殺し屋、置き配指定に敗北する
私の名前は吉良きらら。殺し屋よ。
今夜のターゲットの写真を眺める。
コイツが住んでいるマンションも突き止めた。
あとは依頼人のためにこの男を殺すだけ。
フフフ……【殺し屋の女王】と呼ばれた私の鮮やかな手口を見せてあげるわ。
私は変装すると、マンションのエントランスに踏み入った。
入口はオートロックになっていて、住人以外は一切通さない堅牢な自動ドア。
でも、私には秘策がある。
「こんにちは~、ダイワ急便です~」
『あ、はーい』
ターゲット自らにロックを解除させて、マンションの中に滑り込んだ。
鍵を解錠するためにインターホンをいじる必要もない。
フッ……。あまりにもスマートすぎるわ……。
さて、あとはターゲットの部屋に行って、ドアを開けさせるだけ。
あとは部屋に押し入って、殺せばいい。
私は部屋の玄関の前に立った。
ピンポーン。
チャイムを鳴らすと、そこにもインターホンがある。
『はーい』
「お荷物のお届けに参りました」
――さあ、ドアを開けなさい。
それで、アンタの人生はおしまいよ。
『あ、置いといてください』
「…………えっ」
私は不意打ちを食らった気分だった。
「あの、直接受け取っていただかないと困るんですけど」
『え、置き配で』
「えっ、困ります」
『いや、だって今、風呂入ってるので』
なんで風呂なんか入ってるのよ!!!
……と思ったけど、現在時刻は夜の20時。
そりゃ風呂くらいは入るかあ……。
「あの、なんとか直接お渡しできませんか」
『え? 裸で玄関に出ろってことですか?』
「いや、それは……」
『置き配指定したので、置いといてください』
私は置き配指定に負けた。
「……じゃあ、置いときます」
『はい』
「……では、失礼します」
『お疲れ様です』
私は呆然としたままマンションをあとにした。
殺せなかった……。
その上、置き配を完遂してしまった……。
絶望のさなか、依頼人から電話が入る。
『どうだった?』
「配達完了しました」
『殺しは?』
「……してません」
『なぜ?』
「置き配指定だったので」
……殺し屋、もう引退しようかな……。
「殺し屋の女王の名が泣くわね……」
殺し屋仲間と飲みに出かけたときに、そうこぼした。
「いや、その名前、お前の自称じゃん」
私のプライドまで殺された。




