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3/3

ピラミッドは空から見ると正方形

 一巻の終わり、とはいろいろな意味でこういう事ではないだろうか。


 謎は尚も深まるばかり……と言えば格好はいいが、全く事が運んでいないだけなんだよな……。

 手掛かりは「33」と書かれたメモの数字だけ。

 本当にこれだけ。

 今日の事なのに、書いた本人さえ「うーん」と頭を抱えるばかり。

 それでも解決したい俺の横では、のんきに相変わらず八つ橋を貪る女。

 ……どれだけ好きなんだよ。

「そ~だな~……これでご飯は3杯はいけるかなぁ」

「うわっ!なんだよっ、人の心の中を読むんじゃねぇー!」

 ん?という顏をして、彼女が首だけを動かして俺を不思議そうに見る。八つ橋は相変わらず銜えたままだ。

 ついに読心術までもできるようになったか、こやつは……

「神崎クン、なんか独り言呟いてたよ。なんか、ノイローゼ?大変だね~」

「はっ倒そうか、しまいにはよっ!誰かさんのせいでそうなのかもな!」

 と、突然目の前で吉井先生が青い顏をして、うずくまった。

「そうか……そうだよな。俺のせいだ、俺の……はは、は……」

 うわ、病んでる。

 いやいやいや、先生のせいでもあるんだけど、一番の原因は「八つ橋のこいつ」でせいであって、そんなに落ち込まなくても……と言ってもまた先生は落ち込んでしまうかもしれないし……

 ああああぁぁぁ、もうどうにかならんのか、この状況は!!

「とにかくっ、先生も八つ橋ばっか食ってるお前も、この『33』を何とかしないと、今日が終わってしまう」

 そう、タイムリミットは本日。

 その「33」が書かれている日付が、今日だからだ。先生が焦るのも正直わかる。わかるだけに、何とかしてあげたい。

 例え、この女が「何でも生徒会にお任せをっ!」と半ば自分勝手なことを全館放送を通して発信して、それに俺が巻き込まれるような形で頼まれている、としてもだ。

 しかもしかも、いざ依頼が来たと思ったら、この俺にほとんど丸投げでやんの!!

「わかんなぁ~い。つまんなぁ~い。もう飽きた」

 馬鹿野郎っ!なんだそれは!なんだその眼鏡は!?

「神崎クン……何だか、だんだん鬼のような形相になってきてるんだが……大丈夫かい?」

「ホント大丈夫?八つ橋欲しかったら、そうと言えばいいのに……」

 二人とも……ちょっと今、俺に構わないでそっとしておいてくれい。


「あのさ。やっぱ、『33』って何か隠すための暗号じゃないの?」

「何を?」

「もしも、誰かさんがそれを見ても、それってわかんようにするためじゃん」

「だから、なんでわざわざ急いでるときに、そんな事する余裕あると思うのか?」

 いや、待てよ……

 先生が「33」と書いた事さえ覚えてないというのに、ましてやその時の状況を覚えているということ自体、矛盾むじゅんしているのか。

「先生、このメモを書いた時、本当に慌てて書いたものなんですか?」

「ああ。電話をしていて、呼ばれたので、書いたということは覚えてるんだんが……本当にその時『慌てて書いた』のかどうかと改めて聞かれると、自身が無くなってきたな……」

 なるほど。この吉井先生は、的確な証拠や形が無いと自身が無くなるし、記憶もあやふやになるみたいだ。

 さすが、この辺は理詰めで考えそうな、「数学の先生」といったところか。

「じゃあ、仮に何かの暗号だとすると、何だと思うんだ?」

 俺は腕組みをして、脚を組み、彼女に何か考えでもあるのかというように、振ってみた。大体、言い出しっぺは彼女だ。

 彼女は一回「ふあーあぁぁ……っと」と、大きな欠伸をかました後、目をつぶって「むー……」と考えるふりをしている。

 胡坐あぐらを掻いて右に左に2,3回メトロノームのように、カッチカッチと大きく揺れた後、急に目を開いて「はっ!」とか言ってる。

 一休さんか。

「……『3+3』は?」

「6だな」

「……じゃぁ『3×3』は?」

「9だろ」

 ここまで言うと、彼女は「どうだい」みたいな、どや顏を俺たちに見せてくる。

「だから何なんだよ」

「69」


 ――――――しーん――――――


 は?……だから?なんだこの、突っ込みきれない、どうしようもなさは。

 しかも、変に突っ込むと、からかわれるパターンのやつだ、これは。たちが悪い。もう、いいや。こいつに期待したのが悪かった。俺が悪かった。

「『99.9999%』のことですよ」

「何が?」

「さぁ……」

「おまえがいうんじゃねぇよ!!この八つ橋女が!!」

「たっぁ、いたーいっ!」

 これは、本格的にらちが開かん。

 やはり「暗号」などではなく、ただの「数字」としてそのまま書いたと思うのが普通だろ。

 なんでわざわざ自分も思い出せない様な暗号なんて作らにゃならん。

「結局、やっぱり33に関係する何かなんじゃないんですか、先生?」

「先生の歳とか?」

「私の歳は30だ。だた、その……歳というか、何か引っかかるんだよ……」

 歳か……年齢……。

「誰かの33歳の誕生日かなんかじゃない?」

 誰かの誕生日、か。

 なかなかいい事をいうじゃないか、短髪メガネっ娘!

 初めて感心したぞ。ご褒美に、後で八つ橋をあげよう。

「誰か33歳になる人とか、いないんですか!?今日ですよ、今日っ!!」

「うーん、でも、今日誕生日の人なら、私もさすがに覚えてると思うんだけど……まいったなぁ~、どうしよう……」


 ――――――キーン コーン カーン コーン――――――


 うわ。ここに来て下校時刻かよ……。ついてねーな。

 見ると生徒会室の部屋もすっかり夕焼け色に染まり、窓から臨む景色からも、ぽつぽつと街の明りが灯る。

 一気に寂しい感じになってきたなぁ。

「先生、俺たちもそろそろ帰んないと、下校時刻だしさ。まあ、なんだ、元気出しなよ先生。大事用事ならきっと、相手から連絡とかあるかもよ」

「そーだよ、せんせ。いちいち落ち込んでたら、ハゲるよ!」

 いいから、お前はだまってろっ!


 まだ、時間はあるか。諦めるな、俺。

 何かないのか……。

 待てよ、先生は「誕生日」に少し反応していた。

 やっぱり誰か「33歳」になる人なんじゃないのか?

 わざわざスケジュールに入れているぐらいだ。きっと誰かの誕生日のパーティーに呼ばれているとか、プレゼントの準備をしておこうと思っていたに違いない。


「先生!!」

「な、何だ、神崎クン。」

「全力で『33歳』に今日なる人を思い出してください!きっと、いると思うんです!スケジュールにわざわざ書くことですよ!!」

 ひーっ!と、いう漫画みたいな顔をして、先生は汗ダラダラかいて、それをハンカチで拭きに拭いて、「えーとなー……なんか、引っかかるんだよなー」と言いながら唸っている。

 頑張れ先生。頑張ろう、先生!

 その気になれば、人は何だってできる!

 神様は人に乗り越えられる試練しか与えないんだ!!

「誰かいたっけな~……」


 生徒会室に張り詰めた空気が流れる。

 結構時間がたったような感じもするし、短い時間だったような気もする。

 その時、


 ――――――ピロリロリーン ピロピロピロリ~ン――――――


「あ、すまん、私の携帯が鳴ってるようだ」

 突然先生の携帯の着信音が部屋に響いて、みんなびっくりした。

 ふぅ~……

 なんか一気に緊張感が解けたなー。

「もしもし……あぁ、そろそろ帰るよ……」


 あぁ……腹へったな~……

 今日の晩メシ何だろうなぁ~。「鶏の唐揚げ」だったらうれしいなぁ。

「あたしも唐揚げ食べたい」

「って、だから勝手に人の心を読むな!」

「だって、また独り言いってたんだもーん」


 部屋も部屋の外も、だんだん静けさが増してくる。

 俺たちがしゃべるのを止めると、先生の電話の会話の内容が少し聞こえるようになる。

「それじゃあ、今から帰るよ。うん……え、ああ、ヒロシに代わるのか?わかった……」

 ヒロシ。

 息子さんか?

「……モシモシ、パパ?ヒロだよ。元気?」

「ああ、パパは元気だよぉ~。ヒロシもいい子にしてたか~、パパもうすぐ帰るからなぁ~」

「そうだ、パパ。きょうからワンちゃんくるでしょ?もう、名前きめた?パパがきめるっていってたもんね!?」


 ……ワンちゃん……名前……。


 ……心の中の、螺旋階段の一番奥。頑丈な南京錠で施錠されている堅牢な扉。

 鎖で雁字搦がんじがらめになっていたそれは、それらのキーワードが正に鍵となって、重く静かに開かれようとしている。

 ……というか、開いたのはいいが、大きな声で「開いた!」とは言えない!

 決して言えない!


 ピッ。


 先生は一通り話し終わると、携帯をそそくさとポケットにしまう。

「それじゃあ、先生は帰るわ。今日は、詰まんない事に付き合わせて悪かったなぁ」

「はぁ……」

「いいの、せんせ?遅いから帰って来いって?なんだかんだで、尻に敷かれて……ぐはっ!」

 俺の鉄拳が飛ぶ。

「『33』は、もう、いいんですか?……なんか、中途半端で力になれなくて、ホントすいませんでした……」

 その瞬間、先生の体がわずかにピクンと震えた。

「いや、なんだ、こういう時もあるよ。刑事ドラマじゃあないんだ。迷宮入りの事件……それもそれで謎めいてていいじゃあないか~」

 ……なんか変だな。

 今まですんごい落ち込んでて「だめだー」とか頭抱えてた先生が、どうしたんだ。

「先生、電話で何か言われたんですか?大丈夫です?」

「大丈夫だよ~。じゃあ、先生はこれで」

 すちゃ!と右手を挙げると、生徒会室の扉を開けてすたすたと出て行ってしまった。

 七尾と俺と、顔をお互い見合わせたが、まあいいかと、もう帰ることにした。

 っていうか、もういい加減に下校時刻過ぎて遅いし。あんまり下校が遅いと、守衛さんに怒られてしまう。

「まあ、なんだ。七尾俺たちも帰るか」

「そだね。あ、帰りに神崎クンちの近くの八つ橋買ってくから、場所教えてよ」

「ったく、まだ、食うのかよ……今日だけで3袋目だぞ……」

「甘いものは、別バラなんだじょー」


「パパー、おかえりなさーい!」

「ああ、ただいま」

「このこが、ワンちゃんだよ~。かわいいでしょうぉ~」

「はっはっは……こいつは、かわいいかなぁ~。よしよし、いい子だいい子だ……」

「ねぇねぇ、パパ。このこの名前きめた?なんてよべばいいの?」

「パパはね、『ロロ』って決めてたんだけど、駄目か?」

「『ろろ(・・)』かぁ……へんな名前ぇ~」

「そうか?逞しいワンコになってほしいから、そう考えたんだけどなぁ~……」

「パパ、このワンちゃん、おんなのこだよ~」

「そうかそうか。はははは……」


 ……言えない。


 絶対に言えない!!

 自分で書いた字が読めなくて、あれだけ「33」って何だろうって、考えてくれてたのにっ!!

 前もって飼うことになる犬の名前を書いていたなんて……


 なんで平仮名ひらがなで書いてしまったんだろう……。

 カタカナで書いておけばあんな相談はしていなかったよな~……。

 ん?

 ……なんか、似たようなことで誰かにも迷惑をかけたような気がするが……

 ま、いいか。

 そのうち思いだすだろう。なんて。


「パパにももう一回、抱かせてくれよう~」

「もう、パパばっかり、ずるーい!」

いかがだったでしょうか?


「33」の正体、ここまで引っ張っておいて、なんだよ!と思われるかもしれませんが、これが「かんなな」クオリティです^^


いったん、このお話は終結ですが、気が向けば次回作も考えます。

その時は、もう少し長めのお話を、と思っております。


ではでは。

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