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双子な公子の優雅なお散歩

作者: 氷村はるか
掲載日:2026/07/30

Nolaにて執筆をし、後々カクヨムにも投稿します


 薄闇の中を一台の馬車がゆく。

星々が輝いていた空は瞬きを隠し、小粒の涙を降らす。

向かうは華やかに浮かぶ国の中心、王城。

物音を立てることもなく、声を発することもなく。

空気さえ冷たく感じるくらい静まりかえった車内に、一人の少年と一人の少女が向かい合わせに座っている。

年の頃は二人とも五歳だろうか。

癖のない黒髪のストレートヘアに、身につけている服はすべて黒でフリルが多い。

顔の作りは双子だろうと誰もがすぐに分かるもので、人形の様に美しい。


「…………」

「…………」


一言も言葉を発することなく王城のロータリーへ着き、そのままホールへと入っていった。




 二人の幼子が会場入りした途端、噂話に夢中となっていた貴族の面々が一斉に振り返る。

二人の姿を認めると、一気に会場の空気が柔らかいものへと変化したのがわかる。

注目されるのに慣れているのか周囲の反応など気にもせず、国王陛下と王妃陛下への挨拶の列に並ぶ。


「国王陛下、王妃陛下、ごぶさたしております」

「ごけんしょうそうで何よりです」


可愛らしい声に両陛下は顔を綻ばせると、後に控えている側近が持っているカゴから、クマとウサギの小さなぬいぐるみを取り出した。


「君たちも元気そうで何より」

「これを子供がいる方々にお土産として渡しているの。受け取ってくれると嬉しいわ」


小さなぬいぐるみを貰った幼子の二人は、元気よく声を揃え『ありがとうございます』と言うと、大切に持ちながら階段を降りていく。

挨拶の待ち時間が長く、疲れた表情をしている爵位の面々は、「かわいいね」と、喜ぶ二人に笑顔を自然と向けている。


「素晴らしく聡い子たちだな。まだ五才だとか」

「たしか、ドヴェルグ大公の関係者だったかしら」

「え……。なら、納得してしまうな」


あちらこちらで囁かれても二人は動じず、小さなぬいぐるみに付いている紐を自分たちの腰飾りに括りつけた。

ホールの後方にある長椅子に座るとそこに落ち着く。


「ねぇ、本当にあると思う ?」

「あると思う。あれ見てよ」

「あら、いやらしい」

「あれは良くないよね」

「あれは良くないわね」


周囲の大人は二人の会話を初めはにこやかに聞いていた。彼らが『あれ』と言うのは何かと、目線を前方へ向け己の目を疑った。

第二王子殿下の登場だと思ったら、エスコートしているのは婚約者ではなく、巷を悪い意味で騒がせている男爵令嬢ではないか。

彼の婚約者は王族と所縁のある、侯爵家のご令嬢だったはず。


「ミノルビ侯爵家ご令嬢、ヒューノリア=セレス=ミノルビ嬢に告ぐ。私との婚約を只今をもって解消させてもらう」


何も問題ないとでもいうかのように自信たっぷりと宣言したのは、我がサルマトリノヤ王国第二王子である、フィノール=ドゥ=コリフ=サルマトリアーシュ殿下である。

殿下の発言中彼に体をくっつけている令嬢を見て、参加している貴族たちはこの国の行く末を憂いた。

彼女はなんとも醜い笑みを見せたのである。


「あのご令嬢、地位とお金とぜいたくが目当てね」

「そうだね。王子妃きょういくがどれだけ大変か、りかいできてないね」

「こっこ空になるかしら」

「そこまではいかないんじゃないかな」


再び周囲の耳は幼子に移った。

何やら物騒なことを平気で口にしていると内心はらはらしながら。

しかし、次の発言で苦笑に変わる。


「そうおもえないわ」

「使い切れるわけないよ」

「まあ……。たくさんあるだろうから大丈夫よね」


二人の会話の間にも、第二王子による衆目場においての断罪という私刑は進んでいく。


「……つまらないね」

「ええ、とてもつまらないわ」

「このおしばいは何時まで続くんだろう」

「もうあきましたわね」


そう言って顔を見合わせ頷き合うと問題の現場へと行ってしまう。


「失礼。今は行かない方が良いよ」


どこぞの青年が声を掛けてきた。

目線を二人に合わせるために膝をつき、心配そうにしている。

二人は笑みを返すと声を揃えて言う。


『ご心配ありがとうございます。だいじょうぶですよ』


そうして手を繋いだまま、第二王子殿下と侯爵令嬢の間に割り込む。


「聞いているのか。ヒューノリア嬢……」


侯爵令嬢の視線につられ、第二王子殿下と下級貴族の令嬢が目で追う。


『お兄さんたち、いつまでつまらないお芝居してるの ?』


可愛らしい五歳児の二重奏が会場に響き渡る。

殿下たちの後方にいた、人当たりの良さそうな少年が近づいて目線を合わせる。


「ごめんね、真面目な話をしてるから……。お兄さんとあっちで遊ぼうか」

『…………。』

「……あ、あのね」

『おかまいなく』

「え……」


やり取りを見ていた第二王子殿下は、話の腰を折られて機嫌を悪くしたようだ。


「ちびは引っ込んでろ」


終わった。

この国。というか、この王族は終わりだ。

そんな絶望と憐みの視線を会場中から浴びていることに、第二王子殿下は気付かない。


「しつれいな人だね」

「ええ、しつれいな人だわ」


「失礼なのは君たちだろう。人が話しているところに割り込んで」

「だっておしばいですわよね」

「おしばいでしかないでしょう。本当にこんやくの話だったら、りょうしきのある人はこのような場所でしないと思う」


周囲は当然、幼い二人の味方だった。良識があるならば別室だろうと、誰もが胸の内で呟いている。


「さっさと親の所へ行け! この糸目兄妹が」


そう。第二王子殿下の言う通り。

二人の幼子は、自邸からこの会場に来るまで一度も瞼をあげていない。

第二王子殿下の言葉に反応した幼子二人は、カッと力強く瞼をあけた。

彼らの目は片方がピジョンブラッドで、もう片方は青緑色だった。


「せっかく閉じてたのに」

「せっかく閉じていたのにね」

「このひと、自分でうわきしておいてはんせいしてないね」

「うん。してないわね。とても悪いことだって私たちでも知っているのよ」

「じぶんゆうせきになりたくないんじゃないのかな」

「なんだか女々しいわね」


第二王子殿下の側近候補たちは、幼い二人の頭の良さに感心し、問題の殿下は怒りを感情にまかせた。


「ふざけるな! これ以上うるさくすると」

「失礼」


再び会話に割り込みされた第二王子殿下は、声のした方を睨むと顔を青くした。


「なんだか騒がしいと思ったらお前たちか」


そう発言したのは、ドヴェルグ大公の継嗣。

ヨゼルグ=ドゥ=パレス=ドヴェルグ令息。この国で王族よりも力を持っていると言われている大家の一人息子であり、次期大公だ。

幼い二人は後ろから抱きかかえられて、彼を認めると『兄さまだー』と、年相応の可愛らしい笑顔で彼に抱きつく。


「部屋に居なかったから驚いて探させていたのだが……。こんなところにいたとは」


ヨゼルグは第二王子殿下に目をやる。


「好奇心旺盛な弟妹が失礼をした」

「い、いや……」

「ですが、こんなふざけた戯言を二人に聞かせないでいただきたい。教育に悪い」


すごまれた第二王子殿下は、取れてしまうのではないかと思うほど首を縦に振っている。


「陛下に言伝しておきます。そろそろこの子らは引き上げる時間ですのでこれで」


ヨゼルグは第二王子殿下の返事も聞かず、愛しい弟妹を大切そうに抱いて会場を後にした。

待たせていた馬車の扉を御者が開けると、幼い二人を先に座らせてから次いで入ると小さくため息をする。


「二人だけで行ったと父上から聞かされてどれだけ驚いたことか。もう二度とするんじゃないぞ」

『父上言っちゃったんだ』


先ほどまでの大人びた態度はどこへやら。

そういう年ごろなのかと、会場の二人を思い出して喉の奥で笑った。

邸につく頃には二人は眠ってしまい、再びヨゼルグが抱えて中に入る。


「お帰りなさいませ」


ホールで小さく声を掛けてきたのは、ヨゼルグの婚約者である。

ヨゼルグは彼女を認めると顔を緩める。


「ただいま」

「あらあら。すっかり眠ってしまったのね」

「申し訳ないが一人頼む」

「ふふ。わかりました」


二人はそれぞれ一人ずつ抱きかかえる。


「おやすみ。また明日」

「はい、おやすみなさい。よい夢を」


名残惜しそうに挨拶を交わすと、二人はそれぞれの寝室へと姿を消した。





最後まで目を通していただきありがとうございます

書きたくなったら今回の作品を元に中編か長編をかきたいなと思っています

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