《本人の思い》003-#1/2(1-2)《凪》
水曜日投稿。
投稿のペースに書くペースが追いついていない……!
誤字が不安すぎます…。
【個体の武器】
【恋葉凪】-00-3- 1/2----恋葉 凪 《本人の思い》
少女、『恋葉 凪』は焦っていた。
予想にもしていなかった事態に見舞われたのだ。
彼からは、朝から目を離していなかったのに。
『帰るの早過ぎ……!』
彼女は1人で毒づいた。
放課後、大勢の生徒に混じって彼女は1人飛び抜けるように走っている。
走って、自身の通学路をひたすら走ってある人物に追いつこうとする。
凪の追っている人物は『雅木葉矛』と言う。
彼は彼女のクラスメイトだ。
何故彼女は葉矛を追っているのか、彼女は別に彼に恋心など抱いてはいない。
ただ、自身の姉に言われたからだ。
姉から”それ”を頼まれたから、彼女は必至に走って約束を守ろうとしている。
彼女はずっと姉との約束事を頭の中で考えていた。
もう一度姉の言葉を思い出す。
姉とのやり取りを。
---姉と喋る事自体が久々だった。
姉妹仲が悪い訳じゃない。むしろ仲は良好だ、多分。
ただ、姉妹と言えど住んでいる家が違えば話す機会も少なくなる。
学校でも一つ上の学年の姉に会う事など殆どない。
自分から無いにいく事も無いし。
だから、姉の方から態々訪ねて来たその時には随分と驚かされた。
先日、妹の家まで姉が自ら訪ねて来たのだ。それも夜に。
……夜7時半。
今日は日曜日だ。『ボク』はその時、夕食を作っていたところだった。
ボクは小さなアパートに部屋を借りてほそぼそと生活していた。
姉と別々に暮らす様になったのには理由があるが、長くなるので言わないでおこう。
小さなアパートに相応しく、借りた部屋も相当に小さい。
この住居はなかなかに年期の入った建物で、お世辞にも綺麗とは言えない。
まぁ、生活に必要な設備は全て揃っている。なにも文句は無い。部屋は常に掃除を心がけ、なるべくは綺麗な状態を保っているし。
さて。レンジが冷凍食品の加熱を終えたことを告げた。
やっと夕食にありつけると鼻歌を歌いながら炊飯器に手を掛けたところで、例の訪問者は訪れたのだ。
……家の扉を叩く音が聞こえた。
こんな時間に誰だろう。
ボクの家を訪ねて来る様な人間に心当たりは無い。
たまに通販で取り寄せたお菓子とか、荷物を届けに来る宅配便屋さんくらいが来るが、個人的に尋ねて来る人間など無に等しい。
ボクは一度ご飯の準備を中断し、咄嗟に判子を用意して玄関の扉を開けた。
「……。」
来たのは宅配便ではない。
いつもの習慣でつい判子を持ち出してしまったが、よく考えてみれば近日何かを頼んだ覚えはない。
玄関に立っていたのは、姉だったのだ。姉は『極めてクールな無表情』で、ボクの目の前に立っている。
……それで、自分からはなにも言わない。
「……あー、っと。どう、したの?姉さん?」
姉は何も言わず、扉を閉めながら部屋に入って来る。
それから相変わらずの無表情でこちらを見て、
「……入って良い?」
と訪ねた。
……もう既に入っているのだけど。
指摘して良いものか悩んだが、結局やめてただ頷いた。
この来客を拒む理由は無い。
ただ珍しいというだけ。
珍しいから面食らっているだけだ。
「それで何の用なのさ?」
向かい合って姉に尋ねる。
リビングの(といっても家の部屋はお風呂兼トイレルームを除き一つなのだが)机をまたいで座って、互いに顔を突き合わせる。
姉は表情を崩さない。
姉がいつもこの調子だと言うことは知っている。
だが、妹の前ではもうちょっと崩れても良いと思うのだ。
この態度でいつもより少しゆるめの態度だというのだから驚きだ。
普段の生活で周りに向けている、愛想の良い顔の方が姉にとっては『不自然な』ものなのだ。
「……帰らせたい?」
姉は呟く様に訪ねた。
こちらは小さく首を振って否定を示した。
この姉は若干ヒステリックなのだ。
自分は誰より理解している。
たちの悪い事に、姉はヒステリックで大の皮肉屋でもある。
我が姉ながら、悪質な来客だな。
……ただの愚痴になっちゃうな。
話しを進めよう。
「そうじゃなくて。ボクの家を訪ねて来るなんて何か用があるんでしょ?珍しい。」
そう訪ねると、姉は小さく頷いた。
しかし相変わらず喋らない。
頷いたり反応を返すことはするのだが、自分から説明したりはせず積極性がない。
---ここまで自分で来た割には……。
……いや、待て。
いつも、ここまでなにも喋らない事はない。
我が姉とは言えいくらなんでも無口過ぎる。
つまり何か後ろめたいものがある……?
一瞬でそこまで把握した。
『予測』したではない。『把握』した、だ。
姉は常人には話し辛い内容の話題を抱えて来た。
妹にはわかるのだ。
「なにか、マズいこと?」
分かっている。
姉は何か『変なヤツ』に狙われている。
このボクも。
むしろ狙われているのはこのボクなのかもしれないのだ。
なにせ姉が狙われ始めたのはボクが奴らから狙われ始めて暫くしてからの事だ。
------ボクがウェザード能力を得て2年程になる。
”誰か”に狙われ始めたのは大凡1年前。
姉さんはその更に一ヶ月後からだ。
ボクが奴らにバレたから姉さんも巻き込まれた……。
憶測の域は出ないがその可能性は高い様に思える。
……だから姉さんには逆らえない。
ボクがいなければ姉さんは巻き込まれなかった。
だからちょっとでもその罪滅ぼしをしなきゃいけない。
それは他でもない自分で決めた事だ。
……話しがズレた。
とにかくボク等姉妹を狙う『誰か』が関わった話しだろう。
『日常生活』で悩みを抱えるなんて、姉さんに限ってあり得ない。
この姉は極端なまでの完璧主義者なのだ。
そんな姉が日常生活においてそうそう悩みを持つはずが無い。
言い切れる根拠は、彼女が『恋葉 翼』だからだ。
”翼”は困りごとの要因を作らない。
仮に悩みがあったとしても、きっと自己解決するのだろう。
少なくとも、ボクのところにわざわざ訪ねて来る程の悩みや問題事はそうそう起こさないはず。
この姉は妹に頼る事も好まないのだ。
---突然、姉がため息をつく。
テーブルをこつこつと二度、指で叩きぼやく。
「……見られた。男の子に。」
ただ、二言。その二言。
それを頭で復唱する。
「……ああ? ……ハァ!?」
一瞬何の事か分からなかった。
『男の子に』『見られた』?
一瞬思考が強く働いて、それは電流が一瞬体に流れた様な感覚で。
脳裏にある事が浮かんで顔が真っ赤に------。
「……ナギ。違う、違う。」
姉さんは白い目を向けて来る。
「あ、あぁ。……そう。……違うんだ。じゃ、じゃあなにさ?」
ため息をつかれた。
……確かにボクの思考がおかしかったのは認める。
けどそれはそちらの説明不足もあってのことで……。
……何故ため息をつかれねばならないのだろうか。
勘違いされないように言わせて貰おう。
姉が深刻そうな顔をしていたから真面目に頭の中で『姉がここまで追いつめられる原因』をいくつか考えた。
その上で、今のワードから連想したに過ぎない。
いつもこんな事考えてる訳じゃない。……断じて違う。
つまり姉さんの言い方が悪いんだ。
ボクが悪いんじゃない。ボクの想像力が変な訳では無い。
姉がもう一度、机をコツコツ二度叩く。
「戦闘行動を見られたと言った。」
……いや、言ってなかったし。
それは初耳だ。
今まで無言だったよ、姉さん。
そう呟いたのは心の中だけ。
その呟きは現実に発する事無く消え去った。
姉が言葉を続けたからだ。
「ナギのクラスの、雅木君って知ってる?」
---"雅木"君。
……ああ、知ってる。
「知ってるよ。五月蝿そうな子といつも居る、あの大人しそうな方の子でしょ? 黒髪で、ええっと……特徴が薄いっていうか。」
確か、いつも一緒にいる五月蝿そうなのは『キサギ』とか言ったっけ。
個人的に、男子としてみたら雅木君の方が好みかな。
静かで、優しい人の方が好みだ。個人的主観だが。
ただし彼はちょっと頼りなさ過ぎる様に……。
------ちょっとまった。
……『見られた』『戦闘行動』『雅木君』?
並び替えろ。分かりやすくしろ。
『雅木君』に『戦闘行動』を『見られた』。
雅木君に戦闘行動を見られた。姉が。
頭で三度復唱してボクはぼそりと呟いた。
「……見られちゃった、んだ?」
雅木君に。
「うん。見られた。」
……雅木君に?
「それで、どうしたの?」
……雅木君を。
「助けられた。感謝してる。」
「いやいや雅木君をどうしたかだよ。姉さんがどうしたか、どう思ったかなんて聞いてない。」
姉は少し怪訝そうな顔をしたがすぐに言い直した。
なんでそんな表情をしたのだろうか。自分は間違いを指摘しただけだ。
というか助けられたんだ?
この姉が誰かに助けられた……。
ちょっと想像がつかなかった。
「とりあえず家に送った。事情を聞いた。なんであの時間にいたか、何を見たか。」
……行動も重要だけど、”結果”が聞きたいのだが。
家までは無事に辿り着けたのだろう。
でなければ、もっと先に”そのコト”から話し始めているはずだ。
夜遅く雅木君がいた理由を話して欲しい。本人から事情を聞いたのなら、彼が何を言ったかを説明するべきだ。
「……あの時間にまさか出歩いている人間がいるなんて。ましてや、私の学校の生徒にいるなんてね……。まだまだ生徒の把握が出来ていなかった。」
不機嫌そうにそう呟いた。ボクは確信する。
今、ツッコむ様な形でモノを言うと姉の機嫌は更に悪くなるだろう。
元からこの姉は不機嫌なのだ。
『姉は怪訝そうな顔をした』。
その時点で彼女の機嫌が悪いのは分かりきっている。
「それでどうするの? 改善案があったりするんでしょ、どうせ。」
この姉は現状を改善する案を考えた上で自分のところを訪ねたに違いないのだ。
彼女がボクのところに相談事を言うときは、大抵自分で改善案を既に用意しているのだ。
何故ならボクの姉なのだから。
何故なら彼女は恋葉 翼なのだから。
彼女を知っている人間なら、根拠はそれだけで十分だ。
……そしてそれはボクが手伝う必要のあるモノ。その上で頼みにくいモノ。
だからこんなに話すのを渋っている。
そう考えればつじつまは合う。多分、大方合ってるのだろう。
自分が姉が原因で起こった問題を妹に話すのを渋っている。
実の妹を相手にそこまで気をつかう必要はないんだけどな……。
気にかけて貰う事自体は悪い気はしないけど。ふと姉は肩を竦める。
ボクから目線を外し、机の上を眺めて、
「……任せる。」
一言ぼそっと呟いた。
……任せる?
唐突すぎて飲み込めない。
「……えっと、なにを?」
姉は顔をあげた。
意を決した様な表情。
妹相手に実に他人行儀に感じる。
一呼吸置いて姉は述べた。
「雅木君をしばらく見ていて欲しい。激しい攻撃は向かわないと思うけれど、念のため。本来なら私のするべき事だけれど。」
そこでボクは言葉を制した。
手を前に突き出し『ちょっと待った』する。
……恋葉 翼は部活やら生徒会やらで忙しいのだろう。
あ、ちなみにボクは部活やってないから学校が終わったら速攻で帰る。
つまり姉は動けない。ボクは動ける。
普段の生活を歪めてまで動きたくないのだろう。
多分、それはボクの事も考えての事だ。
『普段の生活を歪める』。
それは何も知らない他人からしたらとっても怪しい行動に見える。
それは関係のない他人からしたらとっても奇妙な印象を与えるのだ。
別に断る理由も無い。どうせ暇なのだ。
断ってはいけない。姉の頼みなのだ。
「断れないな。引き受けるよ。見てるだけでいいの?」
姉は首を横に振った。
なんともやりきれない様子。表情。
なかなかお困りの様だ。
「基本的にはそれでいい。ただ、彼等の出方次第で対応を取って欲しい。無いとは思うけど、仮に交戦状態になったら手早く切り上げて私に連絡して。メールでも電話でもいい。その日の5時半頃には『ここに』いるようにするコト。それと……。」
一度呼吸を整え、姉さんは深刻そうな顔をした。
「彼はウェザードじゃない。だから彼等が『対応』する時”私たちにするように”はしないかもしれない。多分私たちの時程、強引な行動はとらないとは思うんだけど……。ナギ、考えてね。」
「オーケー。以上かな?」
姉の話しが長い。そろそろ覚えきれないかもしれない。
後は簡潔に話してもらおう。
話しを切る流れを作る。
「いいえ、まだ。コレを見て。」
姉が鞄から何かを取り出した。それは黒光している。
姉が取り出したものを見、は?
えっと、握りがあって先に何か筒の様なものが……、……?
それがなんなのか分かった瞬間、思わず立上がって身を引いた。
お、おいおい……コレって……!
「銃!? な、なんなのさ! いくらなんでもこんなもの学校に持っていけないよ!?」
机の上に置かれたのは、疑い用も無く拳銃だった。
モデルガンじゃないかって? おいおい止してくれ、姉さんはそんなものを買ったりしない。
というか姉に限らず常識観点で見れば分かるが、多くの女子高生はモデルガンの週種を趣味にしない。
……姉にまた白い目で見られた。
なんでさ。
姉は呆れたような表情を隠さない。
やれやれと肩をすくめながらぼそっと。
「違う。話しを聞いて。コレは雅木君とあった日、彼等が持っていたもの。」
なんだ、そうだったのか。
てっきり対抗手段として何処からか手に入れて来たのかと思った。
そしてそれをボクに持たせようとしているのかと。
……だが、ボクに持たせる為に持って来たのではないとすると。
奴らが銃を持っていた。それを話しただけだったのか?
銃を持っていたから、どうしたというのだろう。
姉さんはどうせ《力》無しで対処したのだろうに。
つまり対処『出来た』のだろうに。
ボクじゃ対処出来ないとでも?
《力》を使えば、ボクにだって……。
……いや、分かって来た。
ボクの知る限り、彼等は今までボクたちに銃を使った事は無かった。
「分かったと思うけど。彼等もだんだん本気になって来てる。油断だけはしないでね。ナギ。」
「分かってるって。どの道ボクたちの敵じゃないけどね。」
銃を見せられたときは何事かと思ったが、ただの警告に過ぎないのだ。
相手は銃を使い始めた。
けれど《力》を使えばボクだって姉に並べるはずだ。
銃は確かに厄介なモノではあるが、人生まだまだ詰んではいない。
でも、奴らもそろそろ本気で殺しに来てるのか……?
------ミヤビギ君に対してすることやるべきことを纏めよう。
1,基本傍観するのみ。それは恐らく周囲の生徒に気づかれない範囲で行うべき。変な噂が立つと動き難い。コレはボクの主観。
2,姉さんは可能性は低いと考えているが、万一交戦が行われた場合、つまり向こうからの『攻撃』が強かった場合。姉さんに連絡して5時以降くらいにこの家にいればいい。
3,雅木君はウェザードではない。仮に非常事態に陥ったら彼に配慮した対処が必要。相手の彼に対する対処法にも注目。
4,姉に連絡を取ったら5時半にこの家に姉が(恐らく勝手に)上がり込む。そこで何かしら彼に話しをするんだろう。
5,つまり交戦になる程の事柄が起こった場合、姉に連絡をし5時くらいまでには奴らを撒いて雅木と自宅する。
6,奴らも本気である。銃を持っている場合も考えられる。油断は出来ない。
------------整理終了。
時々こうやって頭の中で復唱しないと分からなくなる事がある。
重要ならどんな簡単な事でも念を入れて確認すべきだとボクは思っている。
ボクは姉さん程頭は良くないから。
補う為には工夫が必要だ。
姉は一言、更に付け加えた。
「彼は私を助けた。私のせいで彼は狙われるかもしれない。もしそうなら彼は絶対に助けたい。ナギには迷惑かけるけど、お願いね。」
相変わらずの無表情だったが、目に宿る光は本物だ。
姉は本気で彼を守る事を考えている。
妹には分かるのだ。姉の思いの強さを。ボクはただ頷いた。
姉さんだって、ボクのせいで狙われているんだ。(多分)
だから、雅木君を守りたいと言う姉の気持は良くわかる。気がした。
ただ、姉が『他人』に対して本気で向き合ったのは初めてだ。多分始めてだと思う。
少しだけ驚いた。
……雅木君、か。