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微生物を愛でたいのだよ!  作者: まいまいഊ
2-b『頭からキノコが生えて冬人夏草になると仮定したとき、それはそれで楽しい菌生がおくれそうだと夢想する』
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58・マイゴのキノコは、ハラペコキノコ。(5)

「怪我、見てもいい?」

「あい」

 キノコの足を見ると、魔物にやられたという言葉通り、噛みちぎられたようにえぐれていた。痛々しい傷ではあるが、怪我の深さのわりに血液といった体液はまったく流れておらず、そこからして体の仕組みが異なることが伺えた。


「おお、立派な菌糸だ、ではなくて……とにかく手当しよう。まずは傷口をきれい洗って」

 傷口が汚れていては、感染症の原因となる細菌の増殖を招く。それは例えキノコだろうと、変わりないだろうと勝手に想像する。

 オキシは水筒の水を傷口にかけ、汚れを洗い流す。傷口の洗浄は大切だ。水で洗い流すだけでも、細菌の繁殖の原因となりうる培地(よごれ)をある程度流せるので、応急の手当になる。


「それから、清潔な布……」

 傷口に新たに細菌が付着しないように覆いをかけなくてはならないのだ。

 何かないかと、白衣のポケットを探る。拡張の魔法により、下手な鞄よりも容量があるポケットには、様々なものが入っている。とにかく小物をポケットに入れてしまう癖があるので、使えるものがあるかもしれないのだ。


 オキシはキノコを遠巻きに見ていたロゲンハイドの元へ向かう。

「ロゲン、この布と紐に滅菌の魔法かけて」

 綿百パーセントのハンカチと、小銭を通していた紐や巾着の紐を、ロゲンハイドに渡す。

 ハンカチで傷を覆い、紐で四隅を結んで、ずれないように止めることにしたのだ。


「あの魔法を? これに?」

 なぜ、保存の必要ない布へそんな魔法を、とロゲンハイドは疑問に思う。


 本来ならば食物を腐らせないようにする時に使う保存の魔法のひとつである。その魔法のことを「滅菌の魔法」という名称で言うのはオキシくらいである。


「あの魔法は強力すぎて、傷口に直接かけるわけにはいかないし」

 保存の魔法には様々な種類があるが、その多くは菌の活動を抑制する作用があることを、オキシは知っている。その数ある保存する魔法の中でも、最強を誇るのが滅菌、つまりすべての菌を滅する魔法なのである。

 傷口に直接この魔法をかけるには強すぎる。傷口を直接殺菌しすぎると、体を守る菌もいなくなってしまうので、結果的には治りは遅くなってしまうのである。

 キノコの体は菌糸で出来ているということは、先程見て分かった。下手に傷口の殺菌などしたら、菌糸の働きが阻害されて、再生が遅れる可能性もあるのだ。

 滅菌魔法の付加された布は、菌類の体にはよくないかもしれないが、何よりも体内に新たな細菌が入り込んでしまうのは防がなくてはいけない。

 オキシは感染症を防ぐためにも、傷口から入る菌は排除するために、滅菌の布を欲したのだ。


「ほどよい殺菌作用がある魔法を知っていれば良かったのだけれど」

 どの程度の魔法なら、傷口の消毒に有用かなど、魔法に疎いオキシにも、細菌の存在を知らないこの世界の者にも、それは誰にも分からないのだ。


「そうじゃなくてね。なんで布を……いや、うん、分かった。メッキンするね」

 オキシがおかしなことをするのは、今に始まったことではない。保存の必要がないはずのガラスの瓶や匙などにも、日常的に滅菌の魔法をかけていたロゲンハイドは、詳しく説明を受けても、むしろ詳しすぎるがゆえに、その理由がよく理解できないことを思い出したのだ。


「うまく魔法出るかな……なるべく魔力は温存してほしいんだけれど……」

 保存魔法は攻撃的な魔法と比べれば魔力消費が少ないとはいえ、ここは魔法の発現しにくい緑の砂漠。魔力提供者のオキシにはかなりの負担になる。

 もしも提供できる魔力が無くなってしまえば、魔力によって存在できる精霊は、顕在できなくなってしまうのだ。それは、ロゲンハイドにとっては重大な死活問題だった。そのような理由から、魔法の使用には乗り気ではなかった。


「大丈夫だよ。魔力なんて、すぐに回復するから」

「その自信はどこから来るんだか……」

 ロゲンハイドは仕方なく「滅菌」の魔法を布にかけた。


「おうっと、と」

 ロゲンハイドが淡紫色の光を布に照射するのと同時に、体温が抜けていくような、ざわりとした感覚が全身を覆う。ひどい立ちくらみが起きた時のように平衡感覚を一瞬失った。


「ふぅ、何とか発動した」

 布に魔法は染み込み、滅菌された布が完成した。

「オキィシの魔力は、ほぼ空になったんだけれど、大丈夫?……って、もう回復し始めているね。お腹すかない? 疲労感は?」

 失った魔力を回復するのは、激しい運動をした時に似る。回復が急速であればあるほど、体は疲れ、腹が減るのである。


「……空腹は感じるけれど、大丈夫。そのうち、なくなるだろうし。食べなくともエネルギーを作れる体質は、こういう時に便利だよ」

 昼と夜の食事を抜いた日の深夜程度に腹がすいたような気がするが、この程度ならば別に大したことではない。しかも、それは直に消えることも分かっている。何もしなくとも、魔力は回復し、空腹は満たされていくのだ。

「ロゲン、ありがとう。キノコの手当に行ってくるね」


「魔力の不足も空腹も、ものともしないなんて……本当に、なんとも都合がいい体質だね」

 布を受け取って、キノコの手当をしてるオキシを見ながら、そう呟くロゲンハイドなのだった。


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