36・突然に求められた妖精たちからの不可解な救援要請。
そもそも緑の砂漠へ行きたいとオキシが思わなければ、あのような事に巻き込まれなかったのだが、それとこれとはまた別の話。何よりもその原因を作った妖精たちが悪い。
妖精があんなことをするから、こんなことになるのだと、ロゲンハイドは不定形な体を揺らし、深くため息をついた。
ウェンウェンウェム地方の森の中には、妖精たちの住む集落がいくつもある。そのうちのひとつを訪れた時のことだ。
二人の姿を見つけた妖精たちが、次々姿を表した。
「たすけて」
「大変なの」
目の前に現れた色とりどりな葉根を持つ妖精たちは、口々に言い、わいわい騒ぐ。ついに喧嘩を始めるものまで出てきた。
「一体、何があったんだ?」
突然のことで、困惑に眉間に皺を寄せながらも、妖精たちに尋ねた。しかし妖精たちの騒ぎは収まらない。
「ちょっと落ち着いてよ。何があったの?」
勝手に盛り上がる妖精たちを落ち着かせようと、ロゲンハイドは声をかけた。
妖精たちは同時にしゃべり、かつ、いまいち容量を得ないので、わかり辛くて仕方ないのだ。
「とにかく たいへん」
「タイヘン タイヘン」
「洞窟の部屋 占拠されたの」
ようやく何が起きたのか、わかりやすい単語が妖精の口から発せられた。
妖精たちはその洞窟に、とってきたモノを保管している。そこにあるモノは、妖精たちにとって非常に重要で大切なモノなのだ。
「灰色を どうにかして」
妖精たちは、人や物を色名で例えることが多い。つまり、妖精たちの言うところの灰色が、妖精たちの村で問題を起こしているのである。妖精たちは、さらに詳しいことを話し始める。
「このままだと 洞窟の部屋 灰色の にょきにょき だらけ なるの」
にょきにょきというのは、妖精の言葉で「キノコ」のことである。妖精は物の名をいう時、色と共に擬音もよく使うのだ。
「どんどん ふえてる どんどん ふえてる」
妖精たちは手におえない灰色をどうにかして欲しいと懸命に訴える。
「それに ごはん 食べてない」
「このままじゃ 餓死しちゃうの」
「ガシ ガシ」
妖精たちは語る。今、どういう状況にあるかを。
「だから 灰色が 大変なの」
「だから たすけて」
妖精たちは助けを求める。
「にょきにょき、か」
何を思っているのかは、その顔をみれば一目瞭然である。
ロゲンハイドは、キノコ発生の現場へ行くことに、一末の不安を覚える。
キノコに嬉々とした瞳を向け、育ててしまうのがオキシだったからだ。それはそれは、嫌な予感しかしないのだ。
何が起きているのかは、詳しくは分からないままであったが、急ぐに越したことはないだろう。妖精たちの導くままに、二人は現場へと向かった。
キノコに関わると良いことはない。ロゲンハイドはそう痛感する。
すべては、そう――オキシをその場所へ連れていった妖精たちが悪いのである。ロゲンハイドはその事件を振り返り、深く深くため息をついた。