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微生物を愛でたいのだよ!  作者: まいまいഊ
2-a『森の中で妖精と出会う』
40/59

40・天然の洞窟を利用して作られた部屋は、最高にじめじめです。

 時は少し遡る。

 オキシを連れ去った妖精たちは、村に着くと外れにある洞窟へ向かう。その洞窟の奥にある部屋にオキシを閉じ込めると、妖精たちは早々にどこかへ行ってしまった。

 オキシは湿った香りが漂う洞窟に、ただ独り取り残された形になる。


「あれが妖精か。予想以上に、やっかいだな……」

 どこか無関係なことだと思っていたところもあった。しかし、実際に身を持って体験した今となっては、あれは厄災だと心底感じる。


 暗闇に目が慣れてきたオキシは、自らが置かれている現状を確認する。

 壁に床、天井、すべては土でできている。天井を突き破り姿を表している木の根からは水滴がしたたっている。水たまりこそできていないが、この水分は洞窟の湿度を高めている要因のひとつだろう。

 部屋は倉庫として使われているようで、箱が積まれ道具が並んでいた。部屋には窓もなく、出入り口が一つあるだけだ。その唯一の出入り口には木製の扉が備え付けられている。

 鍵が外からかけられているが、勢いよく体当たりをすれば壊れてしまいそうなほど、ぐらつきがある古い錠前だ。

 しかしここは音が響く静かな洞窟。事を起こせば、妖精たちが気がつかないわけがない。


「ロゲンを呼んでみようかな……」

 ロゲンハイドの液状の体ならば扉の隙間から外へ出て、様子を窺うことも、音もなく鍵を外すこともできるだろう。

 それ以外にも、オキシよりも巧く気配を察知したり、魔力で目印を作ったりすることができるので、脱出の際にも役に立つだろう。

 どのくらいの規模の洞窟か分からない以上、闇雲に歩くのは迷ってしまう危険があるのだ。


 オキシはロゲンハイドの召喚を試みる。しかし、いつものように召喚を念じても何も起きなかった。穴が開いている風船を膨らますかのように魔力がすかすかと抜けていく感じがして、普段通りにやったのでは召喚に必要な量に達さなかったのだ。

 召喚に必要な量に満たすには、いつも以上の大量の魔力を用意しなくてはならないようだ。

 オキシは魔力の捻出に専念する。


 精霊を召喚するために集中していると、賑やかな話声が扉から入ってきた。三人の妖精が、ノックもなく部屋に入ってきたのだ。


「こんばんは。まだ おきてる?」

 紅色の葉根(はね)を畳んで着地し、丁寧にお辞儀をする。眠っている者がいたら目を覚ましてしまいそうな声量である。相手が眠っていようと起きていようと関係ない、彼らは自分たちのペースで生きているのだ。


「おきてた おきてた」

 出入り口で立ちどまる紅の妖精を押しのけて、菜種色の妖精が前に出る。体勢を崩した紅色の妖精が、負けるものかと菜種色の葉根(はね)を強く引く。二人は地面を転がりまわる。

 それを飛び越えて、青い妖精が現れた。


「気分どーう? 何してる?」

 首を傾げ興味深そうに、オキシの動向を見つめている。


「それ しってる。まほう でるよ」

 紅の妖精は菜種の妖精を組み伏せながら、青い妖精に向かって言う。

 ウェンウェンウェム地方は魔法が発現しにくい。そのため、妖精たちは魔法を使わない。森の外からやってくる者たちが使うのを見て、その存在を知っているくらいだ。


「まほう 知ってる。そとの人 つかう。ふしぎな ちから」

「たいないの ちから しゅーと でて。そとで ぱちって なって。ぼん でてくる。フシギ」

「ふしぎ ふしぎ」

 三人の妖精はオキシの前に並んで立つ。成り立ちつつある召喚のための魔力を、瞬きもせず見上げている。


「何が でる?」

「とびら もやす?」

「ばくは? ばくは?」

「まほうで だっそうする たくらみ だった?」

「はやく まほう 見せて」

「はやく はやく」

 待ちきれなくなったのか、オキシの白衣の裾を引いたり、頬をつついたり、背中に負ぶさってきたりと、まとわりつく。


「邪魔するな!」

 魔力の通りが悪く、しかもこんな落ち着かない状況では、精霊を呼ぶための(しるべ)となり、お互いを正確に繋ぐ道筋を作るのは、魔力の扱いが初心者であるオキシには難度の高いことであった。

 オキシが声を発した瞬間、召喚のために維持してきた魔力は、砂の城が崩れるかのごとく、あっというまに形無きものになり、大気の中に消えていった。


「消えちゃった」

「にらんでる こわいー」

「こわい こわい」

「逃げろー」

「にげろ にげろ」

 一目散に妖精たちは逃げだした。

 オキシは、逃げ足の早い妖精たちに唖然とするしかなかった。


 妖精たちはそのまま戻ってこないのかと思いきや、彼らはものの数秒で騒がしさと共にやってきた。

「そうそう。忘れてた」

 出入口の外に置いていた木の箱を、葉根を器用に使いながら協力して部屋の中へ運び入れている。どうやら、本来の目的を果たしていなかったのだ。

 先ほどオキシを怒らせたことなど、すっかり忘れているように、悪びれることもなく部屋へ入ってきた。


「こんなところで、ヒマでしょ?」

「これで、遊んで」

「いろいろ おもしろい あるよ」

「ほら、遊んで」

「すきに あそんで」

「あそぶ あそぶ」

 中身を確認するまでは、ずっと騒がしいままだろう。

 オキシはしぶしぶと箱を覗きこむ。何か部品のような穴の空いた金属に、木彫りの人型、ガラス玉の入った袋など、ざっと見ただけでもガラクタのようなガラクタしか入ってなかった。


「どれで 遊ぶ?」

「たのしいよ」

「これは、クルクルして たのしい。これは、ひかる。これは、カッコイイ!」

 紅の妖精は、ガラクタをひとつひとつ説明する。それを聞いても、やはりガラクタはガラクタ以上の物に格上げされることはなかった。


「あ、まほうのひも」

「こんなところ あった」

「さがしてた」

 菜種色の妖精は箱の奥に入っていた紐を引っ張り出す。紐に引きずられて、箱の中身があふれて辺りに散らばった。物が散らかろうとお構いなし、彼らは紐を手繰り寄せ、きれいに巻いて整えた。


「ていっと投げれば あらふしぎ。何でも ぐるぐるまき」

 青の妖精は、葉根を頭の上で回転させてから投げるような動作をする。


「ヒトに むけて つかっちゃ ダメよ」

 紅の妖精はそう言いつつ、オキシの腕をつかみ、紐を無理やり手渡してくる。オキシは紐を受け取るしかなかった。


「ダメなんだからね!」

「だめ だめ」

 青色や菜種色の妖精も、首を振り、葉根を高く掲げて強く注意する。もはや「使ってください」と言わんばかりの押しである。


「……」

 無言でオキシは紐を妖精に向かって投げてみた。紐は重力に逆らう不自然な軌道を描きながら、紅色の妖精を捕えようとする。


「あぶなーい」

 青い妖精は、紅色の妖精を突き飛ばし、魔法の紐の餌食になってしまった。紐は妖精の体に巻きついて、自由を奪う。

「きゃあぁぁ」

 青い妖精は棒読みで悲鳴をあげる。


「あおが つかまったー」

「たいへん たいへん」

「あおの とうとい ぎせいが みんなを すくったのだった」

「すくった すくった」

 慌てているように見えるが、大げさに状況説明をする余裕がある。ふたりの妖精は、間違いなく捕まった青い妖精のことなど、まったく心配をしていない。


「……何だ、この茶番」

 森の狩人たる妖精が、何の技術も持ち合わせていないオキシが投げた紐ごとき避けられないはずはないのだ。

 それでも妖精を捕まえることができた理由は簡単、妖精が自ら進んで捕まったからである。


「これ、どうしよう」

 捕えたもののどう扱えばいいのか困ってしまう。

「あそこ あそこ」

 菜種色の葉根が壁を指している。それに従い視線を移してみると、丁度いい感じに壁に打ち込まれた杭が目についた。杭には妖精たちが使う小さな道具が吊るしてある。


「つるす つるす」

「……」

 オキシは言われるまま、何も道具が吊るされていない杭に紐を引っ掛けて、妖精を逆さ吊りにした。


「うあぁ。あたまに ()が のぼる。しんてんちが 見える。たすけてー」

 妖精は紐からすぐに抜け出る気はないらしく、ゆるりゆらと飽きることなく揺れて、いかにも楽しそうに見えた。


「いま たすけるー」

「たすける たすける」

 オキシが紐を杭に結びつけたのを見届けたあと、紅と菜種の妖精は青の妖精の元に向かった。


「あぁ。じっと してて」

「ほどけない ほどけない」

 すぐに解放することはできるはずなのに、まるで戸惑っているかのようにもたもたと手間取っている。


「……今のうちに、逃げてしまおうかな」

 青の妖精は紐に囚われ動けない。紅色と菜種色の妖精は、吊るされた妖精に意識が向いている。そして、唯一の出入り口である扉は妖精たちの手によって開けっぱなしである。この脱出の好機は無駄にしたくはない。

 オキシは、そうっと脱走の一歩を踏み出した。


「!」


 地面の感触がおかしいと気付いた時には、片足は地面に沈んでいた。深さは膝丈よりも浅めではあるが、そこには落とし穴があったのだ。


「あ、落ちた」

「おちた おちた」

「やったあ」

 仕掛けた罠に引っ掛かったのが、よほど嬉しかったのか、青い妖精はするりと紐から抜け出て、紅と菜種色の妖精も一緒になって、オキシの周囲を跳び回る。

 そう彼らが本気を出せば、紐ぬけなどわけもないのだ。


「とびらの すぐ外 わな。びっくり した?」

「びっくり びっくり」

「これは いい ワナだ」

「でしょー。力作なのー」

 妖精たちは得意になって喋りまくる。彼らの罠についてのどうでもいい解説は終わらない。


「他にも わな たくさん しかけた」

「たくさん たくさん」

「にげようとしても ムダだね」

「むだ むだ」


「……何かもういいや」

 ぽろりと漏らした妖精の話によれば、この先にもこんな罠があるらしい。そう思うと、意気込みはだだ下がりである。妖精たちの遊びに付き合うのは疲れそうなので、脱走は諦めた。

 オキシは穴から足を抜くと土を払い、部屋に戻る。


「えー。だっそう もう、おしまい?」

「つまんなーい」

「どきどき だっそう げき 見たかった」

 部屋に引き返すオキシを見て妖精たちは、期待がはずれ文句を言いだした。しかし何を言おうと、オキシは部屋の外へ向かう気配を見せなかった。


「わな いっぱいって ばらすからだよ」

「だっそう させてみる けいかく しっぱい」

「しっぱい しっぱい」

「つぎの手 かんがえよう」

「てっしゅー てっしゅー」

 そう言って、部屋から飛び出す三人の妖精たち。

 彼らの姿が見えなくなると、オキシはすぐに部屋のドアを閉めた。無駄とは分かっているが、扉の前に箱を置いて突っ支いにする。


 嵐のように騒ぐ妖精が去った後は、物音一つしない世界であった。

 妖精はまた来るかもしれないが、つかの間の静寂を満喫しなくてはと、オキシは気持ちを切り替え、自分が閉じ込められている場所を改めて見回した。

 光も通さぬ暗がりの中、幽かに光る苔だけが岩肌の形を顕わにしている。部屋はきれいに整頓されており、妖精たちがこまめに手入れしていることは分かるが、どこかカビ臭い。風通りが悪そうなので、どうしても湿気がこもってしまうのだろう。

 ずっと部屋に置かれていたであろう木の箱にはキノコが生えていた。そのキノコの傘には茶の網目のような斑模様が浮かんでいる。傘の淵が少しめくれ少し不格好で、失敗してしまった卵焼きのようにも見えてしまう。胞子をたくさん抱え、今にも撒き散らしそうしそうである。


「きのこが生えてしまうくらい、じめじめしているんだから、やっぱり微生物を探さなきゃ損だ!」

 例えカラカラに乾燥している場所であったとしても、同じことを言っただろう。

 そうなのだ、することはただひとつ。もちろん、それは微生物探しだ。


 この地は不毛の地と言われているが、それはあくまでヒトの立場から見た場合でのことだ。よほど特殊な理由がない限り、必ず何かは生きている。たったひとつまみの土の中にも、何千、何万もの生物が生きているのだ。


「くっくっく、いるいる。いないわけがないんだよ」

 慣れている者が見ても、同じような形をした微生物たちが、しかし万華鏡のように同じ姿は見せない移り変わる集団の織りなす美しい群泳は、圧巻である。

 いつまでも見ていたい、飽きることがない。ただぼんやりと、この一瞬の芸術品を特等席で観賞できることの幸せを噛みしめる。

 そうしながら、観察に値するより魅力的な動きをみせる微生物を探すのだ。


「ん、なんだ、あれ。気になりすぎる」

 天井を見上げた時である。天井と壁の境目の角に、何かぬるりとした球体がこんもりと茂っていることに気がついた。それは微生物ではないのだが、あまりに変わった造形で目を引いた。


「採取してみよう」

 表面を覆うぬめりが何か良くないものだといけないので、魔力の膜を手袋のように張ることにした。

 魔力製の膜を張るという初歩的なことでさえ、いつもの倍以上の魔力を消費してしまう。

 貴重な魔力を、得体の知れない物体を採取するために使うのは、本来ならば下策である。しかし、それはオキシには適応されない。

 今使わなくて、いつ使うのか、使うときは今なのだ。

 オキシは魔力の膜を手にまとわせ、天井に生っているそれを一つ採取した。


 握り拳と同じくらいの大きさで、さわり心地はすべすべとぬめりがあり滑らかだ。匂いは無臭。指先に力を入れれば、強い反発があり押し戻される。微かに届く光に透かすと、その物体の向うに光が映るほどに透明である。

 ポケットからナイフを取り出し半分に割ってみる。中から液体が溢れるということもなく、すべてゲル状であった。


「見た感じでは、寒天みたいだよなぁ」

 よく見れば表面にカビが小さなコロニーを作っているのを見つけた。ほぼ透明なので、培養した菌の状態がよく観察できる。ナイフでも簡単に切ることができたように加工しやすい固さだ。混入した菌を切除したり、必要な菌を採取するといったことも容易にできるだろう。うまく利用できれば、培地には最適であろう物体である。


 オキシはいくつか採取してみることにした。

「あ、キノコ」

 偶然そこに胞子がたどり着いたのだろうか、採取したそれには小さな小さなキノコがひとつ、陰ながらひっそりと生えていた。


「……キノコとかカビとか、育ててみようかな」

 折角、培地になりそうなものを手に入れたのだ。このまま何もしないでいるのもつまらない。

 オキシは部屋に生えているキノコやカビを集め胞子を採取する。

 そして早速、透明物体に満遍なく塗布し始めた。うまく発芽すれば、キノコボールやカビボールになるはずだ。

 オキシの顔に、極上の笑みが自然に浮かぶ。今にも邪悪な高笑いをしそうな状態を止める者は、ここにはいない。

 オキシは「……きのこのこのこ」と意気揚揚に歌を交えながら、作業に没頭し始めた。


 成長が早い生物の観察のしがいがある。

 充分な水分を得て活動を始める細胞たち。見た目には細胞に変化がないように思えても、一秒一秒の瞬間に些細ではあるが確実に成長している。

 一個体の生命になろうと主張する、その小さな力強さには感服してしまう。

 一つであった細胞が二つとなり、四つとなり、十六と、等割されていく。細胞間を移動する細胞基質の流動が発生を導いていく。発生の初期は皆似たような形であり、成体の姿とは似ても似つかぬ姿だ。

 分裂が進んでいくと徐々にその生物らしい形に成っていく。育ちゆく命を眺めることができ、オキシは非常にご満悦だった。



「あれ。とびら あかない」

「むこう 何か ある」

「ハコだ」

「あけてー あけてー」

 部屋の外から声が聞こえたが、観察を中断することが嫌だったので、オキシはいつものように無視した。


「よし、こうなったら」

 扉が開かないからといって、妖精たちは諦めることはない。妖精は「ていや」と戸に蹴りをいれ、扉を塞ぐ箱を少しづつ動かしていく。

 扉が壊れてしまいそうなほどの大きな音が立ったにも関わらず、やはりというか、オキシは微動だにしない。

 そうしている間にも箱は動いていく。そして、ほんの少し隙間ができると、そこから体の小さい練色の妖精が部屋に入ろうと奮闘する。


「ふー。はいれた」

「はやく 箱 どかす!」

「わかった。よいしょっと」

 練色の妖精は入り口を塞ぐ箱をどかし戸を開放し、外にいた三人を招き入れた。今度は計四人の妖精が、オキシに会いに訪れていた。


「はじめまして」

 先ほどの紅色の葉根の妖精に似ているが、別人らしい妖精がお辞儀をする。妖精の外見は色の違いを除けば、見分けるのが難しい。皆同じように見えるのだ。彼らを個別に認識するには、慣れが必要である。


「また 来たよ」

 青の妖精は先ほどと同一人物らしい。葉根を大きく振って、気を引こうとする。


「はんのう ないね」

「ないねー」

「何かしてる」

「なにしてる?」

 無視されていても気にしない、妖精は常にマイペースだ。妖精たちは、そうっとオキシに近づいた。そして、オキシの足元に並ぶ透明なものに気がつき、瞳を輝かせ湧き立った。


「あ。ぷにぷにだ」

「ぷにぷに 楽しいね」

「ぷにぷに ぷにぷに」

「あそぼー なげよー」

「おとしたら ビチャ」

「ビチャったら まけー」

「まけ まけ」

「ひとつ ちょうだい」

「あそぼう あそぼう」

 妖精はぷにぷにで遊ぶことが好きである。たくさん並べてあるそれを見て、遊びたくならない方がおかしい。妖精はオキシの透明物体のひとつに葉根()を伸ばそうとする。


「あっ、これは全部僕の物だ!」

 せっかく作業が終わったところなのだ。妖精の遊び道具にされて、台無しになってしまっては適わない。オキシは妖精たちを阻止する。


「うー。ひとりじめ よくなーい」

「うるさい。お前らは、これで遊んでいるといいよ」

 オキシは近くに落ちていた魔法の紐を拾うと、勢いをつけ投げつけた。紐は一直線に紫の妖精の方へ向かう。


「あぶない!」

 紐の餌食になろうとしている妖精を青い妖精がかばう。青は紐に拘束され、身動きができなくなってしまった。

 本来であるならば、仲間の妖精を助け、かつ自分も紐の手から逃れることができるはずなのだが、青の妖精は自ら望んでそうされたのだ。


「たすけてぇ」

 慌てた様子もなく、まったく焦燥感のない声で叫ぶ。青の妖精は紐を解こうとあれこれ足掻くが、ますます紐は食い込み、複雑にからまりはじめた。

「えへへ。からまっちゃったぁ」

 そうは言うものの、まず間違いなく、わざとそうしたとしか考えられなかった。

 紐で形づくられた菱型が、妖精の体を這うように縦に三つ並んでいた。本来ならば、食い込んだ紐が胸や腰周りを強調していたであろうが、彼らの身体はほぼ球体で葉に覆われており、まるで蓑虫のようにのっぺりとしているので、色気も魅力も感じられたものではない。


「……どこで、そんなことを覚えたんだ」

 オキシは思わず疑問が声に出る。

「むかし とってきた 本に かいてあった」

 妖精たちは、よく物を盗る。これも、いつものいたずらのひとつだったのだろう。


「ぎょしゃ ざぶとんのした かくしてた」

 その技術の出所については、別な理由があってほしかったが、やはりというか、この世界にもそういう特殊な欲求を満たすようなモノが存在するらしい。

 森の中は娯楽が少ない。その本はそんな場所で長い時間を過ごす御者の密かな楽しみだったのだろうということは想像に難くない。


「ニヤニヤ たのしそうだった」

「だから もってきた」

「とりかえし 来なかったから もらったまんま」

「そういう きまりー」

 さすがに返してもらうのは恥ずかしかったのだろうか、御者はその本をあきらめたらしい。


「もらった から ゆっくり よめた」

「文字 よめないけど マネしてみた」

「えが わかりやすい」

 妖精は文字を持たないので、その本が意味する本当の内容を知らない。そのまま形だけを真似てしまったのだろう。


「もりで わるいことするヒト しばると おとなしくなる」

「本に あったとおりに 服 剥がして しばる。ものすごく あやまる」

 その被害にあった者は災難というか、自業自得というか、である。

 まったくもって、無知な無邪気とは非常に恐ろしい。森で一番最強の生物は妖精なのだと、オキシは非常に深く感じるのであった。


「すごく わるい人は ぺんぺん(おしおき) するの」

「ぺんぺん ぺんぺん」

「でも たまに 『もっとー』 っていうひと いるー」

「へんな ヒト」

「ふしぎ ふしぎ」

 妖精たちの他愛ない雑談によって、知りたくもない生々しい実態を知ってしまう。

 永遠に知らなくともよかった事柄に頭を抱え、オキシは深くため息をつきうなだれる。


「……なんか疑問に思わなきゃよかったと、いまさら思う」

 もはや深く考えない方がいいだろう。その方が幸せだ。と、非常にそう思うのだった。


「でね、そのまま 休憩地点(むら)のけいび する人の お家に はこんで おいてくる」

「おいてくる おいてくる」

 妖精の集落には警察のような機関はない。裁くための厳格な法律(しくみ)もない。なので森で悪さした者が妖精に目をつけられると、遊ばれるだけ遊ばれてしまうのだ。その後、その不届き者は人間たちの住む場所へ運ばれる。そしてそこで、やっとまともな裁きを受けられるのだ。


「けいびのひと へんなかお なるー」

「おもしろい おもしろい」

「だから しばる。とどける」

「おとどけ、おとどけ」

 不届き者を届けるのも、正義感からくるものではなく、単に反応が面白いからだ。


「それから、それから……」

 妖精たちの噂話は終わらない。内容もさることながら、長い無駄話に付き合わされることに嫌気がさしてきた。

 オキシはすばやく紐を手繰り寄せる。その紐の先には拘束され動けないでいる青の妖精がいる。


「なに? なに?」

 不安(きたい)に満ちた目を輝かせて、青の妖精はされるがままだ。

 オキシは無言のまま両手で青の妖精を乱暴につかむ。妖精の体は基本的には草のようなものでできており、非常に軽い。非力なオキシでも楽に抱えられるのだ。


「おまえらあっちへ行け。僕は一人になりたいんだ」

 そして、妖精たちの集団へ向けて、青の妖精を投げつけた。


「きゃー ぶつかる」

 と言いつつも、余裕たっぷりに葉根を広げ、ぶつかる前に優雅に着地する。紐からもいつの間にか抜け出していた。

「かんしゃく だね」

「いらいら いらいら」

「どうしてー」

 なぜオキシがこんなにも不機嫌なのか分からない妖精たちは、葉擦れのような囁き声でひそひそと話し合う。


「あ。もしかして ねむい?」

「あー そうかも!」

「そういや ねようとしてたところ つれてきたね」

「わすれてたー」

 妖精たちは思い出す。オキシが客車に乗り込むまでの一部始終、御者と話していた内容も、草花に擬態しながら見聞きしていた。


「ねむたいから いらいら だったのか」

「まよなか こども ねる じかん」

「いい子は ねんね」

 妖精たちは、オキシが眠いものだと勝手に決めつけ、納得してしまう。

「これ つかってー」

 練色の妖精が毛布を持ってくる。森の早朝は冷え込むのだ。


「え、あぁ、ありがとう」

 気遣いは一応できるらしい。断る理由はないので、オキシは毛布を受け取った。


「こもりうた うたう?」

「いっしょ ねる?」

「……いや、お気遣いなく」

 一秒でも早く妖精たちには出て行って欲しいと思うのだ。


「じゃあ おやすみー」

「また あした」

「朝に なったら また来る。おやすみ」

 そう言って、妖精たちは去っていく。


「……これでしばらく静かになる、か」

 ほっと一息つき、胞子の観察に戻ることにした。




「うわ、妖精たちの相手していたら、見逃した!」

 肉眼で凝視しても、透明な表面には何も変化がないように見えるが、顕微鏡の目で見れば、糸状の細胞がのびのびと根付き、表面はうっすらと色づいていた。

 その(きのこ)の成長は早い。というよりも、この世界の菌は生活環が早いものが多い。それは観察する側にとって嬉しいことだが、しばし目を離すと成長していく様子を見逃してしまうこともある。


子実体(きのこ)を作るところは、見逃すものか」

 もう少し生育すれば菌糸は複雑に寄り集まり、空中へとその糸を伸ばす。そして、短くも太い柄をつくり、その先に巨大な傘を成す。その工程を見逃すまいと、瞬きも忘れて凝視し続ける。


 胞子が充分な水分に触れたとき発芽し、栄養状態にもよるが、数時間もあれば立派な成体に成長する。

 培地に植えつけた胞子は順調に育ち、立派な傘を持つキノコになった。失敗した卵焼きのような黄色と茶の斑を持ち、見た目こそ少し悪いが食べられそうな雰囲気を持っているキノコだ。

 傘のヒダから胞子が舞えば、そこから彼らの子が飛び立ち、新たな命が生まれていくことだろう。

 静かな洞窟の片隅でオキシは、身近に存在する極小なる広遠な世界に深く深く浸りきっていた。


「そろそろ、何本か採取して標本を作ろうかな」

 キノコはたくさん生えているので、選りすぐりを標本にすることができる。オキシは、胞子が飛び出す前の一番美しい状態にあるキノコを選び出した。

 一般家庭でキノコの標本を作るには、乾燥させる方法が最も手軽である。しかし、この世界では魔法が発達しているので、地球では手軽に行えない技術を使い標本をつくることが可能であった。

 オキシは、氷結の保存魔法がかけられた瓶をポケットから取り出し、キノコを入れる。この氷結瓶は、急速からゆっくりまで氷結スピードをある程度調節できる道具である。容器を稼働させると、キノコは見る間に凍りついていく。

 数分が経ち、キノコがしっかりと凍結したことを確認すると、次は空気を抜いて保存する容器へと入れる。その容器を最大出力で使うと真空状態になり、氷を昇華させることもできるのだ。

 氷結させ乾燥させる、いわゆる氷結乾燥(フリーズドライ)をオキシは行っていた。この世界に氷結乾燥という技術こそ存在していないが、この二つの瓶を組み合わせることで、地球にあったその技術を再現したのである。

 この氷結乾燥は地球においては家庭で気軽にできるような作業ではなく、それなりの施設が必要であった。しかし、この世界ではお手軽価格の小さな瓶二つがあれば済むのである。

 この方法の欠点をあげるならば、どちらの魔法の容器も最大に近い出力で酷使するため、普通に使用した場合よりもかなり早く容器にかけられた魔法が弱くなってしまうことだろう。

 しかしそれでも、きれいな標本を作れる技術が可能となるのは、オキシにとって大きなことだった。

 そして、氷結乾燥を終えたものを乾燥の保存容器へ移せば、標本の完成だ。キノコの種類にもよるが、氷結乾燥させたものは単に乾燥させるよりも元の状態に近い形と色が残る。

 氷結乾燥は比較的きれいな標本を作るには最高の技術なのだ。


 保存の魔法には様々あり、いろいろ試してみればもっと良い保存方法が見つかるかもしれないが、オキシの知識と経験上、今のところはこの方法が最もきれいに標本にできるのだ。


「やっぱり全部は無理か」

 魔法をかけられた道具とはいえ安物の小さな容器である、全てのキノコを入れるのは不可能であった。さすがにこのキノコだけで、数に限りのある保存容器を埋めるわけにはいかない。これから先、まだまだ採取したいものは増えるのは分かっているのだ。


「調子に乗って、作りすぎてしまったな」

 標本に選ばれなかったキノコも、まだまだたくさんあった。それらの処遇についても考えねばならないだろう。


「余ったキノコの処理については、後で考えよう」

 とりあえずこれらのキノコは放置の方向でいくことにした。今は、たくさんのキノコやカビに囲まれながら、できたての標本を眺めていたい気分なのだ。キノコが入った瓶をかかげ、オキシは出来上がった標本(さくひん)に見入っていた。



 丁度その時だ、妖精たちが部屋に入ってきた。ノックも何もなく、相変わらず突然に訪れる。

「おはよう」

「おはよ おはよ」

「おきてるー?」

「朝だよ」

 何とも賑やかに、朝が来たことを告げる。そして、彼らは一方的に用件を述べだした。


「うまうま じかん」

「うまうま うまうま」

「できたて ほやほや」

 藍色の妖精の葉根()には、パンが入った籠が握られていた。


「ぺったんこ だよー」

「ぺったん ぺったん」

 ウェンウェンウェム地方にも、小麦粉は普通に流通している。しかし、パン生地の発酵を促すパンの葉は保存が難しく、なかなか手に入れることができない。

 無論、その葉がなくとも大気中の微生物によって生地の発酵が行われないこともないが、地球と異なる生態系のせいか、気候の違いか、大気中の微生物のみに頼ると思い通りの発酵が行われないのだ。

 しかも、今いるこの場所は緑の砂漠の近く。何の処置もなく食べ物を外気に長時間さらせば、森の毒に冒されてしまうということが少なからず起こる。そうなれば最悪の場合、体調を崩して寝込んでしまうことになるだろう。

 この地方では風土的に生地の発酵が難しい。そのため、できたてのパンが食べたいのならば、無発酵なパンしか作れないのだ。


「……たべないの?」

 刈安色の妖精は首を傾げ、彼らの方を向こうともしないオキシの様子を伺う。一方のオキシは特に反応することなく、もちろん視線はずっと手元の瓶に向いたままだ。


「ぺったんこ きらい?」

「やわやわ いま ない」

 既製品のパンは保存容器に入れられたものしかこの地域には存在しない。そのほとんどが自身のお弁当として個人が持ち込んだもので、売り物としての醗酵したパンは絶対数が少ない。商人は様々なものを運ばねばならず、かさばるパンはそんなに多くは積み込めないのだ。しかも、購入という感覚のない妖精が、まるまるひとつのパンを手に入れようと思ったら、わざわざ盗ってくる必要があるのだ。


「でも、ほかほか あるから だいじょうぶなの!」

「ひたせば やわやわ なる」

「やわ やわ」

「おいしいよー」

 パンの他にも、鍋に入ったスープを用意していた。具はないが藤色に色づいたスープに、芳醇な香りのする橙色の葉が1枚浮いている。この地方の郷土料理であり、材料は集落の周辺で採れたものを使用していた。

 もちろん外から来た人間でも、きちんと栄養が補給できるものを使用している。そこら辺の事情は大変有名な話なので、長年培われてきた経験から妖精たちの対応はしっかりしている。問題があるとすれば、彼ら妖精の好む味付けは独特で好みの分かれることだろう。とにかく妙な甘さがあるのだ。


「おいしいのにー」

「あたたかいのにー」

「たべないのかー」

 食べ物に反応しないオキシに妖精たちは残念そうに葉根を萎らせる。妖精たちは語りかけるが、オキシは相変わらず無言で返答するだけであった。


「……たべちゃう?」

 スープが冷める前に自分たちで食べてしまおうと、紫の妖精は提案する。彼らにとって、食事もまた楽しい娯楽だ。

 食事は体をつくる栄養になるだけではなく、心の栄養にもなる。


「たべちゃおう」

 その提案に賛同する多くの妖精たち。

 そうと決まれば、彼らの行動は早い。妖精たちは我先にと食べ始め、用意された朝食はすぐになくなった。


「次は あそぼう」

 腹を充分に満たした一匹の妖精がオキシに近づいた。

「ぐるぐる あそび する」

 青い妖精は魔法の紐をオキシの手の届くところに置いていく。――そのとき、紐を傍らに置いた妖精は見た。見てしまった。オキシの手にある瓶の中身や足元に転がる物体を。


「……あ にょきにょき」

 それは、この洞窟内でもよく見かけるキノコだ。それが生えていること事態は何もおかしなことはないのだが、その生えている量が異常であった。

 大量に密集している様は不気味という感情を通り越して、言葉では言い表せない光景だった。


「きゃー」

 青い妖精は大げさに叫び、他の妖精の元へ報告に行く。それを受けて、彼らは環になり囁くようにうわさする。


「すごく うじゃうじゃ だった」

「たくさん にょきにょき?」

「きもい? きもい?」

 そんな様子の妖精たちを見て、オキシはキノコボールを一つ、入り口へ向けて転がした。これは、作りすぎたキノコたちだ。使い道のないキノコだ。妖精が逃げるのならば、妖精避けとして有効に活用しようと、思ったのだ。


「ほんとうだ。うじゃうじゃだ!」

「きもい きもい」

 妖精たちは避けるように、扉の外へ下がる。

 扉の影に隠れ、部屋を伺うように顔だけを覗かせた。誰も入ってこようとはしない。

 このまま膠着状態が続くかとも思われたが、勇気ある1匹が前に出た。あの青い葉根の妖精だ。


「だけど 吊るしてー。そのヒモでー」

 キノコへの嫌悪感より快楽が勝った青い妖精は、入り口に転がるキノコを軽々と飛び越えて、オキシの元へじわりじわりと近づいた。

 揺すれる草の身体が、まるで催眠術を行う術師のような、あやしげな動きで煽る。感情を揺さぶられたオキシは思わず行動に出てしまった。絶妙な位置にあった魔法の紐をつかみ、半ば反射的に使ってしまったのだ。

 紐はしっかりと青い妖精を捕える。


「うぁは。つかまった~」

 捕らえられたにも関わらず、やはり余裕の表情で青い妖精は言う。恍惚としているこの妖精は、もう末期かもしれない。悦に浸っているその顔をみれば、嫌でも分かってしまう。

 この妖精の行く末は、あまり深くは考えない方がいいだろう。


「……君の希望通り吊るしてあげよう。このキノコと一緒に!」

 青い妖精を出入り口の上枠にある出っ張りに吊るす。もちろん紐の反対側にキノコを結び付けることも忘れない。


「きゃー。にょきにょき となり いやー」

 さすがにキノコの近くにいるのは嫌なようで、青の妖精は、紐に捕えられていない自由な葉根を使い、キノコを遠ざけようと格闘していた。


「すごく きちく」

「きちく きちく」

 避難轟々な言葉が妖精たちから浴びせられる。しかし、そう言いながらも、きゃっきゃ、きゃっきゃと和気あいあいで、抗議している様にまったく見えない。

 青い妖精にいたっては、キノコボールに蹴りを入れ、楽しんでいるようにさえ見える。

「にょきにょき あっち いけ」

 青い葉根でキノコを蹴りあげる。

 キノコボールの振幅が最大まで行くと、キノコボールは青の妖精めがけ戻ってくる。そのキノコを再び青の妖精が蹴りあげる。それが幾度と繰り返されている。この振り子ゲームを、そこそこ楽しんでいるようにも見える。


「そこだー。もっと やれー」

「やっつけろー」

 激しく揺れるキノコと格闘する青の妖精を見て、「やんや、やんや」の喝采をあげる。中には無言で立ちつくしているような妖精もいるにはいたが、葉根が青の妖精の動きに合わせて揺れているところをみると、そこまで茫然としてはいないように見えた。もしかすると言うほどキノコを嫌っていないのかもしれない、とも感じてしまう。

 オキシは妖精がどういう構造の思考をしているのか、まったく分からなかった。


「……そんなに遊びたいなら、まだあるよ」

 オキシはキノコボールを、もうひとつ入り口にころんと転がしてみた。遊びに夢中になってくれるなら良し、逃げていくならなお良しだ。彼らの気がキノコに向いているうちに、観察に戻るだけである。


「うわぁ、こっち くるな」

「せまりくる にょきにょき」

「ぎゃー。やめてー」

 ほとんどの妖精は、キノコを避けようとしている。出入り口にキノコをいくつか置けば、妖精避けとしての働きは期待できそうだ。

 慌てふためく妖精たちを横目に、オキシは追い打ちをかけるように、またひとつ、またひとつとキノコを出入り口に並べた。


「うわ。また でてきた」

「やめてー」

「どこまで ふやしている」

「どうやって ふやしている」

「いったい いくつ でてくる」

 次々出てくるキノコに、妖精たちは騒然となる。キノコと戯れていた青の妖精も、いつの間にか紐から抜け出しで入り口に並べられていくキノコをただただ眺めていた。


「にょきにょき ふやす できる?」

「かってに はえてくるんじゃ ない?」

「このへや にょきにょき だらけに するつもり?」

「このままだと センリョウ されちゃう?」

 妖精たちは「たいへん たいへん」と言いながらキノコ部屋を後にする。



 洞窟での出来事はすぐに他の妖精たちに伝えられた。事のあらましを伝え聞き、話が広まると、小さな集落中に衝撃が走った。「たくさんのキノコが生えていた事件」を知らぬ者は、もはやいなかった。

 集落中の妖精は、話し合い、対応を考える。


「そうだ。どうにかして もらおう」

「たすけて もらおう」

「きょうこうを とめてもらおう」


 多少の問題は想定のうち。その問題でさえも、利用してしまうのが妖精たちだ。彼らは良い催し事(イベント)が用意できたと、うれしさを禁じえない顔でもうすぐ村へやってくるであろう者を待つ。 

「おもしろくなってきたね」

「なってきた なってきた」

「きゅうしゅつのひと。はやく きてー」

「きて きて」

 部屋が一つ、キノコに占領されるかもしれないという危機にあっても、どこか気楽な妖精たちなのだった。

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