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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
18/82

《悩みの配慮などしない黒い狩人》005-#2/2《城ヶ崎》

友人『お前、やっぱ今回の話し長いよ』

私『>そっとしておけ。』


……結局2分割になりました。

文才無いのは分かっていたけど、これは酷いですよね……。

なんとか治せる様に頑張ります!

【個体の武器】

【城ヶ崎】-00-5----今は分からない! 《悩みの配慮などしない黒い狩人》



 オレがそんなコトを考えて、独り毒付いていた時だ。

 前方、廊下の対岸から白衣に身を纏った男がやってきた。

「よ、研究班。」

 オレは男に声を掛けた。

「その呼び方、なんとかなりませんかねぇ……。」



 ---この男、白衣の研究員三佳斑 敏生(みかむら としき)はなかなかにフレンドリーな男だ。

 ほぼ常に敬語、常に物腰が柔らかく話し相手としてうってつけ。

 この会社、正確にはオレの今いるこのビルにはさっきの平井くらいつまらないヤツしかいない。

 その為、こういう『ちゃんと話せる』やつってのは数少ないし重要だ。


「そっちの方はなんか進展があったのか?」

 敏生は首を振る。成果が無いってのは珍しくない。

 研究出来ることは既にやり尽してしまっているんだ。

「いいえ~。何もです。何しろサンプルが少な過ぎる。研究施設自体は妥協出来る程のレベルは整っているのですが……。あぁ、ウェザードの能力発動の原理自体は分かって来たんです。問題は能力者事態が発生するプロセスが一切分かっていないこと。人体実験を行ってでも即刻解明するべきだと思うのですがねぇ……。」


 ……酷いマッドサイエンティストだ。

 『人体実験=マッドサイエンティスト』だと考えてしまうオレは単純だろうか。

 オレは廊下を歩き出す。

 敏生もオレについて歩く。

 白衣の裾がひらひらしているのが目に入る。

 この男は春夏秋冬平日休日その他もろもろ一切関係なく、常に白衣を着ているのだ。

 ……ちゃんとした理由があるとのことだが、オレでも理由は聞いたことが無い。聞く気もないし、聞いても教えないとのことだ。


「でも聞いてください! 君の体に宿る『固体ノ武器』についてはなかなか分かって来たんですよ! ウェザードの能力発動と原理自体は一緒です。ただ、発動時に媒体を必要とするかしないかの差で……。」

 オレはため息をついた。

 敏生とのお喋りは楽しみたいが、オレも忙しい。

 ……そして何よりこの話題はマズい。

『固体ノ武器』は社内の最重要秘密の一つだ。

 ……社内であっても、迂闊にして良い話題じゃない。



「……敏生。その話題は------」

「フフ……。楽しそうに御喋りしていますね……。」


 ……後ろから声が聞こえる。

 女の声だ。クソ。気配すら無かった!

 オレは素早く振り向きヤツと向き合った。


 ……来たよお邪魔虫。

 まさかのお邪魔虫。

 一番のお邪魔虫。

 やれやれ、コイツと向き合うといつも気が滅入る。


「よぉ『情報班』、隊長殿。」

 情報班『班長』と言った方が肩書き的に正しいか。

 オレは思いっきり『隊長』という肩書きに、嫌みたっぷりな言い方をしてやった。

 振り向くと李解 理子(りと・りこ)は嫌みな笑みを浮かべ、こちらを眺めていた。

「なんだか、私の事はずいぶんと投げ遣りに扱ってくれますね。貴方は。」

 理子は短く切った赤い髪に手をやり、何故だか得意げな表情でいる。


 そりゃな。


 コイツは情報班という名目を振りかざし、その権力を存分に行使している。

 ”実働班”の頭であるオレでさえ、コイツ相手には油断出来ない。

 少しでも油断して弱みを見せれば、ある日突然上司からお呼びがかかって給料カットもあり得る。

 ……社内でのオレの立場が危うくなる事も考えられる。

 そして、更に悪い事に……。


 ---コイツこそ、さっき言ってた『つまらないやつ』の代表格だ。


「あ、えっと、今の話し、聞いちゃった?」

 敏生がおずおずと聞く。

 理子は首を振った。

「いえ。貴方の声は小さいですから。男らしくもっと大きな声で喋って頂けていれば、私も会話に参加出来たのですが。」

 敏生はほっと肩をなで下ろした。

 ……無理も無い。

 オレ自身、内心少しホッとした。

 今のは恐らく、と言うか絶対にオレに喋っていい情報じゃなかっただろう。


 ……コイツがお偉いさん方にチクリ話しを持っていくときは絶対の確証があったときだけだ。

 間違った情報を持っていく事はコイツの流儀に反するんだと。

 慎重な性格であるのには評価出来るんだがな。

 だから敏生と会話していた事自体は見られてしまったものの、内容を把握していなければコイツは上部に報告はしない。


 ---基本的に組織内の各般は別々に行動を行う。

 他の班に極力干渉しないのは互いの作業を邪魔して効率が悪くなるのを防ぐ為だ。

 ま、どうやったって廊下を歩いていれば他の班の連中と顔を合わせる事はあるし、会話だってするが。

 ただし社の方針としては、他者との関係は必要最低限しか持たず、それを徹底しろとの命令。

 その方が効率がいい---。

 ---と、それが上の判断らしい。

 正直オレは気に入らない。


「声の大きさが男らしさに関係するかよ。」


 オレは吐き出す様に言った。

 コイツはどうもスキになれない。

 ことあるごとにオレに突っかかって来るのだ。


「何故、私を毛嫌いするのでしょう?」

 理子に怪訝そうな顔をされた。

 何でオレがそんな顔を向けられにゃならんのだ。

 オレがお前にそういう表情を向けるならともかくだ。

 立場が逆だろうに。


「仲間を売る様なヤツをスキになれるヤツはいない。」

「じょ、城ヶ崎君……。けんか腰は良くないよー?」

 敏生はおっとりという。

 だが、今のはオレの素直な感想だ。

 既に意見は発現(言)された。

 曲げない。出した意見は絶対に曲げない。

「……仲間、ですか。ずいぶんと幼稚な事を気になさるのですね。私はあくまで、個人の感情に走って組織を崩す恐れのある分子を排除しているだけに過ぎません。」

「……んだと?」


 オレも不機嫌だったが、普段あまり表情を崩さない理子も不機嫌さを露にしている。

 口調こそそこまで普段と変わらないが、表情にしっかりとそれは現れていた。


「確かに私たちは同じ組織に属し、それぞれ分担して作業を行っています。しかしそれは”仲間意識”とやらを持ち仲良しごっこをする為ではない。少なくとも、社内の上司はそうお考えになられているようですが。私たちが必要最低限しか社員間の情報の共有、接触、固有関係を築く事を許されていないのは、上司なりの考えがあるからだと私は考えますが。」


「何が言いたい……。」


 オレは苛立った。

 コイツの発言はいつも遠回りだ。

 しかもくどくどと長ったらしい。

 要点だけ言ってくれればいいものを。


「組織は仲良しごっこでは成り立たない。詰まる所、上司は『個体の識別』を無くしたがっているのです。貴方の言う、『仲間一人一人』は重要じゃない。個体、個性は重要じゃない。つまり、”一個体”に執着するのは間違いだと言っているのです。皆がただの部品であればいい。貴方も私も。代用品はいくらでもある。代用が聞く事が好ましい。」


 オレはすかさず反論した。

 コイツはやっぱりオレとは対立する宿命にある様だ。

 コイツの意見を認める訳にはいかない。認めたくない。


「誰が仲良しごっこするなどと言ったんだ。……ただ、個人は大事にするべきだ。人を全て平等に見て『全部おんなじ部品』として見るのは間違っている。それとオレに上司の言う事について聞くな。ヤツ等が何考えてるかなど分からん。心理学や経済学はオレの専門外だ。」


 そこで一度息継ぎをした

 その間に言いたい事を纏める。

 下手な事を言ったら、それこそ理子は調子に乗って揚げ足をとるだろう。


「今、お前の言った考え。要するに社内での他班との交流、接触の『原則禁止の理由』についての”憶測”だが、ずいぶんお粗末だな。お前が語ったのは上司の”直接の意思や命令”ではない。少なくとも現段階では、ソイツは”想像の域”を出ない。要するにお前の妄想なんだよ、それは。こっちに徹底させたい理念があるのなら、事前にヤツ等は語るだろうよ。他班との接触についての制限は、飽くまで『作業効率の向上』を考えての判断だろう。」


 何故か、理子は少し勝ち誇った顔をした。

 ……ムカつく。


「仲良しごっことは例えた話しですが。私の論点はそこではありません。貴方の言う”個人を大事にする”と言う言葉ですが、つまりそれは組織内の人間全てを『量産された一部品』では無く、『それ一つで成り立つ一個』として見る、という事ですよね。」


 ……そういう事になるのだろうか。

 オレはただ1つの命を『部品』として扱い、壊れたら切り捨てるというコイツの考えが気に入らないだけなのだが。


「しかし1人が”個人”を持つ、持たないに限らず、私たちのする事は変わらない。私たちは互いに利用し、利用され、互いの利益になりさえすれば良い。……ところで、貴方の大好きな”仲間”というのは、個体事に評価を他の個体が付けると言う事でしょうか。どうですか?」


 オレは考えた。

 例えば、オレが黒服の部下、一人ひとりにそれぞれの評価を付ける。

 それで、一人ひとりの個人差を把握し、その個人事に対処の仕方や指示を変える。

 ……仲間、といえるのだろうか。その考え方は。

 ……強ち(あながち)、間違っていないかもしれない。

 ヒトを知り、1人ひとりの違いを把握して、その人にあった指示をだせる事が『仲間意識』を持つという事だとオレは考える。

 上司として、大人数を纏めている者の視点から見たら、そういう事であっているのではないだろうか。

 オレは頷いた。


「ある意味合っているかもな。個人個人に対して適切な態度、処理を行う。それを行える様に勤めるのが、オレがオレの視点で考える”仲間意識”だ。人間一人を『部品』として扱わない。それは詰まる所、オレという個人が行う各個人に対しての評論なのかもしれない。」


「だとしたら、それは貴方が独断でただ単に人を”差別”しているに他ならないのでは? 全社員を同一視し、全てに平等に仕事を与える事もまた重要な事だと思いますが。個体を識別して、平等感を無くしていたら組織は潰れます。貴方(上司)に『固執された個体』は良い。しかし『固執されなかった個体』は嫉妬、偏見などによって危険分子になり得る存在と化す。考えてみて下さい。そも、組織内はピラミット型の勢力図が出来上がるのです。」


 彼女はそこで言葉を止めた。……勝ち誇った表情のままな。

 言いたい事はなんとなく判る。要するに、依怙贔屓(えこひいき)することは良くないと、そういいたいんだろう。

 ……言っている事は一見最もだ。

 いや、事実理にかなっている。

 組織として階級や立場が同じなら、それらの人材は全て同等に扱われなければならない。

 __だがそれは理想だ。現実じゃない。現実にはそれは”不可能”なのだ。


「……確かにそうかもな。差別や贔屓は良くない。……だが特定の人物事にその都度適切な評価を行うという事が本当に間違いか? 全ての人間が同じ事を出来ると思うなよ、理子。出来るヤツ、出来ないヤツがいるのは当たり前だ。個人としての識別を消すのは簡単な様だが、絶対に解決出来ない壁がある。」

「……分かりませんね。解決出来ない問題ですか? それは一体?」

「『全く同じ個体である』と言う事だ。全く同じ事が出来る、全く同じ個体が複数いるなら、ソイツ等は全て同じ事が出来るんだろうさ。だが現実はそうはいかない。」



 ……途中で言っている事がわからなくなりかけたが、なんとか頭の中で整理出来ている。

 大丈夫だ。

 論点はズレていない。

 言いたいことは一貫している。


「どういう事ですか?私以上にまどろっこしい言い方ですが。」


 この毒舌女の追求が鬱陶しい。

 長々と話し過ぎてコイツはオレの言いたい事を読み取れなかった様だ。

 長文で返したオレも悪いが、その原因を作ったのはコイツだ。

 ……あー、わざわざ口論などするんじゃなかった。

 この話は、互いに不快な気分になっただけだった。


 ……だが、分かる様に説明してやろう。

 反論が無いにしろあるにしろ、しっかりと理解出来ないとコイツはいつまでもそのことに追求をしてくる。

 返す言葉が無い程に論破してやる。


「分かった。長文に意味は無い。分かりやすく例えてやる。仮にだが、まず『オレが3人居た』としよう。」

「……貴方が3人ですか。私にとっては悪夢ですね。鬱陶しい事この上ない。」


 ……この女はオレを煽って楽しんでいるに違いない。

 絶対に、絶対に挑発に乗っては駄目だ!

 オレは極力コイツの言葉を聞かないように、自分の言葉に集中した。


「『3人のオレは全くの同一の個体だ。全てが全く同じであり、個人として確立してない。また判別する必要はない。』ここまでオーケーだな? よし、続けよう。当然『3人ともオレ』だから出来る事も同じ。例えば、『3人いるオレの内、誰に『固体ノ武器』の実験を頼んでも成功する』だろう。」

 そこまで言ったところで、敏生が声を張り上げた。

「それは凄い! 城ヶ崎君が3人いたら、1人くらい人体実験で使っても怒られないですね!!研究が捗ります!」

 ……あー、それはちょっと嫌だな。

 1人オレは犠牲になり、もう2人はオレが人体実験に使われる様子を見守る訳だ。

 残された2人のオレの心境が気になるな。自分が目の前で実験道具として扱われてたら、多分いい気分にはなれない。


「……!!」


 よし、理子の表情が曇った。

 何を言いたいか分かったらしい。

 敏生の発言はスルーしよう。


「だが現実はそうはいかない。事実としてオレは1人だ。オレという個体は2人以上存在しない。さて、ちょっと考えてみてくれ。お前の言う通り、『個体を区別しない』なら『オレ以外の人間にオレと同じ様に』”固体ノ武器”の同調を試してみるとする。例えばお前とかで試してみたとしよう。さて”固体の武器”は機能するかな? お前に扱えるか? アレが。」


 理子が俯く。

 宜しい。コイツは一応自分の立場が分かっている。


「……出来る訳がありません。試みる事自体、不毛です。」

 ああ、そうだろうとも!

 分かってるから言っているんだからな。

 悔しいのう悔しいのう!!

 オレは嬉々としながら言葉を続けた。

「その通りだ、出来はしないんだ。何故か? ”固体ノ武器”に適合しているのは現状オレだけだから! 『オレという個体』だけだからだ! お前はそれを知っているし認識している。それは”オレ”という『1個体』を識別していると言う事になる。知っているから、無駄な作業をするコトも無いんだ。」


 理子は悔しそうに唇を噛み締めた。

 何でさっき一瞬でもしたり顔(・・・)などしてしまったんだろうなぁ!!

 悔しいな? 悔しいな理子??


「……それに、『もしかしたら』などと可能性を考えずにそうやって頭から否定するのも『1個人の考え方』があってこそだ! 仮に、新しく事情を知らない上司が出来たとして、そいつがオマエに固体ノ武器の”同調”を頼んだら、オマエは断るだろ? 少なくとも嫌がるはずだ。つまりそういう事なんだ。ああ!人を1人ひとりを区別する事って、なんて素晴らしいコトなんでしょう!!」


「ッ、減らず口ばかり利口ですね、貴方は。……その上、簡潔に言っている割にやはり話しが長い。」


 お前に言われたくない!

 まぁしかしだ。オレは今、最高に気分が良い。

 今ならアイツの言っている事全てが減らず口に聞こえる。

 正論でも気にせずスルー出来そうだ。

 さて気分も宜しいし、今日は帰って風呂入って寝るか!

 オレは理子に背を向け、スキップしながら廊下を駆けた。今日はもう帰る!


「……だとしてもッ。」


 オレの肩を引っ手繰る様に乱暴に掴み、理子は強制的にオレを向き合わせた。

 スキップは中断せざる追えなくなった。

 全く、恥の上乗せがご所望なのだろうか。

 オレが振り返ると、理子と顔を間近に合わせる事になった。


「……1個体の考え方、思想。そういったものは、組織の結びつきを内側から破壊しかねません。それに変な”仲間意識”とやらを持つと足下が危ないですよ。足下以外にも背後と頭上も。貴方のポストを狙っている人は多いのです。私たちはお遊びをしているのではないのです。感情で人を信じきって、裏切られたら後はありません。」


 向き直ったオレは、彼女と向かい合って、反論を考えた。

 とことん付き合ってやる……。

 敏生はまた何かを言おうとまごまごしているが、オレとしては構っている暇はない。


「……当たり前だ。遊びでこんな仕事するか。オレたちが何をしてるか分かってるのか、お前? ……だが、だからこそ。互いの存在が重要だからこそオレたちは”結束”するべきなんだ。”利用”では無くな。」


 理子が怪訝そうな顔をする。

 コイツ、こんな顔が出来たのか。

 何も言ってこないところを見ると、オレの話しの続きが聞きたいらしい。

 ------いいだろう。

 オレは呼吸を整え、続けた。


「1人での行動は限られている。だから他の行動をしている仲間は大切に扱うべきだし、いたわるべきだ。個人個人に対しての配慮の仕方を考える事もまた貴重な戦力を温存したり、それの使用効率を上げたりする結果になる。……オマエの好みのいい方で言えばそういうことだ。オレの言い方で言わせて貰えば、”オレに出来ないこと”は他の人が出来る。だから出来ないことが出来るその人を信じて任せるんだ。オレはヒトとヒトとの繋がりをないがしろにし、やたらと同僚を潰したがるお前を認めるわけにはいかない。」

「……貴方に認められねば、どうなるのですか。」

「別に。どうもしないさ。ただ、考えを改めるまでオレはお前を認めない。」


 しばらく、にらみ合う。

 敏生は相変わらずまごまごしている。

 先に口を開いたのは理子だった。


「貴方の言っている事は綺麗事だ。その上、矛盾している。」

「”仲間を大事にすべき”と言っておきながら、お前の事を認めていないから。とでも言うつもりだろうか?お嬢さん?」


 理子は一瞬、驚きを隠せなかった。

 してやったりと少し得意げにニヤついてみせた。

 コイツに揚げ足取りで取られる足は、そういった言葉遊び的な部分しかないからな。

 そしてコイツは、自分の取ろうとした揚げ足を先に指摘されることに慣れていない。

 そんなことするのはオレくらいだからな。

 諜報班班長を怒らせても良いことは無い。

 他のヤツ等は、皆コイツに頭が上がらないのだ。だから誰も意見を言わない。

 ……オレは違う。コイツはいけ好かないし、言いたい事はバンバン言ってやっている。


 ……ちなみに、思いっきり『お嬢さん』の部分には皮肉を込めてやった。

 ねえどんな気持ち? 年下にこんな事言われてどんな気持ち?


「いつか分かるさ。お前は、お前の一番辛い時、今お前が馬鹿にした『仲間』に救われる事になるだろう。過程や理由はともかくだ。単にお前の事がスキだからって作業を手助けする”酷い病気”の人間が現れるかもしれないし、オマエを助ける事で利益になる、と言う理由で助けられるのかもしれない。だが、それもコレも全て『仲間』からオマエが識別されていたらの話しだ。オマエという”個人が識別されて”こそ成り立つ可能性だ。」


 ここで一拍置く。喋り疲れたのだ。

 難しい話題の様だがつまりは、理由はともかく人材を道具として見るか仲間として見るか、という問題だ。

 ……ヒトを『個体』としてみるか『集団の内の一つ』として見るか、という話しだ。


「お前がいつまでも『他の個人を識別しない』つもりなら、お前も誰からも識別されないだろう。いざという時、支えが無くて困るのはお前だ。」

「……、……。仮に私が誰かに助けられるとして、助けてくれるヒトが貴方でないと良いのですが。」


 理子は少し考え込んでから、背を向け何も言わず立ち去った。

 オレの周りにはこんなヤツしかいないのか……!

 礼儀の一つも知っておけ!人と別れるときは『サヨウナラ』だ!

 もしくは『また後で』。

 いくらでも言い方はあるだろうに!

 次にあったらアイツにも教えてやる!

 分かるまでみっちりとだ!




「……あ、こんな時間か……。君たちの喧嘩を見てたら、休み時間終わっちゃいました……。」

 軽い口調でそれを言った、敏生は緊張感も無くオレの隣で肩をがっくりと落とした。

 喧嘩をしていたのか?オレは。


「そうか、研究頑張れよ。研究班。」


 だが、敏生はすぐには持ち場に戻らなかった。

 まごまごとしている間に考えたのだろうか。

 そのままオレに語りかけて来た。


「さっき城ヶ崎君は理子君に、『どんな理由だろうが、仲間は大切にするべきだ』って、そう言いましたよね。いえ、言葉自体は微妙に違いますが、そんなニュアンスが。あれ、凄くスッキリした……。スッキリしたんです。なんだか、君が頼もしく思えたものです。誰が否定しても、僕は君の考え方、とてもスキだ。」

「……マッドサイエンティストの言う事じゃないな。」

 思わずフッと笑ってしまった。

 こういう考えのヤツもいる。誰もがオレの意見を否定する訳じゃないんだ。


「僕はマッドサイエンティストではありませんよ。それじゃ、僕は頑張るよ。固体の武器について分かった事があったら、また語りにきますから。」

「今度は理子に聞かれない場所で頼むぞ。」

 オレは手を振ってヤツを見送った。

 といっても、すぐそこの廊下の突き当たりを曲がるところを見ただけだが。


 ……突き当たりはガラス張りで、ビルから外の様子が見える。

 ビルの12階。今、自分のいる高さを確認するとぞっとする。

 高いところは苦手だ。


 そんな事を考えていたら、後ろから声が聞こえて来た。

 またも女性の声。

 しかし、理子じゃない。

「……城ヶ崎。あたしを呼んだだろう。なんの用だ。」



 ---来たか。

 確かにコイツを呼んだのはオレだ。

 ある用件の為に呼んだのだが、それはもういいや。

 今は新たに得た情報を元に試してみたい事があった。

 丁度いいじゃないか。コイツを使ってみよう。

 情報班の長を怒らせたばかりで、アイツ等に依頼する気にはなれない。

 オレは意味ありげにニヤリと笑みを浮かべ振り返った。


「お前にはある任務を頼もうと思ったんだがな。ちょっとだけ予定変更だ。任務を頼む事自体は変わらん。お前にこれからやって欲しい事がある。」


 目の前の少女は肩まで伸ばした黒い髪を撫でながら。

 ---酷くイヤそうな顔をした……。

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