【とにかく、今は分からない!】005-2/2【葉矛】
いやはや、この時点でPV1000を超えました!
本当に嬉しい!ありがとうです!
しかし、割にコメントや評価の数が低い、少ないのです……。
長過ぎて読むのがだれてしまうのだろうか……。
ちょっと不安なので、宜しければ評価とか、付けて行って下さるととっても嬉しいです!
「---まあ、だいたい合ってる。」
その一言に、僕は飛び上がる程びっくりした。
脳内議論に現実の人間が割り込んで来る。
それほどにドンピシャな答えだったからだ。
僕の心境を知ってか知らずか、目の前の翼さんが肩を落とす。
「彼等はウェザードを『狙ってる』。それにどういう意味があるのかまでは私も知らないけど。彼等はウェザードの『捕獲』を目的にしてる。……殺しじゃなくてね。」
……狙ってる。そして”殺しじゃなくて”
彼女はその二言を特に強調した。
彼等はウェザードを殺そうとしてる訳じゃない。それを強く印象に残した。
だけど肝心の僕は?
考えてもみろ、僕はウェザードじゃないのに今回狙われたじゃないか。
つまり『ウェザードは殺されない』という情報だが、僕はその『殺されない』に当てはまっていないのだ。
「僕はウェザードじゃありません……。」
「そう、だからナギに見張らせたの。勝手な事だとは思ったけどね。」
そこで一度息をついた彼女はグラスを持ちお茶で喉を潤した。
その動作をじっくり見る程には、僕には余裕が無くなっていた。
------ただ怖くなってきていて……。
死を意識したからか、だんだん恐ろしくなってきていて……。
逆にどうしてさっきまでの僕は冷静でいられたのだろうか?
僕は、下手をすれば殺されていたかもしれない?
死んでたかもしれない? ……しれないのに!
それに気がつきもしないなど能天気にも程がある。
「……分かって、いたんですよね? 僕が殺されることも、何もかも?」
……さっきの翼さんの物言い。
そして凪さんに先回りさせる様な手早い対応。
彼女は『僕が殺されるかもしれないのを知っていて、僕には黙っていた』のかもしれない。
そうだとしたら、それはどういうことになるのか。
それは漠然としていてなんと言う事も出来ないのだが、そうだとしたら僕はただ”納得出来ない”。
翼さんへのこの問い方は、お世辞にも丁寧とは言えない言い方だった。
だが礼儀作法に構ってられる程の余裕があったのは、既に”さっき”までの話しだった。
「分かってはいなかった。……予想は出来たけどね。確かに今回、君は殺されかけたのかもしれない。」
そういいながら、彼女は首を横に振った。
……身勝手なのは自覚している。
だが、僕の中に少しだけ怒りが湧いたんだ。
……分かってたなら、僕に教えてくれたって良かったじゃないか。
本人からは無理でも、凪さんを通じてでも。
そうすれば公園に寄り道なんてせずまっすぐ帰った。
あんな恐い思いしなくてすんだ。
……僕は死にかけたかもしれないんだぞ!
……お茶で喉を潤した。
感情を抑えて自分自身を落ち着かせる。
……違う。……それは違うぞ雅木葉矛。
元々これは”自業自得”だ。
翼さんに悪気は無かったんだから、矛先を向けるのはお門違いだ……。
むしろ彼女は、凪さんを遣わせて助けてくれたじゃないか!
頭じゃそうやって分かっていたけれど、思わず一言……。
「ど、どうせなら凪さんが助ける為に僕を見てた事くらい、教えてくれても良かったんじゃ……。それに、僕と同じクラスに凪さんがいる事も……。」
……言ってしまった。どうしても、コレだけ言いたかった。
それを聞いた凪さんは手をあげた。
「ああ、それ前半は全面的に同意見。雅木君すぐ帰っちゃって探したり追いつこうと走ったり大変だったからね。……あぁー、でも後半は……。」
凪さんが喋っているのを、翼さんは制した。
翼さんは、言葉を遮って、
「……ゴメン。前半に関しては、それも私の失敗。けど、後半に関しては先に伝えたと思うよ、雅木君。」
……と、呟く様に言った。
凪さんがこちらを見遣る。
……凪さん自身、初めて聞いた話しであるようだ。
彼女の表情はぽかんとしている。
い、言われたっけ?いつ?
多分僕も凪さんと同じ様な表情をしているに違いない。
……考えろ。
---っ、思いだ、した__?
---そうだ、初めて翼さんにあった日。あの日、僕の名前を知っている訳を話してた。その時だ。
『だから、一緒にいる貴方も目立ってる。それに、”君は……”』
”君は”、の後だ。きっとこの後、『ナギのクラスメイトだよね。』とでも続けたのだろう。
言われてみて、そして頭の中で強く思い出そうとしてそんな気がして来た。
……ああ、完全に失敗した!
しかも”抑えろ”とか自分に言っておいて、結局文句言ってるし……。
最悪だ……。
翼さんが申し訳無さそうな表情をして深呼吸をし、一気に話しだした。
その表情は止めて。
見ていると僕の心がえぐられる様だ……。
「---確かに。向こうから何らかのアクションがある事は分かっていた。でも、分かってたのはそれだけ。ウェザードでも無い君をその場から攫う様な強烈な行動をするとは思わなかった。せいぜい接触して話しを聞く程度だとみくびってた。」
翼さんは淡々と語る。
僕の心はだんだんと沈んでいく。
「今回はナギに見張らせておいて良かったわ。思い返せばウェザードの捕獲を目的にしてる彼等にとって、民間人の命なんてそう重要なものではない、ものね……。もしかしたら最初から---……。」
”---命なんて---重要じゃない---”?
その一言に、完全に心が沈んだ。
というか、心が荒波にもまれた。
……振り返って客観的に見たら、決して『命の価値』について翼さんが意見をしたのではないと言うことは、良くわかる。
けれど”この時に限って”僕は、彼女の言葉を言葉通りに受け止める以外に、考えが思いつかなかったのだ。
決して普段からボキャブラリに欠けている訳じゃないハズだ。
……話しを戻そうか。
この沈んだ気持ち。どうやって伝えれば、伝わりやすいだろうか。
……例えるなら、これは重りを付けられて心っていう荒れた海に放り投げられた感じ---。
……それで”錯乱”と言う名の海底に後一歩まで迫った感じだ。
海底は見えている。僕の目前に迫っていた。
……もう気が気じゃないさ。
一人で勝手にパニックに陥っていた。
”重要じゃないだって?”
落ち込んで、ぼうっとしていた意識にはその『命は---重要じゃない』ってところしか認識出来なかった。
パニックになった頭が勝手に思考を働かせる。
------事実、向こうは銃を持っていた。銃だけに限らない。武器を持っていた。
実際に凪さんに撃ったじゃないか!
怪我だってしてた……。
アレはおもちゃなんかじゃない。
コレは遊びでも冗談でもない……。
……僕は自分の頬をつねった。痛い。
やっぱり夢でもないんだ……。
「僕は、こ、これからどうなるんでしょうか……?」
僕は翼さんの言葉を遮って、震える声で呟いた。
なんとか、それだけを言葉にした。
翼さんの説明を切ってでも聞きたかった。
ただ喋ってるだけで体が強張って震えたさ。
------僕はどうなるのだろうか。
自分勝手と言われるかもしれないが、自分の今後のコト以外、考えられなくなって来ている。
瞬間的に、頭に良くない光景が浮かぶ。
いつか、攫われてしまうのだろうか?
それとも、いきなり殺される……?
道ばたとかでいきなり……。
「……ッ!!」
駄目だ。そんな光景浮かべちゃ駄目だ……!
頭を振ってそれを否定する。
……気がつけば息が切れていた。呼吸が浅く早くなっている。
頭が痛い。口の中が乾いてる。
唾液が出ない。そしてなんだかしょっぱい。
だからお茶を飲む。
コップに入っている分は全て飲み干す。
……コップにお茶はもう無い。
それでもちょっとだけ潤った。
冷静さ? 持てないさ。そんなもの。
こんな状況で、冷静になれって言う方がおかしい。
……オカシイっていうか、酷い!
「落ち着いて。こうなったのは私の責任。だから私がちゃんと責任を持つ。君を傷つけたりさせない。……彼等からは、守る。」
落ち着いたトーンでの発言。
……冷淡ながらも確かにやる気をみなぎらせた声で、彼女は述べた。
ただ、そう発言した翼さんに、妹は驚いた様な表情を浮かべて述べた。
「ね、姉さんがそんなコト言うなんて? 彼によっぽど”なにか”あったの、かな……?」
姉は妹の発言に首を左右に振って答える。
「そうじゃない。彼には助けられたの。そして彼は巻き込まれた。だったら恩返しじゃないけど、きっちり返すものは返さないと。彼になにかあったらそれこそ夢見が悪いもの。」
妹はここぞと言わんばかりに突っ込む。
姉の発言に深い追求の手を入れる。
「へぇ~? 成る程ね? 随分姉さん”らしく無い”行動だねぇ?」
「そんなこと無いと思うけど。そもそも行動と言うのは少しだけ違う。彼を守るのは実際には私じゃないのだから……。」
「……へ? ハイ? もしかしてボクに押し付けようっての!?」
「姉に探りを入れた罰。それも含めて全部ナギに任せるつもり。」
「うはぁ! 良いお姉さんを持ててボクは幸せ者だよ! 雅木君にカッコ付けたコト言っちゃってさ、どーせ最初からボクにやらせるつもりだったんでしょ!?」
「……彼を守るのがそんなに不満?」
「んー、どうだろ。……ああ、違うよ雅木君! 君が嫌なんじゃなくて、姉さんの横暴に応じて良いものか考えただけだから……。」
姉妹の間で探り合いが行われていた。
姉の真意に探りを入れる妹。
真意と言いながら、目を背けた姉。
端から見れば実に微笑ましい姉妹喧嘩だったろう。
だが、僕にはその様子を気にする余裕は無かった。
少し考えていたのだ。
---今回は凪さんに助けられた。
---前回は翼さんに助けられた。
……彼女等が守ってくれるって言ったって、これからもそうなるのかな?
仮にそうだとして、僕は毎日あの黒スーツの男達に怯えながら過ごすのか?
……笑えないジョークだ。まるで映画じゃないか……。
ゲームじゃこんなシチュエーションは少ないかな。
少なくとも、僕のやる部類のゲームじゃ少ない……。
……駄目だ、明るく思考を働かせようとしても、本能が現実を突きつけて来る。
『現実から逃げるな』
『ていうか逃げれないんだけど』
『はぁぁ……。』
……声にならないため息。
心の中でついたモノか、それとも現実についたモノか。
僕にも分からない。
ただ机にうつ伏せて唸った。
……どうしよう。
こんな事で人生終ってしまうなんて……。
実質、こんなの人生のおしまいだろ?
いきなり事件に巻き込まれて、命を狙われて過ごすなんて。
そんなのは、物語の主人公の特権だ。
大概そういうポジションの主人公には何かしらの特殊能力とかがあって、次々に敵を倒していくんだろう。
しかも絶対負けたり死んだりはしないんだ。
……最近の日本はその手の物語が多い。
読み物としてみればとっても面白い内容だと思う。
だけどさ、僕はウェザードですら無いんだ。
ただ巻き込まれた一市民だ。
どうあっても、そういった主人公なんかになれない。
多分何かがあれば簡単に負けるし死ぬときは死ぬ。
状況が状況なだけに、癇癪を起こしたり逆ギレしない自分に驚いていた。
ただ気持ちが落ち込んでいて……。この気持ちを例えるなら、課題をため続けて提出日が明日って時の心境。
それに凄く近い。
この気持は分かる人と分からない人がいるはずだな。
とにかく不安で心配で疲れる。それについて考えただけで疲れるしダレるんだ。
……こういう状況での逆ギレは。僕の中でテンプレみたいなものだった。
物語とかそういうモノではだが、高確立で巻き込まれた側の人間には巻き込んだ側の人間の事情に関わらず逆上する権利がある。
僕自身、実際にそういう状況になったらその権利を遺憾無く発揮するであろうと陰ながら考えていた。
もちろん、その考えはただの妄想だった訳だ。
そんな状況があるハズが無いんだから。
あるハズが、無かったんだから。
だから時々そんな状況になった自分を妄想して、何を言うかを想像して、その後は僕は生まれ持った特殊な能力があって敵を倒して……。
そんな考えを時々持ってた。
それを妄想して楽しんでた。
『今まで』は……。
……そんなの、そのまま妄想でいてくれればよかった。
実際に起こるなんて、そんなのいらない……。
実際にこういうことが現実に起こってしまうと怒る気すら失せる。萎えてしまうのだ。
癇癪を起こすよりも先に、この先がどうなるかで頭がいっぱいになる。
怒りよりも不安が大きいのだ。
僕は生まれ持った特殊能力で敵を倒す事も出来ない。
そんなものはそもそも無いのだから。
……だけど、とにかく翼さんが完全に悪いって思う事は出来なかった。それに直接彼女を責める気にもなれなかった。
きっと好奇心に負けた自分が悪いって、どこか本気で思っていたんだろう。僕は。
だから、自分の中に溜まった負の感情が心に荒波を立てる。
……憂鬱だ。
「……雅木君?大丈夫?」
うつ伏せていた僕に声をかけたのは凪さんだった。
なんとか体を起こして深呼吸をした。
「だいじょ、ばないかも……。」
……大丈夫なハズがない。
悪い想像を頭の片隅に押しとどめるので精一杯だ……。
凪さんはふと、お茶を注ぎ足してくれた。
「……だとしても、向こうはこちらの事情に構ってくれない。」
そう声を上げたのは翼さんだった。
……そういわれて、急になにかこみ上げて来る感情があった。先程まで彼女を責める気なんて無いっていったけど、わき上がって来た感情はその気持ちを一気に呑み込んだ。
そうだけど、分かってるんだけど……。
翼さんの言ってることは正しいかもしれないけど……!
「……そんなこと言われても、飲み込めません。結局敵の正体はなんなんですか? なんでウェザードを狙ってるんです? 奴らは僕に対してなにをするつもりなんです? ナギさんが言うには、国とかそういうのが関わって行ってる訳じゃないらしいですけど! それでも、僕は後少しで、その……、どうなってたか分からないんです! なにが起こってるのか、知る権利くらい僕にだって……!!」
一気にそこまで言い切った。
間入れず、息継ぎも殆どせず。噛みもせず。
最後の方は少し声を荒げた。
こみ上げた感情は怒りじゃない。
------焦りだ。
自分は自分を攻撃して来た相手の事を知らない。
何とも言えないけど、そう、不安だった。
そう言い切ってから呼吸を整えながらふと気がついた。
……こんな言い方、女子に対する態度としては駄目だ。駄目だよね。
質問攻めも含めて。
一方的に捲し立てるのも良くない……。
だから、モテないんだ。
「……クソッ! 僕はどうしたら……。僕が何をしたってんだ……。」
……毒づいてから自分に対して嫌悪した。
言い方ってモノがあるだろうに。
「僕に何をしろってんだ……!!」
喉の奥で絞った声が出た。僕は自分の言葉をかみ殺す様に発言した。
……気がつけばまた息が切れてる。
口の中も乾いている。
お茶を飲み干したばかりなのに。
「……確かにね。雅木君には自分を守る力も無い。だってウェザードじゃないし、そもそもが普通の学生なんだもの。なにも知らされず、ただ守られる。こんなの理不尽だよね。」
---けれども。
こんな風に捲し立てた僕に、凪さんは優しく語りかけてくれた。
相変わらず冷静さなんて持てなかったけど、その言葉には反応した。
反射的に。
冷静に聞くことが出来たんだ。
……彼女の方を向いた僕は、凪さんと目が合う。
しばらく互いに目を逸らさず見つめ合い、急に恥ずかしくなって、僕の方から目を離した。
------ただ、目が合った。それだけでちょっとだけ僕は安心出来た。
なんて事無い。ただ互いに目線を交わしただけだ。
それなのに、なんとなく彼女の表情が優しく見えて……。
八割は僕の妄想とかいわゆる脳内補正ってヤツなのだろうが、彼女は本当に僕を心配してくれている様で……。
……ともかく、落ち着くことが出来たんだ。
……ただ『何の力もない』『ただ守られるしかない』と露骨にいわれたのはちょっとだけ傷ついた。
僕は”男子”生徒なんだ。
ちょっとくらいプライドとか、あってもいいだろ?
女子生徒に守られるだけ、か……。
……分かっちゃ居るが、やっぱり”主人公”にはなれそうにない。
僕はお茶を口に含んだ。
ちょっとだけ口の中に留めて、飲み込む。
それでもまだ口の中が乾いてる感じがしたが、さっきまでより断然マシだ。
「理不尽……。確かにそうかもね。だけれど……。」
翼さんはどうにもやりきれないと言った様子を顔に表し、切り出した。
「もうこうなっちゃったら、なるようにしかならない。不条理だろうがなんだろうが、割り切ってもらうしか無い。さっきも言ったけどあいつ等はこっちの事情なんて考えてくれない。貴方はもう巻き込まれちゃったの。現実からは逃げれない……。私の口から告げるコト自体、とても不条理なこと、なんだけれど。」
……翼さんの言っていることは正しかった。
僕が彼女を罵ろうと、その場でジタバタ暴れようと、結局は何も変わらない。状況は変わらないんだ。
納得しようが、そうでなかろうが、覆らない。
「……、……。」
言葉が見つからない。
……僕は、どうすればいいんだろう。
答えが見つからない。
ただ俯いて、頭の中で考えを巡らせる。
出て来るアイディアと言ったらあり得もしない”妄想”だけで、状況打開には何の役にも立たない発想だけだ。
「……まぁともかく! 君はボクが守ってあげるんだから! いつまでも暗い顔してないでフツーにしてればいいんだよ、フツーに!」
「……へ?」
唐突に、凪さんが明るく話しかけて来た。
僕の背中を軽く叩く。
雰囲気をぶった切った明るい態度に、正直面食らったが……。
「……そう、ね。君が普通にしていられる様に私たちがなんとかする。してみせるよ。」
そういったのは翼さんだった。
凪の醸し出した雰囲気に、便乗する様な形。
それでも僕に対して、一種の”慰め”の様なコトを語りかけてくれた。
「……本当に。私のせいで学校の生徒一人が消える、なんて絶対にさせない。彼等の思い通りにはならない。……彼等は絶対に泣かせる。顔も見せない1番上のヤツを引きずり出して詫びさせてやる。」
「素直じゃないなぁ……。」
凪さんが小さくつぶやいた。
僕はといえば、戸惑っていた。
二人は話しを進めるが、実際僕はどうすればいい?
普通にと言われても……。
それでいいのか?
「そうだ、君の家ってボクの通学路の途中にあるよね?」
僕は頷いた。確かにそうだ。
彼女が普通に通学した場合でも、僕の家の前を通ることになるのだ。
「だったらさ、朝迎えに言っていいかな?」
「……へ?」
……へ?
いま、なんていった?凪さん?
迎え……?
「……確かにその方が都合がいいかもしれないわね。……通学中も、彼の行動を把握出来る?」
翼さんは一人でブツブツと呟きながら時折頷いている。
ちょ、ちょっと待って欲しい!
「ん?どうしたの?」
僕が口をパクパクさせていると、発言のチャンスが回って来た。
は、はっきり言っておこう。
女子と一緒に学校登校なんて、……。
”悪く、ないかもしれない”……。
じゃなくて、無理だ!
そんな勇気がないっていうか!
……なぁ、僕よ。そういう理由?
駄目だ、明確に理由が浮かばない。
ていうか、そもそも一緒の登校をなんで断るんだ? 僕?
なんで断ろうとしているんだろう、僕は。
「ええっと、その、一緒に登校、ですか?」
やっとのことで絞り出した発言は、実の無いつぶやきだった。
なにが言いたいんだ、僕……。
「駄目、かな?」
凪さんが哀しそうな顔をした。
それを見て、思わず……。
「そ、そんなこと、無いですよ!」
『ただ------。』
『ただ』と、そう続けたかったが。
「そっか!じゃ、明日から宜しくね。雅木君。」
……押し切られてしまった。
情けない。
いや、断る理由も無いんだけどなんだか、ええっと……。
「そうだ、”ミヤビギ君”って言い難いから、もう『葉矛』って呼んじゃって良いかな? ボクのこともさん付けなくて『ナギ』って呼んでいいからさ。」
……更に追撃。
なんだ、なんなんだ?
……フラグ?
稀鷺、これって君が言ってた『フラグ』ってやつか!?
------この時僕は、さっきまでの沈んでた気持から完全に浮き上がっていた。
我ながら単純だよな……。
うじうじと沈んだ気分だったからこそ、2人の”励まし”が素直に効いたのかもしれない。
それでこうやって単純に物事を受け止められたのかも。
ただ、凪さんの言い方はストレートすぎて少し恥ずかしかった、というのはあるかもしれない。
「……。ナギ。彼、困っている様だけど?」
コレは翼さんが言った。
僕が黙りを決め込んでいたため、見かねて割り込んで来た様だ。
妹の所行に呆れ顔を見せた。
「ええ? そう、かな……。迷惑だった?」
「いえ、全く!」
一瞬で回答した。
彼女のことを『ナギ』って呼ぶのには抵抗があるけど。
会って一日で女子を呼び捨てするなんて、本来の僕からしたら考えられないんだけど!
……だけど向こうから行って来た提案だものね。
ぼ、僕は全然オーケー。
だったら、それでいいじゃないか?
い、いいんだよね?
「なら改めて。明日から宜しくね。『葉矛』君。」
そういって『ナギ』は、”左手”を差し出して来た。
握手……? 一瞬躊躇うが、何もしないのはあまりに失礼だ、よね?
「う、うん。僕こそ……。」
僕も左手を差し出そうとしたが、翼さんが凪さ……ナギの手をはたいた。
「はい、そこまでー。雅木君、悪いんだけれども今日はこれくらいで御開きでいいかしら? 遅いし、一度にいろいろ言っても飲み込めないだろうし。ちょっとだけ頭の中を整理しておいて。次にまた違う事を話すから。それと今日は家までは私が送るから。」
「な、なんでさー?」
ナギのぼやきに対しても翼さんはあくまで冷静だ。
僕はただ頷いた。
------ふと僕は気がついた。
ナギがああやって明るく接してくれなかったらまだ僕は気分的に沈んでたのかもしれない。
『レンヨウ・ナギ』
僕には、今の彼女を『武装した大の大人4人を倒したとても戦闘の強い人物』として見る事は出来なかった。
今は姉と口喧嘩気味に言い争っている。
その様子を、”今の僕”は落ち着いて眺める事が出来た。
あの人は一人の”少女”だ。
ウェザードである前に彼女は一人の”人間”だ。人間だったんだ。
……当たり前のことなんだけど。それはとっても当たり前なはずなのに。
何故かそれが、その事がちょっとだけ印象的で、僕の記憶に深く刻まれた。
”ウェザードも人間”。
なんでそんな当たり前のことがちょっとでもこんなに印象的に感じられるのだろうか。
その理由は、
------今は、分からない。
今回から、いくつかタグを付けさせて頂きました。
理由は、書きだめているところに『残酷描写』に値するかもしれないシーンがあったからです。
どの程度が規制の対象なのか、判断がちょっと難しいですが、一応と言うことで承知して下さると幸いです。