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殺し屋、置き配指定に敗北する

掲載日:2026/10/16

 私の名前は吉良(きら)きらら。殺し屋よ。

 今夜のターゲットの写真を眺める。

 コイツが住んでいるマンションも突き止めた。

 あとは依頼人のためにこの男を殺すだけ。

 フフフ……【殺し屋の女王(キラークイーン)】と呼ばれた私の鮮やかな手口を見せてあげるわ。


 私は変装すると、マンションのエントランスに踏み入った。

 入口はオートロックになっていて、住人以外は一切通さない堅牢な自動ドア。

 でも、私には秘策がある。


「こんにちは~、ダイワ急便です~」


『あ、はーい』


 ターゲット自らにロックを解除させて、マンションの中に滑り込んだ。

 鍵を解錠するためにインターホンをいじる必要もない。

 フッ……。あまりにもスマートすぎるわ……。


 さて、あとはターゲットの部屋に行って、ドアを開けさせるだけ。

 あとは部屋に押し入って、殺せばいい。


 私は部屋の玄関の前に立った。

 ピンポーン。

 チャイムを鳴らすと、そこにもインターホンがある。


『はーい』


「お荷物のお届けに参りました」


 ――さあ、ドアを開けなさい。

 それで、アンタの人生はおしまいよ。


『あ、置いといてください』


「…………えっ」


 私は不意打ちを食らった気分だった。


「あの、直接受け取っていただかないと困るんですけど」


『え、置き配で』


「えっ、困ります」


『いや、だって今、風呂入ってるので』


 なんで風呂なんか入ってるのよ!!!

 ……と思ったけど、現在時刻は夜の20時。

 そりゃ風呂くらいは入るかあ……。


「あの、なんとか直接お渡しできませんか」


『え? 裸で玄関に出ろってことですか?』


「いや、それは……」


『置き配指定したので、置いといてください』


 私は置き配指定に負けた。


「……じゃあ、置いときます」


『はい』


「……では、失礼します」


『お疲れ様です』


 私は呆然としたままマンションをあとにした。

 殺せなかった……。

 その上、置き配を完遂してしまった……。


 絶望のさなか、依頼人から電話が入る。


『どうだった?』


「配達完了しました」


『殺しは?』


「……してません」


『なぜ?』


「置き配指定だったので」


 ……殺し屋、もう引退しようかな……。


「殺し屋の女王(キラークイーン)の名が泣くわね……」


 殺し屋仲間と飲みに出かけたときに、そうこぼした。


「いや、その名前、お前の自称じゃん」


 私のプライドまで殺された。

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