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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
17/82

《悩みの配慮などしない黒い狩人》005-#1/2《城ヶ崎》

【個体の武器】

【城ヶ崎】-00-5-1/2----今は分からない! 《悩みの配慮などしない黒い狩人》



 ……周囲は暗い。当然だ。

 今、オレが証明を切ったのだから。



 オレは今、ただ1人で会議室に佇んでいた。

 ……無駄にだだっ広い部屋にいるといろいろと考えを巡らせてしまう。そんな事をさせるような雰囲気が漂っているのだ、ここには。

 御偉いさん方が座るとんでもなくデカい長テーブル。この陰湿で清々しく無い部屋の雰囲気を少しでも変えてやろうと、申し訳程度に添えられた観葉植物。

 この部屋にあるのはそれだけだ。実に殺風景でつまらない。

 ちなみに会議がある時は、わざわざここにホワイトボードを持って来る。けれども会議が終われば毎回必ず片付ける。……なんでだろうな。

 毎回ずっと置いときゃ良いのに。オレはイチイチ片付けたり取り出したりする手間が無駄に感じていた。

 こんなにだだっ広い部屋だ。ホワイトボードを置くスペースくらいなら腐るほどある。


 別にオレはこの部屋に用がある訳じゃない。

 厳密に言えば、先程まであったがもう用事は澄んだ。

 実はこの部屋に忘れ物をしたのだ。ちょっとした書類を起きっぱなしにしてしまった。

 当然、それも既に回収した。

 だから外に出ようとしたオレは部屋の照明を切った。……のだがその直後、オレの『部下』が訪ねて来たのだった。

 明かりを消した直後だったので、そのまま暗い部屋でコイツの報告を聞いてやる事にした。

 ……どうせすぐに終わるハズだ。

 仮にコイツの持って来た”報告”が長く、すぐには終わらなかったならば、その時は部屋から出ればいい。

 わざわざ照明を付け直す必要は無い。電力の無駄だ。

 何よりもこの広い会議室で、部屋の端にある証明のスイッチまで行くのが面倒なのだ。


 オレの部下は黒いスーツを着た背丈の高い男だ。

 他にも何人も部下はいるが、着ているものは皆黒いスーツ。

 服装はみんな揃ってほぼ同じ物だ。……正直、遠目に見ると全く見分けがつかない。

 目の前にいるコイツに限れば、黒スーツ以外に『サングラス』を常に着用し、他のヤツに比べて更に”エージェント”っぽい雰囲気が出ているので見分けがつくが。

 俺としても出来れば部下の見分けくらいは付けたいんだがな。

 部下全員に名札を付ける事を義務付けるべきか?

 それともコイツの様に自分の個性を主張出来るアイテムの装備を義務づけた方が……?

 正直、黒いダークスーツで統一しているのが悪いんだ。個性を潰してしまっては”個々”の見分けがつかなくて当然だ。

 ……ただな制服着用義務化は会社の方針だ。

 故に、制服の件についてはオレの部下に限ったとしても方針変更が出来ない。


 オレは目の前にいるこの部下の話しを聞くべくきちんと向き直った。

 ……それは礼儀だ。

 立場が上でも礼儀くらいは守る。

 ついでに言えば、相手がオレより年上(・・)でも立場の態度は崩さない。

 年齢は関係ない。オレは”この立ち位置”にいる訳で、故にオレは毅然とした態度を崩さない。


「報告の前に一つ言おう。オレが聞きたい事は一つしかない。『成功したか』『失敗したか』だ。」

 それからオレは、ヤツに更に念を押した。

 ……(くど)く言い回すのには訳がある。

「更に言おう、オレが聞きたい答えは一つしか無い。『成功しました』だ。さ、応えてもらおうか。」

「失敗しました。」

 部下は悪びれる様子も無く、また躊躇い無く、聞きたくもない現実を報告した。

 ……コイツは少しくらい躊躇う様な仕草を見せたらどうなのだろうか。

 悪いことをしたら、ちょっと言い辛いとかあるだろ?

 こうやって戸惑い無く言われると反省などしていない様に思えて来るのだが。

 ……オレの心境などこの男には分かるはずも無い、か。心の中でぼやいても目の前の男の仏頂面が崩れる事は無い。


 悪態の一つも付きたかったが我慢した。

 代わりに小さく呟いた。


「……知ってた。」


 ……そう、実は結果は聞く前から分かっていた。

 聞いたのは念のためだ。

 部下の”ドッキリ(実は)”に期待してじゃない。

 ただ、部下の反応を見る為だ。

 行動に明確な理由など無い。

 強いて理由を上げるなら、オレがそういう性格だからだ。

 ……最初から結果は判っていた。だからわざわざ怒りをぶつける気にもなれない。

 『失敗』の報告を聞くのは今日が初めてではないのだ。

 そろそろ怒りより虚しさがこみ上げて来る。


 事前にオレの元に来た報告書がある。コイツの報告を事前に知るコトが出来たのはコイツのお陰だ。

 さて、コレを見る限り、惨敗だ。

 こちら側の負傷者、周囲の建物への被害の報告。

 活動したことにより”もみ消す”必要があるコトのリスト……。いずれも実に宜しく無い結果だ。見てるだけで頭が痛くなって来る。

 途中で見るのをやめようかと思ったが、やはりそれは出来なかった。

 事後処理を指示するのも”上司(オレ)”の仕事だ。

 的確な指示が行えないと大失態に繋がりかねない。

 自分の首の為にも現実から目を背ける訳にはいかないのだ。

 それに何より、自分の役割には責任を持ちたかった。


「全く、相手は女子学生だぞ……。少しは恥ずかしいとか思わないか? 負けて悔しくはないか?」

「しかし、相手はウェザードです。」

 ……それも知っている。

 そっちは報告書を見る前から知ってる。ずっと前から知っている。


 ……『レンヨウ、ナギ』それと『レンヨウ、ツバサ。』


 この姉妹は半年以上前から、オレの上層部から『捕獲』の命令、及び作戦が執り行われている。

 ……にも関わらず、未だ全く保って掴めない。捕獲など出来ない。

 所在、素性、容姿。ある程度判明している彼女等のウェザード(魔法)能力のデータ。

 捕獲の為に必要な情報は全て揃っているはずだ。

 ……にもかかわらず、この姉妹は半年間、オレの所属する”一企業”の魔の手から逃れ続けている。

 自ら魔の手というのは少し自虐的かもしれないが、向こうからしたらそれが正しい表現だろう。

 全く厄介な話し、厄介な相手だ。

 姉に限っては能力の詳細さえ掴めてはいない。

 そんなこと初めてだ。ヤツ等は非情にイレギュラーな存在なんだ。


 ……恋葉、特に妹の方は実に興味深い。

 研究対象として上層部が求めている”個体”だが、その理由も分かる。


 ---コイツは他のヤツとは違う。

 他には無い、ある特徴を持っている。

 他と一線を画す、ある特徴。

 ---言い方を変えれば、ヤツは異質なのだ。


 ……と、そうやって研究班のヤツ等がぼやいていたのを聞いた。

 オレとしては他のウェザードと何が違うのか分からない。判る事って言ったら、他のヤツに比べて粘り強く厄介だってことだ。

 ある程度”上の立場”にいるとは言え、上のヤツ等はオレに詳しい情報を与えようとしない。”大人の事情”ってヤツだろうな。

 ……ま、そんなもんだと割り切ってオレはただ仕事をすれば良いのだ。

 考える必要などない。愚痴を言っても始まらない。


 ともかく、その”異端性”を目当てにして、上層部はオレにレンヨウ ナギの回収を命令したのだろう。

 だが、成果はお察しの通りだ。全く掴めていない。手に入らない。見えているのに、手を伸ばしても届かない。

 何とももどかしいが、求めるだけの価値はあるはずだ。

 昔から真に価値ある宝は一筋縄では掴めないのがオヤクソクだからな。

 その方がそれらしいし、オレの探究心も燃えるというもの……。

 ……と、かなり長いこと強がって来てはいたのだが、流石に半年追いかけてるのだからそろそろ捕まって欲しい。


 最近オレは悩んでいる。

 ……オレが直々に行くべきか? いいや、まだだ。もうしばらく様子を見よう。

 勝手な行動をすれば、上から”消される”かもしれない。

 策無き行動は失敗もしやすい。

 オレが動くときは、念入りに作戦を練った時だけだ。



 さて、まだまだ部下に言いたいことがあったため、オレ達は部屋の外に出た。

 廊下は明るい。

 明るさで一瞬、目がくらみそうになる。

 毎回廊下に出る度に思うのだが、ここまで明るい照明に意味があるのだろうか。

 廊下の照明なんてもう少し暗いものを使っていい。だからそれで節約して経費をコッチに回して欲しい。


「……報告書、読ませてもらったぞ。」

「そうですか。」

 この部下は無表情だ。

 しかも必要最低限しか喋らない。

 ……実につまらない。


「あのな、失敗して悪びれる様子が無いのは、どうかと思うぞ。」

 部下の教育が出来ていない、というのは上司として失格だ。

 ちょっとした心配りも重要なのだ。

「申し訳ありません。」

 ……、本当に必要最低限しか喋らないヤツだ。

 つまらない。

 すぐに会話が途切れて無言になる。言いたい事が色々あり過ぎて、次に出す話題に困ってしまった。

 ……そういえば、報告書について、書いた本人に聞きたい事がある。まずはソレから聞いてみようか。


「そういえば、報告書で”雅木 葉矛”という名前を見たが、コイツは?」


 ……これは初めて見る名前。

 今まで、あらゆる書類にコイツの名前は無かった。読み逃したとかそんなことは無いはずだ。

 今回の報告書で初めて、それも急にコイツの名前が挙がったのだ。

 多少以上に興味が湧いた。

「学生です。レンヨウ ナギと同じ学校に通う男子生徒。同じクラスで、家も近いようです。」

「……その情報は知っている。報告書に書いてあったからな。オレが聞きたいのは一体コイツが”どういった人物なのか”だ。何故報告書に名前が出て来る。この件にどう関わって来るんだ。」


 黒服は咳払いをした。

 無表情なりに感情表現をしようとしているのかもしれない。

 なんとなくそう思った。

 何を伝えたいのか、悪いが全く分からなかったがな。


「先週の金曜日です。コイツはレンヨウ、ツバサが諜報班と戦闘を行うところを目撃しました。つまり”消すべき人材”かと思われますが……。」


 ほう、それは初耳だ。

 ……いや、オレがちゃんと報告書を読んでいなかった訳では無い。

 諜報部とオレの部下は別物だ。

 諜報部を統轄しているヤツは他にいる。

 そいつの部下が持って来た情報は、即必要なもの重要なもの程オレより先に部下であるコイツ等に回される。

 つまり、オレの報告書の内容は薄くて(・・・)雅木葉矛の詳細については書かれていないのだ。


 ……別にそれに文句は言わん。

 実際に歩き回って行動するのはコイツ等なのだ。

 情報は時に、上司であるオレが持つより先に、現場にいる部下に情報の提供を優先させるという判断は時として有効に働く事がある。

 どうせ机にへばりついて動かないヤツが情報を持ったところで、動かないヤツはそれを部下に伝えて、後は動いてくれるのを待つしか無い。

 何が言いたいかと言えば、つまりそれは二度手間なんだ。

 だったら情報は直接部下の方に向かってくれた方がいい。

 その場で情報を手にし、自己判断で動き成果さえ上げてくれれば良い。

 ……ただ、それはオレの持論だけどな。

 そう考えないヤツだっているだろうし、居ても良い。

 ”上部の人間が何よりも先に情報を握っていなければならない!”と言うヤツもいるだろう。

 オレは情報が拡散していればそれでいいと思っている。


 それはともかく、後でちゃんと回って来るのなら”基本的には”情報の回る順序は気にしない。

 もちろん時と場合にもよるがな。今回の場合は”気にしなくていい”場合だった。

「それで。」

「ツバサは彼を庇いました。彼の存在ですが、利用の仕方次第ではレンヨウをあぶり出せる道具になり得るかと思い試してみました。いつも同じ方法で敗北していますので。」


 ……雅木葉矛を利用した。恋葉をあぶり出すエサにした。

 その結果は知っている。

 それは報告書に纏めてあった。

 事実として、『恋葉、凪』はコイツを助けるかの用な形で出現した。


 ---もしかしたら。

 馬鹿正直にウェザードである恋葉姉妹自体を直接捉えるよりも、コイツを利用した方が効率的な攻略が可能になるかもしれない。


 ……まだ確信するには早い。

 もう少し様子を見る必要があるだろう。

 もっと場数を踏むべきだ。

 雅木葉矛に対して行うアクションに、恋葉がどう対処するのか。

 ……だいたいで良い。パターンを把握する必要がある。


 これは半年間で最大の前進かもしれない。

 オレは嬉しくて小躍りしたい気分になった。

 ”ミヤビギ ヨウム”。

 コイツの存在が姉妹の”弱み”になれば、レンヨウナギを捕えるのも時間の問題かもしれない。

 ……要は頭の使い方だ。詰め方は間違えてはいけない。焦ってはならない。


「……ナルホドな。今回に限れば、意外と成功だったかもな? 平井。」


 黒服が怪訝そうな表情をした。

 よし、今日初めてこの部下の表情を歪ませてやったぞ!

 オレは心の中でガッツポーズをした。

「……私は平井じゃありません。」

「だが、ミヤビギヨウムに『平井』と名乗ったそうじゃないか。なら平井だ。そう呼ばれるのが嫌なら結果を出してオレの鼻の穴を開かしてみろ。」

「……わかりました。私は任務に戻ります。」

 ……んー、そこは”無茶苦茶な言いがかりだ!”とでも言ってくれた方がいいんだがな。

 そこまでは求めれないか。まあいいとしよう。



 オレの部隊は”実働班”だ。

 ”諜報班”の行動を受けてウェザードの『捕獲』に動く。

 それまでは迂闊に動けない立場だ。

 この”ミヤビギ”の利用の仕方を考えるにあたって諜報班の方に協力を求めた方が良さそうだ。

 ……諜報班に協力を求めるなんて気は乗らない。……が、仕方が無いだろうな。


「分かった。人材という戦力は貴重だ。死ぬな。」


 黒服はオレに背を向けると何も言わずに立ち去った。

 今度、部下の教育会でも開こうか……。

 挨拶くらいしようよ。オレは年下だが上司だぞー。



 ため息がでそうになった。

 やれやれ、若いって辛いな。


 そうやって黒服の背中を眺めていた時だった。

 背後から声を掛けられた。



「---ああ!城ヶ崎君じゃありませんか!!」


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