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メインエピソード1【汚名返上、名誉挽回、雪冤晴恥】⑥

資材管理部の主任との会談を終え、酒場を後にした俺は酷くなる頭痛に頭を望めながら自室に戻る。

スキル「カロリーコンバータ」は、カロリーを消費することと引き換えに、情報処理能力を格段に上昇することが出来る。

スキルは段階的に行使するが可能だが、カロリー消費以外のデメリットも発生する。

第一段階の「カロリーコンバータ・ライトモード」では、瞳の色が青に変わり、情報の演算、整理、最適化を高速に行うことが出来るようになる。

だが、一時的な色覚異常となり、白と黒以外の判別が出来なくなる。

第二段階の 「カロリーコンバータ・ノーマルモード」では、瞳の色が緑に変わり、ライトモード時の能力が向上することに加え、論理武装による意識切り替えを行い、相対した者を論理打破する論理決済(ロジック・ペイ)を行うことが出来る。

だが、使用時間に比例して頭痛に苛むことになる。

いずれのデメリットも、カロリー摂取により早期回復を見込めるが、酷使し過ぎた場合はカロリー摂取だけでは追い付かず、睡眠などによる脳負荷軽減を行う必要がある。

俺は石パンを水で流し込み、寝床に倒れ混むと、数瞬で意識を手放し、泥のように眠りについた。


翌日、残り二日。

疲労回復しきらず、重く感じる体を引きずりながら出勤する。

例により一番乗りであった為、お茶を入れながらToDoリストを確認する。

徐々に出動してくる同僚、後輩が見える中、定刻間際に主任たちが出勤してきた。

体臭に酒精が混じっているように感じるのは、あの後に前祝気分で祝杯を挙げていたからだろうか?

主任は俺を視界に収めると、昨日と同じく、嫌らしい態度を取ってくる。

「引継ぎは進んでいるか?遅れるようなことや、漏れが出るようなことはしないでくれよ」

そういうと、さっさと俺に背を向け、自席に座って頬杖を突き、居眠りを始めた。主任以外の三人も似たようなものだ。

そうだ。油断しろ。それがお前たちの命取りになる。

勝つ時には理由は無くても、負ける時には理由があるんだよ。お前たちは勝つことに慣れ過ぎて当たり前になっている。

待っていろよ。従順な羊ばかりじゃないことを思い知らせてやるからな!


通常業務を(こな)す中、業務に混じり、指示を出していた最後の部下から報告があった。

情報提供者とアポイントメントを取ることが出来た為、定時明け後に指定の場所に来てほしいとのこと。

俺は微かに頷くと、業務に戻る。

焦るな、落ち着け。顔に出すな。ここで気付かれる訳にはいかない。まだ油断していてもらう必要があるのだから。

俺は石バンを数口齧り、瞳を青に変えて積まれた書類を片付けていった。

定時明け、主任たち三人はすぐに席を立ち、課を後にしていった。

例によって、業務を終了するよう指示を出した俺は、アポイントメントを取った情報提供者の一人が指定する場所に向かっていった。


指定された場所は歓楽街のとある一画。

日はまだ残っているが、既に酔客が出始め、喧騒が大きくなり始めている。

俺は建物の中に入り、受付に要件を伝える。受付は何も言わずに頷き、情報提供者が待つ奥へと案内する。

案内された部屋は最奥となっており、情報提供者の立場が伺える。

受付は握り拳を作り、扉を軽く叩く。中から入室するよう声がかかった為、受付は扉を開き、俺に深々と一礼する。

しっかり教育が行き届いているな、と感心しながら入室し、部屋の主と対面する。

部屋の主は、髪を洒脱に結い上げ、雅やかなかんざしで絡めており、煙管をふかしている。その姿は遊郭の花魁のような佇まいを醸し出していた。

「久し振りだねぇレオンさん。遂にアタシのモノになる決意がついたのかい?」

「今は戯言を交わす余裕が有りません。頼んでいた内容を教えて下さい」

俺は部屋の主の誘いを遮り、要件を切り出す。

部屋の主はこの館、高級娼館を切り盛りする女主人のシルヴィア。俺が「レオン」になる前、レオンが助けた飯屋の女だった。

何故シルヴィアが高級娼館の主になっているのか?それはまた別の機会に語ろう。

「これは、貸しにして良いのかい?」

シルヴィアは薄らと笑みを浮かべながら、俺の反応を伺ってくる。

「はい。飽くまで、合法な範囲でならば」

娼館経営は表商売となるが、抜け道が多々ある為、経営者側に対する利益が大きくなる傾向になる。

そうなると凡百の人間は次に行うのが脱税となるが、目の前のシルヴィアは脱税を行うのではなく、法の隙間を付き、網目を掻い潜って納税額を減少させている。

その為、監査時に脱税と見做されずに罰金を払わずにいる傑物である。

…そのアイディアの一部を提供したのは、俺になるのだが。

「それなら話は早いねぇ。レオンさんのアイディアならウチも安泰だねぇ。なんせ金庫番のお墨付きを貰えるんだから」

シルヴィアの言葉に俺は顔を(しか)めるが、シルヴィアは構わず言葉を続ける。

「早いとこ、ギルドなんか見切りをつけて、ウチの大番頭になってくれよ。そうなりゃ怖いもんなんか無くなるのにねぇ」

そう言いながら、事前に用意していたと思われる書類の束を机に広げる。

「件の人物たちの来館回数と、ツケの記録さ。近いうちに締めて払うって言っていたから怪しんでいたけど、レオンさんが絡んでいるのかい?」

シルヴィアの言葉の前者は受け流し、後者に反応する。

「私に喧嘩を売ってきました。後はノーコメントとさせていただきます」

シルヴィアの書類を確認し、捏造書類のメモと比較する。想定した通りだ。

メモに残した日付の大半が、この娼館への来訪日時と被っている。

つまり、横領した金額を蓄財ではなく、その日のうちに何らかの目的で散財しており、その用途がこの娼館であることの裏付けが取れた、ということだ。

ツケの記録、つまり借用書も残っていることから、言い逃れは出来ない。

奴らを追い詰める残り三割のうちの半分を手にすることが出来た。残りは資材管理部の情報となる。

「もう帰るのかい?せっかく来たんだから遊んでいきなよ。なんならアタシが相手しようか?」

誘い文句を丁重に断る。

「つれないねぇ。それなら、貸しの件は頼んだよ」

俺はシルヴィアの言葉を背に受け、部屋を出る。まだ日が高い。俺はやるべきことをやる為、足早に歓楽街を後にした。


翌日、残り一日。

いつもの通り通常業務を進める中、資材管理部の主任より連絡が有ったので、石パンを握りながら資材管理部に向かう。

主任は一昨日の夜とは打って変わり、精気の満ちた顔付きをしていた。心の持ちようで変化したのだろう。

主任は捏造書類のメモに記されていた冒険者を洗い出しており、支給品の履歴、及び素材納品履歴をそれぞれ纏めてくれていた。

「一罰百戒とするしかないな。不正を行っていた冒険者全てを対象とすると、数が多すぎる」

主任は悔しそうに顔を歪める。それだけギルド内での不正が横行しているということだ。

「今回は時間がありません。対象となる悪質な冒険者を見せしめとし、引き締めとしましょう。そのうえで不正を続けようとするのであれば、厳罰に処しましょう」

瞳の色を青に染めながら、主任の意を汲み取り、同調する。すると主任も大きく息を吐き、頷いてきた。

「優先順位を間違える訳には行かないな。まずは今回の件だな。是正に関しては、焦らず一歩一歩進めるしかないな」


洗い出した冒険者の履歴を見る。

支給物の内容と対象クエストの内容がマッチしていない。素材採取により戦闘が発生しないクエストにも関わらず、回復ポーションの支給が続けられている。

そして納品した素材に対する報酬が不自然に低い。素材納品による報酬が最低額ならば、他の素材を対象とすることがセオリーだが、この冒険者は不自然に報酬額が低い素材の納品を続けている。

主任も俺と同じような考えをしていようだ。

「報酬額が不自然すぎる。高難度とは言わないが、生活レベルにあった収入を得ようとするのがセオリーだろう」

「そのセオリーを守らずとも、収入が得られるのであれば、安全マージンを多くとっても問題無いのですよ」

ギルドの管理側から不正を持ち掛けられ、リスクを負わないリターンを得られるのであれば、わざわざクエストで危険を冒す必要は無い。

回復ポーションを不正受給して転売、低報酬の素材納品で、最低報酬以上の報酬の受け取り。

一回一回ではそこまで多くなくとも、回数を重ねれば感覚も麻痺し、膨大な金額に積みあがっていく。

ギルド側にしてみれば、リターン値はさらに上り、冒険者側のリターンとは比べられないほど大きくなる。

一体、どの規模で不正が横行しているのだろうか?経理課、資材管理部だけではないような気がしてならない。

かぶりを振り、意識を切り替える。

「まずはこの冒険者たちを聴取し、裏取りをしましょう。おそらく口裏を併せていると思いますが、なんとしても証言を取りましょう」

主任は頷く。件の冒険者たちは今日も素材採取のクエストを受注し、現在査定待ちであるという。

俺たちは冒険者たちを個別に呼び出す。そして瞳の色を緑に変え、聴取を行っていった。


「回復ポーションを必要とは思えないクエストを多く受注しているが、どのような理由で使用したのか?」

「低報酬の素材を納品し続けた理由は?」

「偽証が判明した場合、冒険者ランク降格に加え、罰金及びクエスト受注停止が発生することは知っているな?」

「君の指示で行った、という発言を受けているが、それならば主犯は君ということで良いかね?罪が最も重くなることになるが良いかね?」

「まずは事実を明らかにしたい。不明な記録があった。それを裏付ける証言も行われた。さて、君の発言により、より罪が重くなるかもしれないが、どうするかね?」

「私たちも好んで君たちを締め上げたい訳じゃない。今横行している不正の原因を判明させたいのだよ」

「場合によっては、君たちの罪を減免することもやぶさかではない。君たちが持ち掛けてきた訳ではないのだろう?」

「君たちは飽くまで被害者である、というスタンスに持っていけば、降格や受注停止までは行かず、罰金、しかも低額で済むかもしれない」

「高級娼館で楽しんでいたんだろう?もう二度と行けなくなっても良いのかい?報酬が得られないことを先方に伝えて、出禁にしてもらうことも必要かもしれないね」

「そうか、話す気がないのならば、君以外に聞いてみよう。それにより、君が信じていても君自身が切り捨てられるかもしれないがね」

硬軟織り交ぜた聴取により、件の冒険者たちは全て証言した。ギルド側の提案に乗り、横領に加担していた旨を自白した。

項垂れ、観念した冒険者たちを拘束し終えると、俺は安堵の息を吐き、瞳を黒に戻す。主任も同じように息をついていた。

「レオンさん、貴方凄いな。質問内容の的確さに思考誘導、これほど優れた聴取には立ち会ったことがない」

感嘆する主任に、石パンを齧りながら応える。

「難しいことじゃないですよ。揃った証拠と相手の心理を計算し、落とし所を見極めて誘導しただけですから」

本番はこれからです、とどちらともなく頷き合う。


三割のうち、残る半分も埋まった。もう羊の皮を被り続ける必要は無い。

明日、奴らが動く時、思い知らせてやる。お前たちが侮り、踏み潰そうとしていたのは従順な羊ではなく、牙を持った狼であったということをな!

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