55・マイゴのキノコは、ハラペコキノコ。(2)
道とは言えない木々の間をすり抜けて、森の奥へと進んで行く。どこも同じに見える森の風景は、一分も歩けば素人には帰り道がわからなくなる。妖精たちの案内が無ければ、間違いなく遭難しているだろう。
「あ、そろそろ。あかいの、あるトコロ」
「よってく? よってく?」
先行する二人の妖精たちが振り返る。
「寄っていこう」
昨日も行った場所であるが、落ち葉はあるに越したことはない。
オキシは葉を適当に袋に詰め込んだ。
「これくらいあれば、キノコは喜ぶだろうか」
森の家へ持って行き、そこにいる「巨大キノコ」にあげるのだ。そのキノコは落ち葉、特に紅葉したものを好むらしい。それを知り、キノコに会いにいくのに、土産の一つも持って行かないなど、オキシには考えられなかったのだ。
「それ、おみやげだったの?」
ロゲンハイドは言う。普段はおおよそ、そのような気遣いなどまったくしないオキシが、である。しかも、その相手がキノコだというのだから、二重の意味で信じられないことであった。
「そのとおり。でも、一番良い葉は僕がもらう」
基本的にはキノコへのお土産とはいえ、やはり良い葉っぱは自分の手元に欲しいのである。
「だいなしー」
「きゃはは。さすがー」
自分の欲望に忠実なオキシを見て、妖精たちは腹を抱えて、大喜びだ。木の根の凹凸を利用して、複雑な軌跡を描いて器用に転げまわっている。
そんな妖精たちを無視し、オキシは続ける。
「そうだな、例えば……これ、もらおうかな」
葉の一部が変色しており、肉眼でかろうじて判別できる程度のカビが生えていた。
「それ。いちばんイイ、ちがーう」
「きゃはは、アナあいてるー」
妖精たちは、オキシの選んだ葉が予想とは異なったので、ますます笑いのツボにはまっていた。
ちなみに、オキシにとっての良い葉というのは、ご想像の通り、分解が進みかけたもののことである。
「あ、これも、もらっておこう」
何も、一枚だけとは言っていない。
「切りがないから、もうやめてー」
ロゲンの切実な言葉が飛び出る。昨日の落ち葉拾いでも、悩みに悩んでいたのだ。放っておけば際限なく選び続けることを知っていた。
「これ、あげる。ぼろぼろ、ない」
「まっか、まっか」
妖精たちは木に登り、わざわざきれいな葉を枝ごと取ってきた。
「おお。その葉っぱはキノコにあげよう。その方がいい」
葉に大きな損傷がないとみると、興味をなくし、袋へしまった。
「これ、あげちゃうのー?」
「せっかくの、とれたてなのにー? へんなのー」
「変なことはないよ。食べるところが多いから、キノコはきっと喜ぶ。誰かの食べかけよりも、食べるところが多いほうがいいに決まっている。そうだろう?」
「たしかに、たべかけ、いやー」
「ねーねー。でも、だれが、むしゃむしゃ?」
「だれも、たべない。かってに、なくなる」
「そうそう、かってになくなる。たべかけ、ちがう」
「なにも、いなかった」
「いみわかんなーい」
「きゃはは」
肉眼では見えない微生物が、落ち葉の分解をしていることを妖精は知らないので、そう思うのも仕方ないことであった。
「さて、お土産もできたし、出発しよう」
「はこぶの、てつだうー」
キノコへのお土産を携えて、オキシ一行は森の廃村へと向かうのだった。