 ……とすれば、タイミング良く彼に出くわすだろう。


「ああ、僕が片付けとくよ。帰って来てから。そこに置いてて。そろそろ行かないと遅刻しちゃうから……。」

 グラスを台所に(リビングにそのまま台所がある)置き、僕も自分の荷物を取りに行った。

 学校に行くこと自体は依然憂鬱だったが『女の子と』登校、というのは……。

 とりあえず、モチベーションだけは確保出来たよね。うん。


「葉矛? 行くならもう行かない?」

 いつの間にかナギは部屋の出入り口に立っていた。

 急いで持ち物を確認した。ついでに髪型も。

 うん。忘れ物は無いし、髪型も酷すぎる事はないだろう……。だい、じょうぶ。


「うん、今行く。」




 ---家から出てから数分。

 いつもよりちょっとだけ遅いくらいの足並みで学校に向かう。

 今日はいつもより五分程度遅く家を出た。

 ただ、いつもよりやけに思考がはっきりしているのはそのせいじゃ無いだろう。

 朝なのに眠気が無い。


 ふと気になって隣を見ると、ナギが眠そうにまぶたを擦っている。

「……眠い?」

 会話も無いから、なんとか話しかけてみた。

 なんか、喋らないでいるのが気まずかったし……。

「ん、ちょっとね。昨日の夜『早起きしなきゃ』ってずっと考えてたから……。あんまりよくは眠れなかった、からかな。」

「……、ゴメン。」

 それを聞いて、とっさに謝った。

 僕のせいだと思ったからだ……。

「あ、そんなんじゃないって! もともといつも遅刻気味だったから早く起きたっていうか……。謝られても困るよ。」

 ナギは肩を落としながら言った。

 また沈黙する。


 ---気まずい。


 学校までこのペースで向かったら、後15分程はかかるだろう。

 ……凪には聞きたい事が沢山ある。

 ちょっとだけでも、質問してみようかな。

 少なくとも、この沈黙を破る材料としては適切な様に思えた。

「あの……、」

 僕が意を決して発言しようとしたときだった。



 いきなり後ろから肩をつかまれ、引っ張られた。

 ------、一瞬、なにが起こったか分からなかった。


 また奴らが……!?

 パニックを起こさないように必至に状況を見極めた。

 あ、焦るな焦るな! 今は凪が隣にいる……。

 思考を落ち着けるのにちょっとだけ時間がかかった。

 ……落ち着け。


 ---それで、状況は別段危険でもなんでもなかったんだ。

 僕の肩を引っ張ったのは稀鷺だった。

 いつもより遅く出たのにも関わらず、どうやら彼の前を歩いていた様だ。

 僕---、いや僕たちは……。


「お、おはよう、きさ……。」

「おい葉矛、これは一体どういう事だ……?」

 稀鷺は僕の挨拶も言わせてくれなかった。

 切羽詰まった強張った表情で僕を引き寄せる。

 肩にかけた手を緩める事はしない。


「ど、どうって……?」

「なんでお前、レンヨウ(妹)さんと仲良く登校してるんだよ……!? なにが何があったんだ? 俺という親友にも隠して、『実は前から仲良かった』ってヤツか……!!?」

 稀鷺は声を殺して、囁くような音量の声なのにとても力強い問いかけを行って来る。

 ……チラリとナギの方を見てみる。

 彼女はちょっと離れた位置に、ポカンとした表情で立っていた。

 いや、眺めていたが、僕が目線を送ったのを切っ掛けにこちらに歩いて来る。


「そ、そんなんじゃないよ! ……うん。多分、そんなんじゃない。少なくとも前から仲良かったとか、それは無いって……。」

 僕の弁解にも意を返さず、稀鷺の追求は止まらない。

「本当か? だとしたら土日だけで『朝一緒に登校』レヴェルまで仲良くなったってことか? そいつはちょっと話しが……。」

「ハイ、ちょっと良いかなー?蒼希君?」

 困っていたところに、ナギが介入して来る。

「ハイハイ、なんでしょうかァ? レンヨウさん。」

 僕に見せていた険悪な顔から一瞬で愛想の良い笑顔に切り替える。

 ……コイツにこんな特技があるなんて。

「2人で何を話していたかは知らないけどさ? そろそろ行かないと学校遅刻しちゃうんだけどな?」

 凪は冷静だった。

 彼女の言う通りだ。家から遅く出たのも原因なのだが、どの道立ち止まっている程の暇と猶予はない。

 凪は先に歩き出した。

 それに続いて、僕と稀鷺が歩き出す。


「……葉矛。詳細は後でゆっくり聞かせて貰うからな。」

 稀鷺はそう念を押して来た。

 幸いな事に、今すぐに回答する必要は無い様だ。

 放課後までになんて回答するか考えたほうがいいだろう。


 ……ただ、馬鹿正直にそのまま訳を話す事は出来ない。

 友人だからこそだ。話せば稀鷺を巻き込む事になるかもしれない。正直聞いて欲しい気持ちがあるが、それはとっても躊躇われた。

 放課後までになんとか自然にはぐらかす方法を考えなきゃ。

 下手に不信感を与えては話しがこじれる------。


 ……そういう事か。


 『普段通りにすればいい』。ナギが言った事だが、確かにそれが最善の策だ。

 単純な様でなかなか難しい様に思えるが、頑張ってみよう。

 僕は目の前に見えて来た学校の校門を見遣り、今日1日の課目を頭の中で復唱した。

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