53・今日は森の中にある廃屋へ行こうと思う。
木々から覗く空が薄く明るんできた頃、オキシは待っていましたとばかりに休憩地点の門を守る警備員の元へ行った。
「今日も、森へ行こうと思うので伝えておきます」
昨日の反省を生かし、今日はきちんと警備員へ伝えた。
昨日の今日で、また森へ行くと言うオキシと警備員とで一悶着あったが、詳しい行き先を言うことでなんとか許可を得ることができた。
「それにしても、あんなところに何をしに?」
「昨日、いろいろあって……調査というか、下見というか」
オキシが今日行こうとする場所は、かつて集落があった場所だ。魔物が大量発生した時に、魔物の通り道になったため、魔物中毒症を恐れた住民たちが移住したため、廃村となったのだ。
そういった場所は森には何カ所もある。魔物と隣り合わせで生きる森の民は、定期的に大量発生する魔物から逃れるために、移動しながら暮らしているのだ。
廃棄された家々は風化に任せ朽ちていくだけであるが、森で活動をする狩人や採取者が修繕し、利用していることがある。それらは「森の家」と呼ばれ、森で活動をするうえで、大切な拠点になるのだ。
魔物の多くは大地を這うモノたちが多く、森で活動をする者にとっては、廃屋とはいえ木の上に建てられた家は、一夜を明かすには便利な場所なのである。
緑の砂漠で微生物を採集しようと思うのならば、森の家にお世話になることもあるだろう。昨日は落ち葉拾いに時間を割いた関係で、集落跡を少しだけ見て回る程度で終わってしまったが、今日は家の中の様子も見てみようと思うのだ。
「あの辺はまだ魔物は少ないとはいえ、緑の砂漠の中にある。君のような子供が行くようなところではない。危険すぎる」
森の家は、昨日、今日やってきた一般人が気軽に行くような場所ではないのだ。
「でも、キノう……行くと約束してしまったし。それに妖精も何人か来るって、張り切っていたし」
「キノコと会う約束」と言いかけたのは、うまくごまかす。その廃村へ行く本当の目的は、キノコの様子を見に行くことだった。それはもう立派なキノコだったのだ。
そして、キノコに大はしゃぎするオキシを面白がった青い妖精が「明日は何人か仲間を呼んでくる」と、帰り際に言っていたのだ。
森の危険を考えれば、森を知っている人が多いに越したことはないのだが、あの妖精を何人も相手しなくてはと思うと少し気が重くなる。
「すでに妖精を雇ったのか。……どおりで今朝は妖精が多いわけだ」
警備員の指さした先、門の上を見上げれば、不自然に生えた数色の草花がクスクスと揺れて、様子を窺っているのが見えた。彼らはすでに準備万端、オキシの出待ちであった。
妖精たちはオキシの視線に気がつくと、門の上から一気に雪崩落ち、賑やかに参上する。
「さんじょー」
「ごえい、まかせてー」
「しっかり、まもるよ」
「ねー」
「まもる、まもる」
妖精たちは、オキシの白衣やらズボンに群がりしがみつく。
「ずいぶんと好かれているんだな」
妖精たちを引きはがし放り投げているオキシを見て、災難だなと警備員は同情するのだった。
「妖精がいるからと言って、無理は禁物だ。気をつけて行くんだぞ」
「はい」
こうして妖精たちを引き連れて、オキシとロゲンハイドは再び森へと出発した。
もちろん今回も昨日同様、近道である崖の飛び降りが道程に入っている。しかしながら、今度は非常にゆっくりとと強く念を押したことが功をそうし、非常に穏やかに下まで降ろしてもらうことに成功したことは大きな進歩であった。